ドル円見通し 109円に届かずに失速、10月3日深夜からの上昇に対する逆流に注意(週報10月第3週)

米中貿易戦争とブレクジット問題は見通しの楽観と悲観を繰り返しつつ先週はいずれも楽観ムードでの推移だった。

ドル円見通し 109円に届かずに失速、10月3日深夜からの上昇に対する逆流に注意(週報10月第3週)

ドル円見通し 109円に届かずに失速、10月3日深夜からの上昇に対する逆流に注意

【概況】

ドル円が10月1日高値から10月3日深夜までの間へ下落したのは米国の経済指標が相次いで悪化したことが背景だったが、10月4日の米雇用統計における失業率改善によりこの流れはいったんストップした。その後は米中協議進展期待やブレクジットを巡る英・EU首脳の合意によりリスクオン心理は拡大し、ドル円は株高とともに戻り高値を試し続けて10月11日深夜には108.61円を付けて9月18日高値108.47円と10月1日高値108.46円によるダブルトップラインを超えた。10月16日未明には108.89円、17日夕刻には109.93円まで戻り高値を切り上げて109円に迫ったが届かなかった。
10月16日夜は米小売統計が予想以上に悪く、17日も米住宅着工件数と許可件数が前月から悪化、米鉱工業生産も不調で再び経済指標悪化による上値の重さが意識され始めた。18日は中国の7-9月期GDPが6.0%へ低下し、ドル円は108.50円を割り込んで週を終えた。

【リスクオン心理も全開とならず】

米中貿易戦争とブレクジット問題は見通しの楽観と悲観を繰り返しつつ先週はいずれも楽観ムードでの推移だった。しかし中東情勢もくすぶり、米中欧の経済指標の鈍化・悪化も目立つ。米ISM製造業景況指数の悪化をきっかけに10月1日から円高ドル安へ走ったことも頭をよぎる。NYダウが7月の史上最高値に対して9月高値で超えられず、10月3日からの反騰で再び最高値更新にチャレンジしているもののなかなか突破できないでいるのは、なかなかリスクオン全開へ踏み切れない市場心理を反映している。

(1)米中問題
米中通商協議では、10月10-11日の閣僚級協議で部分合意に到達し、米国は10月15日からの制裁関税引き上げを中止した。その後も正式な合意文書の詰めが事務レベルで継続している。米中首脳会談は11月16-17日のAPEC首脳会議で実現見込みとなっており、トランプ大統領はそれまでに署名したい意向を示しているがまだ紆余曲折ありと思われる。
米下院は香港デモ問題に関して中国非難の4法案を可決して中国側がこれに反発している。米国は対中制裁関税第4弾を12月15日から実施予定であり、その延期や撤回はまだ決定されていない。暫定合意が米国側有利に正式調印されて第4弾中止へ進む可能性が高まるなら米中関係大幅改善と世界景気浮揚期待から金融市場全般がリスクオン全開となるだろうが、まだ不安も残る。

(2)ブレクジット問題
10月17日に英首相とEU委員長が離脱案で合意に達したが、 英下院は19日にジョンソン首相がEUと合意した新たな離脱案の採決については関連法案が成立するまで先送りするとの動議を322対306の賛成多数で決議した。このため19日の採決はなされず、ジョンソン首相はEUのトゥスク大統領へEU離脱の延期申請を書簡で送った。また自身は離脱延期は望んでいないとの書簡も送付した。
19日の採決については与党が過半数割れのため否決される可能性もあることは市場もある程度の想定はしていたと思う。今回の下院による先送りについての市場反応は月曜早朝からの動きで深刻な失望と受け止められるか、想定内としてさほどの反応を見せないのか見定める必要があり、ジョンソン英首相は21日にも再び採決を計画しているとも報じられている。またEU側が延期を拒否すれば合意無き離脱へ進む可能性が一挙に高まるが、EU側も英国による1月末までの延期を受け入れるだろうという見方もされている。

(3)中東情勢
9月14日のサウジ石油施設への爆撃事件は一時的に同国の原油生産を半減させたがすでに復旧し、その後の波状的なテロ攻撃も見られない。しかし10月に入るとイランのタンカーがミサイル攻撃を受ける事件、トルコがシリア領域への軍事行動に走り米国がこれを恫喝的に批判するなど、ちょっとしたきっかけによっては中東情勢が大規模な軍事的衝突へと発展しかねない緊張感も浮上する。事件的なことが続発しなければ市場も冷静に見守ることになるだろうが、不安感はくすぶり続けると思われる。

