【概況】
トルコリラ円は新型コロナウイルスの感染拡大によるリスク回避感での円高と同調して2月3日朝安値18.07円まで大幅下落したが、その後は株式市場の反騰によりリスク回避感が緩んだとして2月6日には18.36円まで戻した。
2月7日夜の米雇用統計発表からのドル高局面で、テクニカルな売りの連鎖により7日深夜には18.08円まで急落、直後の買い戻しから2月10日高値18.33円まで戻したが、その後は11日夜、12日深夜と安値を切り下げて2月7日深夜安値に迫ってきている。
2月12日夜はシリア情勢の緊張によりドル高リラ安が進行したために18.11円まで下落した。13日朝も戻りは鈍く、シリア情勢の緊張拡大により2月7日安値を割り込んで一段安入りする懸念も強まってきている印象だ。
【シリア情勢緊張、ドル高リラ安進む】
2月12日深夜にドル/トルコリラは6.0658リラへ急騰して2月7日高値を上抜いた。1月30日への上昇で1月8日高値を上抜いて昨年8月以降の高値を更新していたが、2月7日、12日とさらに高値を更新してきている。
新型コロナウイルスの感染拡大問題によるリスク回避感で新興国・資源通貨が売られてきた流れに加え、米国株高を背景にメジャー通貨においてもユーロが対ドルで年初来安値を更新するなどドル高感が強まっていたが、さらにシリア情勢を巡る有事リスク拡大がリラ売りを加速させている。
ドル/トルコリラはトルコ通貨危機の発生した2018年8月に7.2349リラの最高値(リラからは最安値)を付け、通貨危機収束で2018年11月には5.1220リラまで反落した。しかしその後はドル高リラ安基調が続き、2019年5月に6.2456リラの高値から2019年8月安値5.4420リラまで調整安を入れてからも上昇再開となり、2月12日への続伸により2019年5月高値に徐々に迫ってきている。
当然ながらこのドル高リラ安がトルコリラ円にも大きなプレッシャーとなっている。
トルコ株式市場への影響はまだ限定的で、NYダウ等の史上高値更新の流れに乗って2月11日から12日へ連騰したが、12日は高値から1%強の下落で前日比0.21%高まで上昇率を削っている。
【シリア・ロシア軍とトルコ軍が衝突】
シリアのアサド政権はロシア、イランが支援し、反体制派は米国など西側とシリアとの国境を接するトルコが支援しているが、米軍がシリアでの軍事プレゼンスを縮小させる中でアサド政権軍が勢力を拡大してきた。
シリア北西部ではシリアのアサド政権を支援するロシアとトルコが今年1月12日に停戦で合意していたが、その後は停戦が履行されていない状況が続いてきた。
2月3日にシリア北西部のイドリブ県でトルコ軍がシリアのアサド政権側から砲撃を受け、トルコ軍が同日にシリア軍勢力に対して54か所を報復空爆した。2011年のシリア内戦開始以降、アサド政権軍とトルコ軍の正規軍同士の大規模衝突は初めてだった。
シリアのアサド政権軍は2月5日にシリアにとっての反体制派の拠点であるイドリブ県の要衝サラケブに進軍していたが、2月8日にシリア国営放送はシリア軍がサラケブを完全掌握したと報じた。
2月10日、シリア北東部イドリブ県でシリアのアサド政権軍による砲撃によりトルコ兵士5人が死亡、5人が負傷した。これに対しトルコ軍は同日に大規模な報復攻撃を行い、トルコ国防省によると標的115カ所を攻撃して101人を殺害したと発表した。
トルコは2月10日に首都アンカラでシリアを支援しているロシアと協議したが、その後にトルコ政府は「トルコ軍への攻撃は受け入れられず報復を継続する」との声明を発表している。
これまでのシリア紛争ではシリアとトルコの正規軍同士の大規模衝突は発生してこなかったため、シリア・トルコ国境での両軍衝突という新たな緊張局面に入ってきていると思われる。
2月11日は状況がさらに悪化した。
トルコ軍はシリアのイドリブ県でアサド正規軍のへリコプターを地対空ミサイルで撃墜、シリア側のメディア報道では3名が死亡した。
