チャンネル上抜けで上昇も上値は限定的
〇先週のドル円、水曜NY市場までドル安円高の動き、108.72レベルの週間安値をつける
〇クラリダFRB副議長によるタカ派発言きっかけに米金利反転、流れを変える
〇金曜の米国雇用統計で米金利、ドルともに一段高、110.36レベルと7/27以来の高値圏
〇今週は11日発表の7月CPIに注目、前回は年率で5.4%、今回は5.3%の予想
〇金融政策の変更に関してFRBは一貫した姿勢、先週後半の米金利とドルの反応は短期的とみる
〇今週はドルの上値追いをしきれず反落のイメージ、109.60-110.60レベルとする一週間
今週の週間見通し
先週のドル円は水曜NY市場までは上値の重たい日経平均株価と米金利低下を背景にドル安・円高の動きが続き、108.72レベルの週間安値をつけていました。流れを変えたのはクラリダFRB副議長によるタカ派発言で2022年末までに利上げ条件が整うと、6月FOMCのドットプロットチャートで2023年に利上げが見込まれていたことを思い起こさせる発言で、米金利もこの発言をきっかけに反転しました。
また金曜の米国雇用統計ではADP全国雇用者数が弱かったことからどのような数字が出るのか注目が集まりましたが失業率が前回の5.9%から5.4%へと大幅改善、NFPも前回の+85万が+93.8万へと上方修正され、今回は+94.3万と非常に強い数字になりました。この結果を受けて米金利、ドルともに一段高となり、ドル円は110.36レベルと7月27日以来の高値圏となりました。
米国雇用統計が強かったことで次は今週11日に発表される7月CPIが注目されます。前回は年率で5.4%、今回は5.3%の予想です。昨年のCPIの元データから考えると来月発表される8月CPIからはFRBが言うように減速が予想されますが、それ以上に足元の物価上昇が大きければ強い数字が続く可能性もあります。今週のCPIも含めて、8月前半までの数字を見た上で、それでも強いということになれば8月26〜28日に開催されるジャクソンホールで何らかのテーパリングにつながる発言が聞けるかもしれません。
しかし、新型コロナデルタ株の感染拡大は米国でも広がっていて、新規感染者の9割以上がデルタ株という状況に加え、デルタ株の場合これまでのワクチンでは感染防止効果が低い上に重症化リスクが高いと米国CDCが発表しました。さらに日本でも既に感染者が出ていますが、南米由来のラムダ株も登場しラムダ株はワクチンの効果がさらに低いと言われています。現状はまだウイルスとワクチンのいたちごっこ状態が続きそうですから、そうしたことを考えると、FRBとしては多少のインフレに目をつぶり、金融政策で先手を打たない可能性もそれなりにあるというところではないかと思います。
いずれにしても、デルタ株とラムダ株の感染状況とそれに対するワクチン効果の状況を見守った上で9月FOMC以降に判断されるというところだと思います。前にも書いたことですが、金融政策の変更に関してFRBは一貫した姿勢を貫き、市場参加者は毎月の経済指標で一喜一憂するという状況はいつも通りです。先週後半の米金利とドルの反応はあくまでも短期的反応で、これが今後も続くという見方にはあまり賛成できません。
テクニカルにも見てみます。いつものドル円日足チャートをご覧ください。
ドル円(日足)チャート
このチャートは、ローソク足の足型をそのままに陰陽の着色のみを平均足と同様とすることで、短期的な方向性(白=上昇、黒=下降)を見やすくした独自チャートとなっています。また、一目均衡表を併せて表示することで上下のチャートポイントもわかりやすく示しました。
先週までは青の平行線で示した下降チャンネルの中での推移でしたが、米国雇用統計後のドル高の流れで上抜けることとなりました。以前も幅の狭い下降チャンネルを上抜けた後に元の水準へと押す動きもあったため、このまま上抜けるかどうかはまだわからず、現時点では少なくともこれまでの下降チャンネルは使えなくなったということしか判断できません。
ここから上がるとすると、7月高値と先週安値との61.8%戻しにあたる110.53レベルですが、110円台半ばは7月中旬以降2度反落した水準でもあり、今回も簡単には上抜けにつながらないだろうと見ています。また下値は抜けたレジスタンスが現在は109円台後半を下降中ですから、同ラインが当面のサポートとなってくると言えます。
材料的にややドル買いに傾いたこともあって、今週はドルの上値追いをしきれずに反落というイメージから、109.60レベルをサポートに110.60レベルをレジスタンスとする一週間を考えておきます。
