ドル円3月10日高値に届かず上昇一巡か?(5月第四週)

4月17日に108円割れを試すところまでリスクオフで下落していたドル円だが、4月17日の週からは週前半に上昇、

ドル円3月10日高値に届かず上昇一巡か?(5月第四週)

<概況>

5月10日に114円乗せ、11日未明には114.36円まで上昇していたドル円相場だが、5月第3週は大幅下落となった。
5月14日(日曜日)の北朝鮮ミサイル発射により週明け15日早朝に113.10円まで下落、16日にかけてはやや戻したが114円台回復には至らず、16日夜には113円割れから底割れを嫌気した連鎖売りに下落、17日夜はさらにトランプ大統領弾劾への動きが強まったことから米国株が大幅下落、米長期債上昇(利回り低下)を嫌気して112円割れ、さらに111円割れへと崩れた。
18日には110.23円まで続落したが、週末は下げ一服、突っ込み警戒感から111円台へ戻して終了した。

【週末調整安、週明け一段高の強気パターン崩れる】

4月17日に108円割れを試すところまでリスクオフで下落していたドル円だが、4月17日の週からは週前半に上昇、週末にかけては調整安を入れるが週明けには一段高へと進む強気パターンが4週間続いた。そのきっかけは仏大統領選挙であり、4月24日(月曜日)早朝の開票速報により中道マクロン氏首位の報道で110円台回復、5月8日(月曜日)早朝には決戦投票でのマクロン氏勝利確定からさらに上昇して114円台に到達した。
もう一つのリスク要因であった朝鮮半島有事問題でも、4月25日の健軍記念日には核実験強行はなく、その後も米朝対話の可能性や、韓国大統領選挙での南北融和派とされる文大統領誕生でリスク回避感が後退してきた。
週末に北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返しても、直後にリスク回避感が若干でても材料消化となってその後の上昇に弾みをつける結果となった。
こうした材料イベントのタイミングもあって週明けに一段高開始、週末にかけて調整安を入れてもまた一段高するという強気パターンが繰り返されてきたわけだ。

しかし、5月15日朝安値からの反発では高値更新に至らず、新たなリスク回避問題=トランプ大統領弾劾への政治リスクが市場テーマとなったことで週前半の一段高へ進めず、逆に週後半へ一段安、週末は突っ込み警戒でやや戻すというパターンの逆転となっている。
このリズムは、概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成のサイクルにより、パターンが出来始めると継続しやすい習性がある。このサイクルの直近のサイクルトップは16日高値、同サイクルボトムが18日夕安値であり、週末の戻りが継続できずに111円台での小持合いに止まっているため、111円割れからは新たな弱気サイクル入りとなり、次の安値形成期となる23日から25日にかけは下落しやすい状況と思われる。24日、ないしは25日へ下落し、週末の26日にかけていったん戻しても、翌週からまた下落再開しやすいリズムに入りつつあると思われる。

【FOMC議事録、米大統領弾劾の動き】

5月23日、米トランプ政権による予算教書が出される。24日にはコミー前FBI長官が米下院公聴会に呼ばれている。25日未明にはFOMC議事録(5月2日、3日会合分)の公開がある。
トランプ大統領当選を株にとっての強気材料として米国株は大幅上昇してきたが、現実に大統領へ就任してからは政策実行が中々うまく行っていない。それでも先行き期待で米国株は強気を維持してきた。メディアの論調とウォール街の心理は大きくかい離してきたともいえる。しかし大統領弾劾への動きを材料として5月17日にNYダウは372ドル安と急落した。その後の2日間でダウは戻しているが17日の下落分を解消しきれていない。金融市場全般が米国の政治リスク、政策実効性へのリスクを再認識し始めたと言えるのではないか。

トランプ大統領はコミー前FBI長官を解任したが、これに関して大統領選挙をめぐるロシアの介入に関する大統領側からの捜査妨害の疑惑が出ている。またトランプ大統領がラブロフ露外相との会談でIS関連の機密情報をロシアへ漏洩したと報じられた。大統領選挙中のロシア介入問題も含めて「ロシア・ゲート事件」という呼び方もされ始め、米大手メディアの大統領批判がヒートアップしてきている。19日夜にはワシントンポスト紙がトランプ大統領に近い人物がこの問題で捜査対象となっていると報じられたため、終盤の米国株も売られ、ドル円もやや下落気味で終了してる。
大統領が弾劾訴追され罷免されるには、下院の過半数を超える弾劾決議、さらに上院3分の2の決議による有罪判決が必要であり、現実的にはかなりハードルが高い。情報漏洩や大統領選挙でロシアの介入云々は刑事事件的なものではないが、大統領弾劾には微罪でも訴追が可能とされているため、様々な問題が集積されて弾劾へ向かう可能性はあるだろう。

ちなみにビル・クリントン大統領はスキャンダルで弾劾されたが上院での弾劾は否決されている。ウォーターゲート事件の際、ニクソン大統領は弾劾前に辞任している。
現実に弾劾訴追、大統領罷免へと進まないにしても、この問題で政治運営がスムーズに進まなくなる可能性が高まれば、トランプ大統領の掲げる大規模インフラ投資等の政策遅延がトランプラリーとして上昇して来た株高のブレーキとなり、過剰に上昇し過ぎていたことの揺れ返しとして米国株安が世界株安連鎖を招く可能性も出てくるかもしれない。このため、問題が長引けば金融市場全般のリスク回避感がさらに高まる可能性がある。

