ドル円見通し 米雇用統計での就業者増加数冴えず、一段高への梯子外れる(週報6月第1週)

6月4日夜発表の米5月雇用統計では、非農業部門就業者数が前月比55万9000人増となり4月の27万8000人増から伸びが加速したものの市場予想の65万人増を下回った。

ドル円見通し 米雇用統計での就業者増加数冴えず、一段高への梯子外れる(週報6月第1週)

ドル円見通し 米雇用統計での就業者増加数冴えず、一段高への梯子外れる

〇ドル円6/3の米ADP雇用統計等の好調で110.33まで上昇の後、6/4雇用統計の不冴えで109.35まで急落
〇5/25を起点とした上昇トレンドの支持線から転落、4/23起点の上昇基調に大きなヒビ入る
〇5月の米雇用統計NFP前月比+55.9万人市場予想下回る。失業率は5.8%、テーパリングやや遠のいた印象
〇米長期債利回りの動き、リスク選好感の強さを見ながら目先安値を試しつつ、上昇の継続も探る展開か
〇109.70以下での推移中は下向き、109.31割れから続落に入る場合は109円試し
〇109.85へ切り返す場合、109円試しから109.50超えの反発を見せる場合110.33超えを目指す可能性も

【概況】

ドル円は6月3日夜の米ADP民間雇用者増加数や週間失業保険申請件数、ISMサービス業景況指数等が軒並み景気回復を示す内容だったとこで米長期債利回りが上昇してドル全面高の様相となる中で5月28日夜高値110.19円を超えて6月4日朝高値で110.33円まで上昇した。6月4日の日中は急騰一服でややジリ安の推移だったが、4日夜の米雇用統計での就業者増加数が予想を大きく下回ったことで前夜とは真逆に米長期債利回りが低下してドル全面安となり、4日深夜安値で109.35円まで急落した。

6月3日夜の急騰前安値が109.61円であり、3日夜の急騰幅を解消する以上の急落となった。6月1日午前安値109.31円割れはひとまず回避しているが、5月25日を起点とした上昇トレンドの支持線からは転落した。
日足は当日の高安幅が0.98円で1円近く、下ヒゲもわずかな大陰線となり前日の高安レンジ0.80円幅の大陽線を解消している。当日の1円規模の大陰線は、3月31日高値の後の4月5日や4月6日の連続陰線以来であり、昨年6月5日に戻り高値を付けた翌営業日の6月8日に高安レンジ1.46円幅の大陰線で失速した時にも近い印象があり、4月23日を起点として3月31日高値超えを目指してきた上昇基調に大きなヒビが入った印象だ。

【米雇用統計、米連銀のテーパリング議論を急がせず】

6月4日夜発表の米5月雇用統計では、非農業部門就業者数が前月比55万9000人増となり4月の27万8000人増から伸びが加速したものの市場予想の65万人増を下回った。3日夜に前哨戦として発表されたADP民間部門の就業者数が事前予想の65万人増に対して97.8万人増だったため、市場は物価上昇率の上ブレと共に雇用も大幅に改善してきたとみて米連銀のテーパリング議論も早まるのではないかと受け止めて米長期債利回りが上昇して為替市場はドル全面高となった。しかし、予想外に労働省雇用統計本番の数字が延びなかったことで3日夜とは真逆の市場反応となった。失業率は前月から0.3%改善して5.8%となり、雇用の改善傾向は顕著に進んでいるが、この程度の改善では米連銀によるテーパリング開始の目安とされる「一連の堅調な雇用統計の始まり=string of strong jobs reports」には至らないという印象が強まったようだ。雇用統計発表後のTVインタビューで米クリーブランド連銀メスター総裁は「労働市場の改善が続いてると受け止めているがさらなる前進を見たい」と述べ、テーパリング議論を急がない姿勢を示している。

失業率は改善してきているが、まだコロナショック前の3.5%と比較すればかなり悪い状況だ。就業者数もまだコロナショックによる大量失業に対しては7割程度の回復にとどまっているとされる。政府による現金給付の影響で職場復帰が急がれていないことで労働需給のギャップが発生しているために平均時給の上昇率が前月比0.5%、前年同月比で2.0%と加速していることを踏まえれば、現金給付が終了するにつれて職場復帰も進み、雇用も大幅に伸びてくると思われるが、そうした傾向が顕著になって米連銀が金融緩和の縮小に着手し始めるようなスタンス変更を示すのはやはり夏場以降となり、市場で予想されているように8月のジャクソンホール会合でのパウエル議長講演で示唆される流れではないかと思われる。

