ドル需給緩和で従来型リスクオフへ(週報3月第5週)

四半期末を前に本来の資金市場でドルを調達し、為替変動リスクを抱えるドル買いポジションを解消する動きが強まったのが先週後半です。

ドル需給緩和で従来型リスクオフへ(週報3月第5週)

今週の週間見通し

先週のドル円は前週後半から続く高値圏でのもみあいの中、111円台半ばを何度か試して上抜け出来ず、週半ば以降は為替市場全体的なドル売りの動きとともに107円台後半まで水準を下げての週末クローズとなりました。

3月に入ってからの動きをざっと振り返ると当初は新型コロナウイルスの感染者拡大による景気悪化懸念がリスクオフの動きとなり9日には101円台前半まで円高が進行、その後は急速な動きに対する調整と、各国中銀の協調緩和にもかかわらず資金市場でドル資金が逼迫し、最後の手段として為替市場でドルを買って手当てする動きが強まりました。

各国中銀は更なる緩和と流動性供給を行い、少なくとも資金市場におけるドル不足はほぼ解消されてきたことで、四半期末を前に本来の資金市場でドルを調達し、為替変動リスクを抱えるドル買いポジションを解消する動きが強まったのが先週後半です。こうなると、リスクオフによるドル買いという異常事態は当面は考える必要がありませんので、素直に従来型のリスクオフ、つまりファンダメンタルの悪化や株安は円買いにつながりやすいという流れになってきたと言えそうです。

株式市場ではこれも各国が協調しての景気対策を打ち出してきたことで、低金利の状況も手伝っての思惑買いが強く安値圏からはだいぶ値を持ち直しています。しかし、欧米を中心に人と物の制限が続いている状況で、実体経済に与えるダメージはあまりにも大きく、先週あたりから出始めた状況悪化後の欧米の経済指標を見ても当面の企業業績の悪化は容易に想像がつきます。今の株式市場の楽観はどうも2月中旬までの楽観が戻ってきているような気がしてなりません。金融市場全体を見る時の材料として大局を見誤るリスクがあるのではないかという懸念があります。

今週は経済指標が多く発表されます。米国では先週328万件と過去最悪を示した新規失業保険申請数は2日発表分も300万件近い数字が予想されていますし、3日の雇用統計でもNFPは大きくマイナスへと転じる予想がされています。しかも、こうした状況が当面続く可能性が高いというのが怖いところです。

また日本でも日銀短観(3月調査)が1日に発表されますが、景況感は製造業も非製造業も大きく落ち込むと思われ、先週発表された欧州主要国の製造業とサービス業のPMIの特にサービス業の落ち込みを見ると、短観の非製造業DIはリーマンショック以来の悪化となる可能性が高そうです。オリンピックも延期になり先行きの見通しも同様に大きく悪化すると考えざるを得ません。

こうした中で日本に絞って考えても株式市場で買える人は日銀とGPIFを除くとあまりいないとしか思えませんし、そうなってくると資金市場の需給が改善した中で、為替市場は従来型のリスクオフによる円高に動きやすくなるだろうと考えることが自然に思えます。

テクニカルにはどうでしょうか。

既に当面の安値(3月9日、101.19)も戻り高値(3月24日、111.71)も見て、現状は戻り高値からの調整のドル売り先行局面にあると考えられます。既に週明け早朝市場で38.2%押しまでは達成していることや、ドル需給ひっ迫前の水準が107円あたりであったことを考えると、半値押しの106.45レベルをターゲットとしやすい流れにあると見ています。

いっぽう上値については金曜の高値圏となった109円台半ばは上値が重たくなる水準になりますが、既にかなり距離が出てきていることを考えると、109円手前ではドル売りが出やすいと見てよいでしょう。今週はこれらの水準を上下と考え106.50レベルをサポートに、109.00 レベルをレジスタンスとする週を見ておきます。

今週の週間見通し

ドル円(日足)チャート

このチャートは、ローソク足の足型をそのままに陰陽の着色のみを平均足と同様とすることで、短期的な方向性(白=上昇、黒=下降)を見やすくした独自チャートとなっています。また、一目均衡表を併せて表示することで上下のチャートポイントもわかりやすく示しました。

今週の予定(時刻表示のあるものは日本時間)

今週注目される経済指標と予定をあげてあります。影響が少ないものはあえて省いています。FRB地区連銀総裁講演の内、2020年FOMCメンバー(ニューヨーク、フィラデルフィア、クリーブランド、ミネアポリス、ダラス)ではない地区連銀総裁はカッコ付で示しました。また、わかりやすさ優先であえて正式呼称で表記していない場合もあります。

3月30日(月)
**:** 欧州市場夏時間移行
18:00 ユーロ圏3月消費者信頼感確報値
21:00 ドイツ3月CPI速報値
23:00 米国2月住宅販売保留件数指数

