物価統計と中銀金融政策発表を無難に通過、暴落一服での凪状態
〇トルコリラ円、7日は13.24から13.08のレンジで小動き
〇7日夜の米雇用統計直後にドル安リラ高が進む中ドル円が急落、トルコリラ円では強弱相殺となる
〇6日のトルコ中銀金融政策決定会合は金利を据え置き、インフレ率を下回る利下げはしない姿勢を強調
〇トルコの感染第三波は低下傾向へ、ラマダン中の感染拡大を避けるロックダウンが効果を発揮か
〇13.20超えから13.30前後を目指すと見るが13.28以上は反落注意
〇13.10割れから13.00試し、材料を伴い13円を割り込む場合12.90前後への下落を想定
【概況】
トルコリラ円の5月7日は13.24円から13.08円のレンジで小動き。7日夜の米雇用統計直後に為替市場ではドル全面安となったが、ドル/トルコリラでのドル安リラ高がやや進む一方でドル円が急落したためにトルコリラ円にとっては強弱相殺で大きな動きにはならなかった。
この1週間では5月3日の物価統計、6日のトルコ中銀金融政策決定会合が注目されたが、いずれも大きなサプライズはなく無難に通過している。4月の消費者物価上昇率は前年同月比で17.14%となり3月の16.19%から加速したが市場の予想範囲に収まった。6日のトルコ中銀金融政策決定会合でも主要金利は市場予想通りに据え置かれ、中銀はインフレ率を下回るような利下げはしないとの姿勢を改めて強調した。
3月19日にトルコ中銀のアーバル前総裁が突然解任されてエルドアン大統領と同様の利下げ派であるカブジュオール新総裁が就任したことで3月22日にトルコリラは暴落となり、3月30日から4月2日にかけていったん戻したものの4月26日へ一段安してきた。その後は早急な利下げへの方針変更にはならないとしてひとまず下げ一服で落ち着いた動きとなっている。
トルコリラ円は週間では13.24円から13.03円のレンジにとどまり、前週の12.67円から13.38円までのレンジ内に収まる動きだった。
ドル/トルコリラの5月7日は8.30リラから8.19リラの取引レンジで5月5日に8.37リラへ下げたところからは上昇している。4月26日に8.48リラまで下げて3月30日安値8.45リラを割り込む下落となり昨年11月6日安値8.57リラに迫ったものの底割れは回避して4月29日に8.11リラへ戻した。5月5日にかけては再び下落したもののその後は6日のトルコ中銀政策金利発表を通過しつつ全般的なドル安基調を背景に上昇して週を終えた。
3月30日安値と4月26日安値は8.50リラ手前にとどまりダブル底の様相でもあるが、戻り高値は4月16日から4月29日へとやや切り下がっており下値支持線がほぼフラットな三角持ち合いの様相とも言える。
5月5日から7日にかけては南アランド、メキシコペソ、ブラジルレアルなど新興国通貨が上昇し、豪ドルやNZドルも3連騰するなど、コモディティ通貨の上昇がみられたこともトルコリラには下支えとなった印象だ。
【反発後のジリ安基調は3月30日からの反騰直後に近い動き】
トルコリラ円は4月26日安値12.67円で下げ一服となり4月29日高値13.38円まで戻したが、その後はややジリ安の推移が続いている。この間の戻り幅は0.71円、数えで4日間だったが、3月22日からの暴落が一服した3月30日安値13.01円から4月2日高値13.84円まで4日間で0.83円の上昇となった時に近い戻し方にとどまった。
4月2日高値の後はジリ安からやや下げ渋りを見せたものの4月16日から4月23日まで6日連続の陰線で一段安となっており、今回も13円台を維持しつつ下げ渋りも見られるものの、新たなリラ買い材料に押し上げられる状況にはなく、下げ渋りでの横ばい推移を続けつつも13円割れからは下落再開感が強まって4月26日安値試し、さらに底割れへと向かいやすい状況にあるのではないかと思われる。
日足チャートにおいては概ね4か月前後の底打ちサイクルでの推移がみられるが、2月16日と3月19日の両高値をダブルトップとして下落期に入っており、昨年11月6日底から4か月目となる3月8日安値(ダブルトップの中間点)で底を付け、すでに底割れにより新たな下落サイクルに入っている印象だ。3月8日安値を基準とすれば次の底形成期は6月後半から7月前半にかけての間と想定されるため、まだ安値試しを続けやすい状況と思われる。
