トルコリラ円見通し 大統領の利下げ言及による下落基調続く(21/6/7)

トルコリラ円の6月4日は12.71円から12.56円の取引レンジ。

トルコリラ円見通し 大統領の利下げ言及による下落基調続く(21/6/7)

大統領の利下げ言及による下落基調続く

〇トルコリラ円、4日は12.71-12.56のレンジ、2日早朝の急落から安値更新を回避するも4日連続の陰線に
〇ドル/トルコリラ4日はドル高が進み午後に8.74まで下落、米雇用統計発表後に8.61まで戻す
〇4日の米雇用統計、NFPが予想を大幅に下回り、前日までの雇用回復への過剰な楽観にブレーキがかかる
〇ドルストレートで前日のドル全面高からドル全面安へと流れが変わりトルコリラは最安値更新を回避
〇エルドアン政権と中銀の利下げ姿勢に対する不信任感が強まり、中銀会合前に最安値更新の可能性も
〇6/14のエルドアン大統領とバイデン大統領の会談から両国関係が改善するのか注視
〇12.55を割り込む場合12.50、12.44、12.40と段階的に安値試しへ向かう流れとみる
〇12.75超えから12.80台序盤の上昇を想定、12.82を超える反騰が出た場合12.90前後への上昇を想定

【概況】

トルコリラ円の6月4日は12.71円から12.56円の取引レンジ。米雇用統計に注目が集まっていたが、米5月雇用統計では失業率が予想以上に改善したものの就業者増加は予想を下回ったため、3日夜のADP民間部門の就業者数が予想を大幅に超えたことでのドル高感とは真逆の展開でドル全面安となり、ドル/トルコリラではリラ安が一服となったもののドル円の急落に圧されたためにトルコリラ円は続落となった。
エルドアン大統領による利下げ言及が報じられたことで6月2日早朝に急落した後は新たな安値更新を回避しているものの、日足は6月1日から6月4日まで4日連続の陰線で下落、終値ベースで4日続落となっている。

【ドル高リラ安一服だが、最安値更新へ余裕乏しい】

ドル/トルコリラの6月4日は8.74リラから8.61リラの取引レンジ。6月2日早朝に大統領の利下げ言及報道から8.77リラへ急落して5月28日安値8.61リラを割り込み史上最安値を更新し、急落反応一服で6月2日夜に8.54リラまで戻したものの3日夜の米ADP民間雇用報告などが強かったことでドル高が進んだために4日午後にはこの日の安値となる8.74リラまで下落した。しかし2日早朝安値割れは回避し、4日夜の米雇用統計での就業者増加数が予想を下回ったことでドル全面安へ進んだために雇用統計発表後にはこの日の高値となる8.61リラへ戻し、その後は8.65リラを中心とした揉み合いにとどまって勢いに欠ける動きだった。

6月4日の米5月雇用統計では失業率が4月の6.1%から5.8%へと改善したが、非農業部門雇用者数が市場予想の65万人増を下回る55.9万人増にとどまり、前日のADP統計での就業者増加数が予想の65万人を大幅に超える97.8万人増となったことによる雇用回復へのやや過剰な楽観にブレーキがかかった。このためドルストレートでは前日のドル全面高からドル全面安へと流れが変わった。
トルコリラには最安値更新をひとまず回避する材料となったが、着実な米雇用の回復基調を踏まえれば先行きの米連銀によるテーパリング(量的緩和縮小開始)議論もいずれ始まり、他諸国の中銀が引き締めへ進まなければ政策スタンスの差からドル高へと向かいやすくなると思われる。その際に、トルコ中銀及びエルドアン政権が利下げにこだわる姿勢を強めればドル高リラ安へと進みやすい環境となってゆくのではないかと思われる。

【6月17日の中銀金融政策決定会合までは落ち着かない状況】

トルコのエルドアン大統領は6月1日のトルコの国営テレビTRTハーバーのインタビューで、「利下げが必要であり6月1日に中銀総裁と協議した」、「金利を引き下げれば投資の負担が軽減される」「今日、中央銀行の総裁とも話した。確かに金利を下げる必要がある」「そのためには7月、8月に金利が低下し始める必要がある」と述べた。この発言が報じられてトルコリラは対ドルで史上最安値を更新、トルコリラ円も2月16日以降の安値を更新して昨年11月6日の史上最安値に迫った。
エルドアン大統領は3月20日に在任中に三度の利上げを断行したアーバル前中銀総裁を解任して後任に利下げ論者の与党・公正発展党(AKP)元議員であるカブジュオール氏を任命した。カブジュオール新総裁は「インフレ率を下回るような利下げはしない」との姿勢を示しつつ、前総裁時代に繰り返し表明されていた「必要に応じて追加利上げを行う用意がある」との市場をけん制する文言を金融政策声明文から削除した。
3月30日にはチェティンカヤ副総裁も解任し、5月25日にさらにオズバス副総裁を解任した。