3月31日(火)
06:45 NZ2月住宅建設許可件数
08:01 英国3月GFK消費者信頼感
08:30 本邦2月東京区部CPI
08:30 本邦2月失業率・有効求人倍率
09:00 NZ3月企業信頼感
10:00 中国3月製造業PMI
15:00 英国10〜12月期GDP改定値
15:45 フランス3月CPI速報値
16:00 トルコ2月貿易収支
16:55 ドイツ3月失業率
18:00 ユーロ圏3月CPI速報値
21:00 南ア2月貿易収支
22:00 米国1月ケースシラー住宅価格指数
22:45 米国3月シカゴ購買部協会景況指数
23:00 米国3月消費者信頼感

4月1日(水)
08:50 本邦3月日銀短観
09:30 豪州2月住宅建設許可件数
10:45 中国3月MarkIt製造業PMI
16:00 トルコ3月製造業PMI
16:50 フランス3月製造業PMI改定値
16:55 ドイツ3月製造業PMI改定値
17:00 ユーロ圏3月製造業PMI改定値
17:30 英国3月製造業PMI改定値
18:00 ユーロ圏2月失業率
21:15 米国3月ADP全国雇用者数
22:45 米国3月製造業PMI改定値
23:00 米国3月ISM製造業景況指数
23:00 米国2月建設支出
23:30 週間原油在庫統計


4月2日(木)
18:00 ユーロ圏2月PPI
20:30 米国3月チャレンジャー人員削減予定件数
21:30 米国新規失業保険申請件数
21:30 米国2月貿易収支
23:00 米国2月製造業新規受注

4月3日(金)
09:30 豪州2月小売売上高
10:45 中国3月サービス業PMI
16:00 トルコ3月CPI
16:50 フランス3月サービス業PMI改定値
16:55 ドイツ3月サービス業PMI改定値
17:00 ユーロ圏3月サービス業PMI改定値
17:30 英国3月サービス業PMI改定値
18:00 ユーロ圏2月小売売上高
21:30 米国3月雇用統計
22:45 米国3月サービス業PMI改定値
23:00 米国3月ISM非製造業景況指数

前週の主要レート(週間レンジ)

前週の主要レート(週間レンジ)

上記表の始値は全て東京午前9時時点のレート。
為替の高値・安値は東京午前9時からNY午後5時のインターバンクレート。

先週の概況

3月23日(月)
週明けの早朝市場では、新型コロナウイルスに対応するための米国景気対策に対して民主党の賛成が得られない状況に反応し、ダウ先物がストップ安、日経平均先物(シカゴGLOBEX)も瞬間安値15060円をつけました。東京市場開始後は日銀とGPIFによる買い支えが功を奏し16000円台を回復という株式市場の動きに対して、為替市場では東京後場までドルが売られる展開となりました。ここまでは先週末のドル買いに対する利食いが中心でした。その後海外市場に移ってからは再びドル買いの動きに戻りNY昼頃には高値111.60と先週高値をわずかに更新後、FRBが無制限のQEを行うと発表したことからドル需給の緩和につながり、引けにかけてはやや押しての引けとなりました。

3月24日(火)
東京市場では資金市場におけるドル需給のひっ迫緩和期待もあってドル売りの動きが先行しました。欧州市場に入りユーロが対ドル、対円で底堅い動きとなったことからドル円も下げ止まり、その後NY市場では景気対策の議会通過思惑によるダウ上昇がきっかけとなって従来型のリスクオンからドルが上昇する動きとなり111.72レベルとわずかに高値を切り上げ、そのまま高値圏での引けとなりました。


3月25日(水)
ドル円は最近にしては落ち着いた値動きで111円台前半を中心としたもみあいを続けました。各国の金融政策、景気刺激策等への期待も一巡しドルのひっ迫も緩和されている中で新たな材料待ちとなりました。NY市場ではユーロ買いの動きとともにドル円はじり安の流れで引けました。

3月26日(木)
終日ドル売りが目立つ一日となりました。資金市場が落ち着いていれば素直に従来型の反応という点で為替市場は素直に反応、いっぽう株式市場は不思議なほどの強気相場となりました。ドル円は東京市場では期末に向けた実需売りがきっかけでしたが、その後の動きはECBによる債券購入、FRBも行動の余地を示しと資金市場が落ち着きを取り戻す中、それまでのドル買いによる資金調達が解消されている動きと思われました。


3月27日(金)
前日の流れを継続してドル売りが先行、株価の上値が重たかったことも従来のリスクオフへとつながりドル安の流れを後押しすることとなりました。東京昼前には下げ止まり欧州市場序盤には買い戻しも見られましたが、109円台に戻すのがせいぜいでNY市場では改めてドル売りの動きが広がりました。経済指標もある程度わかってはいても予想より悪い数字となったことが売り材料となり107.75レベルまで下押し後も安値圏での引けとなりました。

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