物価見通し引き上げは想定線、植田日銀総裁も口先介入を明確に行うか注目
【今回のポイント】
〇 展望レポートで物価見通しを引き上げる可能性高い
〇 植田日銀総裁から円安けん制を念頭においた発言が出る可能性
〇 円安基調は一服となる可能性も
【市場コンセンサスは何?】
4月23日21時時点の日銀会合のコンセンサスは下記の通りである。
・現状の金融政策を維持
・展望レポートで物価見通しの引き上げ
今会合は、3月にマイナス金利の解除を実施してから最初の会合となる。市場では、現状の金融政策を維持するとの公算が多い一方、四半期ごとに発表される「経済・物価情勢の展望レポート(展望レポート)」にて、物価見通しの引き上げが実施される公算が大きい。とりわけ、債券市場での思惑が強く、新発10年国債利回りは4月17日に0.891%と昨年11月1日の0.975%以来の水準まで上昇。23日には、新発2年債の459回債は0.285%と2009年10月以来、新発5年債利回りは0.500%と2011年4月以来の水準まで上昇した。
【何がサプライズになる?】
物価見通しの引き上げは、足元の円安基調に伴うエネルギー価格や食料品価格の上昇、そして、ホテルなど宿泊施設を筆頭としたサービス価格の上昇などを考慮すると「上げて当然」との印象だ。また、植田日銀総裁がここ1カ月ほど頻繁に発している「2%の基調的な物価見通し」といった発言も、今回の記者会見では出てくると考える。
サプライズとしては、植田日銀総裁が4月に入って増えている「為替」に対する言及だ。これまで、植田日銀総裁は「為替は財務省マター」という線引きを設けて、為替に対する発言を避けてきたが、4月5日以降、積極的に発言しているように見える。
つまり、今回のサプライズとして、植田日銀総裁の記者会見で、「物価見通しの引き上げ」は「早期の追加利上げ」を匂わすもので「為替の円安是正」に関連した対応といった発言の有無と考える。さすがにここまで踏み込んだ発言は無いと考えるが、政府・日銀が置かれている立場を考慮して、植田日銀総裁が、市場が円安けん制発言と捉えるような発言を意図的に行う可能性はあろう。
【では、円はどう動く?】
コンセンサス通りだった場合とサプライズだった場合の2通りのシナリオを考えておきたい。
コンセンサス通りだった場合
物価見通しの引き上げによって、日銀が追加利上げに動く可能性が意識されることにつながるものの、債券市場の利回り上昇を見る限り、ある程度市場は織り込んでいると想定。当然ながら、為替市場も物価見通しの引き上げによる日銀追加利上げの可能性は想定の範囲内だろう。
展望レポートでの物価見通しの引き上げのみとなれば、今の為替市場の地合いは変わらないと考える。来週の4月30日から5月1日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)でタカ派な発言が出る可能性もあることから、むしろ投機筋の円売りポジションはより積み上がる可能性もあろう。FOMC前に円安基調が強まる展開も意識しておきたい。
サプライズだった場合
植田日銀総裁が意図的な円安けん制発言を行った際は、さすがに円高ドル安に振れそうだ。物価等をコントロールする中央銀行が、為替に対する口先介入を明確に行った際のインパクトは大きい。
これまで「為替は財務省マター」というスタンスだった植田日銀総裁が、なりふり構わない口先介入に動いた場合、投機筋の円売りポジションのアンワインドが加速する展開を想定しておきたい。今の円売りポジションのボリュームは、2007年以来の大きな円売りポジションである。2022年の政府・日銀による円買い介入時の値動き(約5円)とまではいかないものの、2−3円は動く展開を頭に入れておきたい。
【最近の日銀会合関係者の発言は?】
ここ最近の政府・日銀関係者の発言を拾った。
4月23日、植田日銀総裁
「物価見通し2%の達成期間、現時点では25年度にかけてと想定」
「基調的な物価見通しが下振れた場合、具体的な対応を予めいうのは難しい」
4月23日、鈴木財務大臣
「必要に応じて介入できる環境が整っている」
「過度な変動に対しあらゆるオプション排除せず適切に対応」
4月19日、植田日銀総裁
「米経済は為替レートなどを通じて日本経済、物価に影響」
4月18日、野口日銀審議委員
「米国経済の強さがドル高をもたらしている」
「政策金利調整ペースは、他中銀との比較にならないほどゆっくりに」
「物価2%実現、26年になれば相当確度が高まっていると思う」
「追加利上げは、経済状況次第で柔軟に考え方は変えたい」
4月18日、神田財務官
「必要であれば適切な行動を取るのは変わらない」
「日米韓で円安、ウォン安への申告な懸念を共有」
4月17日、林官房長官
「急激な為替変動は望ましくない」
4月15日、日銀関係者
「日銀は政策決定において、インフレをそれほど重視しない公算」
