2021年の為替相場について
<<恒例の「FX羅針盤」の年間相場予想。例年動きの激しい年末年始の相場が終了したあたりで、「FX羅針盤」の執筆者の皆様に年間の相場見通しを書いていただいています。第六弾はオセアニア通貨や主要国の経済指標解説等を執筆いただいている川合 美智子さんの年間予想です。今年も川合さんが本来得意とされているドル円、ユーロドル、ユーロ円のテクニカル分析をしていただきました。(編集部)>>
(概要)
2020年はCovid19の感染拡大が拡がりを見せ、世界経済の先行きに不透明感が増しましたが、結果的には景気対策が功を奏した1年でした。昨年の年頭はワクチンの開発が順調に進み、ウィルスの感染拡大も年央には収まるとの見方が大勢でしたが、感染拡大の収束は一時的なものに留まり、秋口には欧米を中心に再拡大してワクチン接種の進捗と感染拡大とのせめぎ合いとなりました。現在もこの状況は変わっていませんが、先進国を中心に積極的な財政拡大による追加経済対策や、中央銀行の量的緩和政策による潤沢な市場流動性供給で落ちかけた経済の押し上げを図っており、その効果は堅調な消費行動にも表れています。世界経済はコロナ禍での新たな構造変化に対応する形で製造業の回復と情報技術の発達を促し、株式相場の上昇を齎しました。為替市場はその間も大きな混乱もなく2021年を迎えています。
2021年、為替相場はどう動くのか。世界経済の回復はCovid19次第であり、いつ収束するかに依りますが、バイデン新政権は夏までに全国民のワクチン接種を完了すると宣言しています。ウィルス感染の鎮静化とワクチンの接種が軌道に乗るなら年央以降の経済回復基調が明らかになり、為替相場も各国の実体経済に沿った反応を示すことが予想されます。まずは米国が世界経済回復のけん引役となるのかどうか。実体経済に目が向けられるとすれば、雇用市場、消費、製造業の動向や企業業績を注視する動きが強まると見られます。消費喚起には雇用市場の安定が必須です。
しかし、パウエルFRB議長は現状を「最大の雇用にほど遠い」と判断しています。確かに昨年のコロナ禍で失った雇用は60%程度しか回復しておらず、就業率も停滞し始めています。また経済再開が進んでも雇用環境が変化しているため、大幅改善には繋がらない可能性も高いと見られます。FRBの使命である「雇用市場の最大化と物価安定の達成にはかなりの時間を要すると見られ、2021年も財政拡大路線は変わらないでしょう。また、経済再開が軌道に乗れば、バイデン新政権が増税路線に方向転換する可能性もあり、その場合は金融市場への影響は避けられません。新政権の真価は春以降に問われることになると見れます。
一方、ユーロ圏経済も足元はコロナ禍で厳しい状況が続いています。ドイツは2021年の経済見通しを下方修正しており、他のユーロ圏諸国も同様です。またイタリアの政局不安も足元の不安材料となっています。しかし一方で、昨年12月には1.8兆ユーロの多年度の財政予算の枠組み(2021-2027年、7500億ユーロのコロナ復興基金を含む)に合意しています。これは経済の本格的な再開時に各国の財政出動が求められる中でも重要な役割を担うものと見られます。統一通貨、金利であるEUにとって、昨年7月の復興基金設立は財政統合への試金石となったと考えられます。12月の財政予算の成立は今後のEU全体の結束と対外的な信認にも繋がり、ひいては従来の基軸通貨としての米ドルからユーロへの一部シフトの可能性も高いと見られることから、大局「ユーロ高/ドル安」の流れを予想しています。一方でイギリスの抜けたEUはその結束力を試される場面もあるでしょう。特にメルケル独首相の去った秋口以降の動向にも注意が必要です。
チャートから見た主要通貨の長期トレンド
1.ドル/円相場
