ドル円 2月底割れ今年の円高は厳しい動き(3月第一週)

2月27日にパウエル米連銀議長は下院の議会証言で景気拡大およびインフレ目標実現への自信を示し、情勢判断は12月のFOMCから1月会合時点へ前進したと述べた。

ドル円 2月底割れ今年の円高は厳しい動き(3月第一週)

【概況】

2月16日に105.546円の安値を付けて昨年9月8日安値107.32円を割り込んだ。2月21日には107.90円まで戻したが、22日未明のFOMC議事録公開からは伸びきれずに失速し、23日には106.51円まで下げた。
27日のパウエル米連銀議長による下院議会証言での利上げ積極姿勢から107.67円を付けたが、21日高値超えへは進めず、議長発言から米長期金利が一段と上昇したことから世界連鎖株安が始まり、リスク回避感からドル円は下落した。さらに3月1日にはトランプ大統領が鉄鋼とアルミに輸入関税をかけると発言したことからNYダウが大幅下落したためにリスク回避による円高が進んで105.24円の安値を付けて2月16日安値を割り込んだ。
3月2日は黒田日銀総裁が再任についての国会発言で出口戦略を口にしたことも円高要因となった。
NYダウが4日続落となったものの、3月2日は一時370ドルを超える下落だったところから70ドル安まで戻したことで、ドル円も下げ一服でやや戻して終了した。

【米連銀の利上げペース加速と株安】

2月27日にパウエル米連銀議長は下院の議会証言で景気拡大およびインフレ目標実現への自信を示し、情勢判断は12月のFOMCから1月会合時点へ前進したと述べた。この議会証言により米連銀の利上げペースが年3回から年4回へ拡大するのではないかとの懸念が強まり、米長期金利上昇を招き、当初はドル高反応となった。
しかし、米長期金利が2.9%台後半へ上昇したことと先行きの金利上昇感を嫌気して米国株が急落したため、28日時点からは株安へのリスク回避感から円が買い戻された。さらに3月1日へ世界連鎖株安となったことで米長期金利は2.9%割れへ低下、株安リスクと長期金利低下によりドル安が進み、円、ユーロが買われた。

世界連鎖株安により長期金利上昇は止まったが、今回のパウエル議長議会証言や他の地区連銀総裁らの発言では2月序盤の世界連鎖株安程度では政策判断に影響はないとしている。このためNYダウが2月9日安値を割り込まないうちは米連銀の利上げペース加速懸念は継続する。ただし、2月9日安値を割り込んで一段と深刻化するようなら利上げペース判断にも影響が出る可能性がある。2015年12月に利上げが再開されて2016年には4回の利上げ見通しとされたものの、2016年1月の中国株急落を発端とした世界連鎖株安により年4回の利上げ計画は結局2016年末の1回に先送りされた経緯があるので、さらに世界連鎖株安が発生する場合には長期金利上昇懸念が薄れてリスク回避の円買いが拡大する可能性も警戒される。

NYダウは2月27日から299.24ドル安、380.83ドル安、1日には420.22ドル安と大幅続落。3月2日も一時は370ドル安を超える大幅続落だったが、引けにかけては戻して70.92ドル安となった。
日経平均も28日に321.62円安、3月1日に343.77円安、2日には542.83円安と大幅続落して2月序盤急落時の2月14日安値2950.15円に対して余裕がなくなっている。

【新たな市場リスクとしての米国輸入関税問題】

トランプ米大統領は3月1日、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の輸入関税をかけると発言した。これを受けて株価が急落したものの、2日早朝のツイッターには「貿易戦争は良いことで、簡単に勝てる」と投稿した。
ロス米商務長官はこの問題について「私が提示した複数の選択肢のうち、大統領が選んだのは全ての国の全製品に幅広く関税を賦課するというものだった」「我々は世界の問題に世界規模で対応し、関税を逃れるため他国を経由させるという何度も繰り返される事象を根絶する必要がある」旨を述べた。
EUは報復措置の一環として米国産の二輪車やジーンズなどを対象とした輸入関税を検討していることを明らかにし、カナダも報復を示唆している。

米国第一主義=保護主義が全面化する動きとし、報復合戦による貿易戦争も懸念されるが、それを踏まえてこうした行動に出ているようで、株安が発生したからといって簡単に手を引っ込めることは考え難い。
金融市場全般への混乱も懸念され、週末はリスク回避で円、米国債、ゴールドが買われた。米国債が買い戻されることで米長期金利上昇は抑えられるが、リスク回避感と相まってドル安を助長しやすい状況になってきていると思われる。

