5月10日からの下落一服だが、対ドルでは史上最安値に迫る
〇トルコリラ円、14日夕刻に12.83まで安値切り下げた後戻すも失速気味で週を終える
〇4/29に戻してからは下落に転じ、徐々に新たな底割れに迫ってきている状況
〇対ドルでは14日夜に買い戻され高値8.36へ上昇後、戻り売りにつかまり失速
〇対ドルでは持ち合い下放れから史上最安値更新へ進む可能性も警戒される
〇イスラエル武力衝突、中東全域での地政学的・有事リスク増大がリラ売り材料となる可能性も
〇ドル全面安による対ドルでのリラ反騰なら14日夜高値13.02超えから13.05、13.10を目指す可能性
〇12.83割れからは4/26安値12.67を試す下落期入りとみる
【概況】
トルコリラ円の5月14日は13.02円から12.83円の取引レンジ。5月11日までは13.10円を割り込んだところを買い戻されて確りしていたが、戻り高値は切り下がりとなり、12日夜にドル全面高でトルコリラが対ドルで下落した局面で13円を割り込み、14日夕刻には12.83円まで安値を切り下げた。12.90円割れに対する突っ込み警戒感とドル高一服による対ドルでのリラの持ち直しにより14日夜高値で13.02円まで戻したが、13円台を維持できずに失速気味となり12.91円で週を終えた。
日足は5月10日から13日まで4日連続の陰線で下落し、14日は5日ぶりの陽線だったが上ヒゲがついた。
週間では13.22円から12.83円の取引レンジだったが、4月26日の週の高安レンジ内での推移が2週続いている。
トルコ中銀総裁更迭問題からの下落が続いて4月26日に12.67円まで安値を切り下げてから4月29日高値13.38円まで戻したものの勢いが続かずに下落に転じ、徐々に新たな底割れに迫ってきている状況だ。
【ドル/トルコリラは支持線やや切り下がり気味のレンジ縮小型三角持ち合い】
対ドルでのトルコリラは5月14日に8.50リラから8.36リラのレンジで推移。5月12日の米4月消費者物価上昇率が予想を大幅に超える上ブレとなったことでドル全面高となる中で新興国通貨全般が売られて対ドルでのトルコリラも13日(14日早朝)には8.51リラへ下落して4月26日安値8.48リラを割り込み昨年11月6日の史上最安値8.57リラへ迫る勢いとなったが、14日は米長期債利回りが4連騰後の13日から低下に転じたことで下げ一服となり、14日夜の米小売りがさえずにドル安となったことで買い戻されて14日夜高値では8.36リラへ上昇した。しかし8.30リラ台へ戻した水準では戻り売りにつかまって失速、8.44リラで週を終えた。
トルコ中銀総裁の突然の更迭騒動で3月22日から暴落した後は、3月30日安値8.45リラ、4月26日安値8.48リラ、5月13日安値8.51リラと8.50リラ前後では買い戻しが入っているものの、徐々に安値が切り下がっており、11月6日の史上最安値への余裕が乏しくなっている。
3月30日以降は下値支持線がわずかに切り下がる一方、上値抵抗線は4月15日高値7.98リラから4月29日の8.11リラ、5月7日の8.19リラと徐々に切り下がっており「下値支持線がフラットからやや切り下がり気味、上値抵抗線切り下がり型の三角持ち合い」の様相となっている。5月7日高値を超える反騰へ進めば三角持ち合い上放れによりリラ高感が強まることも考えられるが、そのためにはかなり強烈なリラ買い材料かドル全面安材料が必要だが、米長期債利回り低下が続けば全般的なドル安感が強まるもののリラを積極的に買う材料には欠ける。逆にトルコ金融政策への不透明感や中東の地政学的リスクを意識してリラの先安感が強まりやすいとすれば、史上最安値更新はまだ時期尚早として下げ渋っていてもいずれは持ち合い下放れから史上最安値更新へ進む可能性も警戒されるところだ。
仮に史上最安値更新の場合、新たな史上最安値領域に入ることとなり、対ドルでの下値目途もつかなくなりかねないところだが、昨年11月6日底8.57リラから今年2月16日の戻り天井6.88リラまでの上昇幅に対する倍返しの下落とすれば10.26リラという計算値となる。
【イスラエルとハマスの武力衝突のエスカレートと中東、トルコの立ち位置】
パレスチナ及びエルサレムは元々はキリスト教、ユダヤ教、イスラム教の共通の聖地であり、いずれの教徒も共存してきた。トルコの前進であるオスマン帝国がこの地域を支配していた19世紀末におけるシオニズム=ユダヤ教帰郷運動によりユダヤ人口が増加してもオスマン帝国は規制をかけなかった。第一次世界大戦でオスマン帝国が解体されて英国領となった後もユダヤ人入植は続き、第二次世界大戦におけるドイツのユダヤ教徒迫害による入植の増加と戦争終結直後の国連によるパレスチナ分割により英国の委任統治が終了した後にイスラエルが建国された。
