ドル円見通し 雇用統計前の小康状態 米連銀はテーパリング議論の火消しに(週報5月第一週)

ドル円は5月3日に109.69円まで上昇して4月23日以降の高値を更新したが、3日夜には米ISM製造業景況指数が予想を下回ったことで108.88円まで急落した。

ドル円見通し 雇用統計前の小康状態 米連銀はテーパリング議論の火消しに(週報5月第一週)

雇用統計前の小康状態 米連銀はテーパリング議論の火消しに

〇ドル円、3日夜に108.88まで急落、その後戻すも新たな高値更新へ進めず
〇3日発表の4月ISM製造業景気指数は60.7で3月から鈍化し市場予想下回る
〇5日発表の米ADP雇用統計4月NFP前月比74万2000人増で市場予想下回る
〇NYダウは5/5に前日比97.31ドル高と上昇、取引時間中の最高値を更新
〇5日の米10年債利回りは1.56%台から1.62%台のレンジ、4/29以降は低下傾向
〇109.50超えからは3日夕高値109.69試し、高値更新後は110円超えを目指す上昇を想定
〇3日深夜安値108.88割れからは108.50前後への下落を想定

【概況】

ドル円は5月3日に109.69円まで上昇して4月23日以降の高値を更新したが、3日夜には米ISM製造業景況指数が予想を下回ったことで108.88円まで急落した。好調さが際立った米経済指標の発表が続いてきた中で、予想外に伸びなかったことでいったんブレーキがかかった印象。売り一巡後は持ち直して4日以降は109円台を維持して確りしているものの7日夜の米雇用統計も控えた状況のため、4日夕刻に109.48円まで戻した後は新たな高値更新へ進めず、5日午後の上昇場面も109.47円に止まって109.50円には届かずにいる。
3月31日高値110.96円から4月23日安値107.46円までの下げ幅は3.50円だったが、5月3日高値109.69円まで1.75円の上昇幅となり半値戻しを実現したことでテクニカル的な上値抵抗感も出ているところだ。

5月3日に発表された米供給管理協会(ISM)の4月製造業景気指数は60.7で1983年12月以来の高水準だった3月の64.7からは鈍化して市場予想の65.0を下回った。5日発表のISM4月サービス業景況指数も62.7となり前月の63.7から低下して市場予想の64.3も下回った。
米ADPが5日に発表した4月全米雇用報告における非農業部門民間就業者数は前月比74万2000人増で市場予想の80万人増を下回った。3月分は56万5000人増(速報は51万7000人増)に上方修正された。
4月29日に発表された1-3月期の米GDP速報値が前期比年率6.4%増となり10-12月期の4.3%増及び市場予想の6.1%増を上回るなど米経済指標の好調さを示す数字が続いてきたが、ISMの両指数とADP統計ではやや期待が先行し過ぎた印象であり、若干の頭打ち感も意識される印象だ。

NYダウは5月5日に前日比97.31ドル高と上昇、取引時間中の最高値を更新するとともに終値ベースでの史上最高値を約3週間ぶりに更新した。米10年債利回りの5月5日は1.56%台から1.62%台のレンジだが、終値ベースでは前日比0.02%低下の1.57%であり、4月15日の1.52%台から4月29日に1.69%台へ上昇した後は低下傾向が続いている。

【ドル円は米長期債利回り動向を見ながらだが若干のズレも】

ドル円が1月6日安値102.57円から反騰に転じたのは、米長期債利回りが年明けから一段と上昇基調を顕著にしたためであり、米10年債利回りは年末時点で0.9%近辺だったところから年明けに1%を突破、3月30日には1.77%まで上昇してきた流れに沿ってドル円も3月31日高値110.96円まで高値を切り上げてきた。

3月1日から4月23日にかけてドル円が下落したのは、米10年債利回りが3月30日をピークにいったん低下に転じたためであり、4月15日に1.52%台まで下げ、4月22日と23日には1.53%を付けたところで下げ止まって反騰し始めたことでドル円も4月23日安値107.46円から反騰に転じた。4月29日以降は米10年債利回りが低下傾向にあるものの、ドル円は5月3日に高値を切り上げてからも109円台を概ね維持するなど確りしており、米10年債利回り低下とのズレも生じている。テーパリングや将来の利上げ問題が意識されているところがズレの原因とも思われるが、7日夜の米雇用統計からは米長期債利回り上昇=ドル円上昇、米長期債利回り低下=ドル円下落と関係性も単純化してくるのではないかと思われる。

