ドル円年間見通し 7年から10年周期レベルの円安はさらに長期化へ
【2016年12月からの下降チャンネルの突破】
ドル円は2020円3月9日にパンデミック初期のパニック売りにより101.23円まで急落し、いったん戻してから2021年1月6日安値102.57円まで下落したが、安値更新を回避して2022年1月には116円台に到達、2017年1月以来5年ぶりの水準に達した。
ドル円の週足チャートは、2016年12月高値を起点として騰落幅が凡そ10円前後規模の下降チャンネルの範囲にあった。2016年12月高値118.65円から2018年10月4日高値114.54円、パンデミック直前の2020年2月20日高値112.21円を結ぶ高値ラインはほぼ1直線であり、2018年3月26日安値104.63円とパンデミックによるパニック売りで急落した時の2020円3月9日安値を結ぶ安値ラインは高値ラインとほぼ平行となり、両線が下降チャンネルを形成していた。
2021年3月31日高値でこの下降チャンネルの抵抗線に到達、2021年7月2日高値ではわずかに超えたもののその後に失速して下降チャンネルからの脱却には待ったがかかったが、2021年9月からの一段高により下降チャンネルから脱却してきた。その後も高値を切り上げており、現状も凡そ4年半続いた下降チャンネルを突破しての上昇基調の範囲にある。
下降チャンネル内における概ね10円規模の騰落幅を超える上昇へ進んでいること、また2016年6月底以降では下降チャンネル内の上昇期が26週から28週の範囲で繰り返しており半年規模の上昇が限界であったが、2021年1月6日底から7月2日高値までの26週の上昇から調整安を入れてから一段高に入っているため、現在は2021年8月4日安値を起点として二つ目の26週前後規模の上昇期にあると思われる。
週足レベルにおけるチャート上の上値抵抗となりやすい高値は2016年12月15日の118.65円、その上は2015年11月18日高値123.73円から2015年6月5日の125.84円まで見当たらなくなっており、2016年12月高値を超える場合には120円台挑戦の声も出てくる可能性があると思われる。
【7年から10年周期の大上昇期、巨大三角持ち合い放れ】
7年から10年周期というのがドル円の月足チャートにみられる底打ち周期であり、変動相場制に移行してからは1978年10月30日底から9年目の1988年1月4日底、7年半を経過した1995年4月19日底、10年目の2005年1月17日底、7年弱の2011年10月31日底がこのサイクルの大底であったが、2011年10月31日底から10年目となる2021年1月6日安値が2020年3月9日とのダブルボトムとして10年サイクルの大底を付けたところと思われる。このため、2021年1月6日底から現在への上昇は8年から10年周期のサイクルにおける上昇期というレベルで考えるべきものと思われる。
また、2016年12月高値からの週足レベルにおける下降チャンネルを含めて、2015年6月5日天井から2020年までは100円前後を下値支持線とした巨大な三角持ち合いであったが、2021年7月への上昇時に三角持ち合いの抵抗線を突破している。つまり現状は、8年から10年に一度のスケールでの上昇期にあり、かつ、巨大な三角持ち合いから上放れしてさらに伸びているところであり、日々の騰落感を超えた上昇期の中で推移しているという認識が必要だろうと思われる。
8年から10年周期のサイクルにおける上昇期は、1995年4月19日安値79.70円から1998年8月11日高値147.63円までの3年4か月で上昇幅が67.99円、2005年1月17日安値101.66円から2007年6月22日高値124.15円まで2年5か月で上昇幅が22.49円、2011年10月31日安値75.57円から2015年6月5日高値125.84円までの3年8か月で上昇幅50.27円等とスケールが大きい。
