米国大統領選挙について(5)
5月25日、ミネアポリス近郊で、警察官の不適切な拘束方法により、黒人男性ジョージ・フロイドが死亡する事件があり、その様子がビデオで全米に公開されたことから、警官による黒人差別反対の運動が一気に盛り上がり、全米各都市で、連日の大規模デモが荒れ狂った。
今でもその『ブラック・ライブス・マター(黒人の命を守ろう)』運動は1960年代の公民権運動の再来として、米国の政治に大きな影響を与え始めている。
ウーマン・オブ・カラー
その結果、民主党の副大統領候補は、ジャマイカ系黒人とタミール系インド人の混血であるカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州選出)に決まった。
5月25日の事件がなければ、ウーマン・オブ・カラー(有色人種の女性)が副大統領候補に選ばれたかどうかはわからない。
NYタイムズによると、最後まで残った候補者は4人、ハリス上院議員以外では、エリザベス・ウォレン上院議員(急進左派)、グレッチェン・ウィットマー ミシガン州知事(美貌の白人女性)、タミー・ダックワース上院議員(イリノイ州選出)と、バイデンの公約通り女性に絞られた。
筆者の説では圧倒的な知力と実績で、明日にも大統領ができる候補としてエリザベス・ウォレンが有力と見ていたが、5月25日の事件で目がなくなり、ハリス議員に決まった。
ハリス議員は移民であった両親がともに優秀で、父親はスタンフォード大学の教授(経済学)、母親はやはりスタンフォードを出て、癌の専門家となっている。優秀な家系である。
ハリス議員はワシントンある黒人系の大学ハワード大学を出て、UC Hasting (カリフォルニア大学Hasting 校)のロースクールで学位をとった。
主に法律関係の仕事をしていたが、若干39歳で、サンフランシスコ地方検事正に当選している。当時彼女の付き合っていた(デートしていた)ブラウン市長の引きで、ベテランの前任者をはるかに上回る選挙資金を調達、当選にこぎつけたといわれている。
その後2011年からは、カリフォルニア州検察長官(アットーニー・ジェネラル)当選、2016年の選挙で上院議員に当選し2017年から、上院議員を務めている。
2020年大統領候補として立候補するが、予備選挙が始まる前に脱落、そのキャンペイン戦略の拙劣さが喧伝された。
大統領候補としての最初のディベートで、バイデン候補の人種政策を激しく非難、一気に人気を博したが、人気は続かず、本人は脱落、ディベートのパーフォマンスだけが人々の印象に残り、その結果バイデン夫人(大学教授)やバイデン氏の妹が最後までハリス議員の指名に反対したといわれている。
オバマ前大統領は、ハリス議員のファンで、それも決定に影響したかもしれない。
彼女のポリシー・スタンドは、一時、選挙中は自称プログレッシブ(急進左派)と述べたが、それは人気の高いプログレッシブにすり寄る姿勢を見せただけで、本当はモデレート(温和)なリベラルである。
言ってみれば、昔からの民主党のエスタブリッシュメントそのものの政治で、(大企業、金持ちの大口献金)、バイデンと同じく代り映えしない。
このバイデン、ハリスのティケットは、とにかくトランプを倒すという大命題の前に、本来の米国の動きである、プログレッシブによるリベラル革命はひとまず今回の選挙では様子見となる退屈な結果になった。
エリザベス・ウォレンが副大統領候補になっていれば、米国の腐敗した政治経済が一気に整理される気運が高まったと思われる。
しかし現実にはフランス革命の前の三部会のような中途半端な政権になりそうだ。
最終的なルイ16世の処刑には至らない、革命前夜的な状態がフランス革命の場合でも4年ほど続く、米国政治も本格的な革命は、退屈なバイデン・ハリス ティケットではなく、2024年の次の選挙、次の大統領が仕切ることになりそうだ。
今回のハリスの起用には民主党全国本部の意向も働いたといわれている。NYタイムズ記者情報によれば、最も有力だったエリザベス・ウォレンを指名すると、彼女が占めているマサチューセッツ州選出上院議員の席が空く。
その場合しかるべき時間(次の中間選挙まで)はマサチューセッツ州知事が、上院議員を指名する。マサチューセッツ州知事は共和党なので、共和党の議員を指名することになる。
2020年の選挙で一気に上院も多数獲得を目指す、民主党全国本部は、それよりも知事が民主党であるカリフォルニア州のハリス議員を指名した方が、上院の数合わせに有利ということらしい。
こうした民主党全国本部の民主党官僚たちの意見は殆どの場合、有害である。
上院への配慮より、全力で大統領選挙を押し切ることが大事で、そのためには圧倒的な熱気のプログレッシブ(急進左派)で攻めるべきだったのだろう。
8月17日からは民主党大会が始まる。本格的な選挙戦の始まりである。
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