米10年債利回りは4月15日に1.52%台へ低下してから4月29日に1.69%まで上昇、その後は再び低下しているが1.52%割れには至っていない。1.52%を割り込む低下となれば3月30日の1.77%をピークとして利回り低下が二段下げ型になり先安感が強まるが、1.60%台後半へ上昇してくる場合は逆に4月15日を起点とした二段上昇となり先高感が強まりやすくなる。財務省は5月3日、4-6月期の借入予定額を4630億ドルとして2月時点の950億ドルから大幅に引き上げた。今後の米国債発行と入札状況も注目される。

【テーパリングと利上げ時期の議論も意識】

4月29日未明の米FOMCが政策金利と量的緩和規模を現状維持とし、テーパリング=利上げ前段階としての量的緩和縮小開始についてはまだ議論する段階にないとパウエル米連銀議長は会見で発言した。
パウエル米連銀議長は5月3日の講演でも「景気回復は着実に前進している」等の楽観的見通しを示しつつも「危機からはまだ抜け出していない」としたが、量的緩和政策の縮小時期については言及しなかった。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁も3日の講演で「米経済は正しい方向に向かっている」としたが「金融政策スタンスを変更するには十分ではないとみている」と述べ、緩和縮小は時期尚早との考えを示した。

4月30日にはダラス連銀のカプラン総裁が、「金融緩和が市場安定性を脅かすリスクが高まっている」とし「できるだけ早く量的緩和の縮小議論を始めるのが適切だ」と述べているが、同総裁はFOMCの投票権を持っていない。
クラリダ米連銀副議長は5日のインタビューで「2021年の成長率が7%近くの高水準に達する可能性がある」としたものの「雇用と物価の目標到達は長い道のりになる」、「量的緩和策の縮小については議論すべき段階ではない」と述べている。5日にはクリーブランド連銀総裁やボストン連銀総裁も忍耐強く金融緩和政策を維持する姿勢を強調した。

イエレン米財務長官は5月4日の講演でバイデン政権によるインフラ投資などの4兆ドル規模の財政出動に対する影響として、「インフレリスクは小さい」としたものの「景気が過熱しないように金利がいくらか引き上げられる必要があるかもしれない」「極めて緩慢な金利上昇につながる可能性がある」と述べた。財務長官による利上げ可能性への言及は珍しくこの発言が利上げの接近を市場に意識させたことで米長期債利回り低下傾向の中にあってもドル高が続き、ユーロドルは5月4日、5日と4月29日以降の安値を更新するなどドル高反応が見られ、ドル円が下支えられる状況となった。ただし、イエレン長官は別インタビューにおいて注目された発言について「米連銀の利上げを予想するものではないし利上げを支持するものではない」と発言を修正している。このため5日夜にかけてはユーロの軟調さは続いたもののポンドは確りし、豪ドルなどが上昇するなどドル安も見られた。

【60分足一目均衡表・サイクル分析】

【60分足一目均衡表・サイクル分析】

概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、4月23日夜安値を起点とした上昇基調の範囲で推移しているが、5月3日夜に反落したところから持ち直しているので5月3日深夜安値を直近のサイクルボトムとした強気サイクル入りと仮定する。高値形成期は6日午後から10日夕にかけての間と想定するが、3日夕高値の後は新たな高値更新へ進めずに三角持ち合いの様相のため、3日深夜安値を割り込む場合は底割れによる弱気サイクル入りとして6日夜から10日深夜にかけての間への下落を想定する。

60分足の一目均衡表では5月3日の高安レンジ内での持ち合いとなっているので遅行スパン及び先行スパンは実線と交錯を繰り返して方向感に欠ける。4日夜に先行スパンから転落したところは買い戻されているが、先行スパンは細く横ばいのため上下へ抜けやすい状況にある。109.50円超えからは上昇再開感が強まるとみて遅行スパン好転中の高値試し優先とするが、5月3日深夜安値割れからは下げ再開とみて遅行スパン悪化中の安値試し優先とする。

60分足の相対力指数は5月3日の高安レンジ内にとどまっての推移のため50ポイントを挟んで方向感に欠ける。65ポイント超えからは上昇再開とみて70ポイント台後半を目指す上昇を想定するが、40ポイント割れからは下げ再開を警戒し30ポイント割れを試す流れを想定する。

