ドル円見通し 米中協議の行方と米連銀利下げ姿勢をにらむ(週報9月第1週)

米国は9月1日、中国からの輸入品3000億ドル相当に15%の関税を上乗せする対中制裁第4弾の初回分を実施した。

ドル円見通し 米中協議の行方と米連銀利下げ姿勢をにらむ(週報9月第1週)

ドル円見通し 米中協議の行方と米連銀利下げ姿勢をにらむ

【概況】

8月1日に米トランプ大統領が対中制裁関税第4弾の発動を宣言したことでドル円は8月1日夜高値109.31円から8月12日安値105.04円まで下落した。105円割れをひとまず回避していったん落ち着き、第4弾発動の一部延期表明によりドル円は13日夜に106.95円まで戻したが、その後は決め手に欠いて106.50円を挟んだ小レンジでの持ち合いが続いていた。
8月23日夜、中国が米国による対中国制裁関税第4弾発動に対する報復措置を発表、米国も即座に対抗措置を発表したことから再び急落となり、26日朝には安値で104.45円を付けて今年1月3日安値及び2018年3月26日安値104.63円も割り込んだ。年初以来の104円台への急落に対する突っ込み警戒感からの買い戻しと、G7参加中のトランプ米大統領が中国との電話協議や合意への期待に言及したことから26日夜に106.37円まで戻した。

8月28日には米通商代表部(USTR)が対中関税第4弾の一部対象品目について9月1日から15%の追加関税を発動すると正式に発表したものの、8月23日にトランプ大統領が言及していた第1弾から第3弾までの実施済対象に対する関税率引き上げには触れなかったこと、29日にはトランプ米大統領が米中両国は様々なレベル協議を行うと述べ、中国商務省も両国が9月の協議再開について話し合っていると表明したことからリスク回避感が後退して30日未明には106.68円を付けて、23日夜急落開始前高値106.73円に迫った。週をまたいで正味半日程度で暴落した下げ幅を4日間かけてほぼ解消した状況となった。しかし8月23日高値を超えて暴落をなかったことにするところまでは進めず、8月30日は9月1日からの米中双方による関税発動や9月2日の米国市場休場を控えた状況で106円台序盤まで押し返されて終了した。

【米中の制裁・報復関税拡大は予定通り実施】

米国は9月1日、中国からの輸入品3000億ドル相当に15%の関税を上乗せする対中制裁第4弾の初回分を実施した。中国も既に表明している報復措置を実施した。想定通りの動きであり、市場にとっては折り込み済ではあるが、米中協議再開の具体的な日程等は示されていないため、先行き不透明感が再び強まる可能性も懸念される。
中国国営新華社通信は中国共産党は30日に中央政治局会議を開き、10月に第19期中央委員会第4回総会(4中総会)を北京で開くと決めた。そこで米中貿易戦争をめぐる新たな方針を打ち出す可能性があるが、その動向も踏まえて米国への対抗姿勢を週明けから強硬に打ち出すのか、やや控え目な協議期待姿勢を示すものになるのか注目される。
NYダウは28日に258.20ドル高、29日に326.15ドル高、30日も41.03ドル高と3連騰しているが、7月末から急落した後の26000ドルを挟んだ乱高下型の持ち合いの上限にあり、騰勢回復とまで言えない状況にとどまっている。

米10年債利回りは1.50%で週を終えたが、2年債利回りの1.51%を下回り、2年債と10年債の利回り逆転は5日連続となった。2018年6月に米中閣僚級協議が決裂してからすでに1年を経過して問題は解決されていない。次世代技術の主導権を含む覇権争いとしての米中貿易戦争であり、中国側も簡単にはトランプ政権の軍門には下れない。