FOMCが次回6月会合で追加利上げをすることはかなり確率が高いと市場も想定している。5月10日に114円台まで円安ドル高が進んでいた際、市場は6月利上げに続いて9月の追加利上げ、さらに年後半には米連銀のバランスシート縮小開始の可能性も高まったとして米長期債が下落、長期金利が上昇し、日米の10年債利回りスプレッドが拡大していた。しかし、米国の政治混乱リスクが高まり、株安が進むような場合、6月利上げ以降の追加利上げ、金融政策正常化へのプロセスが遅延してゆく可能性が出てくる。この可能性を反映して米長期債が上昇=利回り低下となり、日米10年債利回りスプレッドが縮小、円高ドル安要因に転じている。

【4月17日からの揺れ返し一巡で振り出しへ帰るか?】

【4月17日からの揺れ返し一巡で振り出しへ帰るか?】

ドル円は4月17日に108.13円まで下落した。リスク回避によるクロス円における円買い戻し、米長期債上昇(利回り低下)による日米金利差縮小、朝鮮半島有事リスクが背景であった。リスク回避感後退で揺れ返しの上昇で5月11日高値で114.36円をつけた。下落の起点であった3月10日高値115.50円に対して100%戻したとは言えないが、3月10日高値を前後する114円前後から115円台序盤の水準までは回帰したと言える。

概ね戻したところで5月17日には高値から安値まで2.3円幅となる日足大陰線を入れた。翌日は小陽線に止まり、いわゆる「入り首線」(大陰線の下部に若干入り込む程度の小陽線)となった。1日も小陰線に止まり、110円台序盤への下落から戻したものの、これを底打ちとして積極的な買い戻して行こうという印象に欠ける展開だった。強気反騰開始なら連続陽線で17日の大陰線の半値以上を解消する力強い展開になっていたであろう。

高値から安値まで2円幅を超える日足の大陰線規模としての前例は1月5日に2.2円安となった大陰線がある。それは昨年12月15日高値とのダブルトップを形成した1月3日高値からの下落開始の合図であった。
大陰線の後、戻り抵抗はその中心値となるため、今回は111.95円前後が戻しに入った場合の第一関門、第二関門は急落前水準の112.10円前後と考えられる。これら二つの関門をクリアする上昇とならないうちは一段安が警戒される。
5月17日安値を割り込む場合、下値目途は4月17日安値108.13円へのイッテコイまで切り下がってくると考える。そこでダブル底を形成できるかどうかが試されるが、リスク回避感が強まったままで推移してゆく場合は底割れからさらに一段安する可能性も警戒すべきかもしれない。

日足の一目均衡表では17日時点で先行スパンから転落、その後は先行スパン内へもぐりこんでいる。再び上抜き返せば17日の大陰線始値近辺を試す可能性が出てくるが、先行スパンから再び転落の場合はそのまま4月17日安値試しへと下落基調が継続しやすくなるとみる。
9日転換線が112.30近辺にあるが、4月17日からの上昇は4月21日に転換線を上抜いて加速した。16日に同線を割り込み始め、17日の急落により大きく割り込んだ。同線を割り込んでも翌日に切り返すなら強いが、同線割れの状況が続く場合は下落継続しやすい。3月10日からの下落でも3月15日の同線割れから下げが加速している。下値不安が強い局面だ。(了)<5/21 21:30執筆>

【今週の主な予定】

5月22日
EU、ユーロ圏財務相会合(ブリュッセル 23日まで)

08:50 日 4月貿易収支
21:30 米 4月シカゴ連銀全米活動指数
23:00 米 ハーカー米フィラデルフィア連銀総裁、講演
23:30 米 カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁、講演

5月23日
米 予算教書

8:30 米 ブレイナードFRB理事、講演
10:10 米 エバンス米シカゴ連銀総裁、講演
22:00 米 カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁、会見
23:00 米 4月新築住宅販売件数
23:00 米 5月リッチモンド連銀製造業指数

5月24日
トランプ米大統領、ローマ法王、会談
米下院公聴会(コミー前FBI長官の証言)

04:15 米 カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁、講演
06:00 米 ハーカー米フィラデルフィア連銀総裁、講演
09:00 日 黒田日銀総裁、日銀主催の国際コンファランスで冒頭挨拶
09:25 日 バーナンキ前FRB議長、日銀主催の国際コンファランスで講演
21:45 欧 ドラギECB総裁、講演
22:00 米 3月住宅価格指数
23:00 米 4月中古住宅販売件数

5月25日
石油輸出国機構(OPEC)総会(ウィーン)
トランプ米大統領、トゥスクEU大統領、ユンケル欧州委員長と会談、米仏首脳昼食会

03:00 米 米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録公表(5月2-3日開催分)
07:00 米 カプラン米ダラス連銀総裁、講演
07:30 米 カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁、講演
21:30 米 新規失業保険申請件数
23:00 米 ブレイナードFRB理事、討論会に参加

5月26日
G7主要7カ国首脳会議(伊タオルミーナ、27日まで)

08:30 日 4月全国、5月東京区部消費者物価指数
11:00 米 ブラード米セントルイス連銀総裁、講演
21:30 米 1-3月期GDP・改定値
21:30 米 米4月耐久財受注
23:00 米 米5月ミシガン大学消費者信頼感指数確報値

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