【概況】
トルコリラ円は中東情勢緊迫のなかで1月3日に18.10円を割り込み、1月6日朝安値では17.94円をつけて18.00円をいったん割り込んだ。
10月末からの「18.80円前後を下値支持線・19円台へ乗せても維持できない持ち合い」で推移してきたが、12月10日安値18.64円への下落で持ち合いを下放れした。米中通商協議の第1段階合意報道から12月13日に18.95円まで戻したものの19円には届かずに失速して12月13日当日から12月19日まで5日連続の日足陰線で一段安となり12月20日未明には18.33円まで安値を切り下げた。その後は下げ渋りだったものの、12月27日朝には18.32円まで下落して12月20日安値を割り込み、12月27日から1月3日へと5日連続陰線で続落となった。
1月3日の下落及び1月6日朝の下落は米軍が空爆でイラン軍司令官を殺害する事件報道によるものだった。米国防総省は1月2日夜(日本時間3日午前)、トランプ大統領の指示によりイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を殺害したと発表。イランの最高指導者ハメネイ師は「厳しい報復」を宣言した。この事件から米国とイランが事実上の戦争状態に入ったとの懸念が強まり、1月3日の金融市場はリスク回避へと動き、株安債券高、為替市場は投機通貨が売られてドルストレートではドル高、クロス円では円が全面高となった。トルコリラは対ドルで安値を更新する一方でクロス円での円高圧力も加わったために18円の心理的節目を割り込むところまで下げた。
【中東情勢緊迫化、トルコはその中でバランスをとる】
これまでの報道では、米軍はイラクの首都バグダッドでの空爆でソレイマニ司令官とイラクのイスラム教シーア派組織「カタイブ・ヒズボラ(KH)」の指導者アブ・マフディ・アルムハンディス容疑者を殺害した。イランの最高指導者ハメネイ師は1月3日、ツイッターで「手を血で汚した犯罪者を待っているのは厳しい報復だ」と宣言しつつ、イラン全土は3日間喪に服すとした。喪が明ける1月6日からイラン側及びイランに支援された反米勢力がどう動くのか、市場も緊張感を以て見定めようとしているところだ。
米国は12月29日に中東へ約750人の増派を発表していたが、1月3日にはさらに3500人の増派を発表している。トランプ大統領は1月3日、今回の行動を「差し迫った悪意ある攻撃を計画していた」ことへの対応として「米国は戦争を始めるためではなく戦争を食い止めるために行動した」「イランの体制転換を目指しているわけではない」と述べたが、今回の空爆に対してイランが反撃するなら52か所を軍事攻撃すると牽制している。ポンペオ国務長官は英国、フランス、ロシア、サウジアラビア、中国、イラク等の首脳と相次ぎ電話会談した。米政府は米国人がイラクから退去するようにと声明を出した。
イランと友好関係にある中国とロシアもイラン首脳と協議して米国を非難している。ロシアは昨年7月末にイランとの間で軍事協力を強化することで合意しており、中国は昨年9月に25年間で4000億ドルをイランの油田開発に投資することで合意し、油田開発エリアでの中国企業警備名目で5000人の中国軍を駐留させている。昨年12月27日にはイラン、ロシア、中国の海軍がオマーン湾で合同軍事演習を実施している。
サウジの石油施設を無人機で空爆したイエメンのフーシ派武装集団はイランに支援されているとされるが、今回の空爆に対して報復を宣言している。
トルコ外務省は今回の空爆事件についてイラクが戦場にされていることはイラクと隣接地域の平和と安定を害すことになると懸念を表明した。エルドアン大統領もイランのハサン・ロウハ二大統領やイラクのバルハム・サレハ大統領と電話会談しているが、今のところは米国を批判しつつ事態の悪化を危惧して自制を促すスタンスと思われる。
トルコはNATO加盟国として米国とは同盟関係にあるが、ロシア製兵器調達で米国と対立している。シリアやISを巡る紛争では米国との協力やロシアとの協力等、微妙なバランスをとっており、米国とイランの戦争に巻き込まれる懸念は薄いと思われる。しかし中東情勢の軍事緊張が高まれば投機通貨としてのトルコリラへの売り圧力も強まり、また先行き不透明感が中東全般の景気を圧迫することで1昨年の通貨危機から出直ったトルコ経済へ悪影響を及ぼすことも懸念される。
