ユーロはもみあいも上値の重たい流れ(週報5月第2週)

先週の最大のトピックスは5日のドイツ連邦裁の動きとなりますので、まずはここから行きましょう。

ユーロはもみあいも上値の重たい流れ(週報5月第2週)

ユーロはもみあいも上値の重たい流れ

〇5/5独憲法裁判所がECBの国債購入を一部違憲と判断、ユーロドルは下落
〇ECBの行動を制限する恐れがあり、週末にユーロはやや戻すも判断前の水準には戻せず
〇ユーロドルはサポート1.0790レベル、レジスタンス1.0920レベル
〇ユーロ円は2016年11月以来の安値114.43を記録
〇2016年安値と2018年高値の78.6%押しが115.52なので一旦は下げ止まりやすい水準
〇ユーロドル、ユーロ円とも下落トレンドを継続中、長期的にはユーロ円は110円を試す可能性も

今週の週間見通しと予想レンジ

先週のユーロは、週初から上値の重たい流れが続き、木曜NY市場までは一貫して売られる流れが続き、週末を前にポジション調整を中心とした買い戻しも見られましたが、火曜のドイツ連邦裁の判断前の水準には戻せないままでの一週間となりました。先週の最大のトピックスは5日のドイツ連邦裁の動きとなりますので、まずはここから行きましょう。

ドイツ憲法裁判所は、ECBによる量的緩和の一環として行われている国債購入が、ドイツ政府や連邦議会の関与なしに政策が決定されていることから一部違憲との判断を示し、ECBが政策の必要性を示さない場合、ドイツ連銀が実施している国債購入は3か月以内に中止すべきとしました。

これは悩ましい判断で、ユーロ圏において通貨政策は統一通貨としてユーロが導入されているものの、金融政策は実質的に各国中銀が緩和策を担っているため、国によって常に温度差があり、特に南北格差が見られる中でも優等生のドイツにとっては、弱者に焦点をあてるECBの政策は常に問題視されるものでした。今回の違憲判断を示した対象は緊急プログラムではなくこれまでの緩和策に対する部分で、購入してきた債券の売却にまで踏み込んだものとなりました。

ドイツの裁判制度では、憲法裁判所は他の裁判所からも他の行政機関からも独立して違憲審査を専門に行う特殊な裁判所です。日本で違憲審査となると最高裁まで行っていつ終わるのかといったイメージが強いのですが、ドイツでは比較的よく登場する裁判所です。今回の違憲審査も元々は2017年に提訴され、2018年に欧州司法裁判所が適法としたものの、憲法裁判所が再審査し、一部違憲となったものです。

しかし、ドイツはEUの一部であり、ECBが統一的な金融政策を行っていること、また欧州司法裁判所は各国の裁判所が判断を下すとEU全体で統一的なものにならないこともあるため、統一的な法の解釈を行う機関であるはずです。それにも関わらず、あらためてドイツで判断というのはEU内での温度差を改めて感じさせるとともに、今後のECBの行動に制限が加わってきそうな感じはします。

ただ、上述の通りで今回の判断の範囲には緊急プログラムは含まれていないので、長期的には色々と問題となってくる可能性はあるものの、当面の運用については無制限が可能な緊急プログラム部分で対応可能ではないかと考えられます。ドイツ国内ではそれについても憲法裁判所に審査を求める動きが出る可能性はありますが、そのころにはコロナ禍も過ぎているでしょう。

さて、今週はあまり目立った経済指標は無いものの、英国とドイツのGDP、ユーロ圏GDP改定値が発表されますので、このあたりでどの程度悪い数字が出てくるのかといったところだと思われます。ただ、いまの経済指標は悪くて当たり前という面が強いこと、また実体経済が悪いにも関わらず、一時期のようなリスクオフの動きにつながりにくいという点で相場への影響を読みにくい状況です。

ただ、ユーロ円が2016年11月以来の安値となっていることや、ユーロドルが3月末の戻り高値以降はもちあいとなって来ていることから、動きが出るとすればユーロ売り方向にバイアスがかかりやすい地合いではあります。ここではユーロドルのもみあいをテクニカルにも見てみましょう。日足チャートをご覧ください。