先行きはいずれテーパリングも始まるとすれば、それを先取りした動きに入っても不思議ないが、今のところはまだ時期尚早として長期債利回り低下とリスク選好でのドル安が継続する流れが続きやすいのかもしれない。
ドル円にとっては米長期債利回りが1.50%を割り込む低下へ進めばドル売り円買いが加速して4月23日安値107.46円をもう一度試す流れへ進む可能性も出てくるかもしれない。逆に今後の経済指標が一段と上ブレしてくることでテーパリング議論が早まって8月にも実施に入るという見方が強まれば米長期債利回り上昇でドル買い円売りが進むこともあり得るだろう。また多少の米長期債利回り低下でもリスク先行的な株高とクロス円全般の上昇による円安感が対ドルでも勝れば4月23日からのドル高円安基調も継続しうると思われる。これらを踏まえれば、米長期債利回りの動きのレベル、リスク選好感の強さ、そのあたりを見ながら目先は安値を試しつつ、上昇継続の可能性も探るという展開で進むのではないかと思われる。

【2018年10月4日天井後の高値失敗型との類似性と当面のポイント】

3月31日高値から4月23日安値へいったん下げてから持ち直してきたが、高値更新に至らずに日足で大きな陰線を付けて失速した。3月31日高値からは週足で見れば数えで10週目である。今年1月6日底からの上昇は週足における概ね80週前後の底打ちサイクルによる上昇であり、このサイクルによる上昇は2018年3月26日底から同年10月4日天井、2019年8月26日底から2020年2月20日天井への上昇に次ぐものだが、2018年10月4日天井のケースでは、4週目の10月26日安値へ反落したところからの戻りでは高値更新に至らずに10月4日高値から10週目の週足陰線から下落に転じた。また2017年11月6日天井形成時もそこから10週目となる2018年1月5日高値からの急落で一段安へ進んでいる。80週前後のサイクルでは半年(26週)前後の上昇を繰り返し実現しているので今回もまだ上昇余地ありと考えたいところだが、天井形成から10週目前後から上昇しきれなくなって崩れ始めている前例もあるため、今回もそれらと同様のケースに陥る可能性もあると注意したい。

【2018年10月4日天井後の高値失敗型との類似性と当面のポイント】

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、6月1日安値109.31円を下値支持線、109.85円を上値抵抗線とみておく。
(2)109.70円以下での推移中は下向きとし、109.31円割れから続落に入る場合は109円前後試しを想定する。109円前後で底固さを見せればその後の反発で109.50円を超えるところからはいったん戻しに入る可能性が高まるとみるが、109円割れからさらに続落の場合は5月19日深夜安値108.56円から108円台中盤へ下値目途が切り下がるとみる。またその場合は4月23日安値からの上昇基調が6月4日朝高値で一巡しての下落期入りとして4月23日安値107.46円割れを試して行く流れへ進みやすくなると考える。

(3)109.30円台で確りして109.85円以上へ切り返す場合、および109円試しへ一段安したところから109.50円を超える反発を見せる場合、6月4日夜の急落一服で戻りを試しに入るか、ないしは急落調整型の押し目形成から上昇再開に入り6月4日高値110.33円超えを目指す可能性も出てくると思われる。ただし、110円台序盤へ戻しても6月4日朝高値を上抜けずに再び109.50円前後へ失速する場合は、6月4日朝高値を中心として5月28日夜高値と6月7日以降の戻り高値を両肩とした60分足レベルの三尊(トリプルトップ)形成となる可能性が考えられる。また6月4日高値を若干超えてからの反落なら上値抵抗線をやや切り上げるレンジ拡張型の持ち合い形成となる可能性も考えられる。(了)<6日14:00執筆>

【当面の主な予定】

6/7(月)
休場、ニュージーランド、マレーシア
未 定 (中) 5月 貿易収支・米ドル建て (4月 428.5億ドル、予想 505.0億ドル)
未 定 (中) 5月 貿易収支・人民元建て (4月 2765.0億元、予想 2664.5億元)
07:30 (豪) 5月 AiGサービス業指数
08:50 (日) 5月 外貨準備高 (4月 1兆3785億ドル)
14:00 (日) 4月 景気先行指数CI・速報値 (3月 102.5、予想 102.9)
14:00 (日) 4月 景気一致指数CI・速報値 (3月 93.0、予想 95.6)
15:00 (独) 4月 製造業新規受注 前月比 (3月 3.0%、予想 0.5%)
15:00 (独) 4月 製造業新規受注 前年同月比 (3月 27.8%、予想 77.8%)
28:00 (米) 4月 消費者信用残高 前月比 (3月 258.4億ドル、予想 200.0億ドル)