【米国によるドル安誘導は?】

トランプ大統領は30日、「ユーロはドルに対して狂ったように下落している。彼らの輸出と製造業が有利になる。そして米FRBは何もしていない」「今やドルは史上最も強い」「FRBはすべきことが分かっていない」等とツイートした。これをきっかけにユーロは1.10ドルを割り込んで年初来及び2018年2月天井以降の安値を更新、2017年5月以来の安値水準へ転落した。
メジャー通貨の加重平均であるドル指数は30日の上昇で2月16日底以降の高値を更新、昨年6月以来の高値水準となっている。米連銀が利上げ棚上げ姿勢へ転じ、さらに7月末のFOMCで利下げに踏み切ったにもかかわらずドル指数は上昇基調を継続している。米連銀が利下げすれば新興国、資源輸出国も利下げに回る。米連銀は9月17−18日のFOMCで追加利下げするとみられているが、ECBも9月会合で利下げする可能性が高まっており、米連銀の消極的調整的な利下げ姿勢ではドル高基調が崩れない。それがトランプ政権をいら立たせている。

9月6日には米雇用統計の発表もあり、米中協議進展を見守りながらも米連銀の利下げ姿勢が従来よりも強いものになるのかどうかという点も徐々に重要になってくる。米中問題が膠着的になればそれだけ米連銀の利下げ姿勢問題とトランプ政権による批判やドル安誘導的な姿勢への注目度も高まってゆくのだろうと思われる。

【105円割れを切り返した流れを継続できるか】

2018年3月26日に104.63円の安値まで下げたところから切り返し、2018年10月4日高値まで大上昇した。2019年1月3日の105円割れへの急落も長い下ヒゲを付けて当日中に反騰し、4月24日高値まで戻りは続いた。それらに続く三度目の105円割れとなった今回も、ひとまず当日中に105円台を回復してリバウンドを続けている。
1月3日は早朝の暴落で、短時間での急落と反騰後に下ヒゲ部分をつぶさずに107円以上へ戻した状況を維持してリバウンド基調に入った。2018年3月底でも、105円割れした翌日から切り返し、3日後には107円台を回復し、その後も底上げから高値切り上げへと進んだ。

今回も107円台へ乗せてくれば8月13日高値も超えてくるために8月1日からの下落基調を脱却する可能性も出てくる。また現状からいったん下げても105円台を維持してから切り返せば、8月26日安値を頭、8月12日安値を左肩とした逆三尊の右肩形成となり次の上昇で8月26日以降の高値を更新するところから上昇期に入る可能性が出てくるかもしれない。仮に米中双方の関税拡大については8月26日への急落でいったん折り込み済とし、今後の米中協議再開への期待が折り込まれた弱気心理以上へ膨らめば戻り高値をさらに試してゆく可能性も開けると思われる。
しかし、米中協議への期待感が8月26日朝への急落心理を解消する以上に膨らまなければ、105円割れから逆三尊期待は後退し、8月26日安値へ迫るところからは一段安への懸念が加速し、底割れからは悲観心理が一段と増長する可能性が懸念される。

【当面のポイント】

【当面のポイント】

(1)8月23日夜高値106.73円を上値抵抗線、106.00円、次いで105.50円を下値支持線とみておく。
(2)8月23日高値を超えて107円台へ乗せる続伸となる場合、8月26日安値を当面の底とした上昇期に入る可能性が高まる。そのためには米中協議の進展が具体的に期待される状況好転、ユーロ安等によるドル全面高でドル円も押し上げられる必要がある。そうした状況に支えられての上昇なら107.50円前後まで上値目途が切り上がると考える。
(3)8月23日高値を超えないか、わずかに超えても続伸できずに106円を割り込む場合は下げ再開が疑われる。105.50円を割り込む場合は下げ再開とみて8月26日安値104.45円試しへ向かうとみる。105円割れ回避で切り返せば、前述した逆三尊の右肩形成からの切り返しに入る可能性は残るが、105円割れをスルーで下落する場合はそのまま8月26日安値も割り込んで103円台へ突入する可能性が高まるとみる。米中対立がより深刻化する場合、米連銀の利下げ姿勢が一段と強まる場合はこの可能性も高まるとみる。(了)<1日22:40執筆>

【当面の主な予定】

9/2(月)
休 場 米国、カナダ、インド、ベトナム、マレーシア
08:50 (日) 4-6月期 四半期法人企業統計・全産業設備投資額 前年同期比 (前期 6.1%)
10:45 (中) 8月 財新製造業PMI (7月 49.9、予想 49.8)
16:55 (独) 8月 製造業PMI改定値 (速報 43.6、予想 43.6)
17:00 (欧) 8月 製造業PMI改定値 (速報 47.0、予想 47.0)
17:30 (英) 8月 製造業PMI (7月 48.0、予想 48.8)

