ドル円見通し 戦後最悪の米雇用統計でも株高、ドル円もやや円安反応(週報5月第2週)

米労働省が5月8日に発表した4月の雇用統計において失業率は14.7%となり3月の4.4%から跳ね上がって戦後最悪となった。

ドル円見通し 戦後最悪の米雇用統計でも株高、ドル円もやや円安反応(週報5月第2週)

ドル円見通し 戦後最悪の米雇用統計でも株高、ドル円もやや円安反応

〇雇用統計は失業率14.7%、非農業部門就業者数2,050万人減、大恐慌以来の失業率上昇と統計開始以来最悪の就業者減となった
〇にもかかわらず米株は上昇、事前予想ほど数値が悪くなかったことや復興期待、米中電話会談での協調姿勢によるもの
〇ドル円は反発、市場のリスクオンの動きに当面の底値打ちか
〇一方でコロナ終息とみるのは時期尚早、株式市場の上昇基調継続は復興の先取りに過ぎず感染の二次三次拡大の状況次第で株価反落リスクは常にある
〇株価の上昇が続かない場合にはドル円も3/24からの下落基調が継続しやすい
〇5/6安値105.98で当面の底打ちの可能性、割り込まないうちは3/9-3/24の反発の3分の1戻し108.21まで戻りを試すか
〇105.98を割り込む場合には円高傾向継続、上記の3分の2戻し104.74、更には3/9安値101.23を目指す展開も

【概況】

米労働省が5月8日に発表した4月の雇用統計において失業率は14.7%となり3月の4.4%から跳ね上がって戦後最悪となった。非農業部門就業者数は前月から2050万人減少して1939年の統計開始以来で最大の激減となった。就業者数はリーマンショック以降の10年間で増加してきた累計2200万人をわずか1か月で消すこととなった。失業率は従来までの戦後最悪であった1982年11月と12月の10.8%を大幅に超えた。戦前の大恐慌時代では1933年の年平均値が24.9%だったという記録がある。就業者数減少のうちサービス業が1716万5000人の減少だった。
5月7日に発表された5月2日までの週間新規失業保険申請件数は316.9万人で感染拡大による経済活動停止が始まった3月中旬からの7週間の累計で凡そ3300万件となり、4月25日までの週間失業保険受給者総数は2264.7万人だった。この流れを踏まえると5月の雇用統計では非農業部門就業者はさらに1000万人程度減少する可能性も指摘されている。

ドル円見通し 戦後最悪の米雇用統計でも株高、ドル円もやや円安反応

雇用統計:失業率と非農業部門就業者数推移

戦後最悪でリーマンショック時をはるかに超える急激な失業者急増にもかかわらず5月8日のNYダウは前日比455.43ドル高と上昇、ナスダック総合指数も141.66ポイント高と上昇した。感染爆発による失業急増はショッキングではあるが、すでにこの1か月間における週間失業保険申請件数等の統計により想定されていたこと、今を含めて4月から6月にかけての間がコロナショックによる経済的な打撃の底期とすればその後は復興期待で相場も持ち直すとの楽観論が先行しているためと思われる。トランプ政権は既に3兆ドル規模の財政政策をとり、米連銀も3月早々から臨時FOMCを繰り返し開催して利下げと量的金融緩和や企業への貸付等へ動いてきたことが復興期待を助長している。

もう一つの米中問題についても5月8日は楽観的なものとなった。トランプ大統領が発生源の中国の対応を批判しつつ米中通商合意の履行がなされているかチェックして状況次第では制裁関税を課すのではないかとの報道が続く中、中国の劉副首相と米ライトハイザー通商代表部代表及びムニューシン財務長官が電話会談を行い、米中貿易協議の第一段階合意履行への協力姿勢で一致したとの新華社通信の報道が株高を助長したようだ。

ドル円は株高に同調して9日早朝には106.74円の高値まで上昇して5月7日夜の戻り高値106.65円をわずかに上抜いた。
4月28日への下落で4月1日と4月15日に同値でつけた106.91円のダブル底ラインを割り込んで4月29日には106.35円まで下げる一段安となり、5月1日に107.49円まで戻したものの5月7日未明には105.98円まで安値を更新していた。5月1日からは4日連続の日足陰線であり、ダブル底ラインを割り込んでからさらに安値を更新していたために円高ドル安感がかなり強まる状況にあったが、戦後最悪の米雇用統計を見ても株高となったことで、リスクオン優勢の市場心理がドル円にも波及したというところだ。

【アフターコロナ相場は時期尚早】

5月9日時点における世界の新型コロナウイルス感染者数は410万人を超え、死者は28万人を超えた。感染者は3月1日時点で8.8万人、4月1日時点で94万人、5月1日時点で339万人に膨れ上がっている。米国は感染者数が134万人を超え、死者も8万人を超えている。感染者の日々の増加ペースはやや鈍化傾向も見られるが3月以降は2万人を超える増加が続いている。また欧州は爆発的増加のピークを超えてドイツ等が経済活動再開へ動き始めているものの、ロシアやブラジルで爆発的増加が発生している。