ドル/円の長期トレンドを月足で見ると、2015年6月に付けた125.86を高値として上値を切り下げる流れに変わりありません。この125.86を基点とするトレンドライン@の上値抵抗は、109.50-110.00にあります。また、2012年9月の二番底77.13と、2016年6月のイギリスのBrexit宣言時に付けた99.02を結ぶサポートラインからも2018年12月の月足が大きく下抜けて越月しており、新たなドル下げトレンドに入った形となっています(A)。さらに、Brexit時の安値99.02と2019年8月に東京市場で付けた104.85(シドニー:104.46)を結ぶトレンドラインからも下抜けた位置で推移しており、この月足の上値抵抗は107.00〜107.50にあります(B)。一番近いところでは昨年2月に付けた112.23を基点として上値を切り下げる流れにあり、この赤のレジスタンスラインは106.00〜106.50に位置しています(C)。以上から、これらを全て上抜けて越月しない限り、長期トレンドはドル安/円高の流れに変化しません。
個々の月足が下げエネルギーの強いものではないので、ドル急落にも繋がっていませんが、超長期的な下値抵抗は92〜93円ゾーンに位置しており(D)、98円台を割り込んで越月した場合は、最終ターゲットをこの近辺まで見て置く必要があります。逆に可能性がやや低いと見ますが110円台を上抜けて越月した場合は長期トレンドが変化して下値リスクが後退、ドルの上値をトライする流れが強まり易くなります。この場合は114〜115円台の長期的な上値抵抗をこなしつつ、超長期的な上値抵抗が控えている118〜120円をトライする可能性が生じます。しかし、現状は31ヵ月、62ヵ月移動平均線が108.42と109.44に位置しており、その可能性は低いと見られ、下値リスクにより警戒する必要があります。
(ドル/円月足)
週足で中期的な方向性を見ると、2017年1月に付けた高値118.60と、昨年2月に付けた112.23を結ぶレジスタンスラインの下で推移しており、この週足の上値抵抗は110.30〜110.60にあります(@)。また、2016年6月に付けたイギリスのBrexit宣言時の安値99.02と2019年8月に付けた104.85を結ぶ中期的なサポートラインを下抜けた位置で推移しており、このトレンドラインの上値抵抗は107.30〜107.50にあります(A)。さらに、118.60と2018年10月の114.54を結ぶレジスタンスラインは109.30〜109.50に位置しています(B)。
週足で中期的な方向性を見ると、2017年1月に付けた高値118.60と、昨年2月に付けた112.23を結ぶレジスタンスラインの下で推移しており、この週足の上値抵抗は110.30〜110.60にあります(@)。また、2016年6月に付けたイギリスのBrexit宣言時の安値99.02と2019年8月に付けた104.85を結ぶ中期的なサポートラインを下抜けた位置で推移しており、このトレンドラインの上値抵抗は107.30〜107.50にあります(A)。さらに、118.60と2018年10月の114.54を結ぶレジスタンスラインは109.30〜109.50に位置しています(B)。
(ドル/円週足)
2.ユーロ/ドル相場
ユーロ/ドルは、2008年7月に付けた1.6040を高値として上値を切り下げて来た長期的なユーロ安/ドル高の流れから、昨年11月の月足が完全に上抜けて越月しており、長期トレンドに変化が生じています(@)。1月はコロナ感染禍でのユーロ圏経済の足元の弱さを材料に、上値の重い展開となっていますが、トレンドが変化して日が浅いことや、赤の短期的なサポートラインAが1.19台に位置しており、調整的な下げに留まるなら、これを大きく割り込まない可能性が高いと見られます。1.19台を割り込んで越月した場合は、調整余地がもう一段深くなる可能性が生じますが、この場合でも@のトレンドラインの下値抵抗が1.17台前半にあり、これを大きく割り込まない可能性が高いと見られます。一方上値は、1.23〜1.25ゾーンに月足の横レジスタンス(B)が控えており、何度か失敗する可能性がありますが、1.25台にしっかり乗せて越月した場合は1.30台方向への一段の上昇に繋がり易くなります。31ヵ月、62ヵ月移動平均線は1.1383と1.1375に位置しており、長期トレンドが強い状態にあることを示しています。
(ユーロ/ドル月足)
週足でもう少し近場のトレンドを見ると、2018年2月に付けた1.2555を起点として上値を切り下げて来た流れから、昨年7月第3週の週足が上抜けており、中期トレンドに変化が生じています(@)。また、下値も3月に付けた1.0636の直近安値と、立ち上げの基点となった5月の1.0775を結ぶサポートラインが1.14台に位置しており、中期的なサポートとなる可能性が高くなっています(A)。もう少し近い所では1.0775を基点として下値を切り上げて来た赤のサポートラインが1.1990-00に位置しており、これが短期的な下値抵抗として働いています(B)。
