米国大統領選挙について(4)(2020年7月20日)

NYタイムズのOP=ED欄にバイデン大統領の初日と題した評論が出るほどの、圧倒的なバイデン有利の態勢が続いている。

米国大統領選挙について(4)(2020年7月20日)

米国大統領選挙について(4)

NYタイムズのOP=ED欄にバイデン大統領の初日と題した評論が出るほどの、圧倒的なバイデン有利の態勢が続いている。最も直近のQUINIPIAC 大学のPOLL(過去の実績は正確である)ではバイデン52%、トランプ37%と15ポイントの大差をつけているが、これもやややり過ぎではないか。
筆者がみているFIVE THIRTY EIGHT(信頼できる政治サイト)の数字では全国区で7月16日現在バイデン50.3%、トランプ41.2%と9.1%の差がついており、この数字は1カ月前の9.3%、1週間前の9.6%とほぼ変わらず、ここにきて急に差が開いたわけではなく、QUINIAPICの数字が過大に出ているものと考えられる。
しかし全国で9%というのは大きなバイデンのリードであることは間違いない。

Locker room banter 事件

2016年10月7日、トランプ対ヒラリー・クリントンの大統領選挙戦も終盤に入り11月8日の投票を1カ月後に控えて、クリントンが2%リードで迎えたところで、米国情報機関はロシアの選挙介入を非難する声明を出し、一気にクリントン優勢へと民主党選挙本部が張り切った。そこへさらに追い打ちをかけるようにアクセス・ハリウッドという芸能番組でトランプが女性遍歴を自慢するCRUDE(編集しない)なテープが流された。聞くに堪えないような下品な女性攻略法などが本人の口で語られている。
大事なロシア問題は吹き飛んで、一気にこのセックス・スキャンダルが選挙戦の目玉になった。パニックした共和党本部は、トランプに変えて、副大統領候補のペンスを差し替えることを考えたほどの危機である。
トランプは絶体絶命の危機であるが、彼は喧嘩には強い。
まずこのテープはロッカールーム・バンター、男同志がロッカーでする自慢話だといって、切り抜けを図り、気分を害する人がいるならお詫びすると謝罪した。トランプが何事にも拘わらず公に謝罪したのはこの時だけである。

更にこの危機を切り抜けるために、10月9日日曜日のディベートの前に、記者会見を開き、ヒラリーの夫である前大統領ビル・クリントンをセックス・スキャンダルで訴える4人の女性をメディアに紹介し(ビルクリントンはセックス・スキャンダルにかかわる偽証で、弾劾判決を受けている)如何にビルがひどい男であったかとその4人に口々に訴えさせた。
そうしたスキャンダルにも拘わらず、ビルと離婚もしないのは、ヒラリーが大統領への野心があったからだと非難した。
めちゃくちゃな論理だが、話を混乱させて、うやむやにしようというものである。
之にはメディアもあっけにとられて、結局その日のディベートでは、この問題には触れず、トランプは無難に乗り切ったのである。その後もこの問題はおおきく選挙戦を揺さぶることなく、最終的にはトランプの辛勝の形で決着がついた。
この出来事はいかにも喧嘩に強いトランプの伝説として、今でも民主党本部を畏怖させている。
従ってトランプには息の根を止めるまで攻撃を緩めてはいけないというのが民主党の方針である。

ネガティブ・エンシュージアズム(negative enthusiasm)

トランプもバイデンも三流の人材である。今度の選挙は三流同士でどちらが四流に落ちるかというJ3とJ4の入れ替え戦のようなものである。しかも片や78歳、トランプは74歳と、ほぼ後期高齢者同士である。このサッカーゲームのレベルは高くない。したがって、高いレベルの球技をエンジョイする観客は観戦しない。参加するのは、ホームチームのファンだけである。
とくにバイデンのほうには熱狂的なファン層は27%と少なく、トランプファンの50%は熱狂的なファンといわれている。

この熱狂度(enthusiasm)の差から見てトランプが盛り返して勝利するのではないかというのがトランプ選挙本部の希望的観測である。
確かに熱狂度ではトランプ有利だが、もう一つの尺度にネガティブ・エンシュージアズムがある。
これは『絶対にトランプを当選させたくない』という熱狂度である。
投票者のトランプ大好きからトランプ大嫌いの比率を見ると−23%と圧倒的にトランプ大嫌い派が強い。一方のバイデン大好きからバイデン大嫌いの数字が減じると−3%と、バイデン拒否派はトランプに比べると圧倒的に少ない。
つまり一般投票者、すなわちどちらのチームもホームチームでない一般観客から見れば圧倒的にトランプ拒否派が多いのである。
またトランプファンのバイデン大嫌い度は53%、バイデンファンのトランプ大嫌い度は80.1%とこれもトランプに対するネガティブ・。エンシュージアズムが強いことを物語っている。熱狂度だけでトランプが盛り返すというのは、非現実的である。

