【概況】
3月1日に米トランプ大統領が鉄鋼・アルミに輸入関税を導入するとの方針を示したことで貿易戦争・保護主義拡大が懸念されて3月2日には105.24円まで下げた。週明けはいったん落ち着き、6日には106.46円まで戻したが、7日朝に関税問題の反対派とみられていたコーン国家経済会議委員長辞任報道が入って106円割れ、さらに105.45円まで下落した。
7日は米ADP民間雇用統計が予想よりも強かったことなどから戻したが106円台序盤に止まっていた。
8日夜、ECB理事会で金融政策が現状維持とされたが、緩和延長の可能性に関する文言が削除されたことでいったんユーロが上昇したものの、より積極的な緩和政策終了姿勢を期待していた市場はドラギ総裁会見内容を不足としてユーロ安に転じ、ユーロ安ドル高がドル円もやや押し上げた。
9日未明、トランプ大統領が関税導入の署名を行ったが、メキシコ、カナダを対象外としたほかその他でも安全保障上の観点での適用除外もあり得るとしたことで保護主義拡大懸念がやや薄らぎ、9日午前のドル円は上昇、6日高値を上抜いてきている。
【ECB金融政策】
欧州中央銀行(ECB)は8日の定例理事会でマイナス金利等の金融政策を現状維持とした。量的緩和では月300億ユーロの資産購入を9月末まで継続するとの現行方針を維持した。また声明文ではこれまであった「物価見通しの悪化時に量的緩和の規模を再拡大する可能性」に関する文言を削除し、量的緩和規模を再拡大することはないとの姿勢を示した。
ここまでは市場の期待通りであったが、より積極的な緩和政策終了へのプロセスの提示、姿勢を求めていた市場にとってはドラギECB総裁会見内容が従来通りだったことで満たされなかった。
ユーロドルは22時台にいったん1.2446ドルまで上昇して3月1日深夜安値1.2154ドル以降の高値を更新したが、上昇は一時的なものに止まり、買い一巡後は反落し、1.2298ドル割れまで下げている。1日深夜からの上昇を支えてきた米関税導入によるドル安感が薄らいだこと、9日夜の米雇用統計前ということも売りを誘ったようだが、ユーロ安ドル高が円安ドル高に寄与している。
【トランプ大統領、関税導入決定も対象外あり】
トランプ米大統領は9日未明、鉄鋼に25%、アルミに10%の輸入関税を課す文書に署名した。これは15日以内に発効する予定。
関税対象としてはNAFTA再交渉中のカナダとメキシコは適用除外とされた。また両国以外についても安全保障に基づき対象から除外する可能性があるとした。
大統領署名報道直後は大きな反応は見られなかったが、ひとまず保護主義的な貿易戦争感が爆発することは無さそうだとして市場も落ち着きを取り戻した。ただし、トランプ米政権は先週の段階で中国の経済当局トップに対して米国の対中貿易赤字を1000億ドル削減するよう要請したと米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが8日に関係筋の話として報じており、米中の貿易摩擦は拡大すると懸念される。日本は防衛費分担、装備買い入れ等で部分的には除外される可能性もあるが、貿易赤字縮小への圧力は増すのではないか。
【米朝首脳会談】
3月9日午前、米メディア報道として北朝鮮の金正恩労働党委員長が米朝首脳会談を提案したと報じられている。時事電では韓国高官が8日、トランプ米大統領が5月までに北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と会談する意向だと報じている。また金正恩氏は核・ミサイル実験停止及び米韓合同軍事演習の継続に理解を示し、非核化に応じる意向も示したという。
先の冬季五輪における南北協議から動き出しているが、米朝対話へ進み始める中で、今回の米関税導入による対中国への赤字削減要請等の強気姿勢も可能になったのかもしれない。
