ドル円見通し 対日貿易赤字削減問題焦点化(週報9月第2週)
【概況】
米GDP上方修正等を背景に8月29日深夜高値111.82円までドル高円安が進んだがその後はドル安がぶり返して31日には110.68円まで下げた。再びドル高感が強まって5日夜には111.75円まで上昇したが29日深夜高値を超えられなかった。5日にはトランプ大統領が対中制裁関税強化姿勢を示したことが貿易戦争問題でのリスク回避感を拡大させて円高が再燃した。
9月7日未明には北海道で大地震が発生したこと、トランプ大統領が対日赤字削減への強硬姿勢を示したことでクロス円での円高が加速して7日午前には110.38円まで下落して31日安値を割り込んだ。
9月7日は米雇用統計の発表があり、市場予想よりも強い数字となったことでドル高となり、ドル円も発表直後からの上昇で111.24円をつけたが深夜には110.75円までいったん反落するなど乱調となり、8日未明は111円を挟んだもみ合い状態で週を終えた。
8月29日高値に対して9月5日深夜高値では高値更新できず、9月7日午前への下落では31日安値を割り込んだため、「高値切り下げ・安値切り下げ型」となっている。
【貿易戦争、日米通商摩擦が本格化へ】
トランプ米大統領は5日のホワイトハウスでの発言で「中国との交渉は非常にうまく行っている。しかし我々は中国側が望む内容で合意するつもりはない」「中国との交渉は続けていく。習近平国家主席を非常に尊敬している」が「現段階では合意できない」と語った。
9月7日には大統領専用機内でのロイター社インタビューに答えて「中国側の動き次第で2000億ドル規模の中国製品に対する関税措置が近く発動される可能性がある」「その後、私が望めばさらに2670億ドル相当の追加関税を急きょ発動する用意があると言っておく。そうなれば状況は一転するだろう」と語った。
米国は7月までに総額500億ドル規模の対中関税強化を発動、中国も同規模の対抗措置をとってきた。これに加えて2000億ドル規模へと関税対象を拡大する計画とし、その影響についての公聴会を8月20日から数回実施、9月6日まではパブリックコメントを受け付けてきた。意見公募は終了直後での発動は実施されていないが、米国家経済会議(NEC)のカドロー委員長は「トランプ大統領は市民から寄せられた意見を精査した上で決定を下す」としているため、2000億ドル規模の対象拡大、それに対する中国側の600億ドル規模の対抗措置発動も近い印象となっている。米国はすでに発動している500億ドル規模に加えて2000億ドル、さらに2670億ドルが加算されると総額5170億ドルとなり、米国の中国製品輸入総額が2017年の年間実績の5050億ドルを上回ることになる。
ウォールストリートジャーナル紙は6日、トランプ大統領が電話インタビューに答えて「安倍首相とは友好関係だったが、貿易赤字改善へ日本が米国に払うべきコストを通告すればこれまでの蜜月関係は終わるだろう」と語った。安倍首相がトランプ大統領の親密さをアピールしてきたが、すでに実行されている鉄鋼・アルミ関税拡大については同盟国としての適用除外対象とされなかった。また6月の日米首脳会談では「真珠湾を忘れない」として対日赤字削減への強い姿勢を示したとのリーク報道もあった。日本市場は米中貿易戦争問題と比較して日米貿易戦争化への懸念についてはやや楽観してきたところがあるが、9月後半に予定されている日米首脳会談前の事務レベル協議の過程では相当に厳しい要求が出てくる可能性もある。すでに相当程度の軍事関連の米国製品調達を行ってきたが、それでは全くトランプ大統領の満足を得ていないことになる。
ウォールストリートジャーナル紙は6日、トランプ大統領が電話インタビューに答えて「安倍首相とは友好関係だったが、貿易赤字改善へ日本が米国に払うべきコストを通告すればこれまでの蜜月関係は終わるだろう」と語った。安倍首相がトランプ大統領の親密さをアピールしてきたが、すでに実行されている鉄鋼・アルミ関税拡大については同盟国としての適用除外対象とされなかった。また6月の日米首脳会談では「真珠湾を忘れない」として対日赤字削減への強い姿勢を示したとのリーク報道もあった。日本市場は米中貿易戦争問題と比較して日米貿易戦争化への懸念についてはやや楽観してきたところがあるが、9月後半に予定されている日米首脳会談前の事務レベル協議の過程では相当に厳しい要求が出てくる可能性もある。すでに相当程度の軍事関連の米国製品調達を行ってきたが、それでは全くトランプ大統領の満足を得ていないことになる。
【日経平均の5日続落】
ドル円としても注目しておきたいのは株式市場。日経平均は9月3日に157円安と下落してから5日連続安となった。5月21日以降は23000円が抵抗となった持ち合いが続いており、まだその範囲にあるが、日銀の株買い支え、米国株式市場でナスダック総合指数やSP500が史上最高値を更新することに依存しながらも持ち合いに止まる程度であったところ、9月に入ってからは米国株も下落し始めていることがある。