2019年12月高値から2020年5月7日への下落幅が4.20円、2020年6月高値から11月6日底までの下げ幅が4.22円であり、高値から4円規模の下落が繰り返されているため、仮に11月6日安値を割り込む場合は2月16日高値から4円規模の下げとして11円台序盤を目指すことも考えられる。
【トルコの感染第三波は落ち着き始める】
トルコにおける新型コロナウイルスの新規感染者数は5月8日に1万8052人となり累計は501万6141人に達して500万人を超えた。世界全体では米、インド、ブラジル、フランスに続く5位となった。しかし4月16日に6万3千人を超えたところをピークとして低下傾向が続いている。トルコの第一波のピークは2020年4月12日の1万3026人、第二波のピークが12月8日に3万3198人だったが、ひとまず6万人超えまで急増したところをピークとして収まりつつある。
トルコ政府では4月29日から5月17日まで全国的なロックダウンに入っている。イスラム教の断食(ラマダン)祭は4月13日から5月12日までであり、日中は断食するものの夜から翌朝にかけては多人数で会食するのが通例であり、そこでの感染拡大を避けることを目的としたロックダウンであり、今のところは効果を発揮しているようだ。リラ暴落により金融市場不安が強まる中で感染拡大が進むとリスク回避感もより強まるところだが、リラ暴落が落ち着いて感染者数も減少してくれば市場も落ち着きを取り戻しやすい。
トルコはロックダウン中でも観光客の入国規制を行っておらず、観光客は都市間の移動も制限されていない。それが感染の再拡大への呼び水となるのだろうが、トルコにとっては観光収入が経済にとって最重要でもあり夏場の最盛期へ向けて自国民のロックダウンにより感染抑制を実現しつつ観光客を呼び込みたいという方針なのだろうと思われる。
4月30日に発表された3月の海外からの観光客数は約90万人で前年同月比では26%増えたが、2019年3月の223万人からは大幅に減少した状況にとどまっている。最盛期の6月から9月にかけては2019年に毎月500万人を超えていたが、昨年は8月で181万人、9月で220万人にとどまり前年比では6割から7割減の状況だった。
トルコ観光客数の推移と観光収入
【当面のポイント】
物価上昇率と中銀の政策金利据え置きを通過して材料的にはやや一服感のあるところだ。為替市場全般のドル安基調が続けばドル/トルコリラでのドル安リラ高によりトルコリラ円も押し上げられる可能性も考えられるが、その際は円高も進んで強弱相殺となりやすく、トルコ独自材料でのきっかけをつかめないうちは下げ渋り程度の持ち合いでの推移が続きやすいと思われる。
バイデン政権によるオスマン帝国末期のアルメニア人殺害をジェノサイドと認定した問題では今後の米・トルコ関係の悪化も警戒されるが、今のところは新たな双方の挑発は見られず、米国にとってはトルコもNATOの重要な同盟国であることや、米国による対中国強硬姿勢を踏まえれば市場を刺激するようなリスクレベルにはまだならないと思われる。その他のトルコを巡る地政学的リスクもくすぶってはいるものの、大きな焦点にはなっていないので、当面はトルコの経済指標、エルドアン政権による金融政策等に絡んだ発言などの手掛かり待ちという状況が続きそうだ。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当面、13.00円を下値支持線、13.30円を上値抵抗線としたレンジ内推移とみる。
(2)13.20円超えからは13.30円前後を目指すと見るが、13.28円以上は反落注意とする。
(3)13.10円割れからは13.00円試しとするが、13.05円以下は反発注意とみる。ただし材料を伴って13円を割り込む場合は12.90円前後への下落を想定する。
【当面の主な予定】
5月10日
16:00 3月失業率 (2月 13.4%)
5月11日
16:00 3月 鉱工業生産 前月比 (2月 0.1%)
16:00 3月 鉱工業生産 前年同月比 (2月 8.8%)
16:00 3月 小売売上高 前月比 (2月 3.4%)
16:00 3月 小売売上高 前年同月比 (2月 4.6%)
16:00 3月 経常収支 (2月 -26.1億ドル)
20:00 トルコ中銀金融政策決定会合議事要旨
5月17日
17:00 4月 財政収支 (3月 238億リラ)
5月20日
20:30 週次 外貨準備高 5/7時点 (前週 469.2億ドル)
注:ポイント要約は編集部
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