【湾岸戦争時の教訓】
今回の米国による空爆暗殺事件がどのような展開になるのか、まだ不透明だ。米国によるイラク進攻やアフガン侵攻のような一方的な軍事作戦なら市場もさほど大きな反応を見せないが、予想外に発生して先読みの難しい状況というのは1990年の湾岸戦争で経験している。
湾岸戦争は1990年8月2日のイラクによるクエート進行から始まったが、その時のNY原油は直前の6月安値15.06ドル(ドル/バレル)から10月10日高値41.15ドルまで2.7倍の暴騰となった。その時のNYダウは直前の7月17日高値3024.26ドルから10月11日安値2344.31ドルまで22%の暴落だった。
またその当時のトルコリラは変動相場制への移行前のため参考にならないが、当時のドル円は湾岸戦争勃発前の4月に160.36円の高値をつけてから下落基調に入り、湾岸戦争勃発から一段安となり10月安値で123.60円まで下げた。下落率は23%だった。
果たして今回の事件がどこまで発展するのかは不明だが、最大級のリスク回避的な動きへと金融市場全般が陥る可能性もあると注意し、湾岸戦争では勃発から2か月程度はリスク回避型の動きが続いた事を念頭に入れておきたい。
【60分足一目均衡表・サイクル分析】
トルコリラ円60分足
概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、12月31日安値18.18円と1月2日朝安値18.17円をダブルボトムとしていったん戻したが、1月2日午後には戻り一巡となって下落に転じ、1月3日未明への下落で年末年始の安値を割り込んで弱気サイクル入りした。1月6日朝に17.94円まで続落してから戻しているため、1月6日朝安値を直近のサイクルボトムとしてひとまず急落一服で強気サイクル入りしていると思われる。このため、新たな底割れ回避の内は7日から9日にかけての間へ戻りを試す可能性もあるが、中東情勢を踏まえれば戻りは短命の可能性もあるので、18円割れを弱気転換注意とし、1月6日朝安値割れからは新たな弱気サイクル入りとして9日朝から13日朝にかけての間への下落を想定する。
60分足の一目均衡表では1月2日の一段安から遅行スパンが悪化しており、先行スパンからの転落も12月27日から続いている。1月6日朝安値からは買い戻されているため、遅行スパン好転からは戻りをさらに試す可能性ありとみるが、好転した後に再び悪化するところ、及び好転できずに18円を割り込むところからは下げ再開とみる。
60分足の相対力指数は月6日朝への一段安に際して指数のボトムが切り上がる強気逆行を見せて戻している。このため40ポイント以上での推移中は高値を試す余地ありとみるが、40ポイント割れからは下げ再開を疑う。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、18.05円、次いで18.00円を下値支持線、18.10円から18.15円を上値抵抗線とみておく。
(2)18.05円以上での推移か、一時的に割り込んでも切り返す内は18.10円から18.15円にかけてのゾーンを試すとみる。18.15円以上は反落注意とみるが、18.10円以上での推移なら7日も戻りを試しやすいとみる。
(3)18.05円割れからは下げ再開注意とし、18.00円割れからは下げ再開とみてまず1月6日朝安値17.94円試しを想定する。18円以下での推移が続く内は7日から8日へさらに安値試しを続けやすいとみるが、仮に1月6日朝安値を割り込む場合は17.80円前後試しへ下値目処を引き下げる。
【当面の主な経済指標等の予定】
1月07日
23:30 12月財務省現金残高 (11月 79億トルコリラ)
1月10日
16:00 11月経常収支 (10月 15.49億ドル)
1月14日
16:00 11月鉱工業生産 前年比(10月 3.8%)
1月15日
16:00 10月失業率 (9月 13.8%)
16:00 11月小売売上高 前月比 (10月 -0.2%)
16:00 11月小売売上高 前年比 (10月 5.9%)
1月16日
20:00 トルコ中銀金融政策決定会合 政策金利 (現行 12.0%)
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