ドル円見通し FRB議長講演をハト派としてドル全面安、10月21日以降の最安値を更新(22/12/1)

ドル円は、12月1日午前序盤に137.25円をつけ11月28日安値も割り込んでいる。

ドル円見通し FRB議長講演をハト派としてドル全面安、10月21日以降の最安値を更新(22/12/1)

FRB議長講演をハト派としてドル全面安、10月21日以降の最安値を更新

〇ドル円、30日夜の米7-9月期GDP改定値の上方修正を好感し深夜に139.89をつけ140円に迫る
〇しかしパウエル議長講演が市場予想よりハト派的で米長期債利回り大幅低下、ドル全面安へ急展開
〇今夜は米個人消費支出デフレーター、2日夜は11月米雇用統計と重要イベント続く
〇今後の米経済指標でサプライズ的な強さなければ長期債利回りの大上昇落ち着きドル安基調へ進みやすい
〇137円割れからは136円前後を試す下落を想定、下げ足が速まる場合は135円台を試す可能性も
〇138円超えからは138.50手前を試すとみるが138円台前半は戻り売りされやすい

【概況】

ドル円は11月30日夜の米7-9月期GDP改定値が速報値から上方修正されたことを好感して深夜に139.89円をつけて140円に迫ったが、パウエル米FRB議長講演が市場予想よりもハト派的だったとして米長期債利回りが大幅低下してドル全面安へと急展開したために12月1日早朝には137.64円まで急落した。
11月28日安値で137.48円を付けて10月21日高値151.94円以降の最安値を更新したところからは下げ渋っていたものの、12月1日午前序盤には137.25円を付けて11月28日安値も割り込んでいる。
今夜は米個人消費支出デフレーター、2日夜は11月米雇用統計と重要イベントが続くが、パウエル米FRB議長講演で12月FOMCにおける利上げペース減速が濃厚となったことで今後の米経済指標がサプライズ的な強さを示さないなら、利上げそのものは継続しても利上げペースが通常レベルに戻って長期債利回りの歴史的な大上昇も落ち着き、ドル安基調へと進みやすい環境となることも考えられる局面だ。

【パウエル議長講演は予想よりもハト派的でドル安を助長】

米FRBのパウエル議長は11月30日の講演で「これまで実施してきた急激な金融引き締めの効果はまだ経済に浸透していないため、早ければ12月の次回FOMCで利上げペースの縮小が妥当」との見方を示した。
議長は「最終的な政策金利水準や金利を据え置く期間の問題に比べれば利上げ減速のタイミングははるかに重要性が少ない」とし、市場が焦点としている利上げペース減速については大した問題ではないとの認識を示しつつ、「暫くは景気抑制的な水準で政策を据え置く必要がある」。「歴史は時期尚早な金融緩和策を警告している」と述べて2023年中にも利下げに転じるのではないかとの市場の期待をけん制した。また12月1日夜に発表される10月個人消費支出(PCE)物価指数については前年同月比で6.0%上昇、コア指数で5.0%上昇と予想して9月から伸びが鈍化するとの見方を示したが、それでも「インフレは引き続きあまりに高すぎる」とし、「政策金利の最終的な水準は9月FOMC時点より上回る」と述べた。

議長講演の内容は11月1-2日開催のFOMC声明と議長会見時の内容とさほど変わらない。しかし最近は利下げペースの減速に対する市場の期待感をけん制するようなFRB高官及び地区連銀総裁らの発言が相次いでいたために、議長講演もやや市場牽制的でタカ派な内容になるのではないかと警戒されていた。その警戒感が杞憂だったとして為替市場はドル安反応を見せたということだ。

