【概況】
〇トルコリラ円は5/7の14円台への暴落から7連騰5/18朝も15.55へ上値を拡大している
〇世界的な新興国通貨安の一服でトルコリラも戻しているが下値警戒感は継続
〇トルコでの感染者の爆発的拡大は収まっているが、経済への影響はこれから
〇今週発表の消費者信頼感指数や設備稼働率に注目
〇5/21の中銀会合で9会合連続利下げに踏み切るか注視
〇トルコ政府がリラの急落に備えて日本や英国、中国、カタールに通貨スワップを通じた支援を打診したと報じられたが、米国は既に応じない方針で外貨準備が減少しているトルコ政府の通貨防衛には限界も
注:ポイント要約は編集部によるものです
トルコリラ円は5月7日午後に14.61円へ続落して史上最安値を更新したが、暴落一服で当日から7日連続の日足陽線で反発している。5月14日に15.53円まで戻り高値を切り上げて15日は取引時間中の高値更新には至らなかったが終値ベースでは前日から続伸した。
週明けの5月18日朝には15.55円まで高値を切り上げてきている。
対ドルでのトルコリラは5月7日に7.27リラの史上最安値まで大幅下落して2018年8月のトルコ通貨危機時の安値7.23リラを超える下落となったが、その後は売り一巡から反騰に入っており、5月7日当日から15日まで7日連続でドル安リラ高へ戻している。
【通貨危機を回避できるか】
トルコリラ円が史上最安値を更新し、さらに対ドルでも史上最安値を更新したリラ安発生の背景は(1)新型コロナウイルスの感染拡大に伴う新興国通貨全般への売り圧力、(2)トルコ自身の感染拡大と経済活動停滞、(3)トルコ中銀による8会合連続での利下げによるマイナス金利状態、(4)外貨準備高の減少による通貨防衛力への懸念等であった。
トルコリラ円で15円を割り込む大幅下落となったこと、対ドルでも2018年8月の通貨危機時の安値を更新したことにより、売られ過ぎの反動で戻しているが、これでトルコリラ安が落ち着いたとは言えず、新たな通貨危機への警戒感を抱えたままといえる。
(1)コロナショックによる金融市場の動揺が新興国への投資マネーを逆流させ、特に財政金融体力の弱い通貨が暴落的に下げてきた。代表格がブラジルレアルであり、5月8日に対ドルでの史上最安値を更新したが、その後は新たな安値更新を回避している。格下げの影響もあって3月から暴落していた南アランドは4月6日に対ドルでの史上最安値を更新した後は1ドル18ランド台を中心として最安値圏での持ち合いとなっているものの新たな安値更新を回避している。タイバーツやインドネシアルピア等は3月に急落したもののその後はかなり反騰している。G7によるドル資金の協調供給や各国の金融緩和によりドル資金需給ひっ迫が一服していることで新興国通貨安も一服しており、その中でトルコリラ安も一服しているといえる。
(2)トルコの感染拡大はひとまず爆発的増加からは脱却しているが、経済指標の悪化はこれからさらに顕著になってくると懸念される。5月14日に発表された3月のトルコ鉱工業生産は前年比マイナス2.0%で2月のプラス8.5%から大幅に悪化となり、前月比はマイナス7.1%でリーマンショック時の2009年1月のマイナス6.0%を超えた。3月の小売売上高は前年比マイナス0.2%となり2月のプラス11.7%から急落したが、前月比はマイナス8.1%で2018年9月のトルコ通貨危機時のマイナス6.6%を超えた。トルコの感染発生は3月中旬から急増し始めてピークは4月だが、その後に4週連続の週末ロックダウンを行い経済活動の自粛は続いている。今週は消費者信頼感指数や設備稼働率の発表もあるので注目される。
(3)トルコ中銀は8会合連続で利下げを実施してきたが、5月21日の会合で9会合連続利下げに踏み切るかどうか注目される。すでに消費者物価上昇率を下回る政策金利のために実質マイナス金利状態に陥っている。経済対策的な利下げを優先するか通貨危機回避で利下げを見送るのか注目されるが、利下げ継続ならリラ売り圧力がさらに強まる可能性もあると注意する。
