2021年のドル円相場見通し:『100円割れは通過点。ドル安円高を予想する5つの理由』

2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大や日米トップの同時交代といった歴史的動乱が複数生じたにも係わらず、ドル円相場の値幅は、わずか11円程度に収まりました。

2021年のドル円相場見通し:『100円割れは通過点。ドル安円高を予想する5つの理由』

100円割れは通過点。ドル安円高を予想する5つの理由

<<恒例の「FX羅針盤」の年間相場予想。例年動きの激しい年末年始の相場が終了したあたりで、「FX羅針盤」の執筆者の皆様に年間の相場見通しを書いていただいています。第二弾は日々の海外市況、ドル円ユーロの週次見通し等を執筆いただいている照葉栗太さんの年間予想。円高ドル安です。(編集部)>>

はじめに

2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大(世界的なロックダウン)や日米トップの同時交代(安倍首相退任→菅首相就任、トランプ氏敗北→バイデン氏勝利)、過去最大規模の金融緩和と財政出動、東京オリンピックの緊急中止、原油価格のマイナス化といった歴史的動乱が複数生じたにも係わらず、ドル円相場の値幅は、わずか11円程度に収まりました。

100円割れは通過点。ドル安円高を予想する5つの理由

図表1:ドル円相場の直近11年間の4本値と年間値幅(高値と安値の差)

過去47年間で最も狭い値幅を記録した前年(2019年)よりは幾らかボラティリティが回復しましたが、日本円及び東京市場のプレゼンス低下や、高頻度取引の急増、リスク回避・リスク選好局面でドルと円が同一方向に動く習性(リスク選好のドル売り・円売り、リスク回避のドル買い・円買い)、本邦における経常収支の構造変化の影響などから、ドル円相場の低ボラティリティ化の流れは2021年以降も続く公算が大きいと考えられます。

昨年のレビュー(2020年)

2020年のドル円相場(USDJPY)は、年初108.61で寄り付いた後、@米国・イラン両国が対立激化を望まない姿勢を示したことに伴う地政学的リスクの後退(米国軍によるソレイマニ司令官殺害に端を発した緊張の緩和)や、A米財務省による中国の為替操作国認定・解除(米中関係の改善期待)、B米1月ISM製造業景況指数の良好な結果、C中国当局による大規模な流動性供給(中国主導の景気下支え期待→グローバルなリスク選好ムード)が支援材料となり、2/20に年間高値112.22まで上昇しました。

しかし、D新型コロナウイルスの感染拡大を背景にリスク回避ムードが再燃すると、E世界経済の悪化懸念(OECDによる世界経済見通しの下方修正)や、F上記DEを背景としたリスクアセットの大暴落(投資家心理が急速に悪化→株式市場や商品相場が大きく値崩れし、為替市場ではリスク回避の円買いが殺到)、GFRBによる緊急利下げ(米長期金利の急低下→ドル売り)が重石となり、3/9には、2016年11/9以来、約3年4ヶ月ぶり安値となる101.19(年間安値)まで急落しました。

その後は、H資産現金化需要の高まりを受けたドル買い圧力(リスク回避の円買い以上に、リスク回避のドル買いが殺到)や、I米FRBによる無制限量的緩和の発表を受けたリスク回避ムードの後退(量的緩和拡大→過剰流動性相場再来→米主要株価指数上昇→リスク選好ムード→クロス円上昇→ドル円連れ高)、J米与野党が2兆ドル規模の大型経済対策に合意するとの期待感(米財政赤字拡大を織り込む米長期金利上昇→ドル高)が支援材料となり、3/24には、一時111.72まで急反発する場面も見られました(僅か1ヶ月で10円下がって・10円戻す壮大な往って来い相場)。

もっとも、年央以降は、K米中対立激化(香港)を背景とした地政学的リスクの再燃や、L新型コロナウイルスの第2波・第3波到来を受けた世界経済の減速懸念(ロックダウンの長期化)、M米FRBによる追加金融緩和を巡る思惑(米長期金利低下→ドル売りの波及経路と、米長期金利低下→米主要株価指数上昇→リスク選好のドル売りの波及経路)が重石となり、結局103.21まで値を崩しての越年となっております(ドル指数は約2年ぶり低水準)。