【米GDPは上方修正、他の経済指標はまちまち】

11月30日夜の米経済指標はGDP改定値の上方修正がドル高材料とされたもののその他はまちまちだった。
米ADPによる11月全米雇用報告では非農業部門民間就業者数が前月比12万7000人増となり、市場予想の20万人増及び10月の23万9000人増を大幅に下回った。
米商務省による7-9月期米GDP改定値は年率換算前期比2.9%増となり、速報値の2.6%増から上方修正されて市場予想の2.7%増も上回った。GDPの凡そ7割を占める個人消費は1.7%増で速報値の1.4%増から上方修正、設備投資が5.1%増で速報の3.7%増から上方修正されたが、住宅投資は26.8%減で速報の26.4%減から下方修正された。FRBによる金融引き締めでも景気の腰は強いものの金利上昇による住宅市況の悪化が顕著となっている。

MNIインディケーターズによる11月のシカゴ購買部景況指数は36.2で10月の45.2から低下して市場予想の47.0も下回った。
米労働省による10月の雇用動態調査(JOLTS)における非農業部門求人数は前月比35万3000件減の1033万4000件で市場予想の1030万件を上回ったものの2か月振りの減少だった。
米不動産業者協会(NAR)による10月の中古住宅販売仮契約指数は前月比4.6%低下で市場予想の5.0%低下を上回ったが、前年同月比は36.7%減で市場予想の35.0%減及び9月の29.3%減を超える悪化となった。
米FRBによる11月の地区連銀景況報告(ベージュブック)では、景気判断を10月の「小幅に拡大した」から「横ばいか若干拡大した」へと引き下げられた。多くの企業が先行き見通しを「不透明感の高まり、もしくは悲観の増加」と懸念を表明したとした。またインフレ進行による低・中間所得層への影響を示唆し、労働需給については依然として逼迫しているものの人手不足による雇用難は緩んでいるとした。

【米10年債利回りは大幅低下、NYダウは急伸】

パウエル議長講演を受けて米長期債利回りは総じて大幅低下した。
指標の10年債利回りは前日比0.14%低下の3.61%で終了したが、米GDP改定値の上方修正を受けて一時は3.79%まで上昇していたところからの急低下となった。30年債利回りは前日比0.07%低下の3.74%、2年債利回りは0.17%低下の4.361%となった。
一方、NYダウはGDP改定値の上方修正とパウエル議長講演がハト派的だったことを好感して前日比737.24ドル高の大幅上昇となり、ナスダック総合指数も484.22ポイント高と上昇した。感染拡大が続いていた中国で2日続けて新規感染者が減ったことも市場に安心感をもたらした。
株高なら債券売りで長期債利回りが上昇しやすいものだが、そうした状況を超えてパウエル議長講演を手掛かりに債券買い・利回り低下反応となった印象だが、ドル円にとっては米長期債利回りの大幅低下による円高圧力に加え、リスクオン優勢でのユーロやポンド等の上昇によるドル安圧力も重なっているようだ。

【60分足一目均衡表・サイクル分析】

【60分足一目均衡表・サイクル分析】

ドル円は11月28日夕安値で137.48円を付けた後を下げ渋り、11月30日深夜に140円に迫ってから急落しているため、11月28日からの戻り一巡による下落期入りとして12月6日夜にかけて安値試しを続けやすい局面と思われる。
11月15日と11月28日の137円台は買い戻されたものの戻り高値は切り下がり基調のまま一段安しているため当面は安値試しを続けて落ち着きどころを探る展開と思われるが、12月1日と2日の米経済指標が冴えない内容ならドル安が一層加速しやすいと注意する。強気転換には少なくとも11月30日深夜高値からの下げ幅の半値以上を解消する反騰が必要と思われる。

60分足の一目均衡表では、11月30日深夜からの急落で遅行スパンが悪化して先行スパンからも転落しているので遅行スパン悪化中は安値試し優先とする。遅行スパンが好転するところからは戻りを試すとみるが、先行スパンから転落した状況での推移中は遅行スパンが一時的に好転してもその後に悪化するところからは下げ再開とみる。強気転換には先行スパンを上抜き返す反騰が必要と思われる。

