円マイナス金利ここまでの議論と影響(導入初日追記)

突然の日銀の「マイナス金利」導入決定、ここまでの議論と市場の反応今後の影響予想をまとめてみました。

円マイナス金利ここまでの議論と影響(導入初日追記)

マイナス金利ここまでの議論と影響

衝撃的な日本のマイナス金利の導入から一週間弱が過ぎ、マイナス金利にまつわるいろいろな動きや論点が明らかになってきています。現在までの影響と今後の見通しをまとめて見ましょう。

マイナス金利の内容と注目点

改めて整理すると、今回日銀が導入したマイナス金利は以下のようなものです。

マイナス金利の対象は民間の金融機関が日銀に資金を預けるときに使用する「日銀当座預金」これを三つの「階層」に分けてそのひとつにマイナス0.1%の金利を適用する。
「階層構造」の仕組み
@基礎残高 プラス金利(0.1%)適用部分(現在約210兆円)
これまで金融機関が預け入れてきた残高部分。具体的には2015年の平均残高までの部分
Aマクロ加算残高   ゼロ金利適用部分 (現在約40兆円)
・所要準備部分・・・預金保護のため金融機関が義務付けられているいわゆる準備預金。
・「貸出支援基金」や「被災地金融機関支援オペ」により供給されている金額。
・適宜のタイミングで日銀が@に掛け目をかけて決めるマクロ加算額
B政策金利残高   マイナス金利(-0.1%)適用部分 (今後の増加分)(追記) 10-30兆円に抑制と2/4日経報道。
上記@Aを上回る部分。




      日銀当座預金の「階層構造」の図(日銀資料より)

      日銀当座預金の「階層構造」の図(日銀資料より)

すなわち、「金融機関は今後増加する預金については制度上必要な部分以外は貸し出しなりに回して現金や日銀当座預金に遊ばせないようにしなさい。」というのが趣旨です。

ここでの注意点として、まずこのマイナス金利の対象が金融機関の一部の預金に対してであること、また、Aのマクロ加算残高の中にタイミングもロジックも明らかでない「マクロ加算額」といわれる部分があり、日銀が金額を調整できる仕組みとなっていることが上げられます。
これは、マイナス金利適用によりまず最初に受け取り金利減少の形で負の影響をこうむる金融機関に配慮したものですが、図で見る限りマクロ加算部分はマイナス金利をゼロ金利に振替えているように書かれていますが、逆にマイナス金利部分を増やす調整を行わないとも書かれていないことから日銀の今後の運用が注目されます。
また、民間金融機関がゼロ金利を嫌い手元の現金を増やすことを避けるため、現金保有額が大きく増えた場合にはその増加分をゼロ金利適用部分から差し引きマイナス金利を適用させることで金融機関の「逃げ道」をつぶしてあります。
黒田総裁はこのスキームを「中央銀行の歴史の中でおそらく最も強力な枠組みだ」と自賛しています。

マイナス金利導入の背景

マイナス金利導入の背景については日銀の説明によれば
原油急落や新興国減速で「物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大しているため」に「量・質にマイナス金利を加えた3つの次元で、追加緩和が可能なスキームとした」というのが公式コメントです。
ただ、同時に発表された展望レポートではインフレ目標2%の到達時期を2016年度後半から2017年度後半へと変更していることからも明らかなように、現状の政策に手詰まり感があったことは事実でしょう。
一方で2月3日に発表となった昨年12月17日18日開催の政策決定会合議事要旨では物価の先行きに関してはむしろ楽観的な見方がなされており、マイナス金利等の議論がなされた形跡はありません。
今回のマイナス金利決定が年初来の中国リスクの高まりや原油急落を受けての市場の持つ「日銀の手詰まり感のイメージを」を打破する緊急対応だったことが伺われます。そして、もうひとつ最近進行していた円買いの動きに対するけん制は明らかに目的のひとつであったと思われます。

マイナス金利の各市場への影響

マイナス金利の発表を受け株価は乱高下しましたが、2月3日現在はほぼ発表前の水準に戻っています。為替も一時121円50銭を抜ける円安となったものの120円近辺まで押し戻されました。
一方債券は継続して買われていて本日現在新発2年債利回りも一時マイナス0.190%、新発5年物国債利回りはマイナス0.135%に低下し、それぞれ過去最低となっています。
現在の市場の混乱の原因の中心が国外要因である以上、一時的に市場は好感しても最終的には影響を及ぼせるのは国内の金利市場のみということがわずか数日で確認された形です。
また、個別には収益環境の中期的悪化が懸念される、ゆうちょ銀行や地方金融機関の株価が下落しています。

その他の反応

債券利回りの低下により、財務省が10年利付きの「新窓半国債」の募集を中止。理由は最終利回りがマイナスとなるためとのことです、また、公社債投信の新規購入受付中止、MMFの受付中止など債券関連の個人向け商品にすでに影響が出ているほか、三菱東京UFJ銀行が普通預金に手数料の設定を検討しているとの報道もされています。

