ドル円見通し 米雇用統計失望で急落、年初からの上昇トレンド支持線を試す(週報5月第2週)

ドル円は5月7日の米雇用統計が事前の楽観的な見通しを裏切る不調さを示したことによるドル全面安で急落した。

ドル円見通し 米雇用統計失望で急落、年初からの上昇トレンド支持線を試す(週報5月第2週)

ドル円見通し 米雇用統計失望で急落、年初からの上昇トレンド支持線を試す

〇先週のドル円109円前半で持ち合いの後、週末米雇用統計の不調で108.32へ急落、108円台半ばで越週
〇ドル円4/23安値107.46から5/3高値109.69で戻り一巡、安値試しへ
〇米雇用統計はNFP26.6万人増、事前予想100万人増に遠く及ばず、失業率も6.1%に悪化
〇最近の米指標好調さにやや翳り見えるもテーパリング後退観測から株高継続、NYダウは最高値更新
〇米10年債利回りは雇用統計後1.46%に急落するが1.58%までV字反発して越週、週明け動向要注視
〇108.80以下での推移中は下向き108.32割れからは107円台後半試し
〇108.80超えからは109.28試しへ、米債利回り再上昇の場合等ではさらに109.69試しへ

【概況】

ドル円は5月7日の米雇用統計が事前の楽観的な見通しを裏切る不調さを示したことによるドル全面安で急落した。5月3日夕高値109.69円から3日夜安値108.88円まで下げた後は109円台前半での持ち合いで推移していたが、雇用統計発表直前高値109.28円から直後の安値108.32円へ1円近い急落となり、その後は下げ渋ったものの108円台中盤での小動きにとどまり、下値懸念を残して週を終えている。

ドル円は4月23日夜安値107.46円から5月3日高値109.69円まで上昇したところで戻り一巡となり安値試しとなっている。5月3日への上昇幅は2.23円であり、その半値押しが108.57円、3分の2押しが108.20円であり、5月7日安値はその中間にある。現状近辺を押し目形成の場として109円台回復から高値切り上げへ向かえば5月3日高値を超えて一段高へ進む可能性も出てくるが、そのためにはドル高の再開、米長期債利回り再上昇が必要だ。逆に7日夜安値を割り込んでくる場合は4月23日夜安値試しへ向かい、底割れを回避できるかどうかを試す展開となりかねない。

【米雇用統計反応、長期債利回りは急落からの反騰で長い下ヒゲ】

4月の米雇用統計では非農業部門就業者数が前月比26万6000人増で市場予想の97万8000人増を大幅に下回り、3月分も速報値の91.6万人増から77.0万人増へ大幅下方修正された。失業率は6.1%となり3月の6.0%から悪化、市場予想の5.8%への改善を裏切った。発表後、米商工会議所は「人々を働かないようにする給付が本来強いはずの労働市場を弱くしている」と批判してコロナ経済対策による週300ドルの失業給付上乗せ制度の廃止を求める声明を発表した。バイデン米大統領は「景気回復は勾配がきつく長い道のりになる」「約800万人がいまだ復職できていない」「雇用統計は人々が働きたくないとの見方への反論となるものだ」と正当性を主張した。イエレン財務長官は「景気回復は一進一退」、雇用改善ペースの鈍化は「失業者支援策の上乗せが主要因だと思わない」と政策継続を訴えた。

5月3日の米ISM製造業景況指数などが市場予想を大幅に下回るなど最近の米経済指標はそれまでの極めて好調さを示していた状況からやや頭打ちの印象を与え始めており、今回の雇用統計も景気回復が順調としてきた市場にとってはやや楽観が戒められる内容だったが、逆に好調過ぎる景気回復はテーパリング=利上げの前段階となる量的緩和縮小開始議論が前倒しで始まるのではないかとの一部の懸念を後退させ、金融緩和政策の継続=景気回復中の金余りによる株高継続という受け止めに代わり、NYダウは3日連続で史上最高値を更新した。

米10年債利回りは雇用統計発表直後に1.46%台へ急低下したもののV字反発となり前日比0.01%上昇の1.58%で終了している。米30年債利回りも2.15%台へ急低下してから前日比0.03%上昇の2.28%へ切り返した。米長期債はいったん買われたものの戻り売りを浴びて長期債利回りの日足は長い下ヒゲのタクリ足となっている。このことは為替市場にとっては米長期債利回り再上昇気配として圧迫要因になったが、株高=リスクオンによる投機通貨買い=ドル安という下支えも効いたためにドル円は急落後の反騰へは進めず、ユーロドルは急騰後も高値圏を維持する展開だった。米長期債利回りが週明けも続伸して再上昇感が強まる場合はドル高再開の可能性も考えられるが、現状近辺にとどまって落ち着く動きなら、リスクオンによるドル安が優勢さを保つ可能性もある状況で週を終えたと言える。