昨年のレビュー(2020年)

図表2:2020年のドル円相場の日足チャート

今年の見通し(2021年)

2021年のドル円相場(USDJPY)は、@新型コロナウイルスの感染拡大、A円の実質金利上昇、B米国で拡大する双子の赤字、C基軸通貨米ドルのプレゼンス低下、D米国のテーパリング観測を背景に、ドル安・円高基調が続くと予想いたします。

ドル円下落要因@:新型コロナウイルスの感染拡大

新型コロナウイルスを巡っては、昨年3月から5月にかけての「第1波」、昨年6月から9月にかけての「第2波」を経て、現在は「第3波」の真っ只中に差し掛かっております。世界各国でロックダウンが再開されるなど、ワクチン普及に伴う楽観ムードは影を潜めつつあります(新型コロナウイルスの早期収束期待が後退)。足元では感染力や致死率が高いとされる変異種が拡大するなど、第4波、第5波へ繋がるリスクも出てきました。

こうした中、市場参加者に警戒されているのが、ロックダウンの長期化懸念です。ドイツ連邦銀行は1/18、「制限措置が再び延長された場合、ドイツ経済は大きく後退する恐れがある」との懸念を表しました。世界各国の政府・中銀による大規模財政出動、大規模金融緩和によって、ここまで辛うじて持ちこたえている世界経済ですが、コロナショックから丁度1年、いよいよ正念場を迎えつつあると言えそうです。

リスクオフ再開のタイミングとしては、主要国のロックダウン期限が集中する2月中旬頃が警戒されます(日本の緊急事態宣言解除予定日2/7、英国のロックダウン解除予定日2/15、ドイツのロックダウン解除予定日2/14、オランダのロックダウン解除予定日2/9)。期限延期を決定する国々が増えた場合、昨年3月のコロナショック時と同様、リスクアセット売りを通じて、リスク回避の円買いを引き起こすリスクが想定されます(事実、英国のボリス・ジョンソン首相はロックダウンが夏頃まで続く可能性を否定せず)。

ドル円下落要因A:本邦の実質金利上昇

菅首相は1/7、約9ヵ月ぶりに緊急事態宣言を発令しました(2020年春以来2度目)。外食・娯楽・旅行産業を中心に日本経済の先行き不透明感が広がる中、物価が持続的に下落するデフレリスクが再燃しつつあります。

事実、総務省が1/22に発表した2020年の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除くベースで前年比▲0.2%と 4年ぶりのマイナスを記録しました。また、1/14に日本銀行が発表した2020年12月の国内企業物価も、前年比▲2.0%と10ヶ月連続のマイナスとなりました。東京オリンピックの再延期も噂される中、デフレ化の流れは一段と強まりそうです。

ドル円相場は日米実質金利(※)差との相関関係が強いことから、本邦におけるデフレ化の流れは、「円の実質金利上昇→円高」の波及経路を通じて、ドル円相場を押し下げる効果をもたらします。

※実質金利(a)=名目金利(b)ー物価上昇率(c)
→デフレになると(c)がマイナスに転じることで、(a)が上昇。(a)の上昇は円高をもたらす効果。

ドル円下落要因B:米国で拡大する双子の赤字

注目された米大統領選ではバイデン氏が勝利し、大統領、上・下院の多数派が全て民主党で占めるトリプルブルーも実現しました。バイデン大統領は1/14、1.9兆ドル(200兆円)の新型コロナウイルス対策案を発表するなど、早くもバイデノミクスの始動が確認されます。

しかし、こうした光の部分の裏側で、米国では着々と「双子の赤字」が拡大を続けています。2020年度の財政赤字は過去最大となる3.1兆ドルを記録し、GDP比15%へ膨らみました。バイデン新政権は更なる財政出動に取り組む構えを見せており、財政赤字は今後も増加の一途を辿ることが予想されます。財政赤字と経常赤字が共に拡大を続ける「双子の赤字」は、ドルの信認低下を通じて、投資家のドル離れを一段と加速させる恐れがある為、構造的なドル売り要因として引き続き警戒が必要でしょう。

