ドル円 上昇トレンドからの転落危機(週報7月第4週)

7月20日未明、トランプ米大統領は米CNBCのインタビューに答え、米連銀の利上げについて「必ずしも同意しない、感心しない」と発言したと報道された。

ドル円 上昇トレンドからの転落危機(週報7月第4週)

【概況】

ドル高米株高を背景としてドル円は上昇してきた。7月13日への上昇で112.80円を付けて昨年5月21日高値を突破、3月26日底からの上昇が二段上げ型へ発展した。週序盤は112円台前半で速度調整的な動きとなっていたが17日夜には米経済指標の良好さとパウエル米連銀議長の上院議会証言での利上げ継続姿勢を背景に上昇、また17日には米ナスダック総合指数が史上最高値を更新し、18日にはNYダウが5連騰する米国株式市場の楽観的な上昇を背景に113.13円を付け、19日夜にも113.17円までわずかに高値を切り上げていた。この時点ではさらに昨年11月6日高値114.72円等、昨年5月や7月の高値でも付けた114円台乗せへ進む可能性も高まった状況にあった。
ところが、20日未明のトランプ大統領発言(CNBCインタビュー)をきっかけに急落が始まった。

【トランプ大統領の米連銀利上げ批判、ドル高非難ツイート】

7月20日未明、トランプ米大統領は米CNBCのインタビューに答え、米連銀の利上げについて「必ずしも同意しない、感心しない」と発言したと報道された。これをきっかけに20日2時台に112.05円まで急落、直前高値から1円を超える下落幅となった。20日の日中は急落一服で続報待ちの持ち合いで推移していたが、20日夜、トランプ大統領のツイートから再びドル急落となり、ドル円は112円割れ、さらに21日早朝の取引終了時には111.38円まで下げて安値のまま終了した。
20日夜、トランプ米大統領はツイッターで「米国は利上げによりドルが日々強くなっている。大きな競争力を失っている」と米連銀の利上げを批判した。さらに「中国やEU等は為替を操作して金利を低くしている」と批判した。20日20時台のこのツイートがドル全面安を招き、ユーロは急騰、ドル円は急落した。

ムニューシン米財務長官も「人民元の下落が不公平な競争優位をもたらしていると言うことは疑いようもない。我々は中国が人民元の相場を操縦していないかどうか注意深く点検するつもりだ」と述べたと報じられた。
ドル/人民元は7月20日の取引で6.8元を超えて昨年7月以来のドル高元安水準となった。序盤に高値を付けた後は中国国有銀行系によるドル売り元買いの動きでドル安元高となったが、中央銀行の役割がある中国人民銀行が積極的に人民元安を阻止しようという動きをとっているという評価には至っていない。7月3日に6.7元を超えた時にも同様に国有銀行系のドル売り元買いの動きが見られたが、長続きはしなかった。

トランプ米大統領は20日の米CNBCテレビのインタビューにおいて対中貿易不均衡については「とてつもない額の赤字を減らす。5000億ドル相当の品目への追加関税を発動する用意がある」と述べた。また米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長も「問題は中国の習近平国家主席にある」「習氏は動こうとせず知的財産権侵害のほか強制的な技術移転についてまったく何の選択肢も示していない」と中国側の姿勢を批判した。
米中貿易戦争問題では米国が予告通りに制裁関税や輸入制限を実行し始め、中国側も反撃しているが、相対的に中国側の反撃姿勢が強硬ではないとし、また貿易総量や依存度を比較すれば中国側が対抗しきれないとして米国株式市場はかなり楽観的な受け止め方に変化してナスダックの史上最高値更新を引き起こしてきたが、改めて米中貿易戦争問題が大統領による直接的なドル高けん制も含めて深刻化し始めたという印象を与えるものとなった。
ドル円にとってはトランプ大統領の人民元安やユーロ安等へのけん制発言、対中国制裁関税のエスカレートがドル売り円買い要因として直接的な影響を及ぼした。

【日銀金融政策に変化?】

7月20日、19時過ぎ、時事通信社が「日銀が長期金利誘導目標の柔軟化を検討」と報じた。時事通信社の独自取材情報として流したものだが、同社報道によると「日銀が金融緩和策として0%程度としている長期金利の誘導目標の柔軟化を7月末の日銀金融政策決定会合で検討することが分かった。一定程度の金利上昇を容認する。物価の伸び悩みで日銀が掲げる2%の物価上昇目標の実現が展望できない中、現在の緩和策は一段と長期化する見通し。金融機関の収益悪化や国債取引の低迷など副作用を軽減しつつ、緩和長期化に備えるのが狙いだ。7月末の金融政策決定会合で検討する。」という内容だった。
トランプ大統領のドル高けん制ツイートよりもやや早いタイミングで一報が出ており、大統領ツイートと相乗効果となってドル円急落要因になったと市場は見ているようだ。

【7月19日高値から1.78円幅、5月29日への下落並みに発展するか?】

【7月19日高値から1.78円幅、5月29日への下落並みに発展するか?】

5月21日高値を上抜いた段階で、日足は5月21日高値と5月29日安値を起点とした三角持ち合いを上放れ、3月26日からの上昇は二段上げとなった。

この時点では昨年11月から今年3月への下落波動に対する揺れ返しの上昇で114円台を目指す可能性が高まった。上昇途中での小規模調整安としては6月15日高値から6月25日安値まで数日間で1.54円幅した時の規模での調整安が入る程度なら、上昇基調の継続として押し目買いされて一段高へ向かいやすいという考え方もできるが、今回の下落はより短期間で下げ幅も大きい。5月21日高値から5月29日安値まで7営業日で3.27円幅となったが、今回の下落はその時の初動に近い印象もある。その時は52日移動平均が支持線となり、同線は6月25日の安値も支えている。

