トルコ中銀の大幅利上げの上昇も長続きせず、28日午前には急落発生
〇トルコリラ円、28日朝に13.28まで急落するも直後に13.50台まで戻す
〇トルコ、週間レポレートを8.25%から2.0%引上げ10.25%に
〇トルコに隣接するアゼルバイジャンでアルメニアが大規模な軍事衝突を発生
〇トルコ8月観光客数が181万4701人、前年同月期でマイナス71.2%に
〇13.80以下の推移で一段安余地あり、13.60以下の推移が続く場合安値更新へ進みやすい状況とみる
〇13.80を超え、13.70以上での推移が続く場合、25日夜高値14.01試しへ向かうとみる
【概況】
トルコリラ円は9月24日夜に13.58円まで対円での史上最安値を更新してきたが、9月24日夜にトルコ中銀が予想外の大幅利上げに踏み切ったことをサプライズとして13.93円まで急伸した。エルドアン大統領が中銀の利上げ判断を阻止して現状据え置きとの市場予想だったが、週間レポレートを8.25%から2.0%引き上げて10.25%とする大幅利上げであり、3会合連続で利上げを見送ってきた中銀の利上げ幅としてはかなり大きかったことで市場もリラ買いに走った。
9月25日午後にかけては24日夜の急騰一服で13.80円を挟んだ小動きで様子見となっていたが、25日夕刻には再び利上げ効果によるリラ買いが活発化して14.01円まで上昇、9月17日以来の14円台に到達したのだがその後は急落した。予想外で大きな利上げ幅ではあったが、さらに今後も利上げを継続してリラ防衛姿勢を強烈にアピールできるのかといえばエルドアン大統領の姿勢を踏まえれば難しく、奇をてらった大幅利上げ効果も限定的だろうとの受け止め方が優勢となったと思われる。
9月28日朝にトルコリラ円は13.28円まで急落した。直後には13.50円台まで戻している。ベンダーによっては13.40円台までの下落だが、いずれにしても9月24日安値を割り込んでいる。一時的なフラッシュクラッシュ的な下げなのかどうかは見極めが必要だが、週末にトルコに隣接するアゼルバイジャンとアルメニアが大規模な軍事衝突を発生させており、この件がトルコの地政学的リスクを拡大するものとしてリラ売りにつながった可能性がある。いずれにしてもトルコ中銀によるサプライズ利上げの効果はこれで消えており、対円での史上最安値更新が再開した印象だ。
【アゼルバイジャンとアルメニアの軍事衝突】
アゼルバイジャン国防省の発表によると、アルメニア軍は現地9月27日の6時頃、前線地帯で大規模な挑発行為を起こし、アゼルバイジャン軍の駐屯地や民間人の居住地区を、大口径の武器、大砲、迫撃砲で攻撃したという。この攻撃に対してトルコ外務省のハミ・アクソイ報道官は書面により国際法を明らかに違反しているとしてアルメニアを強く非難した。この軍事衝突で死者は23人が確認されている。旧ソ連領域の両国による大規模軍事衝突のためロシアが即時停戦を求める等介入姿勢を示しているが、トルコはアルメニアと国境を接しており、アゼルバイジャンはイランと国境を接している。トルコ、イラン、ロシアを巡る主導権争い等も警戒される。
【リラ売りの下落基調は継続】
トルコリラが対円、対ドル、対ユーロ等で連日の史上最安値更新を続けてきた背景は、トルコの外貨準備不足と実質マイナス金利状態の長期化、世界的な感染拡大継続による観光収入の激減及び経常収支悪化、東地中海ガス田を巡るギリシャやフランスとの対立やリビアへの介入問題での地政学的リスク等であり、9月11日には米格付け大手のムーディーズがトルコの格付けを「B1」から「B2」に格下げし、格付け見通しを「ネガティブ」で維持したことが一段安へのきっかけとなった。
トルコリラ安要因のうち、東地中海問題ではギリシャとトルコの協議再開が報じられており材料としては一服していたが、9月27日に発生したアゼルバイジャンでの軍事衝突問題は新たな地政学的リスクをも足らず。
大幅利上げにより通貨防衛姿勢を示したことは通貨防衛姿勢を示したこととして肯定的な評価となるが、市場の反応は大幅利上げの割には小さかった。すでにアゼルバイジャン問題で安値を更新していることはリラ売りがまだトレンドとして収まっていないことを示唆するものと思われる。