新興国通貨安は先行き不安によるドルへの還流を進め、相対的に上昇継続期待のある米国株高を初期的には支える効果があるが、新興国通貨安が深刻化する中ではいずれ米国株式市場にも大きなプレッシャーを与え始めることが懸念されるので、9月入りからの米国株安はその端緒かもしれない。
1997年から98年へのアジア通貨危機は1998年のロシア通貨危機、ブラジル通貨危機からのラテンアメリカ通貨危機を招き、それがITバブルに沸いていた米国株式市場へも影響して米国株が暴落、世界連鎖株安を発生させた。それから10年後にリーマンショックが発生し、さらに10年を経て今年のトルコリラ暴落、インドルピーやインドネシアルピア、アルゼンチンペソ等の史上最安値更新を発生させている。トルコリラ暴落は一服しているものの、南アランド安や豪ドル安等の資源通貨安も進み始めており、金融市場全般への負のスパイラルも警戒水域に入りつつあるのではないかと思う。それは日米通商摩擦問題の主テーマ化への格上げとともに円高の潜在リスクとなってきていると警戒すべきだろう。
【8月29日高値越えへ進むか、8月21日安値割れへ進むか】
7月19日高値から8月21日安値へ3.36円の円高ドル安となった。これは昨年11月6日天井から11月27日へ3.89円下げた時に近い印象だ。8月29日へ2.05円の円安ドル高となったが、これは昨年12月12日へ2.90円の円安ドル高となった時に近い印象がある。昨年は11月天井に対して12月で戻り天井となりその後は今年3月への大幅な円高ドル安へと進んだ。今回も8月21日安値を割り込む場合は当時との類似性が高まってくる。まだ8月21日安値を割り込んでいないため、ドル全面高がドル円を上昇させて8月29日高値を超えてくれば当時との類似性も崩れるかもしれないが、日米通商摩擦問題の焦点化とともに株高にブレーキがかかった状況のため、現状は8月21日安値割れへ向かいやすい状況にあるのではないかと懸念される。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、9月7日の夜から深夜のレンジを強弱分岐の目安とし、7日夜高値111.24円を抵抗、110.75円を支持線とみておく。
(2)110.75円割れ回避のうちは111.24円越えから戻り高値試しとし、110.50円から6日夜高値111.75円を試す可能性ありとするが、111.50円以上は反落警戒圏とし、その後の111円割れからはドル安円高へ進みやすくなるとみる。
(3)111.75円割れからは7日夜で小戻り一巡となり一段安へ進みやすくなると仮定してまず7日午前安値110.38円試しを想定する。底割れの場合、概ね3日から5日周期のサイクルにおいて次の安値形成期となる12日から14日にかけての間への下落継続とし、110.00円から109.50円にかけてのゾーンを試しにかかるとみる。日米通商摩擦問題、米国の対中関税拡大発動、上海株や米国株安発生の場合は109円台序盤まで下値目途が切り下がる可能性ありとみる。また8月21日安値109.77円を割り込む場合はドル安円高が長期化する可能性を考える。(了)<23:00執筆>
【当面の主な予定】
9/10(月)
08:50 (日) 4-6月期GDP、改定値 前期比 (速報 0.5%、予想 0.7%)
08:50 (日) 4-6月期GDP、改定値 年率換算 (速報 1.9%、予想 2.6%)
08:50 (日) 7月 国際収支・経常収支 (6月 1兆1756億円、予想 1兆8520億円)
08:50 (日) 7月 国際収支・貿易収支 (6月 8205億円、予想 -477億円)
10:30 (中) 8月 生産者物価指数 前年同月比 (7月 4.6%、予想 4.0%)
10:30 (中) 8月 消費者物価指数 前年同月比 (7月 2.1%、予想 2.2%)
16:00 (ト) 4-6月期GDP 前年比 (前期 7.4%、予想 5.3%)
17:30 (英) 7月 貿易収支 (6月 -113.83億ポンド、予想 -117.50億ポンド)
17:30 (英) 7月 鉱工業生産指数 前月比 (6月 0.4%、予想 0.2%)
17:30 (英) 7月 製造業生産指数 前月比 (6月 0.4%、予想 0.2%)
25:00 (米) ボスティック・アトランタ連銀総裁、講演
9/10(月)
08:50 (日) 4-6月期GDP、改定値 前期比 (速報 0.5%、予想 0.7%)
08:50 (日) 4-6月期GDP、改定値 年率換算 (速報 1.9%、予想 2.6%)
08:50 (日) 7月 国際収支・経常収支 (6月 1兆1756億円、予想 1兆8520億円)
08:50 (日) 7月 国際収支・貿易収支 (6月 8205億円、予想 -477億円)
10:30 (中) 8月 生産者物価指数 前年同月比 (7月 4.6%、予想 4.0%)
10:30 (中) 8月 消費者物価指数 前年同月比 (7月 2.1%、予想 2.2%)
16:00 (ト) 4-6月期GDP 前年比 (前期 7.4%、予想 5.3%)
17:30 (英) 7月 貿易収支 (6月 -113.83億ポンド、予想 -117.50億ポンド)
