タカ派な植田日銀総裁に市場が混乱、歴史的な日本株急落でリスク回避の円買い加速
【今回のポイント】
〇 国債買入額を現在の月6兆円から26年1−3月に月3兆円程度に減額
〇 0.25%までの利上げを実施
〇 植田日銀総裁がタカ派に転じたことで市場が混乱、日本株急落で円高加速
【日銀会合の結果】
今回、日銀金融政策決定会合(日銀会合)の内容が公表されたのは12時56分頃だった。「国債買入額を現在の月6兆円から26年1−3月に月3兆円程度に減額」「0.25%までの利上げ」をそれぞれ発表した。11時頃には日銀のHPが開かなくなる事象が発生するなど様々な意味で日銀に注目が集まる日となった。
15時30分から16時30分ほどまで開催された植田和男日銀総裁の記者会見でのコメントは下記の通りである。
「企業収益が改善する下で設備投資は緩やかな増加傾向にある」
「個人消費は物価上昇の影響みられるが底堅く推移している」
「幅広い地域・業種・企業規模において賃上げの動きに広がりがみられる」
「経済・物価見通し実現していけば、引き続き政策金利引き上げ」
「必要な場合は決定会合で減額計画の見直しもあり得る」
「長期金利急上昇なら機動的に国債購入増・指し値オペ実施」
「来年6月の決定会合で、国債購入減額の中間評価を行う」
「為替円安もあり輸入物価が再び上昇、物価の上振れに注意が必要」
「年内にもう一段の金利調整あるかどうかはこれからのデータ次第」
「先に慌てて利上げすると、急激な調整強いられるリスクもある」
「住宅ローン金利上昇、賃金が先に上がるため負担はかなり大きく軽減される」
「政治的な動きとはかかわりなく、適宜適切に金融政策を決定」
「円安による想定以上の物価押し上げ、重要なリスクと認識」
「景気下振れの場合、短期金利引き下げで足りなければ、非伝統的手段を排除せず」
「基調的物価、2%に近づいているがもう少し距離がある」
「ETFなど質的緩和に関してはもう少し時間が欲しい」
【市場の反応】
日銀会合の結果は、事前に伝わった通りの内容だったことで市場の反応は限定的だったが、15時30分から開始された植田日銀総裁の記者会見にて「経済・物価見通しに沿って動けば、引き続き金利上げていく」とタカ派な発言を受けて、為替は1ドル150円台まで円高ドル安が加速。その後、31日夜の海外時間には150円を割り込む場面も見られた。
植田日銀総裁の記者会見は、いつも通り淡々とした流れだったが、時折、記者からの質問に対して表情を曇らす場面もやや見られた。また、質問が聞こえなかった可能性もあるが、記者の質問に10秒以上答えない場面もあった。ただ、これまでに見られたハト派的な発言は影を潜め、6月会合の記者会見に比べるとタカ派な姿勢が目立つ記者会見となった。
【今後、円はどう動く?】
米連邦準備制度理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)にて、8会合連続の政策金利据え置きを発表。その後のパウエルFRB議長は記者会見で9月会合での利下げ実施を示唆するなど「地ならし」よりはストレートな発言を残したことで、市場は日米金利差縮小が強く意識されて、ドルは148円台50銭まで円高ドル安が加速した。一方、ドル・インデックスは104水準を維持していることから、日米金利差縮小に伴う円売りポジションの解消、日米株安に伴うリスク回避の円買いなど円が主体の地合いになっていると考える。
さすがに短期的には突っ込み過ぎた感はあるが、「落ちるナイフはつかむな」という格言通り、円の一段高が警戒されており底値を探る展開となっている。週末8月2日の東京株式市場が歴史的な急落(TOPIXは史上16番目の下落率、日経平均は史上2番目の下落幅)となったことも影響し、リスク回避の円買いは今しばらく続くと想定する。
なお、日銀会合の結果は事前に伝わっていた通りだったが、個人消費や実質賃金など足元の経済指標は必ずしも日本経済の強さを示していなかったため、「なんだかんだ言って、日銀は追加の利上げはできない」と考える関係者もそれなりにいただろう。政治的圧力に屈したとの見方もできることから、必ずしも「市場にウェルカムな利上げ」ではなかったと考える。足元の日本株の急落は、今回の利上げだけが要因ではないが、大きく影響したことは間違いない。
【2023年以降の日銀会合終了時間一覧】
以下は、2023年以降の日銀会合の終了時間一覧である。なお、速報が市場に伝わるのは、終了してから7分ほど経過してからだ。
【2023年】
1月18日(水)・・・11時33分終了、前回会合の方針を維持
3月10日(金)・・・11時23分終了、最後の黒田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持
4月28日(金)・・・12時53分終了、最初の植田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持、金融緩和策のレビューを多角的に実施することを決定
6月16日(金)・・・11時40分終了、前回会合の方針を維持
7月28日(金)・・・12時21分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限を1.0%まで引き上げ)
9月22日(金)・・・11時45分終了、前回会合の方針を維持
10月31日(火)・・・12時20分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限1.0%をメドに変更)
12月19日(火)・・・11時42分終了、前回会合の方針を維持
【2024年】
1月23日(火)・・・12時02分終了、前回会合の方針を維持
3月19日(火)・・・12時28分終了、マイナス金利の解除、YCC終了、ETF等の買い入れ終了
4月26日(金)・・・12時15分終了、現状の金融政策を維持、展望レポート見通し引き上げ
6月14日(金)・・・12時16分終了、国債買入額を引き下げる方針を決定、詳細は7月に公表
☆7月31日(水)・・・12時49分終了、国債買入額の減額と利上げ実施を発表
【2024年スケジュール】
※米国は現地時間なので、金利発表及び記者会見は日本時間で翌日未明
日銀金融政策決定会合(日銀会合)
1月22日−23日(経済・物価情勢の展望)・・・現状の金融政策を維持
3月18日−19日・・・マイナス金利の解除、YCC終了、ETF等の買い入れ終了
4月25日−26日(経済・物価情勢の展望)・・・現状の金融政策を維持、展望レポート見通し引き上げ、記者会見後は円全面安の展開
6月13日−14日・・・国債買入額を引き下げる方針を決定、詳細は7月に公表
☆7月30日−31日(経済・物価情勢の展望)・・・国債買入額の減額と利上げ実施を発表
9月19日−20日
10月30日−31日(経済・物価情勢の展望)
12月18日−19日
米連邦公開市場委員会(FOMC)
1月30日−31日・・・4会合連続で金利据え置き
3月19日−20日・・・5会合連続で金利据え置き、パウエルFRB議長は、年内利下げの可能性を再表明
4月30日−5月1日・・・6会合連続で金利据え置き、パウエルFRB議長はややハト派な発言
6月11日−12日・・・7会合連続で金利据え置き、24年利下げ回数は3回から1回に修正
7月30日−31日・・・8会合連続で金利据え置き、9月利下げ実施を示唆
9月17日−18日
11月 6日− 7日
12月17日−18日
欧州中央銀行理事会(ECB理事会)
1月25日・・・現状の金融政策を維持、利下げの議論は時期尚早
3月 7日・・・現状の金融政策を維持、6月利下げ開始を示唆する発言
4月11日・・・現状の金融政策を維持、大きなサプライズが無い限り6月利下げ開始か
6月 6日・・・想定通り政策金利を0.25%引き下げ、追加利下げは明言せず
7月18日・・・金据え置きを発表、利下げ実施は「データ次第」
9月12日
10月17日
12月12日
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