2018年ドル円相場見通し 1 (概要、ファンダメンタル)

今年も結論を先に書いておきますが、2018年もドル安の年になると考えています。

2018年ドル円相場見通し 1 (概要、ファンダメンタル)

2018年ドル円相場見通し (執筆日:2018年1月24日)


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「FX羅針盤」の1月の年間相場見通し、トリは山中さんにつとめていただきます。
講演に執筆に、さらにはFXの制度面への提言にと八面六臂の大活躍の山中先生、当「羅針盤」でも主要通貨に加えトルコ南アまでカバーしていただき、鋭い洞察と興味深いテーマでいつも新たな視点を提供いただいています。そんな山中先生のドル円見通し、ベースはまさかの2019年米景気後退予想!(編集部)
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はじめに

昨年と似たタイミングで「2018年ドル円相場見通し」の執筆をしていますが、これは編集人K氏の「前年に書かれた新年相場見通しは外す人間が多い」という経験則によるものです。これは私も同意することですが、1月前半に前年後半からの相場つきが変わる年が結構多いのです。

まず昨年の見通しの振り返りですが、昨年1月末に書いた結論として「既に118円台でドルの高値をつけ、100〜105円へ向かう円高(ドル安)相場が2017年である」としました。年間高値が1月の118.60、安値が9月の107.32とレンジはそれほど悪くはありませんでしたが、道中の値動きは110〜115円でのもみあいが長く、相場としてはつまらない一年であったと言えます。

年間レンジも11円28銭と変動相場制移行後5番目に変動幅が少ない一年となりました。動かない翌年は動く年もありましたし、2年連続で動かない年もありました。果たして2018年はどのような一年となるのでしょうか。昨年同様、見通しの組み立て方としてはファンダメンタル、日柄(サイクル)も含めたテクニカルと2つの面から考えていくこととします。

今年も結論を先に書いておきますが、2018年もドル安の年になると考えています。さすがに1月の高値113.39が年間高値になるとまでは思いませんが、高値は115円レベル、安値は100円の大台を割り込む場面もあると見ています。年前半から秋口にかけドル安が先行し、その後年末に向けてやや戻す一年を想定しています。理由を以下に説明していきましょう。

ファンダメンタル

(1) 米国

米国には2018年に金融市場懸念と政治懸念と2つの懸念があると考えています。

(1−1)金融市場懸念

昨年は米金利上昇とドル高との相関が比較的高かったのですが、これは常にそうだというわけではありません。すでに米国の政策金利は1.25〜1.50%となっていて、2018年中にFRBの見通し通り3回の利上げが行われるとすれば年末には2.00〜2.25%の水準へと上がることとなります。

しかし、政策金利の上昇が長期金利上昇に繋がりドル高に動くという回転は既に2017年で終わった可能性があります。政策金利上昇は短期債利回りを上昇させてきたものの、長期債利回りはまったく上昇していません。10年債を例にとると2016年の12月につけた2.621%の利回りを2017年は一度も超えることはありませんでした。今年も政策金利引き上げから短期債利回りは上がるでしょうが、長期債利回りの上昇は限定的となりイールドカーブはよりフラットになると考えられます。

これは昨年後半までは長期債に投資するより減税改革やレパトリで潤う米国企業つまり米国株式に投資した方がよりパフォーマンスが高いと考える投資家が多かったことが、債券を売って(利回り上昇)株を買う(株高)という投資行動を招いていましたが、過去最高値を更新し続ける株価を見ていると、実際に税制改革が実施された今、事実で利食いという動きから株を売って(株安)長期債を買う(利回り低下)という動きにつながる可能性があると思われるためです。

さて、このイールドカーブのフラット化がさらに進むと逆イールドという短期債利回りが長期債利回りを超える状況となりますが、この状態は一般的に景気後退の予兆と言われています。米国では過去40年の間に景気後退期が5回あり、その全ての局面で逆イールドが1〜2年前に発生しています。現在の短期債と長期債のスプレッドはだいぶフラットに近づきつつありますので、状況次第では逆イールドの可能性があり、それは2019年にも景気後退につながる可能性があると言えます。

そうなると、投資家の行動は常に先を行きますので米国株を売る動きがリスクオフに繋がり世界的な株高の終焉とそれに伴うドル安という大きなリスクオフの動きが出て来るシナリオはあながち的外れでは無いと言えるでしょう。