ユーロはもみあいも上値の重たい流れ

3月の大ブレはありましたが、昨年のユーロドル、つまりコロナ前のユーロは一貫して売られる動きが続いていて、3月にいったん上下に振れるイレギュラーなパターンを挟んだもののその後はピンクのラインで示したトライアングルの中でのもみあいと考えられます。

上に抜ける可能性もあるものの、ユーロが潜在的に持っている弱さや先進国の中でも最も低い金利であることなどを考えると、ユーロ売り方向に動きが出やすいことはたしかです。現在トライアングルの下限が1.07台後半、上限が1.09台後半にありますので、それぞれ内側にレンジを狭め今週は1.0790レベルをサポートに、1.0920レベルをレジスタンスとするレンジを見ておきます。

今週のコラム

今週は2016年11月以来の安値をつけているユーロ円を月足チャートで見てみましょう。

ユーロはもみあいも上値の重たい流れ 2枚目の画像

2016年安値と2018年高値の78.6%(61.8%の平方根)押しが115.52となっていて、テクニカルには2019年安値同様に今回の安値もいったん下げ止まりやすい水準ではあります。しかし、ユーロドルもユーロ円も長期的に下げトレンドが継続していることを考えると、ユーロ円ではピンクの平行線で示した下降チャンネルの中で下降トレンドを継続中と見ることができますので、長期的には2016年安値に近い110円の大台を試す可能性は考えておいた方がよさそうです。

今週の予定

今週注目される経済指標と予定はドル円週報に示してあるものと共通です。ドル円週報の「今週の予定」をご参照下さい。なお、その中でユーロの値動きに特に影響が出ると考えられる予定は以下のものです。重要な予定として注意しておきましょう。

5月11日(月)
19:45 メルシュECB理事講演

5月12日(火)
 (特になし)

5月13日(水)
08:01 英国4月小売売上高
17:30 英国1〜3月期GDP速報値
17:30 英国3月貿易収支、鉱工業生産
18:00 ユーロ圏3月鉱工業生産

5月14日(木)
08:01 英国4月住宅価格
15:00 ドイツ4月CPI
19:30 英中銀総裁講演

5月15日(金)
15:00 ドイツ1〜3月期GDP速報値
15:45 フランス4月CPI
18:00 ユーロ圏1〜3月期GDP改定値
18:00 ユーロ圏3月貿易収支

前週のユーロレンジ

前週のユーロレンジ

(注)上記表の始値は全て東京午前9時時点のレート。為替の高値・安値は東京午前9時〜NY午後5時のインターバンクレート。

先週の概況

5月4日(月)
週明けのユーロは前週の上げに対する調整に加え欧州株安も重なったことから対ドル、対円で売られる展開となりました。欧州市場ではいったんもみあいとなっていましたが、NY市場に入り売りが再開し、弱い地合いでの週明けスタートとなりました。

5月5日(火)
欧州市場までユーロドルは動きが出ませんでしたが、欧州市場に入りドイツ連邦裁がECBによる債券購入プログラムを一部違憲と判断したことからユーロドルが前日に続いて大きく売られ、それに追随しユーロ円とともに前日安値を大きく更新しての引けとなりました。

5月6日(水)
欧州市場まではユーロドルは動かずでしたが、欧州市場ではユーロドルが前日の下げを吸収しきれていないことから、ストップを巻き込んで対ドル、対円で下げユーロ円は2017年安値を割り込む展開となりました。ユーロドルは引けにかけては1.08挟みのもみあいとなったものの上値は重たいままの引けとなりました。

5月7日(木)
ユーロドルは東京市場では動かず、欧州市場では前日までの流れを受けて上値の重たい流れが続きました。ドル円のドル買いの動きも手伝ってNY市場では1.0766レベルの安値をつけましたが、米金利低下の動きがドル売りユーロ買いへと転じ、1.0837レベルをつけての高値引けとなりました。

5月8日(金)
ユーロドルは、基本的にドル円同様NY市場まではドルの底堅い動きからユーロは上値は重たいものの狭いレンジでの取引を続けていました。雇用統計後の動きも目立ったものは無く動きは鈍いまま、引けにかけては改めて上値の重たさを感じさせる週末クローズとなりました。

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