トルコ国民投票、情勢不明なるも結果は既定か?
今週末に実施される大統領への権限集中に直結する憲法改正の是非を問うトルコの国民投票は賛成反対が五分五分であるとされていますが、実際のところは、状況はまったく分かっていません。
エルドアン大統領は大々的な「賛成」キャンペーンを公的資金を投入して行っていますし、昨年のクーデター未遂事件以来、非常事態宣言が解消されていない状況下で、大統領自身が「反対」に投票する人間はテロリストと同じだという趣旨の発言を行っている以上、あからさまな反対運動はクーデター未遂後の言論弾圧同様、弾圧と拘束に直結すると考えるのが自然です。
そもそも政府に批判的な200人近くにも及ぶジャーナリストが現在も拘留され、160社の報道機関が現在も閉鎖されている状況です。仮に反対派がいても声をあげることはきわめて困難でしょう。
そのような状況下での賛否五分五分の見通しであれば、実態は反対派が多数を占め改憲は否決されるのではないかと考えるのが普通です。
しかし、そうなってくると今度は公正な選挙が実施されるか否かを疑う必要が出てくるでしょう。潜在的には反対派が多くても、投票時の匿名性を緩めて反対票を投じにくくする等の手段も考えられますし、もっと直接的に賛成票の水増しをする方法もありえます。
仮に憲法改正が今回の国民投票で否決されても理由をつけて投票をやり直し、改正が実現するまでやめないことも想像されます。(すでに前回選挙での実績があります)
今回の国民投票は大統領の信任投票ではないので、否決されてもエルドアンが大統領職を辞するわけではないところもポイントです。否決された場合、事後の「犯人探し」と弾圧は苛烈なものとなるでしょう。何しろ非常事態宣言下ですので極論すれば大統領は何でもできてしまいます。
結局のところ今回の投票は、国民投票の形をとってはいるものの、出来レースであり、事実上崩壊しているトルコの立憲民主性を最終的に葬るための儀式に過ぎないと見るのが妥当でしょう。
ここで改憲がなされた場合には今後少なくとも10年間はエルドアン大統領の独裁的強権政治に歯止めをかけることが難しくなります。改憲による権限集中後、エルドアン大統領はEUとの関係見直しや、死刑制度の復活等に取り組むとすでに表明しており、西側社会との関係の更なる悪化はトルコへの資金流入を阻害し経済にもマイナスの影響を与えるでしょう。一方で、権限の集中は中銀の独立性をも損なわせる可能性が高く、金融政策を景気刺激的に誘導するなどの強権を発動し、短期的には経済が上向く可能性もあることには留意する必要があります。
もっとも、ここまでの状況であれば、独裁政治を阻止するための残された世俗派(もしまだ残っていればですが)の選択肢として再度のクーデターの試みの可能性は考えておく必要があります。
いずれにせよ今週末にかけ、情勢の不透明感に加えて大統領派の国民投票後の経済に対するリップサービスも激化して、トルコリラは波乱含みとなります。
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