(1−2)政治懸念

最近でこそトランプ大統領の公約も徐々に実現されてきたものの、まだまだ多くのしかも重要な公約が手つかずのままです。そうこうしているうちに2018年11月には中間選挙があり、このままでは共和党と民主党の議席逆転が起こる可能性もあります。

そこで共和党優位の状況を維持するため、もうひとつの重要な公約である貿易協定見直しと不均衡是正という通商政策改革に動くことがホワイトハウスの次の一手と考えられます。すでにNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しは6回目の交渉が始まっていますが、これは地域的にも米国民にアピールしやすいということが大きいと考えられます。

そして昨年のトランプ大統領アジア歴訪において、中国と日本に対しては不均衡是正の要求がなされました。日本では首脳会談の前に財界人との会合で対日赤字に米国は苦しんできたとアピールした上で、安倍首相との会談で不均衡是正を口にしています。

就任直後の昨年1月にはトランプ大統領だけでなくホワイトハウスの主要閣僚も不均衡是正に関して、中国、日本、ドイツと財務相為替報告書に出て来る監視リストの上位3カ国に対してあからさまな非難をしていましたが、直近のところでは税制改革に力を注いできて、通商政策改革から離れていました。しかし、税制改革が実現した2018年はNAFTAも含め主要国との交渉が行われるでしょう。

更に日本との交渉という点では為替調整の話が出て来る可能性もあります。中国の場合、為替市場は自由市場ではありませんし、ドイツの場合、ユーロドルは既に3年ぶりの高値圏にあります。いっぽうで日本円はというと過去3年間の最円安値(125.86)からは円高に動いてきたものの、決して円が強いという水準ではありません。

中間選挙(2018年11月)に向けて、いつ円安牽制の発言が出てきてもおかしくないどころか、手っ取り早い為替調整という話が出て来る可能性も高いと考えておいたほうがよいでしょう。どの水準が妥当ということはありませんが、120円は米国にとっては不快な水準であり、その手前の115〜120円がバッファと考えられます。いっぽうで円高方向の目安としては、トランプ大統領当選前後の為替水準である105円、あるいは大台の1ドル100円という水準を米国が意識している可能性がありそうです。

(2) 欧州と日本


基軸通貨である以上、米国のニュースが最大要因であることは2018年も変わりませんが、主要3極ということで欧州と日本にも簡単に触れておきましょう。

(2−1)欧州

2017年の欧州は各国の選挙や英国のEU離脱交渉といった懸念からスタートしました。しかし、選挙結果はドイツの連立協議を残すのみで全ての国において無難な結果に落ち着きました。また英国のEU離脱交渉もフェーズ1からフェーズ2へと移り、これからが本番とは言うものの2019年3月のゴールに向け着実な歩みを見せています。

こうした欧州の状況が2017年1月の年間最安値、その後は着実にユーロ高の動きへと向かわせましたし、ポンドもまた国民投票後の最高値を更新する状況となっています。この欧州通貨高の動きは2018年も基本的に継続する流れになると考えられます。今年の最大の要因はECBが9月で債券購入を停止し、それ以降はいつ金利が正常化(マイナス金利の終了)の動きが出てきてもおかしくないということです。欧州要因もドル安に繋がりやすいと言えるでしょう。

(2−2)日本

日本については不均衡問題と日銀の金融政策が注目材料です。不均衡問題は米国の項で説明しましたので、ここでは日銀の金融政策について起こりうることを書いておきます。

日銀の黒田総裁は4月8日で任期満了となります。後任の総裁としては黒田総裁の再任という可能性が現状ではもっとも高いとの見方ですが、こればかりは蓋を開けてみなければわかりません。仮に黒田総裁が再任された場合は、これまでの大規模緩和が継続されますが、他の人選となった場合には、これまでの大規模緩和の見直しが入るリスクがあります。

日銀オペでも1月9日に長期債の買いオペ減額がありましたし、黒田総裁の下でも微調整が入る可能性はあります。リスクとしては先進国の中で唯一大規模緩和を継続する日銀がわずかでも緩和縮小を考えることであり、これは円買いに直結するリスクと言えます。

以上、米国を中心にファンダメンタル面から注目しているトピックスをあげました。次にテクニカルな観点から考えます。

後半に続く)

オーダー/ポジション状況

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