【トルコの8月海外観光客数 前年同月比マイナス71.2%】
トルコの文化観光省が9月25日に発表したトルコへの海外からの観光客数は181万4701人で前年同月期ではマイナス71.2%となった。3月のコロナショックにより3月にマイナス67.8%へ急減し、4月から5月がマイナス99%、6月がマイナス96%、7月がマイナス85.9%と極端な低下状況が続いてきたが、8月も7月よりは若干改善したとはいえ大幅な悪化状態のままだ。2019年8月は630万7508人がトルコへ来ており、トルコにとっては3月から徐々に増え始めて6月から8月がピーク期であり、昨年は9月時点で542万人、10月時点でも429万人が来訪している。
慢性的な経常赤字国であるトルコにとっては海外からの観光収入が極めて重要になる。9月24日に発表された9月の設備稼働率が74.6%まで回復し、9月14日に発表された7月の鉱工業生産も前年比でプラス4.4%まで回復してきたが、感染拡大の影響が続く中で最大の外貨収入源である観光収入が回復できない状況は、今後のトルコにとっては外貨準備等への影響も含めて深刻な状況となってくるのではないかと懸念される。
当面、10月2日の米雇用統計に金融市場全般の注目が集まるところだが、トルコでは9月30日の貿易収支、10月1日のイスタンブール製造業PMIとトルコ中銀金融政策会合議事要旨発表等が注目される。10月5日は9月の消費者物価や生産者物価の上昇率が発表されるので、引き上げられた政策金利を上回る物価上昇率となれば実質マイナス金利状態は解消されないとしてリラ売りに拍車がかかる可能性もあると思われる。
【当面のポイント】
9月28日午前の急落で大幅利上げ前の安値を更新している。このため短期的な騰落リズムで見れば、9月24日夜の利上げ前安値を直近のサイクルボトム、25日夕刻高値を同サイクルトップとして底割れにより新たな弱気サイクルに入っている印象だ。28日午前の急落がフラッシュクラッシュ的な短時間で収まって急伸するケースもあるかもしれないが、25日夕高値を超えないうちは下落基調を継続して安値試しへ向かいやすくなると思われるので、29日から10月1日にかけては下落しやすい時間帯と思われる。
(1)当面、9月28日午前安値13.28円を下値支持線、13.80円を上値抵抗線とみる。
(2)13.80円以下での推移中は一段安余地ありとし、13.60円以下での推移が続く場合は安値更新へ進みやすい状況とみる。安値更新の場合は13.00円前後試しへ向かう流れとみるが、13円前後は売られ過ぎ警戒感からの反騰入りに注意する。
(3)13.80円を超えてその後も13.70円以上での推移が続く場合は28日午前の急落を一時的なものとして持ち直しに入り25日夜高値14.01円試しへ向かうとみる。14円手前は戻り売りにつかまりやすく、特にアゼルバイジャン問題等での軍事緊張が高まる場合や、金融市場全般のリスク回避的下落基調が強まる場合は13.60円割れからは下げ再開に入りやすいとみる。
【当面の主な経済指標等の予定】
9月29日
16:00 9月経済信頼感指数 (8月 85.9、予想 84.0)
9月30日
16:00 8月貿易収支 (7月 -26.9億ドル、予想 -22.0億ドル)
10月1日
16:00 9月イスタンブール製造業PMI (8月 54.3、予想 54.7)
20:00 トルコ中銀 MPC議事要旨公開
20:30 週次外貨準備高 9/25時点 (9/18 452.81億ドル)
10月5日
16:00 9月消費者物価上昇率 前月比 (8月 0.86%、予想 0.70%)
16:00 9月消費者物価上昇率 前年比 (8月 11.77%、予想 11.40%)
16:00 9月生産者物価上昇率 前月比 (8月 2.35%、予想 1.00%)
16:00 9月生産者物価上昇率 前年比 (8月 11.53%、予想 12.50%)
10月8日
20:30 週次外貨準備高 10/2時点
10月12日
16:00 7月失業率 (6月 13.4%、予想 15.0%)
16:00 8月経常収支 (7月 -18.17億ドル)
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