ドル円見通し 106円中心に前後1円幅の持ち合い中、米連銀議長講演を待つ
【概況】
8月1日夜にトランプ大統領が中国への制裁関税第4弾発動を宣言し、さらに中国を為替操作国と認定、中国が米国産農産物輸入停止姿勢を示す等で先行き不安がエスカレートしたことを背景としてドル円は8月1日高値109.31円から下落に転じた。8月12日には105.04円、13日も105.06円を付けて105円割れに対する余裕がなくなっていたが、13日夜に米国が第4弾の制裁対象についてスマートフォン等への発動を延期すると報じられたために13日夜には106.95円まで反騰し、その後は106円を挟んだ持ち合いでの推移が続いている。
8月14日には米国の10年債と2年債の利回りが逆転し、リーマンショックの前年だった2007年以来の現象として金融市場全般に動揺が走ってNYダウは800ドル強の急落となった。このためドル円は13日夜高値を超えて107円台回復へ進めずに失速したが、105円台後半では買い戻されて105円割れへ崩れる流れには至らなかった。
16日には中国やドイツの景気対策への期待感で長期債利回り低下が落ち着いたことや米住宅着工許可件数が予想を上回ったことから株式市場が持ち直したためにドル円もしっかりし、106円台前半を維持して週を終えた。
【8月23日にジャクソンホール会合、米連銀議長講演から大きく動くか】
米連銀は8月23日に恒例のワイオミング州ジャクソンホールでシンポジウムを開催するが、パウエル議長は現地時間23日午前8時(日本時間午後11時)に講演する。市場は9月FOMCでの追加利下げを含めて年末までに0.75%程度の利下げが実施されるとの見方を強めているため、23日の議長講演が追加利下げへ積極的なのか消極的なのかによって金融市場全般が大きく反応してゆく可能性がある。逆に言えば、それまではやや動きづらい。
米連銀当局者発言では、米クリーブランド連銀のメスター総裁(FOMC投票権無し)が16日に「(前回会合では利下げに反対したが、金利据え置きは当時では望ましい戦略だったが今はぎりぎりだ」、「逆イールドについてもシグナルを無視できない」と述べて追加利下げ支持姿勢を示した。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁(投票権無し)も「ここ数年の利上げが行き過ぎだった可能性もある」「景気減速に対しては手遅れになる前に早くかつ積極的な対応を取る方がずっと望ましい」と述べた。カシュカリ総裁発言はトランプ大統領によるこれまでの利上げ批判及び前回会合での小幅利下げに対する批判姿勢に近い。
【世界的な金融緩和の波】
8月16日に格付け会社フィッチ・レーティングスがアナリストレポートで現状を2009年の世界金融危機以来の世界的な金融政策の転換が起きているとの見方を示した。そのきっかけを作ったのもまた米連銀といえる。
リーマンショックによる金融恐慌不安を解消するために米連銀は超金融緩和政策へ走り、世界もこれに追従した。金融緩和政策を終了させて利上げサイクルに入ると世界もこれに同調した。新興国は追従利上げしなければ自国通貨安が投資マネーの流出を招きかねないためであり、米連銀が利上げを中断して利下げに踏み切るとそれに呼応して世界も利下げに動いている。新興国としては今度は利下げしなければ自国通貨高が貿易での不利を招き米中貿易戦争で悪化し始めた景況に耐えられなくなるからだ。米連銀の10年ぶり利下げと前後して7月には南アフリカ、韓国、インドネシア、トルコが引き下げを決定。8月もタイ、インド、ニュージーランド、フィリピンが利下げに走り、8月15日にはメキシコも利下げした。
ECBも9月理事会での利下げ姿勢を示し、豪中銀等も利下げ継続姿勢を示している。トランプ大統領は露骨に世界的な緩和傾向の中で米連銀の利下げ判断は遅く不十分として批判を強めている。こうなると米連銀も景気後退に対する後手対処としての利下げではなく、予見される景気後退への先手対処及び金融市場の不安解消のための予防的な金融緩和政策をとらざるを得なくなると思う。ドイツの四半期GDPがマイナスに転落したことも、早く手を打たなければ状況はより悪化してゆくことを警告している。
日銀としてはすでに打つ手なしで、世界がより緩和的になれば金利面での円高圧力が強まるのも必至だが、ECBのようにマイナス金利の深掘りや、財政均衡を緩める量的緩和拡大等の対応を取らざるを得なくなるかもしれない。
【6月25日安値を割り込んでの下落基調継続感は変わらず】
8月1日からの反落で6月25日安値を割り込んで一段安に入った。105円割れをひとまず回避してこの2週間は106円を挟んで前後1円幅での持ち合いが続いている。107円超えから続伸する場合には、持ち合い上放れにより107円台中後半へ戻す可能性もあるが、大きな流れは4月高値からの下落基調継続であり、今年1月3日に短時間で急落した時の安値104.82円や昨年3月26日底104.63円等に対する余裕もさほどない状況だ。
1月3日安値及び3月26日安値のある104円台後半について、果たして支持線になるのかどうかは怪しい。既に豪ドル円、NZドル円、ポンド円、ユーロ円、ランド円等の他のクロス円では1月3日安値を割り込んでさらに続落に入っており、1月3日安値は支持線として機能しなかった。
米中対立は実体経済への悪影響も目立ち始めた。週末は長期金利低下も一服したが、豪ドルやユーロに対してのドル高が進行する一方でクロス円全般の円高が加速して円が全面高となりやすい状況という印象も強まっている。
クロス円におけるポジション解消が円の買い戻しを招き、各国長期金利低下が円高を進めるという大きな流れが変わらない限り、円高基調は継続しやすく、株安発生時にはリスク回避感が一段と強まって株安円高がセットで加速しやすい状況も継続しやすいと思われる。
【3か月サイクルと当面のポイント】