6/8(火)
中国・ASEAN外相会議
08:01 (英) 5月 英BRC小売売上高 前年同月比 (4月 39.6%)
08:50 (日) 4月 経常収支・季調前 (3月 2兆6501億円、予想 1兆4900億円)
08:50 (日) 4月 経常収支・季調済 (3月 1兆6965億円、予想 1兆5690億円)
08:50 (日) 4月 貿易収支・国際収支ベース (3月 9831億円、予想 3427億円)
08:50 (日) 1-3月期 GDP改定値 前期比 (速報 -1.3%、予想 -1.2%)
08:50 (日) 1-3月期 GDP改定値 年率換算 (速報 -5.1%、予想 -5.0%)
10:30 (豪) 5月 NAB企業景況感指数 (4月 32)
14:00 (日) 5月 景気ウオッチャー現状判断DI (4月 39.1、予想 34.0)
14:00 (日) 5月 景気ウオッチャー先行判断DI (4月 41.7、予想 38.0)
15:00 (独) 4月 鉱工業生産 前月比 (3月 2.5%、予想 0.4%)
15:00 (独) 4月 鉱工業生産 前年同月比 (3月 5.1%、予想 29.5%)

18:00 (独) 6月 ZEW景況感期待指数 (5月 84.4、予想 86.0)
18:00 (欧) 6月 ZEW景況感期待指数 (5月 84.0)
18:00 (欧) 1-3月期 GDP確定値 前期比 (改定値 -0.6%、予想 -0.6%)
18:00 (欧) 1-3月期 GDP確定値 前年同期比 (改定値 -1.8%、予想 -1.8%)
21:30 (米) 4月 貿易収支 (3月 -744億ドル、予想 -687億ドル)
23:00 (米) 4月 雇用動態調査(JOLT)
26:00 (米) 財務省3年債入札

6/9(水)
07:45 (NZ) 1-3月期 製造業売上高 前期比 (10-12月 -0.6%)
08:50 (日) 5月 マネーストックM2 前年同月比 (4月 9.2%、予想 8.4%)
09:30 (豪) 6月 ウエストパック消費者信頼感指数 (5月 113.1)
10:00 (NZ) 6月 NBNZ企業信頼感 (5月 7.0)
10:30 (中) 5月 消費者物価指数 前年同月比 (4月 0.9%、予想 1.6%)
10:30 (中) 5月 生産者物価指数 前年同月比 (4月 6.8%、予想 8.5%)
13:00 (豪) ケント豪中銀総裁補佐、講演
15:00 (独) 4月 貿易収支 (3月 205億ユーロ、予想 163億ユーロ)
15:00 (独) 4月 経常収支 (3月 302億ユーロ、予想 230億ユーロ)
23:00 (加) カナダ銀行 政策金利 (現行 0.25%、予想 0.25%)
23:00 (米) 4月 卸売在庫 前月比 (3月 1.3%、予想 0.8%)
23:00 (米) 4月 卸売売上高 前月比 (3月 4.6%)
23:30 (米) EIA週間石油在庫統計
26:00 (米) 財務省10年債入札

6/10(木)
08:01 (英) 5月 英RICS住宅価格指数 (4月 75、予想 77)
08:50 (日) 5月 国内企業物価指数 前月比 (4月 0.7%、予想 0.5%)
08:50 (日) 5月 国内企業物価指数 前年同月比 (4月 3.6%、予想 4.5%)
20:45 (欧) 欧州中銀(ECB)政策金利 (現行 0.00%、予想 0.00%)
21:30 (欧) ラガルドECB総裁、定例記者会見
21:30 (米) 5月 消費者物価指数 前月比 (4月 0.8%、予想 0.4%)
21:30 (米) 5月 消費者物価指数 前年同月比 (4月 4.2%、予想 4.7%)
21:30 (米) 5月 消費者物価コア指数 前月比 (4月 0.9%、予想 0.4%)
21:30 (米) 5月 消費者物価コア指数 前年同月比 (4月 3.0%、予想 3.4%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 38.5万件、予想 37.2万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 「前週 377.1万人)
26:00 (米) 財務省30年債入札
27:00 (米) 5月 月次財政収支 (4月 -2256億ドル)

6/11(金)
G7首脳会議(6月13日まで、英コーンウォール)
08:50 (日) 4-6月期 大企業全産業業況判断指数BSI (1-3月 -4.5)
08:50 (日) 4-6月期 大企業製造業業況判断指数BSI (1-3月 1.6)
15:00 (英) 4月 月次GDP 前月比 (3月 2.1%、予想 2.4%)
15:00 (英) 4月 鉱工業生産指数 前月比 (3月 1.8%、予想 1.3%)
15:00 (英) 4月 鉱工業生産指数 前年同月比 (3月 3.6%、予想 30.7%)
15:00 (英) 4月 製造業生産指数 前月比 (3月 2.1%、予想 1.5%)
15:00 (英) 4月 貿易収支・物品 (3月 -117.10億ポンド、予想 -118.00億ポンド)
15:00 (英) 4月 貿易収支・全体 (3月 -19.66億ポンド、予想 -22.50億ポンド)
15:00 (独) 5月 卸売物価指数WPI 前月比 (4月 1.1%)
23:00 (米) 6月 ミシガン大学消費者信頼感指数速報値 (5月 82.9、予想 84.0)

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