<概況>
5月24日高値112.12円から5月31日深夜安値110.48円まで下落が続いたが、5月18日安値110.23円割れをひとまず回避、6月1日夜のADP民間雇用統計、2日夜の米労働省雇用統計本番を前に買い戻しの流れとなり、24日高値以降の戻り高値を結んだ右肩下がりの抵抗線を突破した。パウエル米FRB理事講演での6月利上げ示唆、ADP民間雇用統計が予想を大幅に上回る良好さだったことから続伸、111.48円まで戻し、29日の戻り高値を上回った。2日9:30時点もさらに続伸して111.60円を超えている。
米労働省が発表した週間新規失業保険申請は季節調整済みで24万8000件となり、前週比1万3000件増で市場予想の23万9000件、前週(速報値の23万4000件から23万5000件に上方修正)を上回ったが、件数の水準自体は良好な範囲であった。
米民間雇用サービス会社オートマティック・データ・プロセッシング(ADP)が発表した5月の全米雇用報告では非農業部門民間就業者数が前月比25万3000人増となり、市場予想の18万5000人増を大幅に上回った。4月は17万7000人増から17万4000人増に若干下方修正された。この発表で2日夜の米労働省雇用統計本番も良好な数字となる可能性が高まった。米労働省の雇用統計に対する市場の事前予想は非農業部門就業者増加数が18.2万人増で前月の21.1万人増からは減るが、良好な水準を維持するとみられている。ADPの統計と多少の前後があるため、今回は労働省統計がADP程良くないケース、ADPを上回るケース、あるいは集計の都合でサプライズ的に悪いケース、いずれの可能性も付きまとうが、基本的には良好な数字となり、6月FOMCでの利上げ決定を後押しすると思われる。
【6月FOMCで利上げへ】
米FRBのパウエル理事(FOMC投票権あり)はニューヨークの講演で「米国経済は完全雇用と物価安定の状況に近い」「景気が想定通りなら緩やかな利上げが適切」として6月13-14日のFOMCにおける利上げ決定の可能性が高いことを示唆した。また「景気見通しのリスクはこれまでよりも均衡している」と楽観的な姿勢で、バランスシート縮小計画については「今年終盤に開始するのが適切」「緩やかなペースと予見可能な形で圧縮を図ることが重要」とし、「金融市場への影響も一部は織り込まれており、総じて穏当だ」と述べた。
パウエル理事の発言姿勢が現在のFOMCメンバーにおける標準的なスタンスであると思われる。ややタカ派なものは9月利上げ、あるいは年内あと2回の利上げも可能というスタンスを示すが、主要なところは従来からの2017年は3回の利上げ、年末にバランスシート縮小を開始するが、利上げペースは緩慢で、金融市場の反応に配慮したものとするという流れが定着している印象だ。
2日夜の米雇用統計が予想を大幅に上回り、ADPよりもさらに強い場合、9月利上げの可能性も出てくるため、ドル高感がかなり高まる可能性もある。市場は6月利上げの確率を9割近いとみている。前月からかなり確率の高い状況は続いており、それ自体は市場も織り込んでいる。このため、米雇用統計が強く、いったんドル高円安反応となっても材料消化で揺り返し、発表前水準を下回る場合は5月11日からの円高ドル安基調継続となる可能性がある。予想をかなり超えて9月利上げの可能性も意識される場合は材料消化しきれずにドル高円安が週明けへ継続する可能性がある。
3月の利上げ決定前、それまではさほど利上げ確率が高くないと市場は見ていたのだが、2月末からの連銀当局者による利上げ示唆発言が相次いだため、ドル円は2月28日安値111.67円から3月10日高値115.50円まで上昇した。しかし利上げ決定からは一段と円高が進んで4月17日の108.13円まで下落した。今回も9月利上げの確率が急上昇する場合、6月13日、14日のFOMCへ向けてドル高円安が継続する可能性はある。しかし、材料消化で上昇しきれない場合、5月11日高値からの下落一服的な現状の持合いから下放れし、一段安=円高の加速へと向かう可能性が残される。
