Monthly Market Insights(24/6)短期金利と長期金利、今の円安圧力低減への有効性

4月末から5月前半にかけてドル円相場は大荒れとなった。

Monthly Market Insights(24/6)短期金利と長期金利、今の円安圧力低減への有効性

短期金利と長期金利、今の円安圧力低減への有効性

4月末から5月前半にかけてドル円相場は大荒れとなった。
日本が大型連休入りしていた4月29日の早朝にかけて、ドルは160円台まで上昇したかと思えば、その後、急落に転じ4日後の5月3日には152円割れの水準まで急落している。この一週間弱の高値・安値の値幅は8円を超えた。

テクニカルな観点からも160円は日本のバブル後につけたドルの高値水準であり、節目の水準で止まった。というより為替介入で阻止したというのが正しいだろう。
一方、その後のドルの下げ方もすさまじく、152円を少し割れた水準でようやく下げ止まった。152円は2022年、2023年のドル上昇局面でどうしても超えられなかったドルの高値の水準だ。ドルが上昇する際に壁になった水準が、その後の下値めどになるというのを体現した形となった。
日本が大型連休中の数日間で当面の相場レンジをやりつくした感もある。当面はこの高値・安値のレンジ内での動きが中心になりそうだ。

このドル円相場の乱高下の発端は連休前、4月26日の日銀の金融政策決定会合の結果とその後の記者会見で、為替相場を直接の目的とした政策変更はないことに市場が確信を持ったことがきっかけだった。

しかし、その後は日銀に対して為替相場にももっと目配せをして、継続的な政策金利上げも検討すべきだといった声も強くなりつつある。
日銀は海外向けには強面、国内向けには優男を演じたいのが本音だろうが、非居住者と居住者の間で円という通貨にアクセスできる円資金市場を分断しない限り、その方策を採るのは困難で、日本の資本市場への信認低下にも繋がりかねない。

日銀の追加利上げへの期待は金融市場では徐々に高まってきているようにも思えるが、金利は為替相場のみならず、総合的な経済環境を勘案して決められるべきもので、円安が意識されすぎて金融政策が決定されたのでは虻蜂取らずになりかねない。

3月の政策決定会合ではマイナス金利からプラス金利へ0.1ポイントの短期金利の誘導目標の上方修正がなされた。異次元緩和から普通の金融緩和へというパラダイムシフトの象徴としてのアナウンスメント効果は大きかったが、主要行の短期プライムレート(以下、短プラ)は動いていない。長・短期プライムレート(主要行)の推移 : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)

しかし、政策金利をもう一段上げれば短プラの上がる可能性は高くなる。これは、住宅ローンの借り手の約7割が利用している変動金利型の住宅ローン金利が、今の金利固定期間が終了した際には上がることを意味する。

政府は主要施策の柱のひとつとして、異次元の少子化対策の掛け声の下、子育て世代への支援充実を掲げている。こども家庭庁が今年の3月に発表した試算(子ども・子育て支援金制度における給付と拠出の試算について (cfa.go.jp))では「子ども・子育て支援金」によって、こども一人当たりの給付金改善額は、高校生年代までの合計で146万円ほど拡充される計画案だ。0歳から15歳までの期間は、99万円と年間平均では6万円強の給付増、16歳から18歳への拡充が手厚く47万円と年間平均では15万円強の給付増となる。

しかし、日銀の政策金利上げによって変動型住宅ローンの基準金利が上がれば、子育て世代を直撃する。子育て世代と住宅ローンの借り入れ世代は重なることが多いからだ。
住宅ローン債務の期間や金額にもよるだろうが、政策金利が0.25%X2回=0.5%も上がれば短プラに影響し子育て支援金の増額分は吹っ飛ぶことになる家計も少なくないだろう。
一方、長期金利の上昇に伴い長期プライムレート(以下、長プラ)が上がっても、既に長期固定型で借り入れている人たちは影響を受けない。日本での住宅ローン残高は変動型が固定型より圧倒的に多いので、短プラの上昇よりも子育て世代の家計への影響は軽微に留まるだろう。


そもそも、日本が短期金利を合計で0.5ポイント上げたところで、米ドルと円との金利差を考えれば、米ドルから円へのexchangeを伴う資金フローをどれだけ誘発するかは疑問だ。

むしろ、このところ騰勢を強めている日本の長期金利だが10年債で1%台、20年債で2%台が定着し、水準が安定すれば、負債サイドに長期・円建ての債務を持つバランスシート構造を持っている日本の機関投資家にとっても魅力的な水準となってくるのではないだろうか。
欧米において長短金利が逆転した2022年以降、為替ヘッジ付きで欧米の債券を購入しても逆ザヤになるので、特に生保のように負債のデュレーションが長い日本の投資家にとっては仕方なく為替ヘッジを外して為替リスクを取った形での外債投資の割合を増やしているという投資家もいる筈だ。
米ドルや他の外貨建て資産からexchangeを伴う形での円資産への転換をどうやって誘発するかという観点からは、短期金利より長期金利の秩序ある上昇を誘導する方が為替市場での円買いを誘うように思える。
円のイールドカーブが立てば、円というホーム(home)での運用手段に選択肢が増える一方、アウェイ(away)の市場での外債投資などに頼った運用は減り、日本の金融システムの安定にも寄与するだろう。

長期金利の上昇が国債費の増加に直接、跳ね返ってくる政府セクターは打撃を受けるが、家計・企業・政府の3つのセクターの中で今の円安によって最も打撃を受けているのは家計だ。短期の政策金利を継続して上げてしまっては、家計は益々、委縮してしまう。
政策金利上げよりも国債の買い入れ額の減額の方が、今できる円安阻止策としては機能しそうに思える。

次回に続く

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