(4)経済指標の悪化
米経済指標の弱さが目立っている。10月1日のISM製造業景況指数の悪化からドル円が急落した流れはいったん落ち着いたものの、先週後半の指標も悪かったことは米連銀の利下げ姿勢も含めてドル円の上値を抑えるものとなりやすい。
米連銀が10月のFOMCで追加の小幅利下げを決定するだろうということは市場も織り込んでいるが、さらに状況が悪化してくるようだと大幅な追加利下げに追い込まれる可能性も出てくる。

中国経済指標も弱い。中国税関総署が10月14日に発表した9月の貿易統計で輸出が前年同月比3.2%減、輸入も8.5%減と大幅に落ち込んだ。9月の中国生産者物価は予想通りだったが前年同月比でマイナス1.2%となり8月のマイナス0.8%から悪化した。消費者物価は3.0%で8月の2.8%をわずかに上回ったものの低調な水準だ。また中国国家統計局が18日に発表した今年7-9月期のGDP前年同期比6.0%増にとどまり。前期の6.2%から低下して29年ぶりの低水準となった。

米中貿易戦争が引き金となっているが、リーマンショック後の世界的な金融緩和による無理やりの景気浮揚が限界となり失速してきている側面もあると思う。米連銀も株の大暴落が発生しているわけでもないのに既に二度の利下げを行っているのは予防的な対応としているが、そうした支えがなければいつ大暴落が発生しても不思議ないという認識があるからこそといえる。

【8月26日底からの上昇が早くも行き詰まる?】

【8月26日底からの上昇が早くも行き詰まる?】

ドル円の中勢は概ね10か月から1年周期の底打ちサイクルで推移しており、今年1月3日底からの上昇が4月24日高値で一巡して下落期に入っていると思われる。このサイクルの底形成期は今年11月から来年1月にかけての間と想定されるので、8月26日安値では底打ちとしては日柄が浅い。もちろん、相場に数学的な正確さを求めるのはナンセンスであり、多少日柄が浅くても底打ち反騰へ進む可能性はあるだろうが、8月26日安値を1年サイクルの底として上昇を継続するには8月1日高値109.31円を超えることが前提条件になると思う。

9月18日高値を超えたことにより、8月26日安値からの上昇波動は二段上げ型となった。仮に二段目の上昇が一段目と同等なら上値計算値は110.52円であり、8月1日高値109.31円も超えてゆく可能性も考えられる。しかし、10月16日未明と17日夕刻に二度の109円超えに挑戦して失敗したことは、二段目の上昇が行き詰まってきている印象を与える。ブレクジット問題が混迷し、米中関係でも明確な進展への続報が見られなくなり、米欧の経済指標の悪化が続く場合にはドル円も10月1日から3日深夜へ急落した時の心理状況に逆戻りしてしまうかもしれない。
金融市場全般がリスクオン全開になり、ドル円が109円超えから110円を目指す流れへ進むには、NYダウが史上最高値を更新してゆくような展開が必要なのではないかと思うが、昨年は10月に世界連鎖株安も発生した。10月は1987年のブラックマンデーで象徴される金融市場にとっての鬼門月でもある。

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、108円を下値支持線、10月17日高値108.93円上値抵抗線とする。
(2)108.50円以下での推移が続くうちは108円試し、さらに108円を割り込む場合は10月3日深夜からの上昇に対する逆流が始まった可能性を警戒して107.50円、さらに107円台序盤へと下値目途を引き下げる。
(3)108.70円超えからは108.93円試しとし、リスクオン材料を伴って高値更新なら8月1日高値109.31円から109.50円前後への上昇を想定する。(了)<20:45執筆>

【当面の主な予定】

10/21(月)
休場、インド(マハーラーシュトラ州選挙)
カナダ総選挙
08:50 (日) 9月 貿易統計・通関ベース季調前 (8月 -1363億円、予想 540億円)
08:50 (日) 9月 貿易統計・通関ベース季調済 (8月 -1308億円、予想 -1781億円)
13:30 (日) 8月 全産業活動指数 前月比 (7月 0.2%、予想 0.1%)
15:00 (独) 9月 生産者物価指数 前月比 (8月 -0.5%、予想 -0.1%)
24:40 (米) ボウマンFRB理事、講演

10/22(火)
休場 日本(即位礼)
23:00 (米) 10月 リッチモンド連銀製造業指数 (9月 -9、予想 -7)
23:00 (米) 9月 中古住宅販売件数・年率換算件数 (8月 549万件、予想 545万件)
23:00 (米) 9月 中古住宅販売件数 前月比 (8月 1.3%、予想 -0.7%)

