ドル円見通し 米中協議での楽観から続伸後に悲観で押し返される(10/10)

10日早朝の協議決裂懸念報道から急落、107円割れは回避しているものの1時間で0.50円幅の下落となった。

ドル円見通し 米中協議での楽観から続伸後に悲観で押し返される(10/10)

【概況】

10月10日早朝、「米国と中国は次官級の貿易協議で進展がなく、中国代表団は11日ではなく10日に米国を離れる計画だ」と香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが報道。「中国側は強制的な技術移転への対処を拒否し、中国政府の補助金問題に関する協議にも応じなかった」「(交渉では)農産品購入や知的所有権の保護に議論が集中したが、中国側は米国に関税引き上げの停止検討を求めたものの進展は見られなかった」とされた。

9日には英フィナンシャル・タイムズ紙が「中国が米農産物の購入拡大を提案する見通し」「閣僚級による貿易交渉でかなり進展が期待される」と報じていたために市場全般では10日と11日に開催される閣僚級協議への期待感が強まっていた。
ドル円は先週の米経済指標悪化による大幅下落で10月3日深夜に106.50円まで下げたが、4日夜の米雇用統計での失業率改善により一服、7日からは米中協議への進展期待で戻しに入り、8日未明には107.46円まで戻り高値を切り上げた。8日夕刻からはブレクジット問題での悲観論等もあって106.80円まで反落する場面もあったが持ち直し、9日は全般的な楽観を背景に株高となり、10日未明高値には107.62円まで戻り高値をさらに切り上げていた。
しかし10日早朝の協議決裂懸念報道から急落、107円割れは回避しているものの1時間で0.50円幅の下落となった。

【米中協議は悲観と楽観が交錯、終わるまでわからない】

米商務省は10月7日、中国によるイスラム教少数民族ウイグル族らに対する弾圧の制裁として、監視カメラ大手のハイクビジョンや新疆ウイグル自治区当局など28団体・企業への輸出を原則禁止すると発表し、9日付で安全保障上のブラックリストに加えた。これに対して中国外務省は「米国は誤った方法を正して中国の問題への介入をやめるべき」「中国は主権守るため引き続き断固とした措置とる」と批判した。
10日早朝の香港紙報道は、閣僚級協議前の次官級事前協議に関するものであり、本番の協議結果が出るまではまだ紆余曲折がありえるところだが、9日には劉副首相が習近平国家主席の特使の立場としては協議しないと報じられ、中国側が予定を早く切り上げて帰国する可能性も報じられた上で、10日早朝の香港紙報道があったため、市場も楽観の梯子を外された状況にある。

米国は10月15日からすでに実施済の対中国制裁関税第1弾から第3弾までの対象に対する税率引き上げを予定しており、閣僚級協議の結果をみるまで実施を保留する姿勢をとってきたが、閣僚級協議が決裂となれば実施に踏み切り、中国側も対抗措置に出て米中関係がより悪化してゆく可能性がある。交渉事はギリギリまでわからないものだが、少なくとも10日早朝は金融市場全般がリスク回避型で動いている印象だ。

10月9日の取引終了時点では、NYダウは中国が米国農産物等の購入へ動くとの報道等から交渉進展への期待がやや先行して181.97ドル高と反発していたが、10日早朝の香港紙報道でダウ先物が前日比280ドル以上の下落となっている。

10日未明に公表された前回FOMC議事録要旨では、「景気の先行きリスクが7月会合時よりも幾分高まった」とされて先行きの利下げ余地に含みを持たせたが、利下げ決定については投票権を持つパウエル議長等10人のうちの3人が反対していたことが分かった。セントルイス連銀のブラード総裁は0.50%の大幅利下げを主張したようだが、それ以外では大幅な追加利下げ姿勢は特段に見られなかった。市場にとっては議事録は想定範囲内という印象だった。

【10月3日以降の底上げラインを維持できるかどうか】

米中協議が一転して部分合意、ないしは年内合意へ向けた道筋が示されるような情勢好転となれば、ドル円も10日早朝の下落から反騰に転じる可能性はあるが、中国の訪米団が予定を切り上げて早期帰国や、10月15日からの米国による関税率引き上げが実施されて年内合意の可能性が後退するようなら市場の悲観も強まる。
ドル円は10月3日深夜安値106.50円で9月25日安値106.94円を割り込んだ。このため、9月19日高値108.47円と10月1日高値108.46円をダブルトップとした下落期に入ってきた印象が強まった。10月3日から戻してきたためこの下落期入りにはブレーキがかかったが、10日早朝の下落により雲行きは怪しくなった。
10月3日深夜安値の後は7日朝106.67円、8日夜106.80円と底上げしつつ、戻り高値を切り上げてきた。この底上げパターンが崩れないうちは、次の切り返しから高値更新へ進む可能性もあるわけだが、8日夜安値106.80円を割り込むと底上げの支持線割れとなり下落再開感が強まり、10月3日深夜安値試し、さらに底割れによる一段安入りから8月26日安値104.45円試しへと円高の流れが加速しかねない。

