概ね8年周期のピーク、ダブル天井と三角持ち合いの攻防
ドル円は2023年1月16日安値127.22円を起点として11月13日高値151.90円へ上昇したが、2022年10月21日高値151.94円には届かずに12月28日安値140.24円まで下落した。
2022年10月21日高値から2023年1月16日までの下落は政府・日銀の大規模円買い介入による売り圧力に加え、2022年11月10日の米CPIが予想以上に鈍化したことによる利上げペース減速期待、日銀が黒田日銀総裁の退任へ向けて異次元金融緩和の出口へ地ならしを始めたことが背景であった。
しかし、新総裁に就任した植田総裁はYCCの柔軟運用を進めたもののマイナス金利解除へは向かわずに金融緩和政策を継続し、米国もインフレ鎮静化のための利上げを継続したことによるドル高が2023年11月への上昇背景となった。
2023年12月28日へドル円が下落したのは米国のインフレ鈍化が顕著となり利上げが打ち止めとなり、12月FOMCで2024年3回の利下げ想定が示されたことによるドル安と、日銀の植田総裁が出口戦略へ向けて「年末から来年にかけては一段とチャレンジングになる」と参院で答弁するなど再び出口論が前に出てきたことによるものだった。
しかし、植田総裁はチャレンジングと述べたのは仕事の姿勢についてとして出口へ急がない姿勢を示し、1月1日に発生した能登半島大地震を考慮して日銀のマイナス金利解除も先送りされるとの見方が強まり、米国の利下げについてもFRB高官や地区連銀総裁らが3月開始は時期尚早とのけん制発言を繰り返したこともあり、円買い一巡とドル売りの一巡感が重なったことで1月17日には148.52円を付けるところまで戻した。
【日米の金融政策姿勢の温度差を見極める】
今年も日銀による金融緩和政策の出口プロセスと米国の利下げプロセスの比重を見ながらドル円の方向性を探ることになる。
日銀については能登半島大地震の影響もあり3月の春闘結果を見極めないことにはマイナス金利解除へ進めないとの見方が優勢だが、大企業はともかく中小でしっかりした賃上げが実現して世帯消費支出も改善するような展開になりインフレが高止まりするならば春闘以降の然るべき時期にマイナス金利の解除へ踏み込むことも可能と思われるが、顕著なデータが揃わないうちは金融緩和を止めることが躊躇されてずるずると現状維持を続けざるを得なくなるかもしれない。
日銀金融政策決定会合は1月22/23日、3月18/19日、4月25/26日、6月13/14日、7月30/31日、9月19/20日、10月30/31日、12月18/19日に予定されている。マイナス金利解除等が6月以降へずれ込むなら暫くは円安バイアスも続きやすい。
米国については12月FOMCで示された年3回利下げについて、市場はそれ以上の回数を想定し、早ければ3月から利下げが始まるとの見方が根強いが、1月16日にウォラーFRB理事が利下げ開始を急ぐ必要はないと強調する発言を行ったことにより、一時は9割まで期待度が高まっていたところから5割台まで落ちている。
FOMCは1月30/31日、その後は3月19/20日、4月30/5月1日、6月11/12日、7月30/31日、9月17/18日、11月6/7日、12月17/18日に予定されており、昨年12月FOMCでの3回利下げ想定は、今年6月、9月、12月の3回ということだったと推察されるが、利下げが4回なら今年3月会合で始まる可能性もあるだろう。金利先物市場では5回ないし6回の利下げ期待も見られるが、相当程度のインフレ鈍化データと景気減速に対する利下げによる刺激を要請する声が高まる必要があるだろう。
昨年12月21日に発表された7−9月期のコアPCE(個人消費支出)デフレーター確定値は2.0%となり4-6月期の3.7%から大幅に低下して2022年1-3月期の6.0%以降の最低となりFRBの目標とする2%に到達している。月次ベースのコアPCEデフレーターは11月時点では3.2%となり2023年1月の4.9%以降で最低となったがまだ2%には達していない。1月26日発表予定の12月分についての市場予想は2.9%であり、3月FOMCで利下げ決定とするには12月分がしっかり低下した上で1月、2月分も順次低下して月次として2%へ近づくことが必要条件になるだろう。
【長期スパンでは概ね8年周期の天井をダブルトップで形成した可能性】
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ドル円の月足チャートにおいては概ね8年前後で7年から10年の周期により大底及び天井を付けてきた。変動相場制が採用されて以降、概ね8年周期の大底は1978年10月30日安値、9年目の1988年1月4日安値、7年半目の1995年4月19日安値、10年目の2005年1月17日安値、7年弱の2011年10月31日底と続き、パンデミック発生ショックによる2020年3月の一時的下落を除いて2011年10月31日底から9年を経過した2021年1月6日安値102.57円で直近の大底を付けてきた。
概ね8年周期のサイクルにおける大天井は1975年12月8日高値、7年目の1982年11月3日高値、7年半目の1990年4月2日底、8年強の1998年8月11日高値、9年目の2007年6月22日高値、8年目の2015年6月5日高値と続き、そこから7年強の2022年10月21日高値と8年強の2023年11月13日高値によるダブルトップで直近の8年周期天井を付けたと思われる。
天井周期は長引けば9年目に差し掛かるケースもあり、2024年1月17日への上昇時点で2023年11月13日高値からの下げ幅に対する3分の2戻しを超えているため、もう一度150円台序盤を試すような上昇へ進む可能性はあるだろう。しかしその場合でもダブルトップの右側がミニ・ダブルトップ構成となる形で上昇一巡となり下落に転じるのではないかと考える。8年周期の高値とは相当程度の円安ドル高材料を織り込んだ状況で形成されるものであり、ダブルトップ破りへ進むには2022年以降では見られなかった円安材料ないしドル高材料が必要になると思われる。