10/23(水)
休場、タイ(チュラロンコーン大王祭)
香港立法会で逃亡犯条例改正案正式撤回
06:45 (NZ) 9月 貿易収支 (8月 -15.65億NZドル、予想 -13.75億NZドル)
22:00 (米) 8月 住宅価格指数 前月比 (7月 0.4%、予想 0.4%)
23:00 (欧) 10月 消費者信頼感速報値 (9月 -6.5、予想 -6.7)

10/24(木)
14:00 (日) 8月 景気先行指数(CI)改定値 (速報 91.7)
14:00 (日) 8月 景気一致指数(CI)改定値 (速報 99.3)
16:30 (独) 10月 製造業PMI (9月 41.7、予想 42.0)
16:30 (独) 10月 サービス業PMI (9月 51.4、予想 52.0)
17:00 (欧) 10月 製造業PMI (9月 45.7、予想 46.0)
17:00 (欧) 10月 サービス業PMI (9月 51.6、予想 51.9)

20:00 (ト) トルコ中銀、政策金利 (現行 16.50%、予想 15.50%)
20:45 (欧) 欧州中銀行(ECB)政策金利 (現行 0.00%、予想 0.00%)
21:30 (欧) ドラギ欧州中銀(ECB)総裁、定例記者会見
21:30 (米) 9月 耐久財受注 前月比 (8月 0.2%、予想 -0.6%)
21:30 (米) 9月 耐久財受注・輸送用機器除く 前月比 (8月 0.5%、予想 -0.2%)
21:30 (米) 前週分 新規失業保険申請件数 (前週 21.4万件、予想 21.5万件)
21:30 (米) 前週分 失業保険継続受給者数 (前週 167.9万人、予想 167.5万人)
22:45 (米) 10月 製造業PMI (9月 51.1、予想 50.8)
22:45 (米) 10月 サービス業PMI (9月 50.9、予想 51.0)
22:45 (米) 10月 総合PMI (9月 51.0)
23:00 (米) 9月 新築住宅販売件数・年率換算件数 (8月 71.3万件、予想 70.2万件)
23:00 (米) 9月 新築住宅販売件数 前月比 (8月 7.1%、予想 -1.5%)

10/25(金)
15:00 (独) 11月 GFK消費者信頼感 (10月 9.9、予想 9.8)
17:00 (独) 10月 IFO景況指数 (9月 94.6、予想 94.5)
23:00 (米) 10月 ミシガン大学消費者信頼感指数 確報 (速報 96.0、予想 96.0)

オーダー/ポジション状況

関連記事

「FX羅針盤」 ご利用上の注意
当サイトはFXに関する情報の提供を目的としています。当サイトは、特定の金融商品の売買等の勧誘を目的としたものではありません。
FXに関する取引口座開設、取引の実行並びに取引条件の詳細についてのお問合せ及びご確認は、利用者ご自身が各FX取扱事業者に対し直接行っていただくものとします。また、投資の最終判断は、利用者ご自身が行っていただくものとします。
当社はFX取引に関し何ら当事者または代理人となるものではなく、利用者及び各FX取扱事業者のいずれに対しても、契約締結の代理、媒介、斡旋等を行いません。したがって、利用者と各FX取扱事業者との契約の成否、内容または履行等に関し、当社は一切責任を負わないものとし、FX取引に伴うトラブル等の利用者・各FX取扱事業者間の紛争については両当事者間で解決するものとします。
当社は、当サイトにおいて提供する情報の内容の正確性・妥当性・適法性・目的適合性その他のあらゆる事項について保証せず、利用者がこれらの情報に関連し損害を被った場合にも一切の責任を負わないものとします。
当サイトにおいて提供する情報の全部または一部は、利用者に対して予告なく、変更、中断、または停止される場合があります。
当サイトには、他社・他の機関のサイトへのリンクが設置される場合がありますが、当社はこれらリンク先サイトの内容について一切関知せず、何らの責任を負わないものとします。
当サイト上のコンテンツに関する著作権は、当社もしくは当該コンテンツを創作した著作者または著作権者に帰属しています。
当社は、当社の事前の許諾なく、当サイト上のコンテンツの全部または一部を、複製、改変、転載等により利用することを禁じます。
当サイトのご利用に当たっては上記注意事項をご了承いただくほか、FX羅針盤利用規約にご同意いただいたものとします。

ページトップへ戻る