シリア反政府派の自由シリア軍等がトルコの砲撃支援を受け、イドリブ県ナイラブ村を一時奪還したがシリア軍が反撃してこれを奪還した。
アサド軍を支援するロシア軍は幹線道路沿線を爆撃。ロシア軍戦闘機はアレッポ県等でトルコ軍の車列を爆撃した。これらの攻撃で死傷者が出ており、トルコ軍のヘリコプターが負傷者をトルコ国内に搬送したと報じられているが、負傷者がトルコ軍兵士かどうかは未確認。
アサド軍戦闘機も各所で広範囲な爆撃を行い、トルコ軍も反撃した。
シリアのアサド政権軍はシリア反体制派最後の拠点である北西部イドリブ県へ軍事進攻しており、反体制派を支援するトルコ軍と衝突を繰り返し2011年のシリア内戦突入以来では最大規模の交戦状態となっている。アサド政権軍がイドリブ県を奪還すればほぼ全土の掌握となり事実上の内戦勝利となる。トルコと反体制派は窮地に追い込まれているといってよい状況だ。
【60分足一目均衡表・サイクル分析】
概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、2月3日朝安値から5日目となる2月7日深夜安値で直近のサイクルボトムを付けたが、2月7日深夜安値から反騰した後はレンジ縮小型の持ち合いとなっていたため、12日朝時点では既に10日午後高値でサイクルトップを付けた可能性があると指摘した。
2月12日深夜への下落で2月7日朝安値に迫っているため、2月10日午後高値を直近のサイクルトップとした弱気サイクル入りとする。ボトム形成期は12日夜から14日深夜にかけての間と想定されるので、すでにボトムを付けての反騰注意期に入っているが、2月12日夕高値18.28円を超えないうちは一段安余地ありとし、新たな強気サイクル入りは12日夕高値超えからとする。
60分足の一目均衡表では2月12日深夜への下落で遅行スパンが悪化、先行スパン殻も転落しているため、遅行スパン悪化中は安値試し優先とする。強気転換には両スパンそろって好転し、さらに12日夕高値を超えるところからとする。
60分足の相対力指数は2月12日夕刻の上昇時に60ポイント台中盤へ上昇したが、その後は30ポイント台へ失速している。50ポイント台回復から続伸へ進めないうちは一段安警戒として20ポイント台への低下を伴う下落を想定する。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、2月7日深夜安値18.08及び2月3日朝安値18.07円を下値支持線、18.30円、次いで12日夕高値18.28円を上値抵抗線とする。
(2)18.20円以下での推移中は一段安警戒とし、2月7日深夜安値割れからはそのまま3日朝安値安値割れへ進む可能性があるとみる。その際は1月6日安値17.94円まで下値目途が切り下がると考える。1月6日安値を割り込まなければ上昇再開へ進む可能性も残るが、1月6日安値を割り込む場合は4か月サイクルレベルでの底割れとなるため、その後の下げが加速し、下落期が長期化する可能性が懸念され、17円台中盤へ下値目途が切り下がることも懸念される。
(3)18.20円超えからは反騰入り注意として12日夕高値試しを想定するが、18.25円以上は反落警戒とする。シリア情勢が全面衝突リスクを後退させるような好転を見せればリラ高もぶり返す可能性も考えられるが、シリアとトルコの全面戦争化懸念が拡大する推移なら多少の反発を入れても戻り売りにつかまってリラ安基調が鮮明になってゆく展開も懸念される。
【当面の主な経済指標等の予定】
2月13日
16:00 12月鉱工業生産 前年比 (11月 5.1%)
16:00 12月小売売上高 前月比 (11月 1.7%)
16:00 12月小売売上高 前年比 (11月 8.5%)
2月14日
16:00 12月経常収支 (11月 -5億1800万ドル)
2月19日
20:00 トルコ中銀政策金利 (現行 11.25%。予想 11.00%)
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