米国大統領選挙について(2)
11月3日に予定されている米国大統領選挙は同時に米国上下院の選挙も行う本選挙である。
そのほかに2年ごとに中間選挙がある。中間選挙では下院議員の全員の改選、上院議員の3分の1が改選される。
今回の本選挙では大統領、下院議員全員、上院議員(総数100名)の3分の1の33名の改選が行われる。上院議員は50州から2名ずつ選ばれ任期は6年となっている。
勿論大統領選挙は大事であるが、上院議員選挙も大事である。
なぜ上院議員選挙なのか
現在上院は共和党53人対民主党47人で共和党が多数党である。
上院の大事な使命はもちろん法律の作成であるが、それ以外に判事、閣僚、外交官に関する大統領指名者を上院で審査して、指名の確認(コンファメーション)をおこなうことである。
その中でも最重要なものは最高裁判所判事のコンファメーションである。
米国の最高裁判所判事には定年がない。判事自身が判断して引退するか、死亡するかでなければ、何人も判事を罷免することができない。
また最高裁では判事が保守派とリベラル派に分かれ、多くの判決で正反対の意見を述べて、最終的には投票で多数決するケースも多い。米国のように保守とリベラルがあらゆる問題で絡み合っている国では、最高裁判事の構成は大事である。
合計9人の判事(長官も入れて)の現在の構成は、トランプ政権が二人の保守派を加えた結果5対4で保守派有利の構成になっている。
劣勢にあるリベラル派(主に民主党の政策に同情的)は、何とか次の選挙で民主党の大統領を選出し、その大統領が指名するリベラル系の判事を上院がコンファームして、保守対リベラルをリベラル有利の構成にひっくり返すことが大事である。
いまリベラル系の最年長の判事は女性のギンズバーグ判事で、87歳である。
彼女はこの数年間で、癌の手術を2回、転んで骨折を2回と満身創痍であるが、引退しないで(引退するとトランプが保守系の判事を指名する)頑張っている。彼女をやめさせることは誰にもできない。
大統領が民主党のバイデンになっても、上院が共和党多数では、リベラル色の強い判事の指名が難しくなり、せいぜい保守ではないが、それほどリベラルではない中間派の判事の指名に終わる可能性がある。そうするとギンズバーグはバイデンが勝っても引退できない可能性が出てくる。ギンズバーグが引退しても、後任にリベラル系の判事を任命するためには、民主党は今回の選挙で上院多数を制することが、大統領選挙と同じぐらい大事なことなのである。これから何十年にわたる米国の政治思潮を決定づける最高裁判事の構成は4年ごとに変わり得る大統領と同様あるいはそれ以上の重大事なのである。
今回の上院選挙
上院議員の任期は6年なので、今回改選される議員は2014年の中間選挙で選出された人たちである。2014年の中間選挙は、8年大統領をやったオバマ大統領の最後の選挙であり、民主党人気は最悪であった。その結果2014年選出された上院議員は共和党23人、民主党10人の合計33名である。
したがって今年の上院選挙で共和党改選者は23議席、民主党は改選10議席となる。
民主党が上院を制するためには、現職の10人を再選させたとして、共和党の23議席を19議席まで減らす必要がある。そうすると民主党が51対49で多数を制することになる。
多数を制するのが難しければ、50対50の同数に持ち込むことが次の目標である。
上院の決定は賛否同数の場合は、上院議長が決定票を投ずることになる。
上院議長は副大統領がなるので、バイデンが大統領選で勝てば、上院は同数でも、議案で多数を制することができる。
いまの民主党本部の見方では再選候補の民主党議員のうち1人は再選が難しいとみており、そうなると、共和党の23議席のうち4議席をひっくり返すと、共和、民主両党が同数で並ぶことになる、
共和党改選議員の中にはオバマ人気が最低の時に滑り込みで当選した議員も何人かおり、tossup(バスケットボールの試合開始でボールを上に投げ上げ攻守を決めること−すなわちやってみなければわからない勝負)が4選挙ほどあるといわれている。
まだ5カ月あるので何とも言えないが、民主党が上院を制する可能性が高まっているというのが一部専門家の見方である。
筆者の希望的観測では、民主党が大統領、上院、下院を制して、米国の政治経済思潮の流れが変わると考えている。
コロナウィルスと郵便投票をめぐる論争
コロナウィルスの影響下での投票活動の危険性に留意して、郵便による投票を検討中の州が多い。つまり郵便による投票を希望する人のためにあらかじめ選挙管理委員会が、投票登録者に、メイル投票依頼書を送って選挙させる方式である。
これに対してトランプは絶対反対と打ち上げている。選挙詐欺(Voter Fraud)が横行するからというのが彼のいい分である。
共和党は昔から、黒人その他マイノリティーの選挙活動を妨害してきた。
どうしても民主党に傾きがちなマイノリティーの投票を押さるために、選挙できる資格を必要以上に厳格にする。あるいは貧しくて車もないこの人たちが投票しにくいように、投票所の数を抑える。(直近のウィスコンシン州ミルウォーキーでは60万人の大都会に5か所しか投票所を設置しない)
米国には戸籍制度がないので、投票資格があいまいで、選挙管理委員会が、送ってくる選挙の入場券もいい加減なものが多い。例えば拙宅にはなぜか二人しかいないのに、3人分の入場券が送られてくる。つまり一人で2回投票できるようになっている。大NY市のマンハッタンでそうだから南部の田舎の州の田舎などではまともに選挙管理されているはずがない。
それをよいことに、州によっては(知事が共和党の州)、自動車運転免許がないと投票させないという憲法違反が横行している。これをVOTER SUPPRESSION(投票者抑圧)と呼んで共和党の常とう手段である。
一方で共和党は民主党の選挙詐欺を言い募っている。これが日本占領時、日本に民主主義を教えに来たと豪語した国かとあきれてしまうが実情である。
1960年代の公民権運動でマイノリティーの権利を保障したことが、それを嫌う南部白人の共和党シフトを呼んだが、本来の建前とは別の本音の部分では圧倒的な人種差別がいまでも選挙妨害の形で実施されているのである。
今回の郵便投票をめぐる論争はみんなが投票できるようになれば、圧倒的に不利になると考えているトランプ以下共和党幹部が選挙詐欺を口実にして、公正な且つ感染リスクのない投票方法に反対するという異例の事態になっている。
トランプのこうした選挙妨害は予想できるが、民主党幹部のアンティ・トランプシナリオで究極のトランプの詐術としての選挙の延期を懸念しているという記事がNYタイムズに出ている。選挙に勝つためには何でもするという男を相手に法治国日本では考えられない無法が罷り通る可能性を民主党は心配しているらしい。
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