【60分足一目均衡表、サイクル分析】

【60分足一目均衡表、サイクル分析】

概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、10月3日深夜安値を直近のサイクルボトムとした強気サイクル入りとして4日夕から8日夕にかけての間への上昇を想定していたが、8日夜に106.80円まで急落したために9日朝時点では8日未明高値をサイクルトップとした弱気サイクル入りとした。10日未明へ高値を更新したがその後に失速しているため、すでにサイクルトップを付けて下落期に入っている可能性がある。8日夜安値106.80円を割り込まないうちは107.30円超えから上昇再開とみて10日未明高値試しとし、高値更新なら11日未明から15日未明にかけての間への上昇継続を想定する。しかし107円割れからは弱気転換注意とし、8日夜安値割れからは新たな弱気サイクル入りとして11日夜から15日夜にかけての間への下落を想定する。

60分足の一目均衡表では、9日夜の上昇で遅行スパンが好転、先行スパンも突破したが、その後の急落で両スパンそろって悪化しつつある。8日夜安値割れ回避のうちは持ち直しの上昇に入る可能性もあるが、107円割れから続落の場合は両スパンそろって悪化となるため、遅行スパン悪化中の安値試し優先とする。

60分足の相対力指数では10日未明への高値更新時に8日未明高値形成時と指数のピークがほぼフラットとなっているため弱気逆行型からの下落期入りが警戒される。50ポイント台回復から続伸に入れば上昇再開の可能性ありとするが、40ポイント割れから続落の場合は20ポイント台への低下と相場の一段安を想定する。

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、107.00円、次いで10月8日夜安値106.80円を下値支持線、107.30円、次いで10日未明高値107.62円を上値抵抗線とみる。
(2)107円以上での推移中は上昇再開余地ありとし、107.30円超え維持する場合は10日未明高値試しを想定する。米中協議関連での楽観報道から10日未明高値を上抜く場合は108円試しを想定するが、107.75円以上は反落警戒圏とみて、その後の107.50円割れからは下げ再開を疑う。
(3)107円割れを弱気転換注意とし、8日夜安値割れからは新たな弱気サイクル入りと仮定してまず10月3日深夜安値106.50円試しとする。米中問題等で悲観が広がっての下落なら106円前後試しへ下値目途を引き下げ、さらに11日への続落警戒とする。

【当面の主な予定】

10/10(木)
米中閣僚級貿易協議[11日まで、ワシントン]
15:00 (独) 8月 貿易収支 (7月 214億ユーロ、予想 186億ユーロ)
15:00 (独) 8月 経常収支 (7月 221億ユーロ、予想 179億ユーロ)
17:30 (英) 8月 月次GDP 前月比 (7月 0.3%、予想 0.0%)
17:30 (英) 8月 鉱工業生産 前月比 (7月 0.1%、予想 0.0%)
17:30 (英) 8月 鉱工業生産 前年同月比 (7月 -0.9%、予想 -0.8%)
17:30 (英) 8月 製造業生産 前月比 (7月 0.3%、予想 0.2%)
17:30 (英) 8月 貿易収支・物品 (7月 -91.44億ポンド、予想 -100億ポンド)
17:30 (英) 8月 貿易収支・全体 (7月 -2.19億ポンド、予想 -10.50億ポンド)

20:30 (欧) 欧州中銀(ECB)理事会議事要旨
21:30 (米) 9月 消費者物価指数 前月比 (8月 0.1%、予想 0.1%)
21:30 (米) 9月 消費者物価指数 前年同月比 (8月 1.7%、予想 1.8%)
21:30 (米) 9月 消費者物価コア指数 前月比 (8月 0.3%、予想 0.2%)
21:30 (米) 9月 消費者物価コア指数 前年同月比 (8月 2.4%、予想 2.4%)
21:30 (米) 前週分 新規失業保険申請件数 (前週 21.9万件、予想 21.8万件)
21:30 (米) 前週分 失業保険継続受給者数 (前週 165.1万人、予想 165.1万人)
25:15 (米) カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、対話集会参加

10/11(金)
米中閣僚級貿易協議[最終日、ワシントン]
06:30 (米) メスター・クリーブランド連銀総裁、講演
07:30 (米) ボスティック・アトランタ連銀総裁、講演
08:50 (日) 9月 マネーストックM2 前年同月比 (8月 2.4%、予想 2.4%)
15:00 (独) 9月 消費者物価指数改定値 前月比 (速報 0.0%、予想 0.0%)
15:00 (独) 9月 消費者物価指数改定値 前年同月比 (速報 1.2%、予想 1.2%)
21:00 (米) カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、Q&A参加
21:30 (米) 9月 輸入物価指数 前月比 (8月 -0.5%、予想 -0.1%)
21:30 (米) 9月 輸出物価指数 前月比 (8月 -0.6%、予想 0.1%)
23:00 (米) 10月 ミシガン大学消費者信頼感指数 (9月 93.2、予想 92.0)
26:15 (米) ローゼングレン・ボストン連銀総裁、講演
28:00 (米) カプラン・ダラス連銀総裁、講演

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