これまで何度も態度を豹変させてきた北朝鮮だが、体制護持の保証があれば挑発行為を停止し、核開発もいったん棚上げして内政、経済再生へ向かうのが得策であり、韓国側にもメリットがある。トランプ大統領にとっても経済制裁強化により対話を引き出したことで点数が上がり、再選にも寄与する。あとは巨額インフラ投資、貿易不均衡是正等での米国内企業保護を行ってゆくということになるのだろう。
ひとまず、北朝鮮リスク度合は一段階低下したと言えるが、対中問題がどうなるのか、対日赤字削減圧力のなかで円安政策はとれないという状況でドル円がどう進んでゆくのか、まだ不確実性が残る。
【60分足 一目均衡表分析】
3月2日安値から7日安値へ安値はやや切り上がり、6日高値を9日午前には超えてきているので、この間を三角持合いとすれば上放れに入ってきたと思われる。2日から6日への上昇波動並のN字型上昇とすれば106.67円前後が当初の上値計算値となるが、リスクオン心理が勢い付けば107円前後試しまで進む可能性がでてきた。ただし9日夜の雇用統計から続伸できるか反落か、明暗が分かれると思う。
60分足の一目均衡表では8日ロンドン入りからの上昇で遅行スパンが好転、先行スパンを上抜いてきた。このため遅行スパン好転中は高値試し優先とする。遅行スパン悪化を弱気転換注意、先行スパン転落から下げ再開と考える。
60分足の相対力指数は9日午前の上昇で70ポイント台に乗せている。2日安値からの二段上昇中のため、60ポイント以上を維持する内は高値試し優先とし、60分足26本移動平均ポイント割れを弱気転換注意、50ポイント割れからは下げ再開の可能性を優先する。また日中から夜間にかけて高値を更新する場合には弱気逆行型発生からの反落にも注意する。
概ね3日から5日周期の短期的高値・安値形成サイクルでは、3月2日夜安値から3日目となる7日夜安値(7日午前安値との小ダブル底)を直近のボトムとして上昇期に入ったと思われる。今回の高値形成期は9日の日中から13日にかけての間と想定されるので、米雇用統計前は上昇を継続しやすく、雇用統計を強気反応する場合は週明けへの続伸へ進みやすいとみる。雇用統計から下落反応の場合はサイクルトップをつけての弱気サイクル入りとなる可能性があるので、106円割れないしは直前高値から0.50円以上の下落となる場合は弱気転換注意とみる。いったん弱気サイクル入りとなれば次の安値形成期となる12日午後から14日夜にかけての間への下落が考えられる。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)日中、106.25円を支持線、106.75円を抵抗線とみておく。
(2)106.25円を上回る内は上昇継続余地ありとし、106.75円超えからは107.00円から107.25円にかけてのゾーンを試すとみる。ただし雇用統計前ではいったん調整安も入りやすいと注意する。
(3)雇用統計から続伸なら107.50円から108円にかけてのゾーンまで上値目処を切り上げ、107円台維持なら週明けへの続伸とみるが、雇用統計でいったん上昇しても発表前水準を割り込む場合は下げ再開を警戒する。
(4)雇用統計から下落の場合、106円割れないしは雇用統計前水準を割り込んだ下落が続く場合は下げ再開と仮定して105円台中盤試しを想定する。106円以下での推移で終わる場合は週明けの続落と2日安値試し、先行きの底割れを想定する。(了)<10:00執筆>
【当面の主な予定】
3/9(金)
未定 (日) 日銀金融政策決定会合、政策金利発表
15:30 (日) 黒田東彦日銀総裁、定例記者会見
22:30 (米) 2月 非農業部門雇用者数変化 前月比 (1月 20.0万人、予想 20.5万人)
22:30 (米) 2月 失業率 (1月 4.1%、予想 4.0%)
22:30 (米) 2月 平均時給 前月比 (1月 0.3%、予想 0.3%)
26:40 (米) ローゼングレン米ボストン連銀総裁 講演
26:45 (米) エバンス米シカゴ連銀総裁 講演
オーダー/ポジション状況
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