60分足の相対力指数は11月30日深夜に70ポイントまで上昇したところから30ポイントまで急低下している。50ポイント以下での推移中は20ポイント割れを試す可能性もあると注意し、強気転換には50ポイント台回復と維持が必要と思われる。

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、137.00円を下値支持線、138.00円を上値抵抗線とする。
(2)138円以下での推移中は137円割れから136円前後を試す下落を想定する。136円前後は買い戻しも入りやすいとみるが、下げ足が速まる場合は135円台を試す可能性もあると注意する。また138円以下での推移か直前安値から1.50円を超える反騰が見られないうちは12月2日の日中も安値試しを続けやすいとみる。
(3)138円超えからは138.50円手前を試すとみるが138円台前半は戻り売りされやすいところとし、その後に137.70円を割り込むところからは下げ再開とみる。12月1日夜の米経済指標から乱高下する場合には139円前後への上昇とその後に137円台へ反落するケースもあり得ると注意する。

【当面の主な予定】

12/1(木)
10:45 (中) 11月 財新製造業PMI (10月 49.2)
14:00 (日) 11月 消費者態度指数・一般世帯 (10月 29.9、予想 30.2)
15:10 (日) 黒田日銀総裁、挨拶
17:55 (独) 11月 製造業PMI改定値 (速報 46.7、予想 46.7)
18:00 (欧) 11月 製造業PMI改定値 (速報 47.3、予想 47.3)
18:30 (英) 11月 製造業PMI改定値 (速報 46.2、予想 46.2)
19:00 (欧) 10月 失業率 (9月 6.6%、予想 6.6%)
22:30 (米) 10月 個人所得 前月比 (9月 0.4%、予想 0.4%)
22:30 (米) 10月 個人消費支出(PCE) 前月比 (9月 0.6%、予想 0.8%)
22:30 (米) 10月 PCEデフレーター 前年同月比 (9月 6.2%、予想 6.0%)
22:30 (米) 10月 PCEコア・デフレーター 前月比 (9月 0.5%、予想 0.3%)
22:30 (米) 10月 PCEコア・デフレーター 前年同月比 (9月 5.1%、予想 5.0%)

22:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 24.0万件、予想 23.3万件)
22:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 155.1万人、予想 156.9万人)
23:25 (米) ローガン・ダラス連銀総裁、イベント挨拶
23:30 (米) ボウマンFRB理事、講演
23:45 (米) 11月 製造業PMI改定値 (速報 47.6、予想 47.6)
24:00 (米) 11月 ISM製造業景況指数 (10月 50.2、予想 49.8)
24:00 (米) 10月 建設支出 前月比 (9月 0.2%、予想 -0.2%)
25:45 (欧) レーンECB理事、講演
29:00 (米) バーFRB副議長、講演

12/2(金)
08:50 (日) 11月 マネタリーベース 前年同月比 (10月 -6.9%)
10:30 (日) 黒田日銀総裁、フォーラムで挨拶
11:40 (欧) ラガルドECB総裁、パネル討論会
16:00 (独) 10月 貿易収支 (9月 37億ユーロ)
19:00 (欧) 10月 生産者物価指数(PPI) 前月比 (9月 1.6%)
19:00 (欧) 10月 生産者物価指数(PPI) 前年同月比 (9月 41.9%)
21:00 (欧) デギンドスECB副総裁、講演
22:30 (米) 11月 非農業部門就業者数 前月比 (10月 26.1万人、予想 20.0万人)
22:30 (米) 11月 失業率 (10月 3.7%、予想 3.8%)
22:30 (米) 11月 平均時給 前月比 (10月 0.4%、予想 0.3%)
22:30 (米) 11月 平均時給 前年同月比 (10月 4.7%、予想 4.6%)
24:15 (米) エバンス・シカゴ連銀総裁、講演

注:ポイント要約は編集部

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