1995年からドル円が大上昇したのは、1985年のプラザ合意以降のドル安誘導が終了して過度の円高が進んだことへの是正として1995年4月のワシントンG7で「秩序ある反転」として協調介入が開始されたことがきっかけだった。また2011年10月に75円台まで下落したところからの大上昇はいわゆるアベノミクスと同調した日銀の異次元金融緩和による円安誘導だった。そうした大情勢の変化を伴った時期のドル円の上昇規模と現状を比較するのは時期尚早だが、パンデミックを乗り越えてインフレを伴う景気回復に走る欧米と比較して低成長から脱却できない日本の出遅れ感が現在の円安を招いているという側面もあり、パンデミック渦中の現状及びポスト・パンデミック期の経済成長の弱さを背景に全般的なドル高による上昇感を超えて円の独歩安としてドル円の大上昇が継続する可能性も一抹の不安として抱えていると思われる。
【1990年以降の天井ラインに到達、黒田ラインへの挑戦】
ドル円の月足チャートにおいては1990年4月2日天井160.36円以降、1998年8月11日高値147.69円、2015年6月5日高値125.84円がほぼ1直線でつながっている。30年がかりの上値抵抗線といえるが、2022年1月4日高値はちょうどこの抵抗線に到達したところである。
2016年12月以降の週足レベルの下降チャンネルからの脱却、2015年6月5日天井以降の巨大三角持ち合いからの脱却に続き、1990年以降の30年に及ぶ抵抗線を突破すれば、現在の円安が一段と長期的な観点でスケールアップしてゆく可能性も考えられる。
月足レベルにおける100円前後の下値支持線からの反騰としては、1999年11月26日安値101.22円から2002年1月31日高値135.15円までの上昇幅33.93円、2005年1月17日安値101.66円から2007年6月22日高値124.15円までの上昇幅22.49円がある。2015年6月5日天井も2011年10月31日底からの上昇で100円台を回復したところで小休止となった2014年2月4日安値100.74円からの上昇であった。これらを踏まえれば、2016年12月高値118.65円を超えれば120円台前半、2007年6月の124.15円及び2015年6月の125.84円を目指す可能性が高まるのではないかと思われる。
日銀の異次元緩和による円安が行きすぎだとして米国からの牽制を踏まえて日銀の黒田総裁は2015年6月10日の国会答弁で1ドル125円に到達した状況について「ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは普通に考えればありそうにない」と述べた。これが125円超えを阻止する口先介入と市場は受け止め、「125円=黒田ライン」としてドル円は下落に転じた経緯がある。120円台に到達すれば今回もこの黒田ラインは意識されるだろうが、黒田ラインが市場の過剰反応だったとしたら今回の円安ドル高で黒田ラインが突破される可能性もあるかもしれない。
【中勢レベルの調整規模】
概ね7年から10年周期のサイクルによる上昇期がさらに継続するとしても、一本調子の上昇が続くものでもない。
1999年11月26日安値101.22円から2002年1月31日高値135.15円まで2年強の上昇においては、途中の2001年4月2日高値126.82円まで25.6円の上昇となったところから2001年9月20日安値115.83円までの4か月半で10.99円の下落が入っている。その後の反騰で倍返し近い上昇を実現しているが凡そ4割規模の調整安が入っている。
2005年1月17日底から2007年6月高値まで上昇期においても、当初の上昇が1年近くとなった2005年12月5日高値121.38円まで19.72円の上昇後に2006年5月17日安値108.97円まで12.41円の下落で凡そ6割の下落が入っている。日銀金融緩和による上昇時においても2013年5月22日高値103.73円から同年6月13日安値93.78円まで10円近い下落が入っている。
こうした事を踏まえれば、すでに2021年1月底から1年を経過した現在においても、直近の高値から4割ないし6割押しの調整安が入ってきても不思議ないが、長期的な上昇継続感を踏まえればそうした大きな調整が入ったところも押し目形成となり、次の上昇期へとつながってゆくのではないかと推察される。
