V字反騰から再び反落、2日連続で1.5円以上の日足大陰線
【概況】
ドル円は新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中で2月20日高値112.21円から3月9日安値101.23円まではリスク回避の円買いと米連銀等による金融緩和政策拡大による米10年債利回り低下等によるドル売りを背景に急激な円高となり、この間の下げ幅は10.98円に拡大した。しかし3月9日からは欧米への感染拡大が深刻化する中で世界的な投資ポジションの圧縮と手元流動性確保のためのドル買いが殺到したためにメジャー通貨・新興国通貨に対してドルは全面高となり、ドル円も3月9日から3月23日高値111.71円までV字反騰となりこの間の上昇幅は10.48円となった。
3月9日への暴落的な下げ幅をほぼ解消する動きだったが、2月20日高値を上抜くには至らず、3月26日には前日比1.64円、27日も同1.58円の円高ドル安となり、2日続けて前日比で1.50円を超える日足大陰線で失速した。3月27日安値107.75円までの下げ幅は3.96円であり、直前の急騰分に対する凡そ38%を解消した。
3月27日へのドル安円高は、G7による協調的なドル資金供給体制や米連銀が3月に入ってからの3度目の臨時FOMCにおいて米国債等を「必要な限り」購入とするという無制限の量的緩和方針を示したことや主要国で相次いだ企業支援対策によりドル買いの殺到が一服したことによるものだ。また米国の新型コロナウイルスの感染者数が中国やイタリアを超えて世界最大の感染国となりNYの封鎖まで取り沙汰される状況に陥ったことで米国リスクを意識したドル売りという側面もあるかもしれない。
【経済対策では感染爆発に勝てぬ? 市場の混乱は続く】
3月26日夜に発表された米国の3月21日までの週間新規失業保険申請は328万3000件となり前週比で約12倍の急増で、現行の算出方式においては1982年10月の69万5000件をはるかに上回って過去最大となった。感染拡大の影響で工場操業停止や店舗閉鎖が相次ぎ企業のレイオフが急増している。今回の失業保険申請件数に対する市場の事前予想平均値は100万件だった、400万件以上となるという予想も出ていた。都市封鎖や経済活動の停滞はさらに進んでいるため、来週の統計でもさらに失業申請が大幅に増大する可能性がある。
NYダウは3月24日から反騰に転じて26日までの3日間で3900ドル超の上昇となり、26日の米失業保険申請の急増に対しても下げなかったのだが、27日は前日比915.39ドル安と下落した。26日までのダウ反騰は総額2兆ドル規模の経済対策を期待してのものだったが、27日に下院が可決した後は材料出尽くしとなってそれ以上への楽観を抱けないとして下落したようだ。
米金融大手バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)が3月27日に発表した週間投資資金動向調査では、債券ファンドから短期金融商品ファンドへの投資資金シフトが過去最高のペースとなり、3月25日日までの1週間に短期金融商品ファンドに流入した資金は過去最高の2346億ドル、債券ファンドの償還は過去最高の1090億ドルに上ったという。債券ファンドからの資金流出はこの2週間で2180億ドルに上り、投資適格級債券ファンドから612億ドル、新興国債券ファンドから171億ドルが流出し、株式ファンドからも262億ドルが流出したという。
米10年債利回りは3月9日に0.3%台まで急落した後に1.2%台までいったん回復していたが、3月20日からは再び下落基調となり3月27日は前日比0.16%低下の0.69%となっている。
金融市場全般が混乱的な状況にある。感染爆発のピークと混乱の収束が見通せる状況になれば市場は復興需要期待で持ち直す可能性があり、収束への期間が短ければリーマンショック後のようなV字反騰と歴史的な大上昇を再現する可能性もあるのだろう。しかし治療薬も未解決であり、イタリアのような医療崩壊が発生し、都市封鎖や国全体の封鎖という状況にまで状況が悪化している中では、直前の暴落し過ぎの反動で多少戻したとしても悲観売りのトレンドを覆すには至らないだろうと思われる。
【新興国通貨危機への懸念】
通常なら株式市場の動揺等のリスク回避では円高となるのが定石だが、3月9日からの急激なドル高円安のようにリスク回避のドル高が勝ったり、再びドルが急落し始める等、常識的な分析では見極めきれない混乱状況に為替市場も陥っているような印象がある。ドル円も2月20日から3月9日への急激な円高を再開する可能性も、その後のV字反騰のような円安が進む可能性も併せ持つ状況と思われる。