17:30 (英) 7月 鉱工業生産指数 前月比 (6月 0.4%、予想 0.2%)
17:30 (英) 7月 製造業生産指数 前月比 (6月 0.4%、予想 0.2%)
25:00 (米) ボスティック・アトランタ連銀総裁、講演
9/12(水)
未 定 (英) 英中銀金融政策委員会(MPC)1日目
08:50 (日) 7-9月期 四半期法人企業景気予測調査・大企業業況判断BSI (前期 -2.0)
18:00 (欧) 7月 鉱工業生産 前月比 (6月 -0.7%、予想 -0.5%)
21:30 (米) 8月 生産者物価指数 前月比 (7月 0.0%、予想 0.2%)
21:30 (米) 8月 生産者物価指数 前年同月比 (7月 3.3%、予想 3.2%)
21:30 (米) 8月 生産者物価コア指数 前月比 (7月 0.1%、予想 0.2%)
21:30 (米) 8月 生産者物価コア指数 前年同月比 (7月 2.7%、予想 2.7%)
22:30 (米) ブラード・セントルイス連銀総裁、講演 シカゴ
25:45 (米) ブレイナードFRB理事、講演 デトロイト
27:00 (米) 米地区連銀経済報告(ベージュブック)
9/13(木)
08:50 (日) 8月 国内企業物価指数 前月比 (7月 0.5%、予想 0.1%)
08:50 (日) 8月 国内企業物価指数 前年同月比 (7月 3.1%、予想 3.1%)
08:50 (日) 7月 機械受注 前月比 (6月 -8.8%、予想 5.7%)
08:50 (日) 7月 機械受注 前年同月比 (6月 0.3%、予想 4.5%)
10:30 (豪) 8月 新規雇用者数 (7月 -0.39万人、予想 1.80万人)
10:30 (豪) 8月 失業率 (7月 5.3%、予想 5.3%)
15:00 (独) 8月 消費者物価指数 改定値 前月比 (速報 0.1%、予想 0.1%)
20:00 (ト) トルコ中銀、政策金利 (現行 17.75%、予想 22.00%)
20:00 (英) イングランド銀行(BOE)政策金利 (現行 0.75%、予想 据え置き)
20:00 (英) 英中銀資産買取プログラム規模 (現行 4350億ポンド、予想 据え置き)
20:45 (欧) 欧州中銀(ECB)政策金利 (現行 0.00%、予想 据え置き)
21:30 (欧) ドラギECB総裁、定例記者会見
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 20.3万件、予想 21.0万件)
21:30 (米) 8月 消費者物価指数 前月比 (7月 0.2%、予想 0.3%)
21:30 (米) 8月 消費者物価指数 前年同月比 (7月 2.9%、予想 2.8%)
21:30 (米) 8月 消費者物価コア指数 前月比 (7月 0.2%、予想 0.2%)
21:30 (米) 8月 消費者物価コア指数 前年同月比 (7月 2.4%、予想 2.4%)
26:15 ボスティック・アトランタ連銀総裁、講演
27:00 (米) 8月 月次財政収支 (7月 -769億ドル)
9/14(金)
11:00 (中) 8月 小売売上高 前年同月比 (7月 8.8%、予想 8.8%)
11:00 (中) 8月 鉱工業生産 前年同月比 (7月 6.0%、予想 6.2%)
18:00 (欧) 7月 貿易収支 (6月 225億ユーロ)
19:00 (英) カーニー英中銀(BOE)総裁、発言
21:30 (米) 8月 小売売上高 前月比 (7月 0.5%、予想 0.5%)
21:30 (米) 8月 小売売上高 除自動車 前月比 (7月 0.6%、予想 0.5%)
21:30 (米) 8月 輸入物価指数 前月比 (7月 0.0%、予想 -0.3%)
22:00 (米) エバンス・シカゴ連銀総裁、講演
23:00 (米) ローゼングレン・ボストン連銀総裁、講演
22:15 (米) 8月 鉱工業生産 前月比 (7月 0.1%、予想 0.3%)
22:15 (米) 8月 設備稼働率 (7月 78.1%、予想 78.2%)
23:00 (米) 7月 企業在庫 前月比 (6月 0.1%、予想 0.4%)
23:00 (米) 9月 ミシガン大学消費者信頼感指数 速報 (8月 96.2、予想 96.8)
オーダー/ポジション状況
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東京市場のドルは154円台後半で推移、日銀による追加利上げ観測が円安のブレーキ役に(24/11/22)
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2024.11.22
ドル円 値動きそのものは激しいが、結果レンジ内か(11/22夕)
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Edited by:斎藤登美夫
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