<概況>
リスク回避感を背景として4月17日には108円台序盤まで下落したドル円は、その後のリスク回避感後退、株高による金融市場全般への楽観論を背景に上昇して来た。5月4日に113円に到達してからやや調整していたが、5月第2週は113円を突破、10日未明には114円台に到達、11日朝には114.36円まで高値を更新した。しかしその後は上昇が続かず、週末は113円台序盤まで押して終了した。
週末の下落は米小売統計と消費者物価が予想より悪かったこと、米国株市場ではナスダックが上昇したもののSP500はこの1週間のうち上昇が1日だけで、残り4日が下落となり、高値警戒感が出てきたことで株高からの円安感が後退したこと、ドル円自身も4月17日からの上昇も週足では4週目であり、やや過熱感、高値警戒も出やすいところでの自律的な下げといういくつかの要因が重なったものと思われる。
5月14日には北朝鮮が中距離弾道ミサイルの発射実験を強行した。ここ4回連続で失敗してきたが成功しており、半島有事リスクの再燃も警戒されるため、これまでのように週前半に一段高、週末へ小規模調整を入れつつ翌週に一段高するという強気パターンを継続できるのかどうか、15日の展開が重要となってきている。
【週末調整安、週明けから上昇再開の強気パターンを継続できるか】
週末に安値を付け週明け早々から一段高となり、週末に調整安を入れるというパターンが4月後半から繰り返されているが、5月第2週も前週末の安値を付けて週明けから上昇再開、週中に高値を付けて週末にかけては調整安というパターンを踏襲している。また調整安は1円程度であった。
4月27日未明高値の後はレンジ縮小の収束型三角持合いを消化して一段高。5月4日夜高値の後はシンプルな二段下げ調整終了から高値更新へ進んだ。今回は10日未明高値と11日午前高によるダブルトップ型を形成してその谷間にあたる10日午前安値を割り込んでの調整安というパターンとなっているため、前2回の調整期のように1日、2日程度の調整で済むかどうか、週明けから新たな上昇基調を形成できるのかどうか、これまでの上昇パターンを維持できるかどうかが5月15日に試されることになると思われる。
4月27日、5月4日、5月11日と高値を更新、4月22日、4月28日、5月5日と安値も切り上げてきた。しかし今回は5月10日安値を割り込んでいるため、安値切り上げの強気パターンを維持するための目安としては5月5日安値112.07円まで下値支持線が切り下がる可能性がある。このため、15日の日中から新たな上昇基調を形成できない場合、調整安は3日目に入り、5月5日安値を試す可能性が出てくる。
15日の日中から上昇基調入りするには113.60円超えへと上昇し、さらに114円へ迫る必要がある。114円台回復、維持へと進めば調整一巡、新たな上昇期入りとして次の上値目安は3月10日高値115.50円試しまで切り上がってくる可能性が考えられる。
【米金融政策正常化の進捗】
5月5日の米雇用統計が市場予想を上回ったこと、その後の地区連銀総裁等の発言により、米連銀による6月FOMCにおける利上げ確率は一時8割まで上昇(週末は7割に低下)、さらに9月の追加利上げ確率も一時4割程度まで上昇した。
市場は6月の利上げ可能性、さらに9月ないしは12月の追加利上げ、年末ないしは2018年早々のバランスシート縮小開始の可能性を意識している。このため4月後半からは米10年債、30年債が下落、利回り上昇となり、日米長期債利回り格差の拡大がドル円の上昇に正当性を与えた。この流れは11日朝まで続いたが、週後半はその調整的な動きになっている。
2015年12月に米連銀が利上げを再開した際、2016年内に4回の利上げを行うという見通しを示した。しかし2016年1月の中国株暴落を発端とした世界連鎖株安、6月には英国国民投票によるEU離脱の選択があり、追加利上げが予想通りには進まなかった。しかしトランプ大統領誕生というサプライズが米国株高を引き起こしたことで米連銀は2016年12月に追加利上げを実施した。2017年は3回の利上げ予想がFOMCメンバーの中では最多であった。これに基づいて3月には追加利上げが決定されたわけだが、金融市場全般を大きく揺さぶる危機的な状況が発生していないため、6月には利上げされ、さらに状況が悪化しなければ9月に利上げ、12月にはバランスシート圧縮、2018年も緩やかながら利上げが継続されるというシナリオが描けそうだ。こうした米連銀の利上げ姿勢はドル円にとっては引き続き円安要因となるだろう。
【朝鮮半島有事リスク】
北朝鮮は14日早朝に弾道ミサイル1発を発射した。凡そ30分間飛行し、高度2000キロを超えたという。性能実験による発射の為、鋭角的に打ち上げられたが、通常角度による発射なら4000キロを飛び、グアムの米軍基地に到達するレベルと考えられる。ここ4回連続で失敗してきたムスダン級の中距離弾道ミサイルの実験だったと思われる。