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は3月27日に新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動停滞により「世界がリセッションに入ったのは明白だ」と述べ、リーマン・ショックと同じかさらに深刻になる可能性があると指摘した。またIMFに対する新興国等の金融支援要請が殺到しており、27日時点で80カ国を上回り、新興国だけでも「少なく見積もって2兆5000億ドル(約270兆円)」が必要だとも述べた。
新興国での感染被害が拡大すれば、投資マネーの還流がさらに増して通貨危機的な状況を発生させかねないと危惧される。南アはジャンク級へ格下げされており、ドル高が一服している現状から再びドル高新興国通貨安が加速するような状況となれば、新興国通貨に対する円高も進む可能性があると注意したい。
ただし、リーマンショックの時は欧米が震源地で日本はやや距離を保っていたものの、コロナショックは中国から欧州へ、そして米国へと震源地を拡散しており、日本も首都圏の移動自粛が始まりロックダウンの可能性もあることから、リスク回避で円高、欧米リスクで円高という図式で単純化できない側面も大きいと思う。ドル円はしばらく波乱、乱調の展開とみて、2月20日高値を超える円安ドル高の可能性とともに、3月9日安値を割り込む円高の加速の可能性も併せて考えておきたい。
【急激な円高再燃も円安加速もあり得る乱調さ】
以上を踏まえて当面の見通しを示す。
(1)現状は、2月20日高値と3月24日高値をダブルトップとして下落=円高ドル安へ進む可能性があるものの、凡そ10円幅でのV字反騰後のため、半値押し程度の急落を消化して3月9日安値から底上げの上で3月24日及び2月20日高値を超える円安ドル高へ進む可能性も併せ持っていると思われる。
ボリンジャーバンド(21日)では、中心の基準線が107.71円、+2σが112.68円、-2σが102.74円にある。いずれを目指す可能性もある大きな変動率の中にあると思われる。また乖離率も近年にない規模の変動を示している。
(2)3月9日からの反騰幅に対する3分の1押しが108.21円で既に割り込んでおり、半値押しが106.47円にある。このため3月30日を前週比マイナスで開始する場合は半値押し106.47円前後への下落で踏みとどまれるかどうかを試すとみる。月曜朝に目先の安値を付けていったん落ち着くケースも多いので、3月30日の終盤へ戻せば3月24日からの下げ一服で戻しに入る可能性もあると思われる。その際に110円台回復へ進めば上昇再開感が強まり3月24日高値及び2月20日高値を試すと考える。また先行きはそれら高値を超える一段高へ進む可能性も浮上すると思う。
(3)半値押し前後で下げ止まれない場合、3分の2押し104.72円前後まで目先の下値目途が切り下がると考える。105円前後ないしはそれ以下へ下げてから108円を回復するなら上昇再開の目は残ると思うが、半値押しレベルを下回る状況が続くうちは3月9日安値101.23円をもう一度試す可能性が残るとみる。(了)<29日22:20執筆>
ドル円日足
【当面の主な発表予定】
3/30(月)
18:00 (欧) 3月 経済信頼感 (2月 103.5、予想 93.0)
18:00 (欧) 3月 消費者信頼感・確報値 (速報 -11.6、予想 -11.6)
21:00 (独) 3月 消費者物価指数速報値 前月比 (2月 0.4%、予想 0.1%)
21:00 (独) 3月 消費者物価指数速報値 前年同月比 (2月 1.7%、予想 1.4%)
23:00 (米) 2月 住宅販売保留指数 前月比 (1月 5.2%、予想 -2.0)
23:00 (米) 2月 住宅販売保留指数 前年同月比 (1月 6.7%)
3/31(火)
06:45 (NZ) 2月 住宅建設許可件数 前月比 (1月 -2.0%)
08:01 (英) 3月 GFK消費者信頼感 (2月 -7、予想 -15)
08:30 (日) 2月 失業率 (1月 2.4%、予想 2.4%)
08:30 (日) 2月 有効求人倍率 (1月 1.49、予想 1.47)
08:50 (日) 2月 小売業販売額 前年同月比 (1月 -0.4%、予想 -1.5%)
08:50 (日) 2月 百貨店・スーパー販売額・既存店 前年同月比 (1月 -1.4%、予想 -1.6%)
08:50 (日) 2月 鉱工業生産・速報値 前月比 (1月 1.0%、予想 -0.0%)
08:50 (日) 2月 鉱工業生産・速報値 前年同月比 (1月 -2.3%、予想 -4.9%)
09:00 (NZ) 3月 NBNZ企業信頼感 (2月 -19.4)
10:00 (中) 3月 製造業PMI (2月 35.7、予想 45.0)