(4)5月14日にロイター通信社は高官筋の話として、トルコ政府がリラの急落に備えて日本や英国、中国、カタールに通貨スワップを通じた支援を打診したと報じた。5月13日にダドリー元ニューヨーク連銀総裁が電話インタビューに答えてこの問題に言及しているが、米連銀(FRB)がトルコの外貨不足を支援する可能性は低いという。米国との関係が悪化している国にスワップ枠を供与するとは考えにくいということだ。米連銀は今年3月に新型コロナウイルスの感染拡大による影響を踏まえてブラジル、ニュージーランド、韓国などと新たにスワップ協定を締結したが、その際にトルコは対象外とされている。
トルコの外貨準備高(金塊を除く)は2月末に770億ドルだったが4月10日時点で560億ドルに落ち込み、5月1日時点では514億ドルへ減少したが、1年以内に返済期限を迎える短期対外債務は約1700億ドル相当とされるため、リラ安がさらに加速する場合にドル売りリラ買い等による通貨防衛力には限界もあるだろうと懸念されるところだ。
【トルコ国内の感染者増ペースは鈍化を維持】
5月17日時点での世界の感染者数は479万人を超え、死者は31.6万人を超えた。米国は152万人を超え、死者も9万968人に増えた。ロシアは28万人を超えてスペインを抜いて米国に続く第二位となった。ブラジルも24万人を超えてイタリアを抜いて英国に続く世界5位となった。
トルコの感染者数は5月17日時点で前日比1386人増の14万9435人、死者は44人増の4140人となった。17日の検査数は3万3369人に行われている。退院は1825人で回復者の累計は10万9962人となった。感染者増加数は4月11日の5138人増をピークに減少傾向にあり、5月7日以降は2000人を切った状況を続けている。
トルコ共和国文化観光省のメフメト・ヌーリ・エルソイ大臣は、「新型コロナウイルス対策により多くの国で状況が改善されている。問題が起こらなければ、5月28日頃に国内観光を開始し、6月中旬以降に一部の国からの観光客の受け入れを開始することを考えている」と述べた。感染爆発が落ち着いてきたことでアフターコロナを目指す動きも出ているところだ。
【当面のポイント、3月反騰と同率とすれば】
トルコリラ円は概ね4か月周期の底打ちサイクルにおいて1月6日底から4か月目となる5月7日安値で底を付けて反騰入りしている状況にある。2018年8月のトルコ通貨危機後は2019年1月3日底、同年5月9日底、同年8月26日底、2020年1月6日底と底打ちしてきた。今回の上昇もこのサイクルの底打ちによる上昇と考えられる。
前回の1月6日底18.11円から1月17日高値18.82円までの上昇は3.9%。中間反騰だった3月8日安値16.26円から3月25日高値17.44円までは1.18円、7.3%の上昇だった。今回の上昇を3月25日への中間反騰並みとすれば同じ上昇幅で15.79円、同じ上昇率なら15.67円と計測されるが、すでに15.55円まで上昇してきているので現状から16円手前にかけてのゾーンは戻りの抵抗圏になりやすいところと思われる。
1月6日底からの上昇は1月17日まで、3月の反騰も3月25日までといずれも短かった。今回も同様の短期的な反騰に終わる可能性もあるとすれば、15円を割り込んでくるところからは下げ再開と、次の4か月サイクルレベルの下落期へ向かう可能性も考えておく必要がある。5月21日のトルコ中銀金融政策発表に対する市場反応も注目されるところだ。
以上を踏まえれば、中勢としての当面は、15円以上を維持するうちは4か月サイクルのリバウンド期の継続として16円手前を目指す可能性があると考えられるが、15.67円以上は反落警戒圏とし、15円割れからは下げ再開を警戒して5月7日安値14.61円を目指す展開を想定する。
【当面の主な経済指標等の予定】
5月20日
16:00 5月消費者信頼感指数 (4月 54.9、予想 47.0)
19:30 4月自動車生産 前年比 (3月 -21.8%、予想 -84.0%)
5月21日
20:00 トルコ中銀金融政策決定会合(TCMB) (現行 8.75%、予想 7.75%)
5月22日
16:00 5月景況感 (4月 66.8、予想 55)
16:00 5月設備稼働率 (4月 61.6、予想 57.0%)
16:00 4月観光客数前年比 (3月 -67.8%、予想 -97.0%
5月28日
16:00 5月経済信頼感指数 (4月 51.3)
5月29日
16:00 1−3月期GDP 前年比 (前期 6.0%)
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