【トランプ政権への懸念】
米国トランプ政権に対し、大統領選挙でのロシアとの協力、介入、選挙妨害があったとの疑惑が取沙汰され、ロシアゲート事件という名前も付けられた。大統領の娘婿クシュナー上級顧問へ捜査の手が伸びるのではないかという懸念、解任されたコミー前FBI長官の議会証言(8日、上院)もある。現状では疑惑の段階であり、これが事件性、刑事性、大統領弾劾訴追まで進むべきことなのかどうかは不確定であるが、トランプ政権に対するネガティブキャンペーンが続くと政権公約のトランプ政策実現へ向けたプロセスも進み難くなり、トランプラリーとして期待された大規模減税+巨額インフラ投資による米景気刺激策への着手が遅れ、株式市場が失望し、金融市場全般がリスク回避的な心理に陥る可能性がある。
トランプ大統領が実現できたのは、パリ協定からの離脱、TPPからの離脱、NAFTA再考、北朝鮮への圧力拡大、通商問題での米中協議、対日圧力、保護主義的な姿勢の強化であり、経済政策の実行は進んでいない。それでも株式市場は楽観的な強気姿勢を継続しており、ナスダックに続きNYダウも史上最高値を更新している。
6月2日夜の米雇用統計に対する市場反応が一服した後、ロシアゲート問題が金融市場全般にとっての大きなテーマとなってくる可能性についても注意しておきたい。
【60分足 一目均衡表分析】
6月1日夜の上昇で5月24日深夜高値からの戻り高値を結んだ抵抗線を突破した。60分足の一目均衡表ではこの抵抗線と重なっていた先行スパンを上抜け、遅行スパンも好転してきている。このため戻り抵抗は5月24日深夜高値112.12円まで切り上がってきた。
5月31日深夜への下落では5月18日安値割れを回避したため、現状は5月18日安値110.23円の支持ラインと5月24日深夜高値112.12円の抵抗ラインによるボックス型の持合い圏とし、その上限を試す状況にあると思われる。
ボックス圏を突破して一段高するか、逆に上限近辺から反落してボックス圏を下抜けるか、いずれへ向かうのかは2日夜の米雇用統計に対する反応、さらに週明けのトランプ政局に対する状況等によって決まってくると思われる。
5月18日安値に対して5月31日安値が若干切り上がったため、24日高値を若干上抜く可能性もあるが、雇用統計前段階では111.20円前後(26本基準線近辺)を支持線としつつ、112円近辺では戻り売りの抵抗に合いやすいとみる。
概ね3日から5日周期の高値・安値形成サイクルでは、26日夜安値から3日後の31日深夜安値で底をつけて上昇している。今回の高値形成期は29日高値を基準として2日から5日にかけての間と想定される。既にサイクルの高値をつけて下落期に転じても良い時間帯には来ているので、雇用統計から上昇継続なら2日深夜、3日未明へと高値圏維持なら週明け5日への上昇でピークをつけると想定する。24日高値を上抜く場合は112.20円台から112.50円手前までを上値目処と考える。
60分足の26本基準線割れから続落の場合は弱気転換注意、遅行スパン悪化からはサイクルの下落期入りとして次の安値形成期となる5日夜から7日にかけての下落を想定する。その場合は上記ボックス圏の下限である18日安値試し、さらに先行きは底割れからの一段安へ向かいやすくなると考える。(了)<9:45執筆>
【6月2日の予定】
(米) 21:30 5月非農業部門雇用者数 (4月 +21.1万人、予想 +18.2万人)
(米) 21:30 5月失業率 (4月 4.4%、予想 4.4%)
(米) 21:30 5月平均時給前月比 (4月 +0.3%、予想 +0.3%)
(米) 21:30 4月貿易赤字 (3月 -437億ドル、予想 -440億ドル)
オーダー/ポジション状況
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