ドル円見通し 米雇用統計強気サプライズ、持ち合い上放れによる高値追及の流れ継続か(週報6月第2週)

米労働省が6月5日に発表した5月の雇用統計では、失業率は13.3%となり戦後最悪を記録した4月の14.7%から改善した。

ドル円見通し 米雇用統計強気サプライズ、持ち合い上放れによる高値追及の流れ継続か(週報6月第2週)

ドル円見通し 米雇用統計強気サプライズ、持ち合い上放れによる高値追及の流れ継続か

〇ドル円週末にかけ高値切り上げ、米雇用統計の改善で一時109.84まで上昇
〇米雇用統計は失業率が改善、非農業部門雇用者数も増加
〇米株高が続けばドル円が上昇を継続する可能性も
〇109円を割り込んでも切り返すうちは上昇継続、110円台中盤、さらに111円台を目指す動きか

【概況】

ドル円は5月19日夜に108.07円まで戻した後は107円台序盤までの下落を切り返しつつ6月2日までの10日間を107円台での持ち合いを継続してきた。アフターコロナの復興相場期待で株高が続く中で株高によるリスクオンへとなびかず、慎重な動きとなっていたが、6月2日夜の上昇で5月19日夜高値を上抜いて持ち合いを上放れしてからは慎重さが外れて高値追及の流れとなった。
6月3日には108.84円の高値を付け、4日夜には109.16円を付けた後に108.58円までいったん下げたが早々に切り返して高値を更新し、6月5日の米雇用統計が予想外に失業率改善となったことから109.84円まで高値を切り上げた。

【米雇用統計は強気サプライズ】

米労働省が6月5日に発表した5月の雇用統計では、失業率は13.3%となり戦後最悪を記録した4月の14.7%から改善した。市場予想は19.8%への悪化だったが予想外の改善となった。また非農業部門雇用者数は事前予想の800万人減少に反して250.9万人増と改善した。4月は速報値の2053万人減少から2068.7万人減少へ若干下方修正されたが、失業率の改善と就業者数の増加は市場にとっては大きなサプライズとなった。
米政府による大規模な経済対策や現金給付、企業支援や休業保証等が効果を上げたと思われる。雇用全体の7割を占めるサービス業は242.5万人増となり、レストランやホテルでは122.2万人増となった。また製造業も22.5万人増となった。
経済活動再開の動きが始まっており、3月末から5月にかけて急激に悪化した雇用情勢がひとまず落ち着いた可能性もある。株式市場はすでに3月暴落でコロナショックを受け止め、米連銀の利下げと量的金融緩和及び米政府による大規模経済対策がアフターコロナの復興期待を助長して楽観的な反騰相場を続けてきたが、今回の米雇用統計の改善がさらに株式市場に自信を持たせたともいえるだろう。

【ドル全面高へ向かうか?】

6月4日まではユーロ高ドル安、ポンド高ドル安等、ドルストレートでのドル安が目立った。特に欧州中銀(ECB)がパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の資産買い入れ規模を6000億ユーロ増の1兆3500億ユーロに拡大したことが好感されたが、欧米株高によるアフターコロナの復興期待が為替市場のリスクオン心理を助長し、ユーロは5月26日から6月4日まで8日間の連騰となった。コロナショックで3月23日まで下げた後は1.10ドル前後を抵抗とし、1.080ドルを割り込むところは買い戻される持ち合いだったが、5月28日から持ち合いを上放れし、6月5日には1.13838ドルを付けて暴落前の3月9日高値1.14921ドルに迫った。
英ポンドも3月20日まで急落した後は4月14日へ反騰し、5月18日にかけてはやや下げてきたもののその後の反騰で3月20日以降の戻り高値を更新している。

豪ドル米ドルも3月19日まではコロナショックによる暴落となったが、その後は株式市場の持ち直しと同調して反騰に転じ、5月28日から6月5日まで6連騰となり6月5日には0.70129ドルの高値を付けて3月暴落前の2019年12月31日高値0.70321ドルに迫っている。
しかし、ユーロの上昇は6月5日午後高値でブレーキがかかり、米雇用統計後には下げている。ポンドも発表直後は上昇したがその後はやや失速した。豪ドルも5日午後高値からは上げ渋りとなった。
米雇用統計が予想外の改善となったことでNYダウは前日比829.16ドル高と大幅上昇して5連騰となったが、米国の失業改善による米国株高へ市場の関心が向かったことで米国株買いへのバイアスがかかりドル高を再燃させ始めている可能性がある。

6月4日まではリスクオンによりドルストレートではより投機性の高いユーロ等が選好され、クロス円もユーロ高等により円安反応が優先し、ドル円においてはドルストレートでのドル安よりもクロス円での円安が勝る形で持ち合い上放れに至ったと思われる。
米雇用統計の強気サプライズがさらに米国株高を助長する場合、これまで連騰してきたユーロ等へ売り圧力がかかってドルストレートでのドル高が再燃する可能性がある。その場合、クロス円ではユーロ等の下落により円高圧力も発生するかもしれないが、それよりも株高ドル高によりドル円が上昇を継続するという可能性も考えられるのではないかと思われる。