これを割り込んで越週した場合は、調整下げ余地がもう一段拡がり易くなりますが、この場合でも中・長期トレンドが強い状態を維持していることから、急落地合いともなり難いと見られます。前述の通り、1.1900割れで越月した場合は下値余地が若干拡がり易くなりますが、この場合でも週足ベースで見た横サポートが1.1800〜1.1600ゾーンに散在しており、1.1600割れで越週しない限り、深い押しにも繋がり難いでしょう。また、1.25台に乗せて越週した場合は新たな上昇トレンド入りの可能性が高くなり、一段のユーロ上昇に繋がり易くなります。31週、62週移動平均線は1.1860と1.1443に位置しており、中期トレンドは“ユーロ強気”の流れに入っています。
(ユーロ/ドル週足)
3.ユーロ/円相場
ユーロ/円は2008年7月に付けた169.97を起点として上値を切り下げて来な長期的なユーロ安/円高トレンドに変化が認められず、この月足の上値抵抗は130.00〜130.30にあります(@)。また、2012年7月に付けた94.12の大底と2016年6月のBrexit時の安値109.57を結ぶトレンドライン(A)が1/28現在127.30-40に位置しており、これを上抜けきれていない状態です。一方で、2018年2月に付けた137.50を基点とする中期的なレジスタンスラインを昨年6月足が上抜けて越月しており、中期トレンドは“ユーロ強気”の流れに入っています(B)。
現状は昨年5月に付けた114.43を直近安値とする赤のサポートライン(C)が124.50〜125.00ゾーンに位置しており、下値抵抗として働いていますが、124.50を割り込んで越月した場合は一段の下落に繋がり易くなります。この場合でも長期的なサポートライン(D)が116円台後半に位置しており、簡単には下抜けないでしょう。31ヶ月、62ヵ月移動平均線は 123.41と124.45に位置しており、長期サポートとして働く可能性が点灯中ですが、124.50割れで越月した場合は“ダマシ”に終わる可能性が生じます。
(ユーロ/円月足)
一方週足で近場のトレンドを見ると、2018年2月に付けた137.50と同年9月に付けた133.13を結ぶ右肩下がりのトレンドラインから2020年7月第3週足が上抜けており、中期トレンドに変化が生じています(@)。さらにこの137.50と昨年9月に付けた127.08の戻り高値を結ぶトレンドラインからも上抜けた位置をキープしており、この週足の下値抵抗は125.50-60にあります(A)。一方下値は、2020年5月に付けた114.43を基点として下値を切り上げており、この赤のサポートラインは124.80-90にあります(B)。
現状は月足の上値抵抗が127.30-40にありますが、これを上抜けて越月した場合は、130円トライの可能性が点灯します。逆に124.50割れで越週した場合は、短期トレンドが変化して一段の下落に繋がり易くなります。この場合は調整局面入りとなりますが、中期トレンドが強気の流れに入っていることから、ユーロの急落地合いともなり難く、122〜123円台を大きく割り込まない可能性も高くなります。31週、62週移動平均線は124.54と122.06に位置しており、中期トレンドをサポート中です。
以上から、短期トレンドは“ユーロ強気”の流れにあります。127.50超えで越週した場合は130円トライへ。130.50超えで越月した場合は長期トレンドも変化して一段の上昇に繋がり易くなります。逆に124.50割れで越週した場合は短期トレンドが変化して122円円前後にある強い抵抗をトライする動きが強まり易くなりますが、中期トレンドが強い状態にあるので、調整的な下げに留まり、121〜122円台を大きく割り込まない可能性が高いと見られます。
(ユーロ/円週足)
オーダー/ポジション状況
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