【黒田日銀総裁再選】

黒田日銀総裁は3月2日の衆院議院運営委員会で再任に対する所信表明を行った。その中で同総裁は「わが国の経済物価情勢は大きく改善し、もはやデフレでない状況ははっきりしている。」「物価は2%に向けて勢いが維持されている。」「物価はまだ2%目標との距離がかなりある。直ちに出口を議論するのは適切ではない。現時点では2019年度ごろには物価が2%程度に達するとみている。出口をその頃に議論しているのは間違いない。」等と述べた。
日銀は昨年、新たな政策を打ち出していない。2月中には長期国債の買いオペを減額することもあり、手詰まり感が強まっている。米国が利上げサイクルに入り、ECBが緩和縮小へ進んでいる中で、日銀も資産購入の限界感も踏まえていずれは出口戦略が現実化してくるであろうことを市場も認識している。少なくとも現時点で円安を助長することはできなくなってくると思われる。

【2月16日では底打ちできず、円高の長期化】

2月16日安値105.546円から2月21日高値107.90円まで2.35円幅の反発だったが、2月2日反発で2.19円幅、昨年12月12日への反発の2.90円幅等と同レベルの小反発に止まり、3月2日の下落で2月16日安値を割り込んだ。
2016年6月24日のブレクジットショック安値以降、2016年11月9日トランプショック、2017年4月17日、同9月8日と概ね5か月周期で重要な底をつけては上昇してきた。9月8日安値から5か月目の9月8日安値でこのリズムで底打ちする可能性もあったが、今回の底割れにより、5か月周期のリズムでは戻せず、より中長期的な下落圧力が大きいことが再認識されたと思う。

【当面の中勢ポイント】

【当面の中勢ポイント】

(1)2月16日安値を割り込んだが、わずかに割り込んでも切り返して2月21日高値を上抜き返すなら、108円台前半への上昇へ進む可能性も出てくると思う。そのためには世界連鎖株安が一服、反騰すること、米長期金利が上昇再開することが必要であり、まず米雇用統計前に106円台後半まで戻し、雇用統計から107円以上へと上昇する必要があると思う。2月21日高値を上抜く場合は26日移動平均を超えてくるため、先行きは11月からの下落に対するリバウンド入りとして52日移動平均前後、109円台後半へ向かう可能性も出てくるかもしれない。

(2)106.50円以下での推移が続く場合は2月26日安値を割り込んでの一段安状態の継続となるため、2016年12月天井からの下落=円高が新たな段階に入ってきたという認識が強まると思う。3月9日の米雇用統計から上昇へ進めなければ、3月20-21日のFOMCへ向けて下落基調が継続しやすくなると思う。
(3)週明け前半に3月2日安値105.24円を割り込む場合は、2016年12月から2017年4月への下落幅並みとしてまず104.18円前後試しを想定する。104円割れへ続落してゆく場合は2016年11月9日のトランプショック発生時安値の101.19円を目指す可能性が高まると考える。
1月の年間見通しでも示したように、今年の円高は昨年以上に厳しいと思う。(了)<4日21:55執筆>


【当面の主な予定】

3/5(月)
   (中)中国全国人民代表大会開幕
(英) メイ英首相、EU離脱関連声明 議会で発表
09:30 (豪) 1月 住宅建設許可件数 前月比 (12月 -20、予想 +5.0%)
10:45 (中) 2月 財新サービス業PMI (1月 54.7、予想 54.3)
17:55 (独) 2月 サービス業PMI、改定値 (速報 55.3、予想 55.3)
18:00 (欧) 2月 サービス業PMI、改定値 (速報 56.7、予想 56.7)
18:30 (英) 2月 サービス業PMI (1月 53.0 予想 53.3)
19:00 (欧) 1月 小売売上高 前月比 (12月 -1.1%、予想 -0.1&)
19:00 (欧) 1月 小売売上高 前年比 (12月 1.9%、予想 2.0%)
24:00 (米) 2月 ISM非製造業景況指数 (1月 59.9、予想 58.9)