14:00 (日) 2月 新設住宅着工戸数 前年同月比 (1月 -10.1%、予想 -14.7%)
15:00 (英) 10-12月期 GDP改定値 前期比 (速報 0.0%、予想 0.0%)
15:00 (英) 10-12月期 GDP改定値 前年同期比 (速報 1.1%、予想 1.1%)
15:00 (英) 10-12月期 経常収支 (前期 -159億ポンド、予想 -70億ポンド)
16:55 (独) 3月 失業者数 前月比 (2月 -1.00万人、予想 2.50万人)
16:55 (独) 3月 失業率 (2月 5.0%、予想 5.1%)
18:00 (欧) 3月 消費者物価指数速報値 前年同月比 (2月 1.2%、予想 0.8%)
18:00 (欧) 3月 消費者物価コア指数速報値 前年同月比 (2月 1.2%、予想 1.1%)
22:00 (米) 1月 ケース・シラー米住宅価格指数 (12月 218.73)
22:00 (米) 1月 ケース・シラー米住宅価格指数 前年同月比 (12月 2.9%、予想 3.4%)
22:45 (米) 3月 シカゴ購買部協会景況指数 (2月 49.0、予想 44.0)
23:00 (米) 3月 コンファレンス・ボード消費者信頼感指数 (2月 130.7、予想 112.0)
4/1(水)
08:50 (日) 1-3月期 日銀短観・大企業製造業現況 (前期 0、予想 -11)
08:50 (日) 1-3月期 日銀短観・大企業製造業先行 (前期 0、予想 -15)
08:50 (日) 1-3月期 日銀短観・大企業非製造業現況 (前期 20、予想 3)
08:50 (日) 1-3月期 日銀短観・大企業非製造業先行 (前期 18、予想 -1)
08:50 (日) 1-3月期 日銀短観・大企業全産業設備投資 前年度比 (前期 6.8%、予想 2.1%)
09:30 (豪) 2月 住宅建設許可件数 前月比 (1月 -15.3%)
09:30 (豪) 2月 住宅建設許可件数 前年同月比 (1月 -11.3%)
09:30 (豪) 豪準備銀行、金融政策会合議事要旨公表
10:45 (中) 3月 財新製造業PMI (2月 40.3、予想 47.0)
16:55 (独) 3月 製造業PMI改定値 (速報 45.7、予想 45.5)
17:00 (欧) 3月 製造業PMI改定値 (速報 44.8、予想 44.6)
17:30 (英) 3月 製造業PMI改定値 (速報 48.0、予想 47.5)
18:00 (欧) 2月 失業率 (1月 7.4%、予想 7.4%)
21:15 (米) 3月 ADP非農業部門民間就業者数 前月比 (2月 18.3万人、予想 -10.0万人)
22:45 (米) 3月 製造業PMI改定値 (2月 49.2)
23:00 (米) 2月 建設支出 前月比 (1月 1.8%、予想 0.5%)
23:00 (米) 3月 ISM製造業景況指数 (2月 50.1、予想 46.0)
4/2(木)
08:50 (日) 3月 マネタリーベース 前年同月比 (2月 3.6%)
18:00 (欧) 2月 生産者物価指数 前月比 (1月 0.4%)
18:00 (欧) 2月 生産者物価指数 前年同月比 (1月 -0.5%)
21:30 (米) 2月 貿易収支 (1月 -453億ドル、予想 -433億ドル)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 前週分 (前週 328.3万件
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 前週分 (前週 180.3万人)
23:00 (米) 2月 製造業新規受注 前月比 (1月 -0.5%)
4/3(金)
09:30 (豪) 2月 小売売上高 前月比 (1月 -0.3%、予想 0.4%)
10:45 (中) 3月 財新サービス業PMI (2月 26.5)
16:55 (独) 3月 サービス業PMI改定値 (2月 34.5、予想 34.3)
17:00 (欧) 3月 サービス業PMI改定値 (2月 28.4、予想 28.2)
17:30 (英) 3月 サービス業PMI改定値 (2月 35.7、予想 35.3)
18:00 (欧) 2月 小売売上高 前月比 (1月 0.6%、予想 0.2%)
18:00 (欧) 2月 小売売上高 前年同月比 (1月 1.7%、予想 1.5%)
21:30 (米) 3月 非農業部門就業者数 前月比 (2月 27.3万人、予想 -10.0万人)
21:30 (米) 3月 失業率 (2月 3.5%、予想 3.8%)
21:30 (米) 3月 平均時給 前月比 (2月 0.2%)
21:30 (米) 3月 平均時給 前年同月比 (1月 3.0%)