今後予想される影響

マイナス金利の導入による中期的影響に関してはさまざまな議論がされています。
プラス面では
企業向けの貸出や住宅ローンの金利の低下
巨額の資金を必要とする不動産業にとってのプラス効果
円安と株価の上昇
等が挙げられていますが
マイナス面として
金融機関の収益悪化とリスク許容度の低下が融資を増やすことにつながらないリスク
資産バブルの助長
などが議論の対象となっています。
また、一部の金融機関等においては急に決まったマイナス金利の世界に勘定系等のシステムが対応しているか否かが金融システムの安定性という意味からも大きな問題となりそうです。


海外のケース

2012年の夏にデンマークで初めてマイナス金利が導入されたときの衝撃は忘れがたいものがあります。しかし当時は日本が最終的にマイナス金利に踏み込むとは思いませんでした。欧州を中心にすでに何ヵ国もがマイナス金利を導入しており、当初懸念された毒薬的な副作用も今のところはなく、為替レートの上昇防止等に一定の効果が出ているとの見方が大半です。

概して言えることは
マイナス金利の導入後もさらに金利を引き下げているケースがほとんどであること(現状はデンマーク-0.65%、ECB-0.3%、スウェーデン-0.35%、スイス-0.75%等が政策金利マイナスのケース)
個人の預金者への転嫁は進んでいないこと(スイスでは一部の銀行が預金手数料を徴収しているケースもある)
貸出金利がマイナスになることは極めて例外的であること(デンマークでは消費者金融でマイナスをつけたケースが例外的に報告されている)
です。

(追記)
政策金利はデンマークは譲渡性預金、ECBは預金金利、スウェーデンはレポレート、スイスは3m/sLibor(ターゲットレンジ-1.25%から-0.25%)。尚、デンマーク中銀の当座預金は0.0%、スウェーデン中銀の当座預金は-1.1%となっている。

今後の見通し

日銀は本日の黒田総裁の講演においても「必要な場合にはさらに金利を引き下げる」と発言しているとおり。たぶんもう一段のマイナス金利の深まりは今後の可能性として十分あるでしょう。
もう日銀には手段がほとんどないと市場が判断しかけたタイミングで、禁じ手とも言えるマイナス金利を導入した手腕はやはり見事であり、かつ、マイナス金利を許容したことによりある意味無限に緩和の可能性が広がったことは評価できます。
紆余曲折あっても円安、株高、そして経済活動の活発化につながることは十分期待できます。
一方で今のところリスクは低いもののもし、急激なインフレが生じる事態となったときに異次元緩和の巻き戻しを迅速に行うことはできるのか?という議論もそろそろ始めておいてもいいかもしれません。


また、今回やや問題を残したのは、わずか一週間前の参議院決算委員会で黒田総裁がマイナス金利に対し「欧州中央銀行が導入し一定の効果を上げている一方、米連邦準備理事会はマイナス金利を導入せずに経済を回復軌道に乗せたと指摘。日銀としては「現時点でマイナス金利を具体的に考えているということはない」と説明した事実です。
市場との対話とか国会の質疑における虚偽発言?とかは今後の日銀の市場とのコミュニケーションに支障を生じるというか発言にあまり意味がなくなることは避けられないものと思われます。

尚、「FX羅針盤」においても各寄稿者の方に「マイナス金利」をさまざまな形で取り上げていただいています。タグ「円マイナス金利」で一覧できますので、是非ご覧になってみてください。

(追記)マイナス金利適用初日

1月29日に発表された日銀当座預金の一部口座へのマイナス金利の適用が本日より始まりました。
注目された翌日物資金市場の取引においては前日の加重平均0.074%から急低下し0.001%で取引が開始され、その後0%での取引も成立しましたが、マイナス金利での出会いはなかった模様です。
これを受けて横浜銀行が17日移行現在0.02%の普通預金金利を0.001%に引き下げるなど対応した動きも見られました。
日本銀行が突然のマイナス金利政策を発表する前日の1月28日から本日までに日本の金利は全期間で低下、低下幅は足元の0.06%から10年国債の約0.2%までまちまちですが、日銀のイールドカーブの起点を下げることにより全タームの期間を低下させるという目的は果たされているようです。

本日翌日物でマイナス金利の出会いがなかったのは、初日様子見気分が強かったためと、一部の金融機関においてマイナス金利へのシステム対応が間に合わなかったことなどの事情が挙げられていますが、すでにジャパンプレミアム発生時に外銀がスワップで安く調達した円をマイナスで放出した事例や2000年代の前半のゼロ金利政策時にマイナスでの取引が成立した事例があったとの指摘もあり、資金バランス如何では明日以降いずれマイナス金利での取引が成立すると想像されます。

なお、日銀は本日「当座預金のマイナス金利適用スキームを16年1月分の計数に適用した試算値」を公表。これによれば、マイナス金利適用残高は23兆1,940億円で事前に日銀が想定していた10-30兆円の範囲内となっています。

本日のところは日経平均もどうにかプラス件を維持しましたし、今後実際にマイナス金利の適用が開始されることによる資金の動きに期待したいところです。

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