9/4(水)
米議会諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」公聴会
06:00 (米) ローゼングレン・ボストン連銀総裁、講演
09:50 (日) 黒田東彦日銀総裁、発言
10:30 (豪) 4-6月期 GDP 前期比 (前期 0.4%、予想 0.6%)
10:30 (豪) 4-6月期 GDP 前年同期比 (前期 1.8%、予想 1.5%)
10:45 (中) 8月 財新サービス業PMI (7月 51.6、予想 51.8)
16:55 (独) 8月 サービス業PMI改定値 (速報 54.4、予想 54.4)
17:00 (欧) 8月 サービス業PMI改定値 (速報 53.4、予想 53.4)
17:30 (英) 8月 サービス業PMI (7月 51.4、予想 51.5)
18:00 (欧) 7月 小売売上高 前月比 (6月 1.1%)
18:00 (欧) 7月 小売売上高 前年同月比 (6月 2.6%)

21:30 (米) 7月 貿易収支 (6月 -552億ドル、予想 -553億ドル)
22:25 (米) ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁、講演
23:00 (加) カナダ中銀、政策金利発表 (現行 1.75%、予想 1.75%)
25:30 (米) ボウマンFRB理事、ブラード・セントルイス連銀総裁、挨拶
26:00 (米) カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、講演
27:00 (米) 米地区連銀経済報告(ベージュブック)
28:15 (米) エバンス・シカゴ連銀総裁、講演
30:30 (米) ブラード・セントルイス連銀総裁、挨拶

9/5(木)
10:30 (豪) 7月 貿易収支 (6月 80.36億豪ドル、予想 66.00億豪ドル)
14:45 (ス) 4-6月期 GDP 前期比 (前期 0.6%、予想 0.2%)
14:45 (ス) 4-6月期 GDP 前年同期比 (前期 1.7%、予想 0.9%)
15:00 (独) 7月 製造業新規受注 前月比 (6月 2.5%、予想 -1.2%)
15:00 (独) 7月 製造業新規受注 前年同月比 (6月 -3.6%、予想 -4.0%)
16:00 (欧) デギンドスECB副総裁、講演
21:15 (米) 8月 ADP 非農業部門就業者数 前月比 (7月 15.6万人、予想 14.0万人)
21:30 (米) 4-6月期 非農業部門労働生産性改定値 前期比 (速報 2.3%、予想 2.2%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 21.5万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 169.8万人)
22:45 (米) 8月 サービス業PMI改定値 (速報 50.9)
22:45 (米) 8月 総合PMI改定値 (速報 50.9)
23:00 (米) 7月 製造業新規受注 前月比 (6月 0.6%、予想 0.9%)
23:00 (米) 8月 ISM非製造業景況指数 (7月 53.7、予想 53.8)

9/6(金)
08:30 (日) 7月 全世帯消費支出 前年同月比 (6月 2.7%、予想 0.8%)
14:00 (日) 7月 景気先行指数CI速報値 (6月 93.3)
14:00 (日) 7月 景気一致指数CI速報値 (6月 100.4)
15:00 (独) 7月 鉱工業生産 前月比 (6月 -1.5%、予想 0.5%)
15:00 (独) 7月 鉱工業生産 前年同月比 (6月 -5.2%、予想 -3.5%)
18:00 (欧) 4-6月期 GDP確定値 前期比 (前回 0.2%、予想 0.2%)
18:00 (欧) 4-6月期 GDP確定値 前年同期比 (前回 1.1%、予想 1.1%)
21:30 (米) 8月 雇用統計・非農業部門就業者者 前月比 (7月 16.4万人、予想 15.7万人)
21:30 (米) 8月 雇用統計・失業率 (7月 3.7%、予想 3.7%)
21:30 (米) 8月 雇用統計・平均時給 前月比 (7月 0.3%、予想 0.3%)
21:30 (米) 8月 雇用統計・平均時給 前年同月比 (7月 3.2%、予想 3.0%)
25:30 (米) パウエルFRB議長、講演(チューリッヒ)

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