【概況】
トルコリラ円は新型コロナウイルスの感染拡大によるリスク回避で2月3日朝安値18.07円まで大幅下落したが、その後は株式市場の持ち直しにより2月6日高値18.36円まで戻した。しかし2月7日夜の米雇用統計発表からのドル高局面でテクニカルな売りの連鎖となり7日深夜には18.08円まで急落した。7日夜の急落を一時的なものとして2月10日高値18.33円まで再び戻したものの、その後はシリア情勢の深刻化を背景に11日夜、12日深夜と安値を切り下げて2月7日深夜安値に迫ってきていた。
中国湖北省政府が2月13日午前に新型コロナウイルスによる肺炎の死者が前日より242人増え1310人になったと発表し、統計の採り方を変更したとしたが、中国本土の死者数が1368人、確定診断が59883人に大幅増加したことでリスク回避感が再び強まり、発表直後にダウ先物が急落、ドル円も110円を割り込んで円高となり、トルコリラ円も12日深夜安値を割り込んで続落に入り、13日夜には18.06円を付けて2月7日深夜安値18.08円及び2月3日安値18.07円を割り込んだ。13日深夜は突っ込み警戒感から18.10円台後半へ戻しているが、2月3日安値を割り込んだことの意味は大きい。
新型コロナウイルスの感染拡大問題では、トルコには今のところ感染者発生は報告されておらず大きな影響は出ていないが、日本においては横浜寄港のクルーズ船での感染拡大が止まらず、国内でも感染経路不明の感染者が増加し始めるなど深刻さを増している。中国も感染拡大状況についても13日に統計が大きく変更されたため、前日までの感染者拡大ペースの鈍化による先行きの収束期待が大幅に後退し、実態はさらに悪いのではないかとの疑念も増えている。
感染拡大問題に対してかなり楽観的だった株式市場も慎重な姿勢へ傾斜しやすくなっているが、NYダウは先週末も前日に史上最高値を更新してから反落しているため、今週末も週をまたいでの持ち越しリスクを敬遠して売られやすい状況かもしれない。
ドル/トルコリラはシリアにおけるアサド軍とトルコ軍の軍事衝突発生によるドル買いリラ売りで2月12日深夜に6.0658リラへ急騰して2月7日高値を上抜いた。13日は新たな高値更新へは進んでいないが6リラ台の高値圏を維持している。
イスタンブール100株価指数は13日に前日比0.41%高と上昇して11日からは3連騰となっているが、2月6日から反落した状況にとどまり、13日は12日の高値を超えられない程度にとどまった。
シリア情勢はドル/トルコリラやトルコリラ円でのリラ安要因となっているが、トルコ株式市場に対しては上値を抑えているもののまだ深刻な売り材料には至っていないようだ。
2月13日に発表されたトルコの12月鉱工業生産は前年比8.6%増となり、11月の4.9%増から上昇した。12月の小売売上高は前年比で11.0%増となり11月の10.5%増を上回ったが、前月比は1.1%増にとどまって11月の1.9%増を下回った。経済統計への市場反応は軽微だった。
【シリア情勢】
トルコのエルドアン大統領は13日、所属する公正発展党AKPの院内集会において、シリアのイドリブ地方における監視地点またはその他の場所にいるトルコ兵がほんのわずかでも被害を受けた場合、今日からイドリブおよびソチ覚書の制限を無視して政権軍をあらゆる場所で撃つことをここから表明すると述べた。
シリアのアサド政権軍とトルコは2月3日のアサド政権軍によるトルコ軍への砲撃で死者が発生、トルコ軍が同日にシリア軍勢力に対して54か所へ報復空爆をおこなった。これは2011年にシリア内戦が始まって以来の両軍衝突であり、今年1月12日にアサド政権を支援するロシアとトルコの間で締結された停戦合意に反するものだった。トルコにはロシア、米国などからの外交接触があるものの事態打開には至っていない。
アサド政権軍にとっては反政府勢力の最後の拠点であるイドリブ県サラケブを掌握すればほぼシリア全土を軍事的に制圧することになり、内戦勝利を宣言できる状況となる。イドリブ県には数十万人の難民も存在し、シリアと国境を接するトルコが反政府勢力の同地区の拠点を支援している。
2月10日にも大規模な衝突が発生しており、2011年以降では最大の両軍衝突状態となっている。
2月11日にトルコ軍がアサド政権軍のへリコプターを地対空ミサイルで撃墜し、反政府勢力がイドリブ県ナイラブ村を一時奪還したがシリア軍が再び奪還するなど激しい攻防が続いている。またシリア駐留のロシア軍がトルコ軍車列に爆撃を加えたとの報道もあった。
シリアのアサド政権と支援するロシアとイラン、反政府勢力を支援するトルコという軍事関係とともに、トルコはロシア製兵器の調達やロシアの天然ガスをトルコ経由で欧州へ供給するトルコストリームでロシアと協力関係にあり、天然ガス問題ではシリアやイランと対立するイスラエルとトルコは敵対関係にある。トルコを巡る地政学的状況は複雑極まりなく、市場もよほどのことでなければ慣れた反応となるようだが、アサド軍とトルコ軍の全面戦争化へ進む懸念が強まるようだと市場の有事リスク不安も一段と拡大すると注意したい。
【60分足一目均衡表・サイクル分析】
概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、2月3日朝安値から5日目となる2月7日深夜安値で直近のサイクルボトムを付けたが、2月7日深夜安値から反騰した後はレンジ縮小型の持ち合いとなっていたため、12日朝時点では既に10日午後高値でサイクルトップを付けた可能性があるとした。2月13日夜へ続落して2月7日安値を割り込んだが、その後は戻しているため、2月13日夜安値を直近のサイクルボトムとする。トップ形成期は13日から17日にかけての間と想定されるので14日の日中から17日午前にかけてはまだ上昇余地があると思われるが、13日夜安値を割り込むところからは新たな弱気サイクル入りとして18日夜から20日夜にかけての間への下落が想定される。
60分足の一目均衡表では2月12日深夜への下落で遅行スパンが悪化、先行スパンからも転落したが、13日深夜の反騰で遅行スパンは好転しつつある。このため遅行スパン好転からは高値試し優先とし、先行スパンを上抜く場合は上昇に勢いがつく可能性があるとみるが、遅行スパンがいったん好転した後に再び悪化するところからは下げ再開と考える。
60分足の相対力指数は50ポイント台へ戻しているが、横ばい推移にとどまっている。60ポイント台では戻り売り圧力もかかりやすいとみて、40ポイント割れからは下げ再開と考える。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、18.13円、次いで2月13日夜安値18.06円を下値支持線、18.20円、次いで12日夕高値18.28円を上値抵抗線とする。
(2)18.13円以上での推移中は上昇余地ありとし、18.20円超えからは12日夕高値手前を試すとみる。18.25円以上は反落警戒とするが、18.15円以上での推移なら週明けも高値を試す余地が残るとみる。
(3)18.13円割れからは下げ再開注意として13日夜安値試しを想定し、底割れからは1月6日安値17.94円まで下値目途を切り下げる。1月6日安値を割り込まなければ上昇再開の可能性も残るが、1月6日安値を割り込む場合は4か月サイクルレベルでの底割れとなるため、その後の下げが加速し、下落期が長期化する可能性が懸念され、17円台中盤へ下値目途が切り下がることも懸念される。
【当面の主な経済指標等の予定】
2月14日
16:00 12月経常収支 (11月 -5億1800万ドル)
2月19日
20:00 トルコ中銀政策金利 (現行 11.25%。予想 11.00%)
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