3月26日底と5月29日底、6月25日安値はほぼ1直線で上昇トレンドの支持線を形成しており、この支持線は現在26日移動平均(20日時点で111.00円)と重なっている。仮に23日以降も続落する場合は下落規模を5月29日への下落時並みと想定し、26日移動平均割れからは52日移動平均(現在110.44円)前後への下落、さらに5月29日への下落規模と同レベルの下げ幅として109.88円を試す可能性も出てくるかもしれない。
3月26日以降の支持線と重なる26日移動平均を割り込む場合は支持線割れとなるため、3月26日以降の上昇が一巡して中勢レベルの下落期に入る懸念も強まると思われる。支持線は一時的に割り込んでもその後の反騰で復帰すれば新たな支持線を描き直しつつ上昇を継続することも多々あるが、割り込んでから早々に回復できない場合はドル高円安基調の期継続期待も崩れる可能性があると警戒すべきだろう。

【当面の強弱判断目安】

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)112.00円を抵抗とし、112円台回復、維持へと戻せないうちは安値試しの継続とし、26日移動平均=111.00円、次いで52日移動平均=110.44円、さらに5月29日への下げ幅並みとして109.88円等を段階的に試す可能性を警戒する。
(2)まず、23日の日中、特に午前で下げ止まれるかどうかが大事だが、23日夕夜へ続落の場合は24日朝へ下落継続しやすくなるとみる。また24日午後以降も下落基調が続く場合は24日夜から26日にかけての間まで安値試しが続く可能性に注意する。
(3)112円台回復、維持、続伸と戻す場合、ないしは直前の安値から0.50円以上反騰してその後もさらに戻り高値を切り上げるような上昇が見られれる場合ば19日からの下落一服として24日から26日にかけてのリバウンドを想定するが、安値から1円前後戻したところ、ないしは112.50円前後では戻り売りに崩されやすいとみる。そうした戻りを入れた後に戻り幅の半値以上を削る反落発生からは下げ再開を疑う。(了)<22日10:30執筆>

【当面の主な予定】

7/23(月)
23:00 (欧) 7月 消費者信頼感 速報 (6月 -0.5、予想 -0.7)
23:00 (米) 6月 中古住宅販売件数 年率換算件数 (5月 543万件、予想 544万件)

7/24(火)
14:00 (日) 5月 景気先行指数(CI)・改定値 (速報 106.9)
16:30 (独) 7月 製造業PMI、速報値 (6月 55.9、予想 55.5)
16:30 (独) 7月 サービス業PMI、速報値 (6月 54.5、予想 54.5)
17:00 (欧) 7月 製造業PMI、速報値 (6月 54.9、予想 54.6)
17:00 (欧) 7月 サービス業PMI、速報値 (6月 55.2、予想 55.0)
20:00 (ト) トルコ中銀、政策金利 (現行 17.75%、予想 18.75%へ引き上げ)
22:00 (米) 5月 住宅価格指数  前月比 (4月 0.1%、予想 0.4%)
23:00 (米) 7月 リッチモンド連銀製造業指数 (6月 20、予想 18.0)
26:00 (英) ブロードベント英中銀(BOE)副総裁、講演

7/25(水)
EU財務相理事会
07:45 (NZ) 6月 貿易収支 (5月 2.94億NZドル、予想 2.00億NZドル)
10:30 (豪) 4-6月期 四半期消費者物価 前期比 (前期 0.4%、予想 0.5%)
10:30 (豪) 4-6月期 四半期消費者物価 前年比 (前期 1.9%、予想 2.2%)
17:00 (独) 7月 IFO景況指数 (6月 101.8、予想 101.5)
23:00 (米) 6月 新築住宅販売件数 年率換算件数 (5月 68.9万件、予想 67.0万件)

7/26(木)
BRICS首脳会議(南ア・ヨハネスブルク、27日迄)
15:00 (独) 8月 GFK消費者信頼感 (7月 10.7、予想 10.7)
20:45 (欧) 欧州中銀(ECB)政策金利 (現行 0.00%、予想 据え置き)
21:30 (欧) ドラギ欧州中銀(ECB)総裁、定例記者会見
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 20.7万件、予想 21.5万件)
21:30 (米) 6月 耐久財受注 前月比 (5月 -0.6%、予想 3.0%)
21:30 (米) 6月 耐久財受注・輸送用機器除く 前月比 (5月 -0.3%、予想 0.5%)

7/27(金)
朝鮮戦争休戦協定調印 65年周年
08:30 (日) 7月 東京都区部消費者物価コア指数 前年比 (6月 0.7%、予想 0.7%)
10:30 (豪) 4-6月期 四半期生産者物価指数 前期比 (前期 0.5%)
10:30 (豪) 4-6月期 四半期生産者物価指数 前年比 (前期 1.7%)
21:30 (米) 4-6月期 四半期GDP、速報値 前期比年率 (前期 2.0%、予想 4.2%)
23:00 (米) 7月 ミシガン大学消費者態度指数・確報 (速報値 97.1、予想 、97.1)

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