【4年サイクルを踏まえた2024年末にかけてのシナリオ3つ】
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概ね8年周期の天井・大底サイクルは、概ね4年前後(3年強から5年)周期のサイクル2つで構成されるケースが多い。2011年10月31日底以降では5年弱の2016年6月24日安値、4年半の2021年1月6日安値で底を付けており、2021年1月6日底から現在までは3年を経過したところにある。
2021年1月6日底以降の中勢では、1年後は持ち合い状態で顕著なボトム形成は見られなかったものの2022年1月24日が持ち合い中の安値であり、その後は2023年1月16日安値、2023年12月28日安値とほぼ1年周期で底打ちしている。このため、現状の4年周期のサイクルにおける次の底打ち期としては2024年12月から2025年1月あたりが目安の第一候補となり、長引けば2025年末から2026年初頭にかけての間まで延びる可能性も多少あると考える。
@最も円高が厳しいシナリオでは、2024年末にかけて120円前後を目指す下落を想定する。3月から4月にかけて2023年12月28日安値140.24円を割り込む場合はこのケースの可能性が高まると考えるが、米国の利下げが期待通りに始まり年4回以上の利下げ見通しでドル全面安が進行し、日銀は金融緩和政策からの出口へ急げないものの出口への前傾姿勢を徐々に強め、2024年夏以降にマイナス金利解除等を実現してゆく場合には短期的な円安局面も入れながら段階的に下落して2023年1月16日安値も割り込んで120円前後を目指して行く展開が考えられる。
A平均的なシナリオでは2024年前半は円安継続感を残しつつ145円前後から150円手前までのレジで推移しつつ、日米金利差縮小感が強まるところで円高期に入り、2024年末にかけて130円台序盤から2023年1月16日安値127.22円に近い水準を目指すと考える。米国の利下げは4回程度だが日銀のマイナス金利解除が4月ないし6月に決まり、ドル安感とともに円高感も徐々に強まる場合はこの展開へ進みやすくなると考える。
Bただし、2024年前半に2022年10月21日高値を超える円安ドル高が発生する場合には、2024年内に160円台前半へ上昇し、大上昇後の反動安で2024年末に150円前後まで下げ、2025年後半にかけての一段安で130円台へ進むというケースも考えておきたい。2024年春にかけて150円を超える場合には2022年10月21日と2023年11月13日の両高値によるダブル天井ではなく、両高値をほぼフラットな上値抵抗線とし、2023年1月16日と12月28日の安値を結ぶ右肩上がりの下値支持線による三角持ち合いの形成となり、2022年10月21日高値を超えるところからは三角持ち合い上放れとなるため、ロスカットと買いの連鎖注文を巻き込みながら160円を目指してゆく強気の市場心理が優勢になると思われる。米国の利下げが6月以降へ先送りされてその後の利下げペースも鈍くドル高バイアスが残り、政治混乱と日本経済の不調が目立って日銀が暫く出口へ向かえない状況になり、日本売りとしての円安が大きなテーマとなる場合にはこのケースとなることもあり得るだろう。
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【2024年前半の想定】
ドル円は2023年11月13日高値151.90円から12月28日安値140.24円までの下げ幅11.66円に対し、半値戻しの146.07円を1月11日への上昇時に超え、1月17日高値148.52円への上昇で3分の2戻しの148.01円も超えている。
日足の一目均衡表では下降中の上値抵抗線となる26本基準線を上抜き、遅行スパン好転から上昇が加速し、先行スパンも上抜いている。このまま進めば全値戻しとして11月13日高値151.90円を試すのではないかいう市場の期待も増しているようだ。
しかし一本調子での上昇は難しいと思われる。12月28日からの戻り幅は1月17日高値時点で8.28円だが、2023年1月16日を起点とした上昇では、3月24日にかけて8.28円の修正安が入り、6月30日高値から7月14日安値までの修正安も7.82円となり、8円前後規模の修正安を入れながら上昇トレンドを継続したため、11月13日高値からの下降トレンドにおいても直近の安値から8円前後規模の反騰が入ったとしてもその後の失速で戻り幅の半値を削るなら下落再開から一段安へ進む可能性が高まってゆくと思われる。
当面は12月28日を起点とした上昇で高値をどこまで伸ばせるのかが焦点となる。勢い次第では150円到達もあり得るだろうが、2022年10月21日と2023年11月13日のダブルトップラインを突破するにはかなりの推進力が必要であり、そうした情勢変化がなければ148円台から149円台前半にかけての水準ではいったん売られやすく、仕切り直しの下落が入ってくるのではないかと思われる。
仮に12月28日からの上昇トレンドが第1四半期を超えて継続するとしても最初の反動安は深くなりやすいと考え、12月28日安値からの上昇幅に対する3分の2から4分の3を削る修正安が入るのではないかと考える。
12月28日安値を割り込まずに底上げをして修正安の半値以上を解消するところからは次の上昇へ進む可能性が高まると思われ、その際に高値更新へ進むならダブル天井ライン突破への可能性も出てくるが、高値更新へ進めずに戻り幅の半値以上を削るところからは下げ再開と一段安を疑うべきだろう。
12月28日安値を割り込むところからは2023年11月13日高値を起点とした下落が二段下げ型へ発展するため、戻りのピークから一段目と同規模の下落ないしは戻り幅の倍返しとなる下落を想定してゆく。二段下げに入れば、2023年1月からの上昇トレンド時とは逆転した状況で6円強から8円前後規模の反発を入れつつ一段安を繰り返して行く流れと考える。
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