3/6(火)
09:30 (豪) 10-12月期 経常収支 (前期 -91億豪ドル、予想 −122.億豪ドル)
09:30 (豪) 1月 小売売上高 前月比 (12月 -0.5%、予想 +0.4%)
12:30 (豪) 豪準備銀行、政策金利発表 (現行 1.50%、予想 据え置き)
21:30 (米) ダドリー米NY連銀総裁講演
24:00 (米) 1月 製造業新規受注 前月比 (12月 1.7%、予想 -1.2%)

3/7(水)
09:00 (米) ブレイナードFRB理事 講演
09:30 (豪) 10-12月期 四半期GDP 前期比 (前期 0.6%、予想 0.5%)
09:30 (豪) 10-12月期 四半期GDP 前年比 (前期 2.8%、予想 2.5%)
10:30 (米) カプラン米ダラス連銀総裁 講演
14:00 (日) 1月 景気先行指数(CI)・速報値 (12月 107.4、予想 106.1)
19:00 (欧) 10-12月期 四半期GDP、確定値 前期比 (速報値 0.6%、予想 0.6%)
19:00 (欧) 10-12月期 四半期GDP、確定値 前年比 (速報値 2.7%、予想 2.7%)

20:00 (土) トルコ中銀、政策金利発表 (現行 8.00%)
22:00 (米) ダドリー米NY連銀総裁 講演
22:00 (米) ボスティック米アトランタ連銀総裁 講演
22:15 (米) 2月 ADP雇用統計 前月比 (1月 23.4万人、予想 20.0万人)
22:30 (米) 10-12月期 四半期非農業部門労働生産性・改定値  前期比 (速報値 -0.1%、予想 -0.1%)
22:30 (米) 1月 貿易収支  (12月 -531億ドル、予想 -550億ドル)
24:00 (加) カナダ銀行 政策金利 (現行 1.25%、予想 据え置き)
28:00 (米) 米地区連銀経済報告(ベージュブック)
29:00 (米) 1月 消費者信用残高 前月比 (12月 184億ドル、予想 183億ドル)

3/8(木)
未 定 (中) 2月 貿易収支(米ドル) (1月 203.4億ドル、予想 -84.5憶ドル)
未 定 (中) 2月 貿易収支(人民元) (1月 1358.0億元、予想 -704.5憶元)
未 定 (日) 日銀・金融政策決定会合 1日目
08:50 (日) 1月 国際収支・経常収支 (12月 7972億円、予想 3685憶円)
08:50 (日) 1月 国際収支・貿易収支 (12月 5389億円、予想 6910憶円)
08:50 (日) 10-12月期 四半期GDP、改定値 前期比 (速報 0.1%、予想 0.2%)
08:50 (日) 10-12月期 四半期GDP、改定値 年率換算 (速報 0.5%、予想 1.0%)
09:30 (豪) 1月 貿易収支 (12月 -13.58億豪ドル、予想 2.00憶豪ドル)
21:45 (欧) 欧州中央銀行(ECB)政策金利 (現行 0.00%、予想 据え置き)
22:30 (欧) ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁、定例記者会見
22:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 21.0万件、よそう 22.0万件)

3/9(金)
未定 (日) 日銀金融政策決定会合、政策金利発表
08:50 (日) 2月 マネーストックM2 前年比 (1月 3.4%、予想 3.3%)
10:30 (中) 2月 生産者物価指数(PPI) 前年比 (1月 4.3%、予想 3.8%)
10:30 (中) 2月 消費者物価指数(CPI) 前年比 (1月 1.5%、予想 2.4%)
15:30 (日) 黒田東彦日銀総裁、定例記者会見
16:00 (独) 1月 貿易収支 (12月 182億ユーロ、予想 181億ユーロ)
16:00 (独) 1月 鉱工業生産 前月比 (12月 -0.6%、予想 +0.6%)
18:30 (英) 1月 鉱工業生産指数 前月比 (12月 -1.3%、予想 1.5%)
22:30 (米) 2月 非農業部門雇用者数変化 前月比 (1月 20.0万人、予想 20.5万人)
22:30 (米) 2月 失業率 (1月 4.1%、予想 4.0%)
22:30 (米) 2月 平均時給 前月比 (1月 0.3%、予想 0.3%)
26:40 (米) ローゼングレン米ボストン連銀総裁 講演
26:45 (米) エバンス米シカゴ連銀総裁 講演

米国、カナダ市場の冬時間終了、夏時間に移行(〜11月4日)

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