現状では概ね80週前後の底打ちサイクル及びそのハーフサイクルである40週前後の底打ちサイクルにおけるピーク期に近い位置にあるため、現状から調整安に入るか、もう一段高してから大きめの調整安に入るのか試される時期と思われる。
【今後の変動要因と円独歩安の可能性】
オミクロン株の感染急増によっても中国以外の主要国はロックダウンには走らずにウィズコロナ政策によりインフレを伴った景気回復を継続してゆく可能性が高い。
ウィズコロナ政策の成否はオミクロン株の重症化率が低く感染急増により一時的な社会インフラ及びサプライチェーンの混乱を招きつつもリセッションには陥らず、うまくゆけばオミクロン株による感染急増後にはパンデミックも落ち着くという可能性にかかっている。その通りならウィズコロナ政策を積極的に推進してきた欧米豪などはポストコロナ下で急成長を遂げる可能性があり、その際には低成長から脱却できない日本の出遅れ感が顕著となり、円の魅力低下による円安、世界的な株高によるリスクオン優勢での円安、インフレ対策による主要国の金融引き締め姿勢との対比による円安がドル円を押し上げてゆくと思われる。パンデミック終息への希望的観測も踏まえればこうした環境の中でドル円も展開してゆくと仮定したい。
しかし、ウィズコロナ政策が失敗する場合、現時点でインフレを伴う景気急回復を遂げている欧米のリセッション入りにより世界不況に入る可能性が懸念される。中国もコロナ対策から抜け出せずに世界景気をけん引できなければサプライチェーンの混乱が続いてインフレが収まらないままでの不況入り=世界規模のスタグフレーションに陥ることも考えられる。その際は株安によるリスク回避的及びクロス円投資の逆流による円高、ドル安ユーロ安の反動での円高となる可能性も考えられる。
ただし、現在における日本の政治経済の脆弱性を踏まえれば、世界的なスタグフレーションの中で日本も景気後退に入り日本売り的な円安となる可能性も考えておく必要があるだろう。欧米では手厚い現金給付や失業対策により賃金の上昇を伴った雇用と景気回復が進んでいる。富裕層はパンデミックの中でも資産を大きく拡大している。しかし日本における現金給付や失業対策はささやかなものにとどまっており、輸入インフレと賃金上昇が鈍いことによる消費低迷が続いている。また世界規模のサプライチェーン停滞は自動車をはじめ輸出産業には打撃であり、日本経済をけん引してゆくに力に欠ける。IT分野においても後手を踏んでおりかつてのバブル全盛期を知るものとしては日本経済の地力低下は嘆かわしいものだ。果たして金融市場全般がリスク回避的な流れへ進む際に、クロス円投資の手仕舞いによる一時的な円高はあり得ると思うが、円の買い戻しが一巡した後には安全資産としての円買いは見られなくなり、逆に日本売り型の円安が進行しても不思議ではないと思う。
【年間の騰落シナリオ】
既に2021年1月底からの上昇も1年を経過している。
週足レベルでは概ね80週前後の底打ちサイクルが40週前後のハーフサイクル2つで構成されているが、現状は40週サイクル及び80週サイクルの騰落リズムにおいていったんは調整期を入れるべき時期に差し掛かっているところと思われる。その上で、概ね7年から10年周期の長期サイクルの上昇基調は継続するとみれば、40週及び80週サイクルによる下落期は長期サイクルレベルにおいては押し目形成であり、その後の上昇により40週サイクルのピーク形成へ向かうというイメージになるのではないかと考える。
1月14日安値で113.47円まで下げたところから切り返し気味の展開だが、このまま115円を超えて続伸に入れば1月4日高値116.34円を超えて120円へ迫る可能性があるが、そこではいったん大きな調整安も入ると思われる。その場合は4月から6月にかけて、直近の高値から5円超規模の調整安が入り、そこを押し目形成期として年後半への上昇で本年末にかけて125円超を目指す上昇へと進むというのが第一のシナリオと考える。
1月4日高値を超えずに現状から調整的なくすぶりに入る場合、3月から5月にかけての調整安で110円割れを試し、そこを押し目形成として次の上昇に入り、年末にかけて120円超えを目指す上昇へと進むというのが第二のシナリオと考える。
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