米国における巨額の財政支出を伴う経済政策は続き、大量の国債発行も続く。米連銀がテーパリングを急がなければ最終的な買い手として債券需給を保つが、株高が続けば安全資産としての債券は売られて利回りは上昇し、景気回復が続けば物価も上昇してそれを追いかけて利回りも上昇する。今回の雇用統計で先送りされたとしてもいずれはテーパリングへ向かうとなればそれを見越した債券売りによる利回り上昇も考えられる。5月7日の米10年債利回りなどの日足チャートにおける「長い下ヒゲ」が反騰=利回り上昇再開を意味するのか、長い下ヒゲをつぶしにかかる低下により3月30日で当面のピークを付けて利回り低下局面がまだ続くという流れになるのか、しばらくは見定めが必要だろう。

【3月末からの二段下げか、踏み止まって年初からの二段上げへ向かうか試される】

日足チャートにおいては、1月6日底から3月31日高値まで8.39円の上昇幅だった。この上昇幅に対する3分の1押しが108.16円、半値押しが106.76円にある。4月23日安値107.46円はそれらの中間点にあり、5月3日高値へ1.75円の上昇となったことで4月23日への下げ幅の半値戻しを実現したところで戻り売りにつかまった状況にある。
4月23日安値を割り込まない範囲で押し目を形成して5月3日高値を超えてくれば、年初からの上昇波動は4月23日安値を起点として二段目に入り、3月31日高値超えを目指す可能性が出てくる。1月6日安値が概ね80週前後の底打ちサイクルにおける底打ちだったことを踏まえれば、この可能性はまだしばらく残ると考える。しかし4月23日安値を割り込む場合は3月31日高値からの下げも二段目に入り、半値押しの106.76円前後へと調整安の下値目途も切り下がる。また80週サイクルレベルの上昇が3月31日高値ですでに一巡となって下落期に入る可能性も浮上してくる。これらを踏まえると、年初からの80週サイクルレベルの上昇が継続できるのかどうかを試す重要な局面に来ていると思われる。

【当面のポイント】

【当面のポイント】

当面は、4月23日安値を起点として年初からの上昇が二段上げへ発展できるのか、4月23日安値を割り込んで二段下げへ向かうのかを見極める時期にあると考える。
(1)当初、5月7日夜安値108.32円を下値支持線、7日夜急落前高値109.28円を上値抵抗線とする。
(2)5月7日夜の高安レンジの中心値が108.80円にあるので、108.80円以下での推移中は下向きとし、7日夜安値108.32円割れからは107円台後半(108.00円から107.50円)を試すとみる。7日夜安値をわずかに割り込んだ程度のところから108.80円を超えるか、108円以下へ下げてから108.50円を超えるところからはいったん戻しに入るとみるが、108.50円以下での推移が続くうちは徐々に下値目途が4月23日安値107.46円へ切り下がってゆく可能性があるとみる。
(3)108.80円超えからは7日夜高値109.28円試しへ向かうとみる。109円台序盤ではいったん戻り売りも出やすいとみるが、米長期債利回りの再上昇が顕著になる場合などは109.28円超えから5月3日高値109.69円試しへ向かうとみる。(了)<9日16:40執筆>

【当面の主な予定】

5/10(月)
10:30 (豪) 4月 NAB企業信頼感指数 (3月 15)
10:30 (豪) 4月 NAB企業景況感指数 (3月 25)
10:30 (豪) 3月小売売上高確報 前月比 (速報 1.4%、予想 1.4%) 
10:30 (豪) 1-3月期 小売売上高 前月比 (10-12月 2.5%、予想 -0.4%)
27:00 (米) エバンス・シカゴ連銀総裁、イベント参加

5/11(火)
08:01 (英) 4月 BRC小売売上高 前年同月比 (3月 20.3%)
08:30 (日) 3月 全世帯消費支出 前年同月比 (2月 -6.6%、予想 1.6%)
08:50 (日) 日銀金融政策決定会合「主な意見」(4月26-27日分)
10:30 (中) 4月 消費者物価指数 前年同月比 (3月 0.4%、予想 1.0%)
10:30 (中) 4月 生産者物価指数 前年同月比 (3月 4.4%、予想 6.5%)
15:00 (独) 4月 卸売物価指数(WPI) 前月比 (3月 1.7%)
18:00 (独) 5月 ZEW景況感 (4月 70.7、予想 72.0)
18:00 (欧) 5月 ZEW景況感 (4月 66.3)
23:30 (英) ベイリー英中銀(BOE)総裁、討論会参加
23:30 (米) ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁、講演
25:00 (米) ブレイナード米FRB理事、イベント質疑応答
26:00 (米) デーリー・サンフランシスコ連銀総裁、講演
26:00 (米) 財務省3年債入札