4月15日、神田財務官
「主要国の財務官・中銀幹部とは頻繁に連絡している」
4月12日、鈴木財務大臣
「為替の過度な動きに対してはいかなる選択肢も排除しない」
「円安にはプラスマイナス双方の影響がある」
4月11日、鈴木財務大臣
「財務官と頻繁に対面・電話で連絡を取り合っている」
「ドル円は152円、153円の数字ではなく背景を分析する」
4月11日、神田財務官
「円安の恩恵は減少」
「過度な変動は国民経済に悪影響、最近の為替相場の動きは急速だ」
4月10日、植田日銀総裁
「3月会合にて、物価目標実現が見通せる状況に至ったと判断」
「円安によって2%の基調的物価が上昇すれば、政策変更を考える」
「為替が動いたからといって、直接的対応として政策変更することは全くない」
「当面は緩和的な金融環境が継続すると考えている」
4月5日、植田日銀総裁
「基調的な物価上昇率は今後、徐々に高まっていく」
「事前に特定の関係者に情報を伝えることは適切ではない」
「市場の投機が円に影響した可能性」
「為替はファンダメンタルズ反映し安定推移が重要」
「2%目標達成に向けた確度がさらに高まれば利上げ検討」
3月29日、内田日銀副総裁
「マイナス金利解除事前報道については「リークではなく、コミュニケーション」」
【2023年以降の日銀会合終了時間一覧】
日銀会合はFOMCやECB理事会と違って、会合の終了時間が決まっていない。決まっているのは、日銀総裁の記者会見(15時30分)だけで、日銀会合の結果内容はおおよそ11時30分頃から13時頃に流れる。市場関係者はその間、ランチを取れないので、市場関係者泣かせの中央銀行といえる。
そして、結果発表が遅くなると「議論が紛糾している。何かサプライズがあるのでは?」と市場は勝手に解釈して、為替、株式、債券市場では思惑的な売買が活発となる傾向もあるので注意したい。
以下は、2023年以降の日銀会合の終了時間一覧である。なお、速報が市場に伝わるのは、終了してから7分ほど経過してからだ。
【2023年】
1月18日(水)・・・11時33分終了、前回会合の方針を維持
3月10日(金)・・・11時23分終了、最後の黒田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持
4月28日(金)・・・12時53分終了、最初の植田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持、金融緩和策のレビューを多角的に実施することを決定
6月16日(金)・・・11時40分終了、前回会合の方針を維持
7月28日(金)・・・12時21分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限を1.0%まで引き上げ)
9月22日(金)・・・11時45分終了、前回会合の方針を維持
10月31日(火)・・・12時20分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限1.0%を1.0%メドに変更)
12月19日(火)・・・11時42分終了、前回会合の方針を維持
【2024年】
1月23日(火)・・・12時02分終了、前回会合の方針を維持
3月19日(火)・・・12時28分終了、マイナス金利の解除等金融政策の枠組みを見直し
【2024年スケジュール】
※米国は現地時間を記載しているので、金利発表及び記者会見は日本時間翌日未明
日銀金融政策決定会合(日銀会合)
1月22日−23日(経済・物価情勢の展望)・・・現状の金融政策を維持
3月18日−19日・・・マイナス金利の解除、YCC終了、ETF等の買い入れ終了
4月25日−26日(経済・物価情勢の展望)・・・展望レポートのインフレ見通しを引き上げか
6月13日−14日
7月30日−31日(経済・物価情勢の展望)
9月19日−20日
10月30日−31日(経済・物価情勢の展望)
12月18日−19日
米連邦公開市場委員会(FOMC)
1月30日−31日・・・4会合連続で金利据え置き
3月19日−20日・・・5会合連続で金利据え置き、パウエルFRB議長は、年内利下げの可能性を再表明
4月30日−5月1日
6月11日−12日
7月30日−31日
9月17日−18日
11月 6日− 7日
12月17日−18日
欧州中央銀行理事会(ECB理事会)
1月25日・・・現状の金融政策を維持、利下げの議論は時期尚早
3月 7日・・・現状の金融政策を維持、6月利下げ開始を示唆する発言
4月11日・・・現状の金融政策を維持、大きなサプライズが無い限り6月利下げ開始か
6月 6日
7月18日
9月12日
10月17日
12月12日
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