韓国では北朝鮮に融和姿勢の文在寅大統領が誕生したばかり、また米国も対話の可能性を探る動きが出ていた。中国ではシルクロードを中心とした経済活性圏となる一帯一路サミットが北京で開催された当日であり、北朝鮮には融和姿勢がないことを内外に示すものと解釈される。中国にとっては米中首脳会談における米軍のシリア空爆と北朝鮮への影響力行使要請に続いて、この問題で泥を掛けられたことになる。
米国は今回の発射は大陸間弾道ミサイル(ICBM)ではないとの見方を示した。これによりすぐにまた一触即発的な状況になるとは思われないが、朝鮮半島有事リスクの継続、中国による牽制が効かないこと、文大統領誕生によっても状況が変わらないこと、瀬戸際外交とチキンレースの相手がトランプ大統領であるということによる懸念が再認識させられた印象だ。
欧米株に対する影響はともかく、日本株、ドル円にとってはリスク回避感から売り圧力がかかりやすくなったともいえる。それを超える楽観的なムード、リスクオン心理、米長期債市場およびが欧米株市場からもたらされるかどうか、そのバランスを計ることになってくると思われる。
【60分足 一目均衡表分析】
60分足の一目均衡表では11日深夜の下落で遅行スパンが悪化(実線を下回る)、12日の続落で先行スパンから転落となった。113円到達から調整安となった5月5日にも先行スパンから転落しているが、転落状態は一時的であり、8日朝には先行スパンを上抜き返し、遅行スパンも再び好転して114円超えへの上昇が始まった。
今回の先行スパン転落は、10日午前安値を11日夜に割り込み、さらに12日夜にも安値を切り下げる形で発生しているため、一時的というよりも継続しやすい状況に見える。このため、多少リバウンドしても先行スパン下限が抵抗となってその後の下落で安値を更新するような展開となると、転落状態が長引く可能性がある。その場合は、これまでの「週明けから一段高し、週末に調整安を入れる」というパターンから「週前半に一段安し、週末へ戻す」というパターンと入れ替わるかもしれない。
先行スパンを上抜き返せないうちは下落継続余地ありとし、113円割れを早々に切り返せない場合は5月5日安値112.08円試しまで下値目途が切り下がる可能性を考える。ただし112円前後まで下げた場合は値頃感からの買い戻しによる突っ込み警戒、反騰注意と考える。
強気転換はまず26本基準線(現在113.57円近辺)超え、114円超えによる先行スパン突破からとし、その場合は一段高へ進んで115円、さらに3月10日高値115.50円試しへ向かう流れへ乗ると考える。(了)<5/14 22:00執筆>
【今週の予定】
5月15日
11:00 (中) 中国4月小売売上高(前年比) 予想 +10.8% 3月 +10.9%
11:00 (中) 中国4月鉱工業生産(前年比) 予想 +7.0% 3月 +7.6%
21:30 (米) 米5月NY連銀製造業景況指数 予想 7.0 4月 5.2
23:00 (米) 米5月NAHB住宅市場指数 予想 68 4月 68
5月16日
(米) 米上院情報委員会非公開公聴会(コミー前FBI長官の証言予定)
18:00 (欧) ユーロ圏1-3月期GDP・改定値 前期比 予想 +0.5% 速報値 +0.5%
18:00 (欧) ユーロ圏1-3月期GDP・改定値 前年比 予想 +1.7% 速報値 +1.7%
21:30 (米) 米4月住宅着工件数 予想 126.0万件 3月 121.5万件
21:30 (米) 米4月建設許可件数 予想 127.1万件 3月 126.0万件
22:15 (米) 米4月鉱工業生産 予想 0.4% 3月 0.5%
22:15 (米) 米4月設備稼働率 予想 76.3% 3月 76.1%
5月17日
8:50 (日) 3月機械受注前月比 予想 +2.5% 2月 +1.5%
13:30 (日) 3月鉱工業生産前月比確報 速報 -2.1%
18:00 (欧) ユーロ圏4月消費者物価指数(HICP)確報値 前年比 予想 +1.9% 速報値 +1.9%
5月18日
8:50 (日) 1-3月期GDP・1次速報値前期比 予想 +0.4% 前期 +0.3%
8:50 (日) 1-3月期GDP・1次速報値前期比年率 予想 +1.8% 前期 +1.2%
21:30 (米) 米新規失業保険申請件数 予想 24.0万件 前週 23.6万件
21:30 (米) 米5月フィラデルフィア連銀製造業指数 予想 18.8 4月 22.0
5月19日
2:00 (欧) ドラギECB総裁、講演
2:15 (米) メスター米クリーブランド連銀総裁講演
22:15 (米) ブラード米セントルイス連銀総裁講演
イラン大統領選挙
5月20日
トランプ米大統領外遊(サウジアラビア、イスラエル、ローマ)
オーダー/ポジション状況
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2017.05.15
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12日金曜の海外市場では米国小売売上高の数値が予想に届かなかったことから、長期金利が低下。
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