22:45 (米) 3月 サービス業PMI改定値 (速報 39.1)
22:45 (米) 3月 総合PMI改定値 (速報 40.5)
23:00 (米) 3月 ISM非製造業景況指数 (2月 57.3、予想 48.1)
オーダー/ポジション状況
関連記事
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:照葉 栗太
2024.11.23
来週の為替相場見通し『トランプトレードと円キャリーの組み合わせがドル円を下支え』(11/23朝)
ドル円は、今週前半にかけて、一時153.28まで急落する場面が見られましたが、週末にかけては一転154円台後半へと持ち直す動きとなりました。
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:田代 昌之
2024.11.22
東京市場のドルは154円台後半で推移、日銀による追加利上げ観測が円安のブレーキ役に(24/11/22)
東京時間(日本時間8時から15時)のドル・円は、日本株のしっかりとした推移を材料にじり高の展開となり154円台後半で推移した。
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:斎藤登美夫
2024.11.22
ドル円 値動きそのものは激しいが、結果レンジ内か(11/22夕)
東京市場はドルが小高い。やや激しめの乱高下をたどるなか、最終的にドルは高値引け。
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:斎藤登美夫
2020.03.30
ドルの下落リスク再燃か、米雇用統計を注視(週報3月第5週)
先週のドル/円は、ドル安・円高。週足は3週ぶりの陰線でトータル約4円、実体部も3円近くに達する依然として激しい変動だった。
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:照葉 栗太
2020.03.28
来週の為替相場見通し:『日銀短観と米雇用統計がメインイベント。円高再燃の恐れも』(3/28朝)
ドル円は、テクニカル的にも、ファンダメンタルズ的にも「続落リスク」が警戒されます。
-
みんなのFX トレイダーズ証券
みんなのFXはスワップもスプレッドも高水準!口座開設とお取引で最大1,010,000円キャッシュバックキャンペーン中!
取引は1,000通貨からOK、手数料も無料!eKYCで最短1時間後に取引可能
- 「FX羅針盤」 ご利用上の注意
- 掲載している情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。
- 掲載している商品やサービス等の情報は、各事業者から提供を受けた情報または各事業者のウェブサイト等にて公開されている特定時点の情報をもとに作成したものです。
- 当サイトはFXに関する情報の提供を目的としています。当サイトは、特定の金融商品の売買等の勧誘を目的としたものではありません。
- FXに関する取引口座開設、取引の実行並びに取引条件の詳細についてのお問合せ及びご確認は、利用者ご自身が各FX取扱事業者に対し直接行っていただくものとします。また、投資の最終判断は、利用者ご自身が行っていただくものとします。
- 当社はFX取引に関し何ら当事者または代理人となるものではなく、利用者及び各FX取扱事業者のいずれに対しても、契約締結の代理、媒介、斡旋等を行いません。したがって、利用者と各FX取扱事業者との契約の成否、内容または履行等に関し、当社は一切責任を負わないものとし、FX取引に伴うトラブル等の利用者・各FX取扱事業者間の紛争については両当事者間で解決するものとします。
- 当社は、当サイトにおいて提供する情報の内容の正確性・妥当性・適法性・目的適合性その他のあらゆる事項について保証せず、利用者がこれらの情報に関連し損害を被った場合にも一切の責任を負わないものとします。
- 当サイトにおいて提供する情報の全部または一部は、利用者に対して予告なく、変更、中断、または停止される場合があります。
- 当サイトには、他社・他の機関のサイトへのリンクが設置される場合がありますが、当社はこれらリンク先サイトの内容について一切関知せず、何らの責任を負わないものとします。
- 当サイト上のコンテンツに関する著作権は、当社もしくは当該コンテンツを創作した著作者または著作権者に帰属しています。
- 当社は、当社の事前の許諾なく、当サイト上のコンテンツの全部または一部を、複製、改変、転載等により利用することを禁じます。
- 当サイトのご利用に当たっては上記注意事項をご了承いただくほか、FX羅針盤利用規約にご同意いただいたものとします。