記録的な株安・円高を招いた真犯人について考える(24/8/16)

8月5日、日経平均株価指数は一日で前日比▲4,451.28と1987年のブラックマンデー翌日の東京市場の値幅(▲3,836.48)を超えて過去最大の下落幅を記録した。

記録的な株安・円高を招いた真犯人について考える(24/8/16)

記録的な株安・円高を招いた真犯人について考える

8月5日、日経平均株価指数は一日で前日比▲4,451.28と1987年のブラックマンデー翌日の東京市場の値幅(▲3,836.48)を超えて過去最大の下落幅を記録した。
下落率にすると12%を超えての下落だ。個別株なら一日で10%を超えて下落することも特に珍しいことではないが、日経225の平均株価指数がこれだけ下落するのも珍しい。

1987年10月のニューヨーク市場で、後にブラックマンデーと呼ばれる株価の暴落時も、これといったはっきりと特定できる要因がない中、株価は22%を超えて下落した。ブラックマンデーの震源地がニューヨークだったことを考えると、今回は時系列に並べてみると東京が震源地だ。日経平均株価は7月につけた最高値からは瞬間的には25%以上下落したこととなる。
外国為替市場に目を転じれば、同じ日に外国為替市場においてもドル円相場は146円台から一時142円割れまで3%を超える下落を見せた。ドル円相場も7月上旬につけた161円台の高値との比較で見れば12%を超える下落だ。この期間、円は対ユーロでもほぼ同じ幅の下落を示しており、今回、世界の株式市場、為替市場を巻き込んだ激震の震源地は日本にあったと考えるのが自然だろう。

その要因のひとつに挙げられているのが、植田総裁の今後の利上げに関して政策金利上げにあたって、0.5%の壁は特に意識しないとの趣旨の発言だが、この発言があったのは7月31日(前週の火曜日)の日銀の金融政策決定会合の後の記者会見の場だ。8月5日に一日で株価指数が12%を超えて下落したのを説明する直接的な要因としては不十分だろう。

筆者の見立てでは、こと8月5日の歴史的株価暴落に関しては、コンピューターを駆使したプログラムトレード、いわゆるシステムトレードによってもたらされたと考えている。

今回のような相場の暴落時には、「売り一色」という言葉で表現されることが多いが、そもそも商いは売りと買いが金額的にマッチしないと成立しない。その意味で「売り一色」という表現は正確ではない。売り手は「成り行き」で投げ売りするのに対し、買い手は腰の引けた価格での「指値」の買いオーダーを出しても、それに向かって価格に拘わらず売り手が売却を急ぐので、大暴落が起こってしまう。

ブラックマンデーの1987年当時は、東京証券取引所では場立ちと呼ばれる証券マンが取引所内で手サインを用いて売買注文を伝達していた。今から考えればのどかな時代だ。
それが今やコンピューターに組み込まれたプログラムが自動的に一秒間に何千回という注文が出せる時代だ。コンピューターの中の人工知能が一方的な下げ相場のトレンドにフォローし値動きに拍車を掛ければ、今回のような暴落を招いてしまうリスクがある。

筆者なりに推察すれば、7月上旬で天井感を強めた株式市場も、為替市場で円キャリートレードの巻き戻しが起こり始め損失限度額に達したのをトリガーに、連鎖的にリスク許容度低下とロスカットが飛び火し、8月5日に当面のセリング・クライマックス(Selling Climax)を迎えたということだろうか。
金融機関や投資家は年々、リスク管理を厳格化し、損失限度などを厳格に設定している。損失限度を超過したディーラーの持ち高が、部門を跨いで強制的にシステムに解消させられたというのが実態だと思う。

円キャリートレードといっても人によって認識はまちまちなので、円キャリートレードとは何かを頭の整理をしておいた方が良いだろう。
筆者の定義は、将来、基本的には一年以内に反対売買で取引を清算することを前提とした比較的短期の円売り・外貨買いのポジションだ。オフバランス、オンバランス、いずれでも造成できる。

まず、オフバランスでの取引例は、例えば、米国のヘッジファンドなどがよく利用するシカゴIMMでの先物取引のポジション。これは3・6・9・12月の決済日までに反対売買をすることで建玉(ポジション)を解消する。反対売買によって生じたポジション構築時と清算時の差額が損益として発生する。金利差分のスワップポイントは先物価格に含まれている。
個人のレベルではFX取引が代表格だろう。こちらは取引日の2営業日後の受け渡しを前提に取引を行うが、金利の高い米ドルを買って、金利の低い円を売れば、日々、決済日を先延ばしする毎に金利差分のスワップポイントを手にすることができる個人にも人気の取引だ。

では、オンバランスでは円キャリー取引はないのかと言われると、日本円という通貨の短期資金を借りて何らかの資産を購入するというのは立派な円キャリー取引だ。

一方、個人が余裕資金の範囲で外貨建て資産を買うのは普通の投資行動だ。
また、日本の年金基金や生命保険会社のような負債のデュレーション(Duration)が長い機関投資家が為替リスクを取って長期保有目的で外債投資を行うのも普通の投資行動だ。

円キャリー取引と通常の投資行動の違いはオンバランス取引かオフバランス取引かに拘わらず、円資金市場からの短期の資金調達もしくはそれと同様の経済効果を伴う円調達を行っているのか、それとも長期の安定資金を原資に運用しているのかというのが大きな違いだろう。

為替市場での今回の円買戻しの動きを見ると、ほぼ全ての主要通貨で年初の相場水準で歯止めが掛かっている。今年に入って積んだ円キャリー取引の見合いのポジションが振り落とされたというのが真相だろう。

ここ一か月弱続いた円キャリートレードの巻き戻しの動きは、一旦収まったように見えるが、主要通貨間で何かの通貨を借り入れて別の通貨で運用するキャリートレードを行うなら、主要各国の金利水準からは、いまだに日本円にとって代われる通貨は見当たらない。円一択の状況は変わっていない。
ただ、米国景気が減速に留まらず後退に陥るのではないかという懸念が増し、これから米国の大統領選という時期にドル円のキャリートレードのポジションを今年前半と同じスケールで再構築できるかというとそれも考えにくい。対米ドルでは米国大統領選の帰趨がはっきりするまで様子見になるのではないか。

とはいえ、プロのディーラーは収益計画があり、年後半にも稼がなくてはいけない。
今回の円キャリートレードの巻き戻しで、ドルのみならず、他の主要通貨も対円相場は一時、年初の為替相場水準まで大幅調整を余儀なくされた。
市場のポジションが大規模に整理されてリスクテイク余力がある程度は復元されているだろうから、米ドルを取り巻く環境が政治・経済両面から不透明な中では、対ユーロなど他の主要通貨を相手とする円キャリートレードのポジションを再構築しようという動きの方が出やすい環境にあるといえよう。

円キャリートレードを行うには、取引に入る水準がその後の勝ち負けの結果を大きく左右する。年初に140円台前半で入った人、150円台で入った人、160円台で入った人、さまざまだろうが、金利差を取る取引には、どの水準で参加するかが大きなカギを握るということを再認識させられた今回の出来事だった。

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