Down Ballot のCoattail効果

日本で選挙をやったことが最近ないので実情は知らない。
米国のここNY州では投票所に行くと、登録を確認して、投票用紙(バロット)をくれる。
投票用紙は幅30センチ、長さ45センチぐらいの厚紙でできたバカでかいものである。
その投票用紙には、左右に分かれて上から大統領、副大統領候補、上院議員、地区の下院議員、その他地区の検察官(district attorney)。マンハッタン地区の地方議会議員などが上から順番に並んでいる。左右にも分かれていて、その片方には民主党の候補、もう一方には共和党の候補が上から下まで名前を連ね、その名前の前に丸がありそれを塗りつぶすことで選挙する。

NYの場合、まず左に民主党候補が出て、右半分には共和党である。
大統領をバイデンに入れると、そのすぐ下に民主党の上院議員の候補の名前があり、その前の丸を塗りつぶしやすくできている。その下には民主党の下院議員の名前があり、その黒丸を塗りつぶしやすくできている。
つまり一旦大統領を決めると同じ党の議員を選びやすくできている。
従って大統領選で大勝すると、ダウンバロットである、上院、下院もその同じ党が有利になるということになる。
これをダウンバロットにおけるコートテイル効果と呼んでいる。
燕尾服の後ろが二つに分かれて長いテイルを引いていることから、大統領の燕尾服のしっぽに乗っかって当選するという意味である。
これについては騒がれるほどの効果はないといわれているが得票率で2%程度は違うという研究結果が出ている。

バイデンの大勝を予想して、ダウンバロットも民主党が大勝して、3冠王すなわちホワイトハウス、上院、下院を制することになるのではないかという声も聞かれる。
一番難しいのは上院である。
上院は先人の知恵で、政治が激動しないように、100人の上院議員の3分の1ずつしか改選されない。したがって11月の選挙では33人が改選される。現在上院の勢力図は共和党53議席、民主党45議席、その他2議席(いずれも民主党より)となっている。
今回の33人の改選のうち23人は共和党、10人が民主党である。共和党は23議席のうち3議席を取りこぼすと50対50になり、上院議長である副大統領が最終キャスティングボートを握ることになる。共和党は危ない議席が4議席ほどあるといわれている。民主党も危ないのが1−2議席ある。民主党は1議席の取りこぼしを計算すると、5議席ほど新たに増やさないと上院の多数をとることはできない。これは大変なアンダーテーキングである。

仮に三冠王が達成されると、最高裁の最高齢判事リベラル派のRBG(Ruth Bader Ginsburg )
が87歳まで頑張ったので、民主党多数の上院でリベラル派の判事を指名して、RBGは引退願うということになろう。RBGは小柄なおばあちゃんで、年初の一般教書演説などには最高裁判事として出席するが、トランプの演説の最中に居眠りをしている場面がテレビで放映されるなど全米で敬愛される存在である。
この2−3年で癌を2回手術、骨折も2度あり満身創痍だが、引退するとトランプが保守派の判事を指名するので引退できなかったのである。ぜひバイデンが大統領になり、上院も制してRBGが安心してリタイアできるように成ればと願っている。

ウィルスにたたられるトランプと共和党

8月24−27日に予定されている、候補者指名の共和党大会は、もともとノースカロライナ州のシャ―ロッテで行われる予定であった。
トランプは派手好きで、2万人近い参加者が屋内で党大会を開き、そこで大歓声の中で指名受諾演説をすることを考えている。5月にシャーロッテの市当局にそのアベイラビリティーを照会したところ、ウィルス禍でそれは無理で受け入れられないと断られた。
それでしょうがなくほかの会場を探ったが、手を上げたのがフロリダ州ジャクソンビル市である。その時は今のようにフロリダ州が、毎日1万5千人の新規感染でパニック状態になる前の状況なので、ジャクソンビルは市の経済に大きな刺激を与える党大会を招致して鼻高々であった。その後共和党州知事の早すぎるロックダウン解除で、ウィルス感染者が急増、とても屋内での開催は不可能ということで、結局シャーロッテ市と同じことになった。

しかもウィルス禍が猖獗を極めるフロリダでの党大会に参加したがる党員がどの程度見込めるか。4万人集めると豪語した6月20日のオクラホマ州タルサの選挙集会では、6200人しか出席しないがら空き大会であった。
その次に今度はニューハンプシャー州での7月11日の選挙ラリーを飛行場のハンガーを借りてやるつもりでいたが、その前々日に突如天候不良を理由に取りやめになった。
恐らく参加者が思ったほど集まらなかったのではないかと思われる。
ジャクソンビルの党大会には既に上院議員、下院議員で欠席を表明する人が出始めている。
まさに選挙の一番大事な盛り上げの大会に欠席とは、トランプの威光も衰えたものだ。

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