【10か月前後の底打ちサイクル】

5月6日からの反騰について、週足レベルでの特徴を2つ指摘する。一つは10か月サイクルの底打ちである可能性であり、もう一つは2017年以降のやや右肩下がりのレンジ相場の上限を試す可能性である。
ドル円は概ね10か月から1年周期のサイクルで底打ちしてきた。2015年6月5日天井以降の主要なサイクルボトムは2015年8月24日、10か月後の2016年6月24日、10か月後の2017年4月17日、11か月後の2018年3月26日、10か月後の2019年1月3日、8か月後の2019年8月26日であった。
突然発生したコロナショックにより3月9日に101.23円まで急落したが、その直後に3月24日高値まで反騰し、5月6日安値105.98円まで下げたものの底割れを回避して反騰に転じたのは、突発性のショックにより早まったサイクル上のボトム形成をもう一度やり直す動きだったとも考えられる。昨年8月26日底から3月9日安値までは7か月弱と短かったが、昨年8月底から9か月弱となる5月6日安値でサイクルボトムを付け直して上昇に転じたという解釈もできるだろう。
5月6日安値を10か月サイクルの底とすれば、3月24日からの下落期における短期的なリバウンドではなく、より中期的な上昇へ発展する可能性もあると注意したい。

【2016年末以降の下降チャンネル】

もう一つの特徴はこの3年半が凡そ10円幅でやや右肩下がりのレンジ相場=下降チャンネルを形成してきたということだ。
2016年12月天井118.65円の後は2017年11月6日高値114.72円、2018年10月4日高値114.54円、2020年2月20日高値112.21円であり、やや右肩下がりとなっている。この間の安値は2017年4月17日安値108.11円、2018年3月26日安値104.63円、2019年1月3日安値104.82円、2019年8月26日安値104.45円と続いてきた。そして今年3月9日には101.23円の安値を付けた。
このやや右肩下がりの下降チャンネルの中心線は現在107円近辺に来ており、下降チャンネルの上限線=高値ラインは112.50円、下限線=安値ラインは101円前後に来ている。今年3月9日安値はこの下降チャンネルの下限線丁度に到達し、そこから反騰入りとなり、5月6日安値からの持ち合い上放れによる上昇で下降チャンネルの中心線を超えてきている。このため下降チャンネルの上限線を目指している可能性が考えられる。あるいは、上限線を突破してゆく可能性も考えておく必要があるかもしれない。

【当面のポイント】

【当面のポイント】

5月6日から5月19日まで反発したところまでは、3月24日高値からの下落期における短期的リバウンドの範囲と思われた。しかし6月2日夜の急騰から戻り高値切り上げに入った。5月6日への下げ幅は5.73円であり、半値戻しが108.85円、3分の2戻しが109.77円であるが、既にこれらを超えているため、上値目途は3月24日高値111.71円までの往って来い、あるいはそれを超える可能性も出てきていると思われる。
110円の心理的な節目に迫ったことや連騰に対する警戒感からの反動安も考えられるが、109円を割り込んでも切り返すうちは上昇継続として110円台中盤、さらに111円台を目指すのではないかと思われる。また、仮に108円台前半まで反落する場合でも、5月19日夜高値以降の持ち合いを上放れた一段高状況は維持されるので、その後に直前の下げ幅の半値以上を解消する反発に入れば上昇再開から高値更新へ向かう可能性も継続するのではないかと思う。
5月6日以降の上昇基調が一巡して弱気転換となるためには108円を割り込む下落の発生が必要と思われる。(了)<7日17:00執筆>

【当面の主な予定】

6/8(月)
休場、オーストラリア
08:50 (日) 1-3月期GDP改定値 前期比 (前期 -0.9%、予想 -0.5%)
08:50 (日) 1-3月期GDP改定値 年率換算 (前期 -3.4%、予想 -2.1%)
08:50 (日) 4月 経常収支・季調前 (3月 1兆9710億円、予想 3772億円)
08:50 (日) 4月 経常収支・季調済 (3月 9422億円、予想 3316億円)
08:50 (日) 4月 貿易収支・国際収支ベース (3月 1031億円、予想 -9656億円)
14:00 (日) 5月 景気ウオッチャー現状判断DI (4月 7.9、予想 12.5)
14:00 (日) 5月 景気ウオッチャー先行判断DI (4月 16.6、予想 20.2)
15:00 (独) 4月 鉱工業生産 前月比 (3月 -9.2%、予想 -16.7%)
15:00 (独) 4月 鉱工業生産 前年同月比 (3月 -11.6%、予想 -24.8%)
22:45 (欧) ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁、欧州議会公聴会