仮に欧米が感染爆発のピークをひとまず超えたとしても、世界的な蔓延は続く。経済活動再開へ進んでもコロナショック発生前のような活気を取り戻せるのかどうかは極めて疑問だ。ロックダウンが緩めば第二波、第三波が襲ってくることも懸念されるが、100年前のスペイン風邪によるパンデミックは第二波が最大であり、第三波の終息までには丸3年を要している。
NYダウにみられるようなアフターコロナ相場を先取りした上昇基調が継続すれば、ドル円も通常期にみられるような株高とセットでの円安ドル高基調を取り戻す可能性があり、そうなることが世界にも日本にも良いことだろうが、期待通りに進まずに再び3月の暴落時の様な失望状況に株式市場が叩き込まれれば、ドル円も2月20日から3月9日にかけての間に見られたような急激なリスク回避型の円高を再現しかねないと注意すべきだろう。

3月9日から3月24日へドル円がV字反騰した背景は、世界規模での金融市場動揺と投機ポジションの手仕舞い、投資家が手元流動性確保のドル買いへ殺到したことが主要因だったと思われるが、その後はG7のドル資金供給協調、主要国の金融緩和と財政出動等によりドル資金需給ひっ迫問題はひとまず収まっている。
新興国投資マネーの逆流による新興国通貨安・ドル高は進む可能性があるが、その場合はクロス円における新興国通貨安・円高が厳しく進行すると想定される。あくまでも株式市場の楽観的反騰が続けばドル円も3月24日からの円高ドル安を一服してリバウンドに入る可能性も考えられるが、株高が続かないなら円高への心配を優先するスタンスは変わらずに、3月24日からの下落基調の継続となりやすいのではないかと思う。

【当面のポイント】

【当面のポイント】

(1)昨年8月28日底以降、主要な安値は10月3日、11月1日、12月6日、今年1月8日、1月31日、3月9日、4月1日と続いている。凡そ1か月周期で月末月初に安値を付けて戻しているため、今回も5月6日安値(7日未明)で目先の底を付けて戻り高値試しへ進む可能性がある。しかし、5月6日安値を割り込む場合は次の安値形成期となる5月末から6月序盤にかけての間へ下落基調を続けやすくなると思われる。
(2)3月9日から3月24日へのV字反騰に対する3分の1押しが108.21円、2分の1押しが106.47円、3分の2押しが104.74円である。5月6日安値で半値押しを割り込んだところから戻しかけた状況にある。このため、5月6日安値を割り込まないうちは3分の1押しラインの108.21円前後への戻りを試す可能性を考える。
(3)ただし、5月6日安値を割り込む場合は3分の2押しラインの104.74円前後を当初の下値目途とした下落を想定する。またその場合は3月24日高値からの下落基調継続として先行きは3月9日安値を目指す可能性が出てくると思われる。(了)<10日20:30執筆>

【当面の主な予定】

5/11(月)
10:00 (NZ) 5月 NBNZ企業信頼感 (4月 -73.1)
16:00 (ト) 2月 失業率 (1月 13.8%)
25:30 (米) エバンズ・シカゴ連銀総裁、講演

5/12(火)
10:30 (中) 4月 生産者物価指数 前年同月比 (3月 -1.5%、予想 -2.6%)
10:30 (中) 4月 消費者物価指数 前年同月比 (3月 4.3%、、予想 3.7%)
10:30 (豪) 4月 NAB企業景況感指数 (3月 -21)
14:00 (日) 3月 景気先行指数CI・速報値 (2月 91.7、予想 84.0)
14:00 (日) 3月 景気一致指数CI・速報値 (2月 95.5、予想 91.2)

21:30 (米) 4月 消費者物価指数 前月比 (3月 -0.4%、予想 -0.7%)
21:30 (米) 4月 消費者物価指数 前年同月比 (3月 1.5%、予想 0.4%)
21:30 (米) 4月 消費者物価コア指数 前月比 (3月 -0.1%、予想 -0.2%)
21:30 (米) 4月 消費者物価コア指数 前年同月比 (3月 2.1%、予想 1.7%)
22:00 (米) ブラード・セントルイス連銀総裁、講演
23:00 (米) ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁、講演
23:00 (米) クォ―ルズFRB副議長、上院銀行委員会証言テキスト公表
27:00 (米) 4月 月次財政収支 (3月 -1191億ドル)