6月3日に発表された5月の消費者物価上昇率は前月比0.89%で4月の1.68%から鈍化、前年同月比は16.59%で4月の17.14%から低下した。カブジュオール総裁は「インフレ率のピークは4月」との見通しを示しているが、仮に現状でインフレ率がピークアウトしたとなれば中銀と政権は利下げを急ぎ、市場はその動きを悲観してリラ売り攻勢を仕掛ける可能性がある。逆にインフレ率が6月統計で上昇する場合は利上げ催促的なリラ売りとなる可能性もある。
6月17日が次回のトルコ中銀金融政策決定会合であり、しばらくは間がある。市場の思惑も強弱で交錯しやすいが、ドル/トルコリラもトルコリラ円も史上最安値に近い状況でエルドアン政権と中銀による異説的な利下げ姿勢に対する不信任感が強まる状況にあり、中銀会合を待たずに最安値更新が仕掛けられる可能性もあるところと注意したい。

大統領の利下げ言及による下落基調続く

トルコGDP伸び率の推移

【米・トルコ関係の関係修復のきっかけになるか】

米ホワイトハウスはバイデン大統領の外遊予定を発表した。6月10日にジョンソン英首相と会談、11-13日に英コーンウォールでのG7首脳会談(サミット)に出席してG7各国首脳と個別会談、6月14日にはベルギーのブリュッセルでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席してトルコのエルドアン大統領と会談する。6月15日にはEUとの首脳会談、16日にはロシアのプーチン大統領とも会談する。
トルコにとっては米国との関係改善へ踏み出せるか試されるところとなる。トルコはNATO加盟国でありながらロシア製ミサイルシステムを導入してNATO及び米国から批判を受けている。ギリシャ沖での海底ガス田開発の強行ではEUと対立しているが、シリア情勢では独自のプレゼンスを維持しており、EUへの難民流入問題に絡んでEU側もトルコを制裁しきれない関係性もある。リビア問題ではロシアと対立、天然ガスパイプラインではロシアと共同、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争に軍事介入し、ウクライナへのドローン攻撃機輸出ではロシアを激怒させてロシアはトルコへの旅行者渡航制限を大幅に延長してトルコの観光業へ打撃を与えた。

オスマン帝国時代のアルメニア人虐殺問題での米国によるジェノサイド認定でトルコと米国との関係は悪化しつつあるが、トルコは多方面において地政学的リスクに関係しつつ軍事外交的なバランスを保っている。バイデン大統領がかつてエルドアン大統領を独裁者呼ばわりした経緯もあり、エルドアン大統領にとっては親和的だったトランプ政権からバイデン政権への政権移行による両国関係が悪化してゆくのか、今回の会談をきっかけとして改善がみられるのか、今回の両国首脳階会談は重要な位置づけになると思われる。

【当面のポイント】

(1)当面は12.44円を下値支持線、高値12.82円を上値抵抗線としたレンジ内推移とみるが、上値は重く戻り高値を切り下げつつ安値更新を伺う状況と考える。
(2)12.55円を割り込む場合は12.50円、次いで12.44円、12.40円と段階的に安値試しへ向かう流れとみる。12.40円台前半は買い戻しも入りやすいとみるが、6月1日の大統領発言から急落したように、要人発言等をきっかけに最安値更新へ進む可能性もあるところと注意する。
(3)12.75円超えからは12.80円台序盤への上昇を想定するが、12.80円以上は戻り売りにつかまりやすいとみる。12.82円を超える反騰が発生する場合はいったん戻りを試す流れとみて12.90円前後への上昇を想定するが、情勢変化を招くような材料が伴わなければその後は下げ再開へ進みやすいとみる。

【当面の主な予定】

6月8日
 19:30 5月 自動車生産 前年比 (4月 854%)
6月10日
 16:00 4月 失業率 (3月 13.1%)
 20:30 週次 外貨準備高(グロス) (5/28時点 487.2億ドル)
6月11日
 16:00 4月 鉱工業生産 前月比 (3月 0.7%)
 16:00 4月 鉱工業生産 前年比 (3月 16.6%)
 16:00 4月 小売売上高 前月比 (3月 5.1%)
 16:00 4月 小売売上高 前年比 (3月 19.2%)
6月14日
 16:00 4月 経常収支 (3月 33.29億ドル)
6月15日
 16:00 5月 財政収支 (4月 -169億リラ)
6月17日
 20:00 トルコ中銀金融政策決定会合 政策金利 (現行 19.0%)


注:ポイント要約は編集部

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