6/9(火)
未 定 OPEC総会(テレビ会議)
未 定 (米) 米連邦公開市場委員会(FOMC)1日目
08:30 (日) 4月 勤労統計・現金給与総額 前年同月比 (4月 0.1%、予想 -1.0%)
08:50 (日) 5月 マネーストックM2 前年同月比 (4月 3.7%、予想 4.0%)
10:30 (豪) 5月 NAB企業景況感指数 (4月 -34)
15:00 (独) 4月 貿易収支 (3月 174億ユーロ、予想 116億ユーロ)
15:00 (独) 4月 経常収支 (3月 244億ユーロ、予想 141億ユーロ)
18:00 (欧) 1-3月期GDP確定値 前期比 (速報 -3.8%)
18:00 (欧) 1-3月期GDP確定値 前年同期比 (速報 -3.2%、予想 -3.2%)
23:00 (米) 4月 卸売在庫 前月比 (3月 -0.8%、予想 0.4%)
23:00 (米) 4月 卸売売上高 前月比 (3月 -5.2%)

6/10(水)
未 定 OECD経済見通し
未 定 OPECプラス会合(テレビ会議)
07:45 (NZ) 1-3月期製造業売上高 前期比 (前期 2.4%)
08:50 (日) 5月 国内企業物価指数 前月比 (4月 -1.5%、予想 -0.3%)
08:50 (日) 5月 国内企業物価指数 前年同月比 (4月 -2.3%、予想 -2.4%)
08:50 (日) 4月 機械受注 前月比 (3月 -0.4%、予想 -7.5%)
08:50 (日) 4月 機械受注 前年同月比 (3月 -0.7%、予想 -13.2%)
09:30 (豪) 6月 ウエストパック消費者信頼感指数 (5月 88.1)
10:30 (中) 5月 消費者物価指数 前年同月比 (4月 3.3%、予想 2.7%)
10:30 (中) 5月 生産者物価指数 前年同月比 (4月 -3.1%、予想 -3.2%)

16:00 (ト) 3月 失業率 (2月 13.6%)
21:30 (米) 5月 消費者物価指数 前月比 (4月 -0.8%、予想 0.0%)
21:30 (米) 5月 消費者物価指数 前年同月比 (4月 0.3%、予想 0.3%)
21:30 (米) 5月 消費者物価コア指数 前月比 (4月 -0.4%、予想 0.0%)
21:30 (米) 5月 消費者物価コア指数 前年同月比 (4月 1.4%、予想 1.3%)
27:00 (米) 米連邦公開市場委員会(FOMC)、政策金利 (現行 0.00-0.25%、予想 0.00-0.25%)
27:00 (米) 5月 月次財政収支 (4月 -7379億ドル、予想 -6000億ドル)
27:30 (米) パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長、定例記者会見

6/11(木)
08:50 (日) 4-6月期 大企業全産業業況判断指数・BSI (前期 -10.1)
08:50 (日) 4-6月期 大企業製造業業況判断指数・BSI (前期 -17.2)
21:30 (米) 5月 生産者物価指数 前月比 (4月 -1.3%、予想 0.1%)
21:30 (米) 5月 生産者物価指数 前年同月比 (4月 -1.2%、予想 -1.3%)
21:30 (米) 5月 生産者物価コア指数 前月比 (4月 -0.3%、予想 -0.1%)
21:30 (米) 5月 生産者物価コア指数 前年同月比 (4月 0.6%、予想 0.5%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 187.7万件、予想 160.0万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 2148.7万人、予想 2080.0万人)

6/12(金)
休場、フィリピン、ロシア
13:30 (日) 4月 鉱工業生産・確報値 前月比 (3月 -9.1%)  
13:30 (日) 4月 鉱工業生産・確報値 前年同月比 (3月 -14.4%)
13:30 (日) 4月 設備稼働率 前月比 (3月 -3.6%)
15:00 (英) 4月 月次GDP 前月比 (3月 -5.8%、予想 -18.0%)
15:00 (英) 4月 鉱工業生産指数 前月比 (3月 -4.2%、予想 -15.0%)
15:00 (英) 4月 鉱工業生産指数 前年同月比 (3月 -8.2%、予想 -19.3%)
15:00 (英) 4月 貿易収支・物品 (3月 -125.08億ポンド、予想 -112.71億ポンド)
15:00 (英) 4月 貿易収支・全体 (3月 -66.76億ポンド、予想 -55.00億ポンド)

16:00 (ト) 4月 経常収支 (3月 -49.2億ドル、予想 -10.5%)
16:00 (ト) 4月 鉱工業生産 前月比 (3月 -7.1%、予想 -10.5%)
18:00 (欧) 4月 鉱工業生産 前月比 (3月 -11.3%、予想 -20.0%)
18:00 (欧) 4月 鉱工業生産 前年同月比 (3月 -12.9%、予想 -28.3%)
21:30 (米) 5月 輸入物価指数 前月比 (4月 -2.6%、予想 0.6%)
21:30 (米) 5月 輸出物価指数 前月比 (4月 -3.3%、予想 0.8%)
23:00 (米) 6月 ミシガン大学消費者信頼感指数 (5月 72.3、予想 75.3)


注:ポイント要約は編集部

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