5/13(水)
08:50 (日) 3月 経常収支・季調前 (2月 3兆1688億円、予想 1兆9992億円)
08:50 (日) 3月 経常収支・季調済 (2月 2兆3781億円、予想 1兆2189億円)
08:50 (日) 3月 貿易収支・国際収支ベース (2月 1兆3666億円、予想 1686億円)
09:30 (豪) 5月 ウエストパック消費者信頼感指数 (4月 75.6)
11:00 (NZ) ニュージーランド準備銀行(RBNZ)政策金利 (現行 0.25%、予想 0.25%)
14:00 (日) 4月 景気ウオッチャー調査-現状判断DI (3月 14.2)
14:00 (日) 4月 景気ウオッチャー調査-先行判断DI (3月 18.8)
16:00 (ト) 3月 経常収支 (2月 -12.3億ドル)

17:30 (英) 3月 月次GDP 前月比 (2月 -0.1%、予想 -7.9%)
17:30 (英) 1-3月期 GDP速報値 前期比 (前期 0.0%、予想 -2.6%)
17:30 (英) 1-3月期 GDP速報値 前年同期比 (前期 1.1%、予想 -2.2%)
17:30 (英) 3月 鉱工業生産指数 前月比 (2月 0.1%、予想 -5.8%)
17:30 (英) 3月 鉱工業生産指数 前年同月比 (2月 -2.8%、予想 -9.2%)
17:30 (英) 3月 貿易収支・物品 (2月 -114.87億ポンド、予想 -100.00億ポンド)
17:30 (英) 3月 貿易収支・全体 (2月 -27.93億ポンド、予想 -25.00億ポンド

18:00 (欧) 3月 鉱工業生産 前月比 (2月 -0.1%、予想 -12.0%)
18:00 (欧) 3月 鉱工業生産 前年同月比 (2月 -1.9%、予想 -11.2%)
21:30 (米) 4月 生産者物価指数 前月比 (3月 -0.2%、予想 -0.4%)
21:30 (米) 4月 生産者物価指数 前年同月比 (3月 0.7%、予想 -0.2%)
21:30 (米) 4月 生産者物価コア指数 前月比 (2月 0.2%、予想 0.0%
21:30 (米) 4月 生産者物価コア指数 前年同月比 (2月 1.4%、予想 0.9%)

5/14(木)
08:50 (日) 4月 マネーストックM2 前年同月比 (3月 3.3%、予想 3.4%)
10:30 (豪) 4月 新規雇用者数 (3月 0.59万人、予想 -45.00万人)
10:30 (豪) 4月 失業率 (3月 5.2%、予想 7.8%)
15:00 (独) 4月 消費者物価指数改定値 前月比 (速報 0.3%、予想 0.3%)
15:00 (独) 4月 消費者物価指数改定値 前年同月比 (速報 0.8%、予想 0.8%)
16:00 (ト) 3月 鉱工業生産 前月比 (2月 1.2%)
19:30 (英) ベイリー英中銀(BOE)総裁、講演
21:30 (米) 4月 輸入物価指数 前月比 (3月 -2.3%、予想 -3.1%)
21:30 (米) 4月 輸出物価指数 前月比 (2月 -1.6%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 316.9万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 2264.7万人)
26:00 (米) カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、講演
27:00 (メ) メキシコ中銀、政策金利 (現行 6.00%)

5/15(金)
08:50 (日) 4月 国内企業物価指数 前月比 (3月 -0.9%、予想 -0.6%)
08:50 (日) 4月 国内企業物価指数 前年同月比 (3月 -0.4%、予想 -1.4%)
11:00 (中) 4月 小売売上高 前年同月比 (3月 -15.8%、予想 -5.8%)
11:00 (中) 4月 鉱工業生産 前年同月比 (3月 -1.1%、予想 2.0%)
15:00 (独) 1-3月期 GDP速報値 前期比 (前期 0.0%、予想 -2.3%)
15:00 (独) 1-3月期 GDP速報値・季調済 前年同期比 (前期 0.4%、予想 -2.0%)
15:00 (独) 1-3月期 GDP速報値・季調前 前年同期比 (前期 0.3%、予想 -1.9%)

18:00 (欧) 3月 貿易収支・季調済 (2月 258億ユーロ)
18:00 (欧) 3月 貿易収支。季調前 (2月 230億ユーロ)
18:00 (欧) 1-3月期 GDP改定値 前期比 (速報 -3.8%、予想 -3.8%)
18:00 (欧) 1-3月期 GDP改定値 前年同期比 (速報 -3.3%、予想 -3.3%)
21:30 (米) 4月 小売売上高 前月比 (3月 -8.7%、予想 -10.0%)
21:30 (米) 4月 小売売上高・除自動車 前月比 (前月 -4.5%、予想 -7.1%)
21:30 (米) 5月 ニューヨーク連銀製造業景況指数 (4月 -78.2、予想 -62.5)
22:15 (米) 4月 鉱工業生産 前月比 (3月 -5.4%、予想 -11.0%)
22:15 (米) 4月 設備稼働率 (3月 72.7%、予想 65.5%)
23:00 (米) 3月 企業在庫 前月比 (2月 -0.4%、予想 -0.2%)
23:00 (米) 5月 ミシガン大学消費者信頼感指数 (4月 71.8、予想 68.0)

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