5/12(水)
10:30 (豪) 3月 住宅建築許可件数確報 前月比 (速報 17.4%) 
14:00 (日) 3月 景気先行指数CI速報値 (2月 98.7、予想 102.9)
14:00 (日) 3月 景気一致指数CI速報値 (2月 89.9、予想 92.9)
15:00 (英) 3月 月次GDP 前月比 (2月 0.4%、予想 1.5%)
15:00 (英) 1-3月期 GDP速報値 前期比 (10-12月 1.3%、予想 -1.6%)
15:00 (英) 1-3月期 GDP速報値 前年同期比 (10-12月 -7.3%、予想 -6.1%)
15:00 (英) 3月 鉱工業生産指数 前月比 (2月 1.0%、予想 1.0%)
15:00 (英) 3月 鉱工業生産指数 前年同月比 (2月 -3.5%、予想 2.9%)
15:00 (英) 3月 製造業生産指数 前月比 (2月 1.3%、予想 1.0%)
15:00 (英) 3月 貿易収支・商品 (2月 -164.42億ポンド、予想 -143.00億ポンド)
15:00 (英) 3月 貿易収支・全体 (2月 -71.23億ポンド、予想 -48.66億ポンド)
15:00 (独) 4月 消費者物価指数改定値 前月比 (速報 0.7%、予想 0.7%)
15:00 (独) 4月 消費者物価指数改定値 前年同月比 (速報 2.0%、予想 2.0%)

18:00 (欧) 3月 鉱工業生産 前月比 (2月 -1.0%、予想 0.8%)
18:00 (欧) 3月 鉱工業生産 前年同月比 (2月 -1.6%、予想 11.8%)
18:00 (英) ベイリー英中銀(BOE)総裁、講演
21:30 (米) 4月 消費者物価指数 前月比 (3月 0.6%、予想 0.2%)
21:30 (米) 4月 消費者物価指数 前年同月比 (3月 2.6%、予想 3.6%)
21:30 (米) 4月 消費者物価コア指数 前月比 (3月 0.3%、予想 0.3%)
21:30 (米) 4月 消費者物価コア指数 前年同月比 (3月 1.6%、予想 2.3%)
22:00 (米) クラリダFRB副議長、講演
23:30 (米) EIA週間石油在庫統計
26:00 (米) 財務省10年債入札
27:00 (米) 4月 月次財政収支 (3月 -6596億ドル)

5/13(木)
休場 トルコ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、スイス、ノルウェー
08:01 (英) 4月 RICS住宅価格指数 (3月 59、予想 62)
08:50 (日) 3月 経常収支・季調前 (2月 2兆9169億円、予想 2兆7548億円)
08:50 (日) 3月 経常収支・季調済 (2月 1兆7947億円、予想 1兆8677億円)
08:50 (日) 3月 貿易収支・国際収支ベース (2月 5242億円、予想 8132億円)
14:00 (日) 4月 景気ウオッチャー現状判断DI (3月 49.0、予想 47.5)
14:00 (日) 4月 景気ウオッチャー先行判断DI (3月 49.8、予想 43.5)

21:30 (米) 4月 生産者物価指数 前月比 (3月 1.0%、予想 0.3%)
21:30 (米) 4月 生産者物価指数 前年同月比 (3月 4.2%、予想 5.8%)
21:30 (米) 4月 生産者物価コア指数 前月比 (3月 0.7%、予想 0.4%)
21:30 (米) 4月 生産者物価コア指数 前年同月比 (3月 3.1%、予想 3.7%)
21:30 (米) 週間 新規失業保険申請件数 (前週 49.8万件、予想 50.0万件)
21:30 (米) 週間 失業保険継続受給者数 (前週 369.0万人、予想 364.0万人)
24:00 (加) マックレム・カナダ中銀総裁、講演
25:00 (英) ベイリー英中銀総裁、講演
26:00 (米) ウォラーFRB理事、講演
26:00 (米) 財務省10年債入札
27:00 (メ) メキシコ中銀、政策金利 (現行 4.00%、予想 4.00%)
29:00 (米) ブラード・セントルイス連銀総裁、講演

5/14(金)
休場 トルコ、マレーシア、インド、インドネシア、パキスタン
08:50 (日) 4月 マネーストックM2 前年同月比 (3月 9.5%、予想 9.4%)
21:30 (米) 4月 輸入物価指数 前月比 (3月 1.2%、予想 0.6%)
21:30 (米) 4月 輸出物価指数 前月比 (3月 2.1%、予想 0.6%)
21:30 (米) 4月 小売売上高 前月比 (3月 9.8%、予想 1.0%)
21:30 (米) 4月 小売売上高・除自動車 前月比 (3月 8.4%、予想 0.8%)

22:15 (米) 4月 鉱工業生産 前月比 (3月 1.4%、予想 1.2%)
22:15 (米) 4月 設備稼働率 (3月 74.4%、予想 75.3%)
23:00 (米) 3月 企業在庫 前月比 (2月 0.5%、予想 0.3%)
23:00 (米) 5月 ミシガン大学消費者信頼感指数 速報 (4月 88.3、予想 90.0)
26:00 (米) カプラン・ダラス連銀総裁、討論会参加

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