今週の予定(時刻表示のあるものは日本時間)
今週注目される経済指標と予定をあげてあります。影響が少ないものはあえて省いています。FRB地区連銀総裁講演の内、2021年FOMCメンバー(ニューヨーク、シカゴ、リッチモンド、アトランタ、サンフランシスコ)ではない地区連銀総裁はカッコ付で示しました。また、わかりやすさ優先であえて正式呼称で表記していない場合もあります。特に重要度の高いイベントに☆印を付けました。
8月9日(月)
**:** 東京、シンガポール市場休場
10:30 中国7月CPI・PPI
15:00 ドイツ6月貿易収支
23:00 アトランタ連銀総裁講演
25:00 リッチモンド連銀総裁講演
8月10日(火)
08:01 英国7月小売売上高
08:50 本邦6月貿易収支(国際収支)
10:30 豪州7月企業景況感
16:00 トルコ6月失業率
18:00 ドイツ8月ZEW景況感
18:00 ユーロ圏8月ZEW景況感
21:30 米国4〜6月期単位労働コスト速報値
23:00 (クリーブランド連銀総裁講演)
8月11日(水)
09:30 豪州8月消費者信頼感
15:00 ドイツ7月CPI
21:30 米国7月CPI
23:30 週間原油在庫統計
23:30 アトランタ連銀総裁講演
25:00 (カンザスシティ連銀総裁講演)
8月12日(木)
08:01 英国7月住宅価格
15:00 英国4〜6月期GDP速報値
15:00 英国6月鉱工業生産、貿易収支
16:00 トルコ6月鉱工業生産
18:00 ユーロ圏6月鉱工業生産
20:00 トルコ中銀政策金利発表
21:30 米国新規失業保険申請件数
21:30 米国7月PPI
8月13日(金)
15:45 フランス7月CPI
18:00 ユーロ圏6月貿易収支
21:30 米国7月輸入物価
23:00 米国8月ミシガン大消費者信頼感速報値
前週の主要レート(週間レンジ)
(注)上記表の始値は全て東京午前9時時点のレート。為替の高値・安値は東京午前9時〜NY午後5時のインターバンクレート。
先週の概況
8月2日(月)
週明けのドル円は東京市場では動かず、欧州市場では先行してじり高となっていたユーロドルに追随してやや上値の重たい展開となっていました。NY市場に入り、買いが先行していたダウと原油の急落を嫌気して一転大幅安、米国10年債利回りも1.15%台へ低下(債券価格上昇)と全般的なリスクオフの動きに沿ってドル円では円高が進行、109.19レベルの安値をつけ若干戻して引けました。
8月3日(火)
ドル円は前日同様終日円高の動きが続きました。背景にあったのは米金利の低下と日経平均株価の上値の重さでした。NY市場に入ってからはNYダウの下げとともに米金利が1.15%台まで低下したものの、前日の最低利回りは割り込まずでしたが、NY原油は急落したことでリスクオフの動きが強まりドル円は一時108.88レベルの安値をつけ引けにかけて109円台を回復しました。
8月4日(水)
ドル円は東京市場から欧州市場前場までは若干底堅い程度で目立った動きはありませんでしたが、NY市場朝方に発表されたADP全国雇用者数が予想(+69.5万人)を大きく下回る+33万人に止まったことで米金利低下、ドル安の動きとなり、一時108.72レベルの安値をつけました。しかし、その後のISM非製造業景況指数は予想よりも強く、さらにクラリダFRB副議長が利上げ条件は2022年末までに整うと発言したことから、米金利もドル円も反騰することとなりました。ドル円はNY昼前には109.68レベルまで上昇し、若干押して引けました。
8月5日(木)
ドル円は東京市場では若干底堅かったものの、米金利低下と英中銀MPCを前にしたポンド買いに引っ張られてのドル売りから欧州市場では109.40レベルへと小緩みました。その後NY市場では米金利が上昇する動きとともに買い戻され、引けにかけては109.79レベルの高値をつけましたが、米国雇用統計を前に動意薄の一日でした。
8月6日(金)
ドル円は米国雇用統計を前にNY市場まで109.80前後でのもみあいを続けていました。雇用統計は失業率5.4%、NFP+94.3万と大幅に改善し米金利上昇、ドル高の動きとなりました。ドル円は110.36レベルの高値をつけ、引けにかけては若干押しての引けとなりました。
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