日経平均株価最高値、34年前から変わったもの、変わってないもの
このところ日経平均株価指数の高値更新の話題がメディアに取り上げられない日はない。株価指数が上昇することは社会全体にとってプラスの影響を与えることは間違いない。しかし、賃上げの報道も目につくものの、日本の実質賃金は2023年12月まで21か月連続のマイナス、2023年のドル建てGDPの総額もドイツに抜かれて世界4位に転落、一人当たりGDPに至っては2022年の段階でOECD加盟国38か国中21位に転落している。感覚的に実体経済と株価の乖離を感じる日本人は少なくないだろう。
多くの日本人が高揚感に満ちた株高を謳歌していた34年前と今とでは何が大きく変わったのだろうか。
一番目は金融環境だ。
圧倒的に違うのは円の短期金利の水準だ。1989年12月の短期市場金利(オーバーナイト無担保コール)は月間平均で6.4%台だったが、現在は僅かながらもマイナス金利だ。この金利差はあまりに大きい。円を大した金利負担なく調達できる外国人投資家が、今年に入っての日本株買いの主体というのも頷ける。
だが、株価が好調なのは日本だけではない。欧米の主要国も株式市場は堅調に推移しており、その背景にはコロナ禍で膨らんだ中央銀行のバランスシートのサイズをなかなか元に戻せないという共通した金融環境がある。
日本の株式の需給環境も大きく改善している。
日銀が今週発表した資料によると、日銀は今年1月末時点で37.2兆円(簿価)の株式をETFの形で保有している。足下の株高でその保有時価は更に膨らんでおり、現在の時価に換算すると60兆円を大きく超えていると見られGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)と並んで国内最大級の株主となっている。
東証プライム市場の時価総額が約940兆円ということを考えれば、1989年当時には存在しなかった中央銀行という投資家が大量の株式を市場から吸い上げ、需給環境を改善している。株式市場の需給の改善のいう意味では、ここ数年の企業の自社株買いの活性化も追い風だ。
では、後にバブルだったと回顧される大相場が造成される際に共通する変わらないものは何だろうか。
バブルが造成される際には、相場の現在地を正当化する都合の良い論理構成が展開されやすい。
日本の平成バブル時には、Qレシオという指標が相場の現在地を正当化するのによく使われた。1985年のプラザ合意後、円高不況への対策として金融緩和が行われたが、その資金は設備投資に向かわず、土地や株やゴルフ会員権などの資産に向かった。資産価格は高騰し、株価が一株当たりの純資産の何倍まで買われているかを図る指標PBR(Price Book-Value Ratio)は、企業の解散価値を示す指標でもあるが、東証一部上場銘柄の平均は5倍を超えていた。そこで相場を正当化するために盛んに用いられるようになったのがQレシオだ。
PBRは、純資産を簿価(Booked-Value)で評価したものを分母に使って計算されるが、Qレシオは純資産を時価で評価したものを用いる。Qレシオという指標を使えば、企業の保有する土地などの資産価格が上昇する限り株価は割高ではない、という株価の高騰を正当化する論理が浸透していった。その後、地価の下落とともに、株価はPBR、Qレシオいずれの尺度で計っても割高となり、長く低迷することとなった。
今回の日本株の上昇局面では、中国経済の低迷が、グローバルな投資家のアセット・アロケーションを促し、中国株から日本株へのシフトが起こることで、日本の株式市場に大量の資金が流入するという論理が展開され実際にそういった動きも一部に見られた。しかし、中国経済の低迷は日本企業の業績にとっては普通に考えればマイナスだろう。13億人の市場をターゲットにして中国に投資してきた日本企業の業績悪化も今後、顕現化していくことが予想される。
また、違った話題では、損保大手4社が金融庁から政策保有株(持ち合い株)の売却を加速するよう求められたとの報道をきっかけに損保株は2月に入って大きく値を上げている。損保の資本効率を高め経営の自由度を増すという論理らしい。
しかし、政策投資株を売却した資金でこれまで享受していた配当利回り以上の資本効率を生み出せるのであれば、確かにそうだが、長期に亘って保有している政策投資株は簿価も低く、配当利回りも高いものも多い。資本効率を高めることに繋がるかどうかは売却益で得た資金をどう活用するか次第だ。短期的な投資家が、売却益で株主還元に充てられる収益の上振れを期待して買っているというところが本音ではないだろうか。長期的には、長期に亘ってこれまで市場に出てこなかった政策投資株が放出される分、株式需給的にはマイナスのように思える。
後に振り返ってみればバブルと思われる相場が造成されている時には、妙に納得してしまうロジックで相場が説明されていることがままある。できるだけ様々な角度から自分の頭で考えるということと、相場が盛り上がっている時は、日々の値動きと距離を置いて考えるということを筆者は心がけている。
次回に続く
オーダー/ポジション状況
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