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)概ね3か月前後の底打ちサイクルでは、6月25日安値を割り込んだことにより8月1日高値をサイクルトップとして弱気サイクル入りしていると考える。次のボトム形成期は短ければ6月25日底から2か月目、平均的には3か月後の9月末にかけての間と想定される。2か月目となる8月23日のジャクソンホールでの米連銀議長講演をきっかけとして底打ちする可能性もあるが、そこを弱気で通過して9月1日の米国による対中関税拡大発動が実施されれば9月17-18日の次回米連銀FOMCまで底打ちのきっかけを得られずに9月後半へ円高ドル安基調を継続する可能性が高まると思われる。
(2)当面は、105円を下値支持線、107円前後を上値抵抗線とみておく。持ち合い中のため、107円超えから続伸の場合は持ち合い上放れによる浮上効果で107.50円前後を試す可能性もあるが、あくまでも3か月サイクルにおける下落期として、108円に届かない程度までの短期的な反発を入れてもその後に106.50円を割り込むところからは下げ再開とみる。
(3)105円割れからは2018年3月底104.63円試しとみるが、そこをスルーで下落する場合は下値目処が一挙に100円の大台試しへ進むのではないかと思われる。今のところの下落規模・角度は2017年1月から3月底にかけての段階的な下落期に近い展開だが、昨年末から年明けへの急降下型の下げがいつ発生しても不思議ではないと思う。(了)<18日20:30執筆>
【当面の主な予定】
8/19(月)
07:45 (NZ) 4-6月期生産者物価指数 前期比 (前期 -0.5%)
08:50 (日) 7月 通関ベース貿易統計・季調前 (6月 5895億円、予想 -2000億円)
08:50 (日) 7月 通関ベース貿易統計・季調済 (6月 -144億円、予想 -1508億円)
17:00 (欧) 6月 経常収支・季調済 (5月 297億ユーロ)
17:00 (欧) 6月 経常収支・季調前 (5月 133億ユーロ)
18:00 (欧) 7月 消費者物価指数・改定値 前年同月比 (速報 1.1%、予想 1.1%)
18:00 (欧) 7月 消費者物価指数・改定値 前年同月比 (速報 0.9%、予想 0.9%)
8/20(火)
10:30 (豪) 豪準備銀行(RBA)、金融政策会合議事要旨公表
15:00 (独) 7月 生産者物価指数 前月比 (6月 -0.4%、予想 0.0%)
18:00 (欧) 6月 建設支出 前月比 (5月 -0.3%)
18:00 (欧) 6月 建設支出 前年同月比 (5月 2.0%)
8/21(水)
日米貿易交渉の閣僚協議(22日まで、ワシントン)
07:00 (米) クオールズFRB副議長、講演
23:00 (米) 7月 中古住宅販売件数・年率換算件数 (6月 527万件、予想 540万件)
23:00 (米) 7月 中古住宅販売件数 前月比 (6月 -1.7%、予想 2.5%)
27:00 (米) 米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨
8/22(木)
カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(24日まで、ジャクソンホール)
インドネシア中銀、政策金利発表
13:30 (日) 6月 全産業活動指数 前月比 (5月 0.3%、予想 -0.8%)
16:30 (独) 8月 製造業PMI (7月 43.2、予想 43.0)
16:30 (独) 8月 サービス業PMI (7月 54.5、予想 54.0)
17:00 (欧) 8月 製造業PMI (7月 46.5、予想 46.2)
17:00 (欧) 8月 サービス業PMI (7月 53.2、予想 53.0)
20:30 (欧) 欧州中央銀行(ECB)理事会議事要旨
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 22.0万件、予想 21.8万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 172.6万人)
22:45 (米) 8月 製造業PMI (7月 50.4、予想 50.5)
22:45 (米) 8月 サービス業PMI (7月 53.0、予想 52.8)
22:45 (米) 8月 総合PMI (7月 52.6)
23:00 (米) 7月 景気先行指数 前月比 (6月 -0.3%、予想 0.2%)
23:00 (欧) 8月 消費者信頼感 (7月 -6.6、予想 -7.0)
8/23(金)
07:45 (NZ) 4-6月期 小売売上高指数 前期比 (前期 0.7%、予想 0.2%)
08:30 (日) 7月 全国消費者物価指数 前年同月比 (6月 0.7%、予想 0.5%)
08:30 (日) 7月 全国消費者物価指数・生鮮食料品除く 前年同月比 (6月 0.6%、予想 0.6%)
08:30 (日) 7月 全国消費者物価指数・生鮮食料品・エネルギー除く 前年同月比 (6月 0.5%、予想 0.5%)
22:00 (メ) 4-6月期 GDP確定値 前期比 (速報 0.1%、予想 0.0%)
22:00 (メ) 4-6月期 GDP確定値 前年同期比 (速報 -0.7%、予想 -0.7%)
23:00 (米) 7月 新築住宅販売件数・年率換算件数 (6月 64.6万件、予想 64.5万件)
23:00 (米) 7月 新築住宅販売件数 前月比 (6月 7.0%、予想 -0.2%)
23:00 (米) パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長、ジャクソンホール講演
オーダー/ポジション状況
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