ユダヤ=イスラエルとアラブ=パレスチナの抗争は第一次中東戦争から繰り返され、エジプト、サウジ、イラク、ヨルダン、シリア、レバノンがイスラエルと交戦。スエズ動乱=第二次中東戦争ではイスラエルがシナイ半島を占領して軍事的プレゼンスを確立したが米ソの仲介で撤退に終わる。ゴラン高原を巡る衝突からの第三次中東戦争ではイスラエルに対してエジプト、シリア、イラク、ヨルダンが交戦したがエルサレムはイスラエルの支配下となった。
第四次中東戦争はオイルショックを招いたが、エジプトとシリアがイスラエルを攻撃、エジプトとイスラエルは和平し、その後アラブ連盟が発足したが、イラン革命、イラン・イラク戦争、パレスチナ解放機構(PLO)発足とパレスチナ独立宣言、さらに第五次中東戦争と言われるイスラエルのレバノン侵攻へと続く。
2008年にはイスラエルのガザ地区を実効支配するハマスとイスラエルによるガザ紛争が勃発した際にトルコ輸送船が攻撃されて被害が発生したことで両国関係は険悪となる時期があったが、その後に賠償解決から国交正常化が実現している。
イスラエルはトランプ米政権下における外交交渉によりUAE(アラブ首長国連邦)、バーレーン、モロッコ、サウジと2020年に国交正常化に至る。この動きはトルコによるシリア、リビア等への軍事プレゼンスの拡大に対抗した動きとした反トルコの様相も呈している。
トルコは今回のイスラエルによるガザ地区への攻撃についてイスラエルを非難してアラブ諸国及び国際社会によるイスラエル批判を強めようと動いているが、トルコはこれまでの中東戦争においてはイスラエルと交戦することはなく、トルコとイスラエルが2016年に国交正常化してからも目立った対立はない。
中東情勢は複雑極まりない情勢であり、トルコにとってはロシア製ミサイル導入やロシアとのガスパイプライン構築により米国及びNATOから批判・制裁を受け、EUとは難民問題やギリシャ沖資源開発問題での対立等、友好と対立が入り混じった外交関係にある。リビア内戦においてはトルコが反政府側に武力支援してロシアと対立している。
イスラエルとハマスとの武力衝突がエスカレートしてもトルコが軍事介入しなければトルコ経済及びトルコリラには大きな影響は与えないだろう。昨年のイスラエルによるサウジ等との友好関係回復を踏まえれば、中東戦争レベルに発展する可能性もまだ低いが、シリアのアサド政権とイスラエルの交戦が始まる場合、シリア領域の武装勢力がハマス支援に動きイスラエルによるシリア領域への攻撃がエスカレートする場合、イランが関連する場合等は中東全域での地政学的・有事リスクの増大がトルコにも及ぶとしてリラ売り材料となる可能性もあるところとして注目したい。
【当面のポイント】
4月の物価統計、中銀による政策金利現状維持の決定を通過して当面はトルコリラ独自の大きなイベントが見当たらないため、全般的なドル高・ドル安の動向を見ながら、中東情勢も気にしながらの展開となると思われる。トルコリラ円としては13円割れへの下落状況から13円台回復・戻り高値切り上げへ進めるか、安値圏にとどまって一段安へ向かい、史上最安値に迫るのか試される状況にある。
(1)当面、12.83円を下値支持線、13.02円を上値抵抗線とみておく。
(2)12.83円割れへ進まないうちは14日夜の戻り高値13.02円超えから13.05円、13.10円を目指す可能性があるが、そのためにはドル全面安による対ドルでのリラ反騰が必要だ。またその場合でも13円台を維持しきれずに12.90円割れへ失速するところからは戻り一巡による下げ再開が懸念される。
(3)12.83円割れからは4月26日安値12.67円を試す下落期入りとみる。12.70円以下は反騰注意とするが、12.67円を割り込んで安値更新が続く場合は昨年11月底12.03円まで下値支持線が見当たらなくなる状況となる。当面はそこまでリラ安を進める材料には欠けると思われるが、4月26日安値割れからは12.50円、12.20円台と段階的に下値目途が切り下がってゆく展開に陥りやすいと思われる。
【当面の主な予定】
5月17日
17:00 4月 財政収支 (3月 238億リラ)
20:30 週次 外貨準備高 5/3時点 (前週 469.2億ドル)
5月19日
トルコ休場、青年とスポーツの日
5月20日
19:30 4月 自動車生産 前年同月比 (3月 19.4%)
20:30 週次 外貨準備高 5/17時点
5月21日
16:00 5月 消費者信頼感指数 (4月 80.2)
5月24日
17:00 4月 観光客数 前年比 (3月 26.07%)
5月25日
16:00 5月 製造業景況観指数 (4月 111.0)
16:00 5月 設備稼働率 (4月 75.9%)
5月27日
20:30 週次 外貨準備高 5/21時点
5月28日
16:00 4月 貿易収支 (3月 -46.5億ドル)
16:00 5月 経済信頼感指数 (4月 93.9)
注:ポイント要約は編集部
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