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、5月3日深夜安値108.88円を下値支持線、3日夕高値109.69円を上値抵抗線とする。
(2)109円台を維持しての推移中は上昇余地ありとし、109.50円超えからは3日夕高値試しとし、高値更新からは110円超えを目指す上昇を想定する。110円到達ではいったん売られやすいとみるが、109.50円以上での推移なら7日も高値試しへ向かうとみる。110円到達後の上値抵抗は5月3日深夜への下げ幅の倍返しで110.50円、その上は3月31日高値110.96円。
(3)3日深夜安値割れからは108.50円前後への下落を想定する。108.50円前後は押し目買いされやすい水準とみるが、3日深夜安値を割り込んだ後も109円以下での推移が続く場合は7日も安値試しへ向かいやすいと予想する。ちなみに4月23日夜からの上昇幅に対する半値押しが108.57円、3分の2押しが108.20円にある他、20日基準線が108.74円、転換線が108.67円、4月29日安値が108.43円辺りとなっている。

【当面の主な予定】

5/6(木)
10:00 (NZ) 5月 NBNZ企業信頼感 (4月 -8.4)
15:00 (独) 3月 製造業新規受注 前月比 (2月 1.2%、予想 1.5%)
15:00 (独) 3月 製造業新規受注 前年同月比 (2月 5.6%、予想 25.3%)
17:30 (英) 4月 サービス業PMI改定値 (3月 60.1、予想 60.1)
18:00 (欧) 3月 小売売上高 前月比 (2月 3.0%、予想 1.5%)
18:00 (欧) 3月 小売売上高 前年同月比 (2月 -2.9%、予想 9.4%)
20:00 (ト) トルコ中銀、政策金利 (現行 19.00%、予想 19.00%)
20:00 (英) 英中銀(BOE) 政策金利 (現行 0.10%、予想 0.10%)
20:00 (英) 英中銀資産買取プログラム規模 (現行 8950億ポンド、予想 8950億ポンド)
20:00 (英) 英中銀金融政策委員会(MPC)議事要旨

21:30 (米) 1-3月期 非農業部門労働生産性速報値 前期比 (10-12月 -4.2%、予想 4.2%)
21:30 (米) 1-3月期 単位労働コスト速報値 前期比年率 (10-12月 6.0%、予想 -1.0%)
21:30 (米) 週間 新規失業保険申請件数 (前週 55.3万件、予想 54.0万件)
21:30 (米) 週間 失業保険継続受給者数 (前週 366.0万人、予想 362.0万人)
22:15 (欧) シュナーベルECB理事、講演
23:00 (米) カプラン・ダラス連銀総裁、討論会に参加
26:00 (米) メスター・クリーブランド連銀総裁、講演

5/7(金)
未 定 (中) 4月 貿易収支・米ドル建て (3月 138.0億ドル)
未 定 (中) 4月 貿易収支・人民元建て (3月 879.8億元)
08:50 (日) 4月 マネタリーベース 前年同月比 (3月 20.8%)
10:30 (豪) 豪中銀、四半期金融政策報告
10:45 (中) 4月 財新サービス業PMI (3月 54.3、予想 54.3)
15:00 (独) 3月 鉱工業生産 前月比 (2月 -1.6%、予想 2.1%)
15:00 (独) 3月 鉱工業生産 前年同月比 (2月 -6.4%、予想 5.6%)
15:00 (独) 3月 貿易収支 (2月 181億ユーロ、予想 220億ユーロ)
15:00 (独) 3月 経常収支 (2月 188億ユーロ、予想 240億ユーロ)

19:00 (欧) ラガルド欧州中銀(ECB)総裁、講演
21:30 (米) 4月 非農業部門雇用者数 前月比 (3月 91.6万人、予想 97.5万人)
21:30 (米) 4月 失業率 (3月 6.0%、予想 5.7%)
21:30 (米) 4月 平均時給 前月比 (3月 -0.1%、予想 0.0%)
21:30 (米) 4月 平均時給 前年同月比 (3月 4.2%、予想 -0.4%)
23:00 (米) 3月 卸売在庫 前月比 (2月 0.6%、予想 1.4%)
23:00 (米) 3月 卸売売上高 前月比 (2月 -0.8%、予想 1.0%)
28:00 (米) 3月 消費者信用残高 前月比 (2月 275.8億ドル、予想 200.0億ドル)

注:ポイント要約は編集部

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