ドル円下落要因C:基軸通貨ドルのプレゼンス低下

トランプ米大統領就任後の約4年間に亘る保護主義の結果、米ドルのプレゼンスは大幅に低下しました。バイデン新大統領はトランプ氏が掲げた路線からの脱却を志向していますが、プレゼンス低下の流れは止まらないと考えられます。

事実、「米ドルの不信任度合い」を映す鏡として注目される「金」は、2016年12月に記録した安値1122.7ドルから、2020年8月には、2073.4ドルまで急騰しました(+84.6%)。また、金と共に、米ドルの逃避通貨として注目される「ビットコイン」も、2016年11月に記録した安値670ドルから、2021年1月には41921ドルまで高騰しました(+6156%)。

加えて、足元ではFacebook社によって開発が進められている暗号資産Libra(2020年12月1日よりDiemに名称変更済み)や、中国版デジタル通貨DCEP(Digital Currency Electronic Payment)など、基軸通貨米ドルを脅かす存在が増えつつあります。2021年はCBDC(中央銀行デジタル通貨)元年になるとも言われている為、CBDCの普及を通じて、米ドル覇権の「終わりの始まり」が意識されれば、外国為替市場でドルが一段と売り込まれる展開も想定されます。

ドル円下落要因D:米国のテーパリング観測

次期財務長官候補には前FRB議長のイエレン氏が就任する見通しとなりました。現FRB議長のパウエル氏と馬が合うとの見方が根強く、今後は政府・中銀の一体運営・連携強化が期待されます。こうした中、市場で注目されているのが、バイデン新政権下での金融政策動向です。市場では1/6に公表されたFOMC議事要旨でテーパリングの可能性についての記述があった他、シカゴ連銀エバンス総裁、アトランタ連銀ボスティック総裁からもテーパリングに関する発言があったことから、俄かにテーパリング観測が浮上しつつあります(米10年債利回りは、昨年末時点の0.91%から、本年1/12に1.18%まで急上昇)。

もっとも、パウエルFRB議長は市場でくすぶるやや前のめりのテーパリング観測を抑制する目的で、1/14に「テーパリングの議論は時期尚早」との考えを示しました。また、イエレン次期財務長官候補も、1/19に行われた指名承認公聴会にて、ハト派的なスタンスを滲ませました。この結果、足元でテーパリング観測はひとまず後退する結果となっております。

とは言え、マーケットは先読みの生き物であるため、年後半以降の米景気回復を見越して、予想より早い段階で催促相場に移行するシナリオが想定されます(FRBの意向に沿わない形でマーケットがテーパリングを織り込む相場展開)。この場合、2013年のバーナンキショック(2013年5月に当時のバーナンキ議長が量的緩和の縮小について言及したことを切っ掛けに引き起こされた市場の混乱=テーパー・タントラム)の再来が意識されることから、今回も米長期金利の急騰を通じて、米株や商品市況などリスクアセットがクラッシュし、外国為替市場でリスク回避の円買いが広がる展開が想定されます(今回は前回以上に過剰流動性相場が進んできた為、巻き戻された際のマグニチュードはかなり深刻になると予想)。

まとめ

以上の通り、ドル円相場は、@新型コロナウイルスの長期化懸念や、A円の実質金利上昇、B米国の双子の赤字、C基軸通貨ドルのプレゼンス低下、D米国のテーパリング観測など、ファンダメンタルズ面でのドル安・円高材料が増えつつあります。テクニカル面でも、月足ベースで、強い売りシグナルを示唆する、E一目均衡表三役逆転(ローソク足の一目均衡表雲下抜け、転換線の基準線下抜け、遅行線の26カ月前のローソク足下抜けが全て揃う状態)の点灯や、F200カ月移動平均線(103.85)の下方ブレイク、G弱気のバンドウォーク(ボリンジャーバンド下限に沿って下落を続ける状態)の出現など、地合いの弱さが確認されます。

以上を踏まえ、当方では2021年もドル安・円高基調が続くと予想いたします(6月末までに心理的節目100円を割り込み、年末にかけて95円程度までドル安・円高が進むシナリオを想定。年足ベースではドル円史上初となる6年連続下落へ)。

まとめ

図表3:ドル円相場及び日米10年債利回りの四半期別着地予想

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